2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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司会:今日お話しいただいた「自前コピー」と「自前PR」のお話と、それを統合した「自前広告」の話をちょっと具体的に、本田さんと小霜さんに対談形式でお話しいただきたいなと思いまして、ちょっとこちらで1つだけテーマを持って来ました。
こういった「自前広告」をしなきゃいけないという組織の中に、例えば、自治体みたいなものも多分あると思うんですね。そういった自治体はお金もないし、担当者もなかなか動けなかったり、色々と問題のあるところなんですけれど、今後そういった自治体がこういう「自前広告」みたいな考え方を用いて、一体何ができるのかということ。
それを、もしお二人でこういうふうなことをやったらいんじゃないかみたいなことがあれば、ざっくばらんにお話しいただければなと思います。じゃあ、小霜さん。もし何か今、自治体で思ってらっしゃることがあったり、こんなことやったらいんじゃないかというのがあれば……。
小霜和也氏(以下、小霜):さっきも言ったんですけどね。僕が書いた本のテーマでもあるんですけれども、「クリエイティブというのは新しい関係づくりである」と。そういう意味で言うと、自治体と生活者との新しい関係づくりというのが、まさに今、問われているところで、クリエイティブという視点でそこを見ていくということが非常に大事かなと思ってるんです。
小霜:例えば、今、「ふるさと納税」って熱いわけですよ。この間、NHKの「クローズアップ現代」で見たんですけど、「ふるさと納税」をやるとお礼が返ってくるわけですよね。その地方の特産品とかね。今、そのお礼競争になっていると。
つまり、3万円納税したらその2割の6,000円分の牛肉か何かがくると。それで、控除とか申告のときのことを計算すると得だからやる人が多いんだけども、それが地方の中ではお礼合戦になっていて、「あそこが2割なら、うちは3割!」「うちは4割!」みたいな感じで、8割お礼するみたいなところも出てきていると(笑)。
本田哲也氏(以下、本田):本末転倒だね(笑)。
小霜:そうそう。そうなると、もともと趣旨としては、東京のお金を地方に……っていうことでやったんだけれども、地方のお金が地方に行くと。
本田:地方同士で争っちゃう形ですよね。
小霜:そうそう。富士宮市だったかな、税金が減っちゃって、ほかの地方に納付されるようになっちゃったと。それで、それまではやっぱりお礼といっても常識の範囲でやるべきだろうと言っていたけども、そうも言ってはいられなくなっちゃって、議会で「もっとお礼しなきゃいけない」ということになって、「もっとやろう」という話になっている。
そういう問題をどうしようかというときに、ある自治体では「お礼で釣るんじゃなくて、政策をちゃんと伝えよう」っていうことで、もらった税金をこういうふうに使っているんだっていうことをちゃんと言うとか、そこに共鳴してくれた人をちゃんと呼んで、観光で遊びに来てもらって、そこでちゃんと接待してあげる。
それで町を気に入ったらそこに住んでもらうというふうなことまでやって、そこは納税が増えているという話なんですけど、何が言いたいかというと、「ふるさと納税」って新しい関係をつくったわけですよね。
東京にいながら地方に税金を納めて、地方の特産品がもらえて、その地方の地場産業の活性化にもなるっていう。これは新しい関係だから、すごくクリエイティブなんですよ。でも、そこがお礼合戦になっているという状況の中で、じゃあ、新しい関係をまた別につくらなきゃいけないということで、これをどうするのか。
小霜:さっき僕が言いました、「誰をどうやって幸せにしたいのか」。その地方自治体として、東京なら東京の誰を幸せにしたいのか、ということを考えて、それを表明していく。それで新しい関係ができたら、それはクリエイティブだと僕は思っていて。
そういう意味で言うと、今、行政にすごく必要なのはクリエイティブ感覚、クリエイティブ発想だと思うんですよね。僕は前から思っているんですけど、東大卒とか、そういう人が官庁に行くよりも、美大卒とか芸大卒とか、そういう人が官庁とか役所に行ったほうがいいんじゃないかと思ってるんですよね(笑)。
本田:本当にそう思います。だから今の「ふるさと納税」の話でいくと、せっかくクリエイティブな関係ができあがったのを、もらったらお返し、もらったらお返し……みたいな、際限ない古臭い関係で塗りつぶしちゃってるようなイメージですよね。
だから、それって今日話した商品と生活者の関係でいくと、せっかく新しい関係をつくり始めて、そういう理由だから買うって言っているのに、何か急に、「これ買ってくれたら、おまけにこれついてきます!」みたいな身も蓋もないおまけプロモーションみたいのをやっちゃったような感じですよね。
小霜:PR的な発想で言うと、今これだけ「ふるさと納税」が注目されているので、「ふるさと納税ランキング」みたいなものもあると思うんですよ。みんなが見ているところに自分たちがつくろうとしている新しい関係みたいなものを表明していくと、広がっていくっていう気がするんですけど。
本田:そうですね。だから、PR的に言うと「ふるさと納税」は制度というか仕組みなんだけれども、やっぱり地方と東京にいる人の、それこそ関係自体がどうなっていくかっていうところが関心のポイントだと思って。
「なかなかユニークな関係性があるよね」、あるいは、横並びですけど、「こういう考え方もある」と。PRでいうと、これで10分くらいの特集ができちゃうくらいの話だと思うので、そういうのを活性化していく仕組みとして、―「ふるさと納税」がこの場合は「商品」ですよね―「ふるさと納税」があるっていうところに落とし込んでいくのが、PR的にいうと正しい図式かなっていうふうには思いますよね。
小霜:あと、自治体でいうとちょっと気になっているのは、アメリカの企業なのか団体なのかわからないんですけど、自治体用のアプリを専門に開発している会社っていうのがあって。どういうことをやっているかというと、ボストンは冬になると雪で埋まっちゃう。
火事のときに消防車が行ったら、消火栓が雪に埋もれちゃっているっていうわけですよ。それで、「消火栓を雪から掘り起こしてくれたら、その消火栓にあなたの名前を付けます」みたいなアプリがあって。つまり僕がそこに住んでいて、掘り出してあげたら、「この消火栓の名前は、今年はカズヤだ」って、俺の名前がついたりするっていうね(笑)。
本田:面白いですね。
小霜:つまり、もともと行政って何をやっていたかっていうと、道をつくる、橋を掛けるって言ったら、そこの住民がつくっていたわけですよ。ところが、国がリッチになっちゃったもんだから、それで「もう国がやりましょう」ってことになってるんだけども、今またお金がなくなってきてるから、元に戻そうと。
「やっぱり住民ができることはやってよ!」っていうね。そういうアプリをつくっている会社があって、日本にもそれに似たのがあるって話なんですよね。それも、自治体と住民の違う関係、新しい関係だと思うんですよね。
じゃあその自治体として「こういうふうにしてほしいんだ」「こういうふうな関係が幸せな関係だと思うんだよね」っていうことを表明していくのが、クリエイティブなのかなって思ってたりするんですけど。
本田:そうですよね。やっぱり今日、ずっとキーワードはそれだなと思っていて。改めて言うと、「関係性」ってことがずっと出ていて、広告クリエイティブやPRも、やっぱり根底にあるのは、どう関係を新しくつくっていくか。
そしてその新しくできた関係をどう「わかりやすく」、「キャッチーに」、それからPRで行くと特に「話題性をもって」伝えていくっていう話であって、根底は、今の話も「関係づくり」の話なんだなっていうことを思います。
それで、自治体について今思ったのは、観光誘致とかもあるんですけど、今、日本も国自体の観光客が右肩上がりに増えてきている。中国の方も増えてきているんですけど、2020年に向けてはまだまだ誘致したいし、地方もそうだというときに、この間、某旅行関係の方と話していて、やっぱり日本の弱いところはそういう今日みたいな話が弱い。
観光誘致とか旅行もそうで、いわゆるデスティネーションキャンペーン。あれが得意なんですよ。JRさんとか、今でもやりますけれど、「ここに行きましょう!」と。そこには何があるか。お城がある、うまいもんがある、何とかがある……。
それも魅力的だし、人も行くんだけど、そればっかり。あんまり関係性ってものはなくって、どっちかというと「こういう場所なんです」「こういう名物、こういうものが見れるんです」っていう。
押し付けじゃないですけど、そういうことを言っている感じで、それだけやっていても限界があるから、まさに、来ていただいたときに対等な関係で「何を持って帰っていただけるのか」とか「どういった経験ができるのか」。
それって、整骨院の80歳ゴルファーの話と近いと思うんですけど、実は名物アピールもいいけれど、そういうところを、もっともっと追求していくべきだっていう話をちょうどこの間していましたけどね。
小霜:今、北海道がアジアでブランドになっているらしいですよね。「北海道」ってついてると売れる、 みたいな。今、日本で、「日本で行ってみたい場所ランキング」で1位が富士山、2位が東京で、3位が北海道なんですよね。京都よりも上なんですよ、北海道のほうが。
本田:京都よりも上でしたっけ?
小霜:そうみたいなんですよね。それで、何で他よりも人気かと言うと、「食い物がうまい」とか「食い物が自然でいい」みたいな、そういうところからきているらしいんですけど、それもアジアが、中国を含めて、どんどん成長していって富裕層が増えてきて、「ちゃんとしたものが食いたい」みたいな、そういう流れとつながっているのかなっていう感じもするんですよね。
本田:なるほど。やっぱりその背景というか、根底に何かがあるわけで、PRの話もコピーの話もそうですけれど、それが何なのかというところって、1回つかんで生かさないといけないですよね。
小霜:「自治体」で僕が持っているネタはそれぐらいです(笑)。
司会:じゃあ、質疑応答に移りたいと思います。今日のお話でも構いませんし、ご自身が抱えている問題で、聞いてみたいこと等あれば、是非、挙手をしてご質問いただければと思いますが、何かご質問のある方。
質問者:先ほどは貴重なお話をありがとうございました。質問が2つあります。2つとも本田さんにお答えいただきたいんですけれども、先ほど戦略PRの事例の中に「成功」というキーワードが出てたと思うんですが、2つの事例の成功は、何をもって成功だったのかというところをお聞かせください。
本田:多分、2つ連続して聞くと1個目を忘れちゃうので、そこから。そうですね、いい質問をありがとございます。ちょっと時間の関係もあってあまり話せなかったんですけど、最近は特にそうなんですけど、成功の基準というのは何のためにあるかって言うと、もちろん最後はものが売れたりとか、サービスが売れたりっていうところを目指すわけですけれども、それは広告とかプロモーションとかみんなでよってたかってやることであって、一義的にそれが目的にはなりません。
じゃあ、PRが何を目指すのかというと、人の気持ちを変えることなんですね。あとは、人の気持ちもそうですけど、先入観とかそういうものを変えるというのが大体の場合はあります。例えば、おむつの場合でいうとPRが成功したのは、赤ちゃんの睡眠というものが大事であると思っているお母さんを増やすことに成功したんですね。それも非常に短期間に。
大事だと思ったところに、実は仕掛けとしておむつブランドのほうが「眠りを考えたおむつです」というコミュニケーションをしたので、その増えた人が買って、最後には売り上げにつながっていますけれど、買う気になった人、買う準備ができた人を増やしたっていうのがPRの成功です。
ヨーグルトもそうですね。あんまり細かい数字を言っちゃうとまずいんですけど、調査すると、頭を抱えるぐらい、50代以上の女性がみんな「私と骨の問題は関係ない!」って言ってたんですよ。そんな人が骨にいいヨーグルトをやっぱり買うわけがない。
そうすると、PRでまずやらなきゃいけないのは、「骨の健康は私と関係ある」っていう人を増やすこと。これがコールになって、それを増やせれば成功ということになってますので、今日ご紹介したことをやって、実はそれはポイントが非常に上がりました。
「骨の健康っていうのは、私も考えないといけないわ!」って思う50代以上の女性が増えたんですね。そこに、「じゃあ、こういうヨーグルトありますよ!」ってきたんで、売れる、認知されるっていうことが起こった。そんな感じです。
質問者:今のお話をうかがいながら、ちょっと質問を変えさせてもらってもいいですか。お二人に聞きたいんですけれども、もしかしたら、先ほどの質問と同じことかもしれないんですけど、広告とPRにとって成功とはどういうことかっていうのを教えてください。
小霜:それはいろいろ案件によってばらばらで、KPIとかKGIって言ったりするんですけど、何を指標にして成功、失敗を決めるかというのを最初に決めるんですよね。単純に「売上」ってこともわかりやすくあるし、でもお客さんの満足度を調べて、「満足度が高かったら成功としよう」とか、色んな指標の考え方があるので、それはその企業とか商品、サービスの置かれた状況によって「いろいろ」というふうにしかちょっと答えられない感じですかね。
本田:そうですよね。基本はそうであるとして、PRに限って言うと、何で成功かというと大きく2つあるかなと個人的にはそう思っています。ほかのPRのプロは違うことを言うかもしれないんですけど、やっぱり1番大事なのは、さっきの話の繰り返しですけど、狙った人たちの行動、態度を変えられたかどうかってことです。
あるいは、変わった人が増えたかどうかってこと。ここが「何も変わってないよ」というなら失敗ですね。もう1つは、PR特有ですけれども、ちゃんと話題化したかどうかっていうところ。これは測るのが非常に難しいんですけど、PRだと言っているのに、世の中に全然何の情報も出ていませんよとか、それじゃだめなんですよね。
ここは必要十分な話ですけど、やっぱりPRのすばらしさとして話題がバーっと広がっていくというところが1つ、成功か失敗か。でも、広がったけど人が動いていないんだったら、途中まではよかったけど最終的には失敗であるかもしれないです。
話題も広がり、それによって人の態度が変わったりということが「起こったよね」っていうことですかね。その2つのポイントが満たされたときに、「このPRは成功だった」というふうに判断していると思います。
質問者:ありがとうございます。
小霜:僕、きのう打ち上げでね、焼き鳥屋さんに行ったんですよ。そうしたら「マッサンハイボール」っていうのがあって、思いっきり便乗してるんですけど、たのんでみたんですよね(笑)。それで、僕思ったんだけど、これは「マッサン」のドラマが終わったら消えていくんだろうなって。
じゃあ、「マッサンハイボール」の広告をつくるときに、何を目標とするかっていうこと。「とにかく今売ればいい」って思うのかどうか。「今売ればいい」っていうことだったら、完全便乗で「しゃれでいいか。ちょっと飲んでやるか」みたいな感じで飲むと。
1回飲んで、もう終わりっていうのでもいい……ってのもあるかもしれないけど、でも、「実はこのハイボールには、これこれこういう、ほかにはない、いいものがあるんだ!」と、歴史とかそういったものを「マッサン」を入り口にちゃんと伝えようって思うとすると、短期的な売上は指標にならないんですよね。
後でちゃんと調査して、この商品のことが理解できるかどうかっていうところに置かなきゃいけない。だから、何を目指すかによって指標が違ってくるし、何を成功とするかも変わってくるという、そんなことを今ちょっと思い出しました。
本田:「マッサンハイボール」、それも確かに商品と世間をつなげていると言えば、「マッサン」がはやっているっていう意味ではそうなんでしょうけど、やっぱり今日言っている話と少し違うかなって思うのは、いつか終わってしまう番組コンテンツだったりする場合は、一過性のものもあるんですよね。
そういう便乗ってことよりも、もうちょっと深い意味での関心。「マッサン」が悪いというわけじゃなくで、「マッサン」というドラマや、前だったら「倍返し」でもいいんですけど、この特定のドラマが受け入れられている今の日本の社会って何だろう? みたいなことまで深く捉えたときに、「こういうことだから、全体の気分感としてそういうのがあるんだよね」というところまで分析できていたら、すごくいいなと思う。ここの浅いのと深いのって、案外関係あるじゃないですか。そこって大事かなって思いました。
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