2024.10.10
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ハッシャダイソーシャル初のドキュメンタリー本『人生は選べる』の出版を記念してイベントが開催されました。本書の帯文を担当した糸井重里氏と山口周氏をゲストに迎え、ハッシャダイソーシャル共同代表の三浦宗一郎氏とトークセッションを実施。本記事では、山口氏が思う「どんどん不幸になっていく人」の特徴や、糸井氏が考える「価値観」の捉え方などを明かしました。
山口周氏(以下、山口):二宮金次郎は幼名が金次郎で、大人になってからは二宮尊徳になったけど、『二宮翁夜話』というものがあって。その中にある、ものすごくシンプルなアドバイスなんですが、「損得の一念に徹せよ」と書いてあるんです。損なことをするな、得のあることをしろと。ここで言う得は「徳が高い」とかじゃなくて、要するにお金で言う損得だけですね。
僕、気がついたんですが、どんどん不幸になっていく人は損になることばっかりやっているんですよ。詐欺がよく来たり、投資詐欺をからかうためにわざと引っかかったようなふりをして連絡するって、何の得もないでしょう?
三浦宗一郎氏(以下、三浦):そうですね。もうちょっとおもしろい遊び方がありそうですよね。
山口:そう。子どもの頭をなでてあげるとか、奥さんと話をするとか、本を読むとか、いくらでも得になる時間の使い方があるんだけど、(不幸になっていく人は)なんか損しかないことをやるんだよ。これは1対1での話です。
僕らは不確実性の世の中に生きているので、荒野に身を投げ出されると、今この瞬間に何をするか、あれをやるかこれをやるか、その都度道を決めないといけない。全部が意思決定なので、常に不確実性が伴うんです。
ゲーム理論で言うと、これはどう考えても損しかないわけです。投資詐欺の連絡が来て、それに対して返事するのって、期待値は損しかないんですよ。
糸井重里氏(以下、糸井):(笑)。
山口:期待値が損しかないもの、不確実なものを繰り返していくと、カジノと同じで長くやればやるほど必ず負けます。わかりますよね。
ポジティブな不確実性のあることをやると、その都度(影響は)大きかったりゼロだったりするんだけど、ポジティブな不確実性しかないわけです。子どもの頭をなでてあげても、リターンがないこともありますよね。「パパ、やめて」とか言われることもあるんだけど(笑)。
三浦:(笑)。
山口:でも、ポジティブな不確実性なので、長くやっていると必ず良いほうにいくわけです。不確実な中で、どんどん不幸になっていく人の特徴は余計なことをすること。
糸井:ははは(笑)。
山口:あおり運転とかも全部そうなんだけど、損しかないでしょ? 車に乗っている時なんて、音楽を聴いてのんびりしたりとか、「今日の夜飯は何を食おうかな」と考えるとか、ラジオの番組をいろいろ聴いてみるとか。
この間、たまたま放送大学を聴いたらイスラムの授業をやっていて、めちゃくちゃおもしろかったんですよ。仕事場に着いたんだけど、あまりにも放送がおもしろいので「すみません、今日のミーティングちょっと遅刻します」と言って、放送を最後まで聴いたんだけど。
三浦:(笑)。
山口:あおり運転をやると、どう考えてもマイナスな不確実性しかない。でも、放送大学とかを聴くと何かしらあるんですね。何にもないこともあるよ? すぐ忘れちゃうこともあるんですが、「イスラム学ってめちゃくちゃおもしろいんだ」と思ったので。糸井さんの今の話を聞いて、二宮尊徳の「損得の一念に徹する」という話を思い出しました。
三浦:詐欺の話もありましたが、僕らは最近少年院に行くんです。受け子・出し子に加担をしちゃって少年院に入る子たちが、今はものすごくたくさん増えている。
彼らのことを思いながら聞いていると、たぶん損得でさえ考えられなくなっている。もはや考える余裕のない“愛の空腹”みたいなところがあって、「褒められるからがんばっちゃう」というのがある気がしたんですね。
一方で依存の話で言うと、僕らの領域の中には「ヤングケアラー」という言葉もあって、当たり前のように弟・妹の世話をしています。決してそれは悪いことではないが、普通のことでもないということを、周りの人がどういうふうに伝えていくのか。
まさにあおり運転をしちゃう人に、「それって損じゃね?」という話を社会がどういうふうに提案していくんだろうかというのは、気になる部分かなと思いながら話を聞いていました。
三浦:不確実性の中で、そう思わずにネガティブな依存をしている、もしくはそう思っていてもしちゃう人たちに対して、社会が設計としてできることやアプローチとして必要なことは何か。そのあたりはどうですか?
糸井:設計としてできるのかどうかは、僕にはちょっと遠い話なんですが、今まで設計としてできた試しはないんですよね。ただ、「あっちのほうがすてきだな」「あっちのほうがカッコいいな」という選択は、どんなに物を考えてない人でもやっているんです。
だから、仲間同士がものすごくボロボロの何かを着ていたとして、「お前、カッコいいな」と思ったりしている人もいるわけじゃないですか。それがその民族の言葉になるわけだよね。価値観というのはそういうところにあって、「どっちがカッコいいかな?」というのを選ぶことはできているわけです。
「傷だらけの人はカッコいい」という部族に対して、「傷はないほうがいいよ。損だよ」と言っても、「傷だらけ」というところに依存しているわけだから、なかなか出られないんですよね。
僕が長く生きていて思うのは、本気で考えることの間に「つなぎの休み時間」みたいなものがあるじゃないですか。アメリカンフットボールの大会でも歌を歌う場面があったりしますが、フットボールと関係ないじゃないですか。でも、案外判断できる理性を持っていたりする。
例えば、ワルの元締めみたいなやつがワルワル歩いていて、ガリガリ君を買う時に「ソーダがうめぇんだよな」と言っても、「ソーダがうめぇ」というのは悪くないじゃないですか。そういうことがいっぱいあるんだと思うんです。
三浦:なるほど。そこに対して、例えば「ソーダ、うまいっすよね」という話でつながることができるとか。
糸井:そうそう。だから、どこで何がつながるかはわからない。
糸井:確か三浦くんも「1人でも『お前は大丈夫』と言ってくれる人がいると大丈夫。それはお母さんであることが多い」という話をしていたけど、例えばその1人が誰かに親切にしているのを見たとするじゃない。すると、ワルワルでも、メインテーマでは対立していても、好きなお母さんがそういうことをしているのを見たら「いいな」と思っちゃわない?
三浦:確かに。今の話を聞きながら勝山(恵一)の話を思い浮かべたんですけど、彼は中学校の卒業式に「天上天下唯我独尊」という、読めなくて意味がわからない服を着ていたらしいんですが、それがカッコいい世界にいたんです。
一方で彼の今の活動の原点を聞くと、自分のかあちゃんが地域の施設に入った仲間たちを家に集めて、飯を食わしていたところを見ていたことが、実は記憶として残っている。「その記憶が今の自分にすごく見えている」と言ったりしていたので、そのへんの記憶を探りにいく可能性はあったりするのかなと、今の話を聞きながら思っていましたね。
糸井:テーマでまとめちゃうと対立したりするんだけど、その他の部分で「実は共通しているよね」という場所がいっぱいあると思うんですよね。同じアイドルのオタクだったとか。
人間って範囲がすごく広いので、何かに依存する時に、知らないうちにそこじゃない場所に行っていたということもあり得るのかな。それが同時代に生きていることのおもしろさかなと思うんです。
三浦:なるほど。
糸井:時代が違っちゃうと、まとめて紹介されちゃうじゃないですか。
糸井:僕、この間も文章に書いたんだけど、渋沢栄一と近藤勇が二度会っているらしいんですよね。ちょっといいでしょう?
三浦:そうですね。想像がつかないですね。
糸井:渋沢栄一って明治以後に名を成した感じ(で扱われること)が多いんだけど、思えば徳川慶喜の家来になっているわけだし、幕末の人なんですよね。
渋沢栄一は近藤勇に二度会ったけど、みんなが言うような乱暴者じゃなくて、なかなか落ち着いた話のわかる人だったと。同時に、新選組に追われて殺されそうにもなっているんですよ。そういうことって、同時代に生きているということの「その他のニュース」じゃないですか。
三浦:そうですね。
糸井:渋沢栄一のニュースにメインで出てくるのは伊藤博文とかですよね。だけど「(同時代に)近藤勇がいたんだ」というだけで、“その他部門”が見えてくるとすごくおもしろいんですね。
三浦:なるほど。
糸井:同じ時代に生きている人の話って“その他部門”を共有するから、大谷翔平だって犬が有名じゃないですか。
三浦:はい(笑)。ワンちゃんが。
糸井:1000年後に大谷翔平のことを書かれても、文章の中に「飼う犬はデコピン」ってちょっと書かれるだけですよ。でも、(同じ時代に生きている)僕たちはもっと詳しいですよね。その「余計なことについての詳しさ」が、人間と人間をつなげてくれるような気がする。
三浦:なるほど、ありがとうございます。
三浦:それこそ学校作りをされているという話で、「先生たちや学校がどうあるべきか」という話をしていました。教養のある人、一方で教養がないと言われる人を「ある・ない」の二軸で測った時に、教養のある人たちの役割がもうちょっとそういうところに働くといいなと思っていて。
つまり、ある人とない人で分断されちゃって、ある人はない人のことを「ない人だよね」と言ってしまう感じが、それこそアカデミアの世界にある気がしていて。「ある人は(教養が)あるんだから、探してつなげてくれよ」って、けっこう思うわけです。僕はそれが大人や先生とかの役割かなという気がするんですが、周さんはどんな感じがしますか?
山口:今思ったのが、歴史の授業で覚えていることってだいたい脱線なんです。「世界ってそうなんだ」「世の中ってそういうものなんだ」とか、脱線からすごくインスピレーションを得ているんですよ。
だから歴史の教科書を読むと、「新選組とはあんな感じで、近藤勇と土方歳三がいて……」とか書かれているんだけど、先生が「ちなみに」という話をしてくれると、それがすごく(記憶に)残ったりしているわけです。
人間って、覚えることと覚えないことをそんなに器用に弁別できないから、覚えるということは、「これは生きていく上で重要な情報だ」と思っているから残っているんですよ。先生もそう思っているから「ちなみに」と言うんです。
情報の自然淘汰みたいな話で、たぶん教科書の情報は生きていく上であんまり重要じゃないと思われているから、覚えるのもつらいし、覚えた後も全部流れ去っちゃうわけですよね。だから、山川の教科書に「ちなみに山川教科書」みたいなのを作って(笑)、明治維新のところを見ると「ちなみに」というのが書いてあるみたいな。
三浦:「近藤勇と渋沢栄一は会っていた」みたいな。
山口:山川の正式版と『ちなみに山川』というのを作ってみて。「ちなみに」話ばっかりあると、それがすごく生きていく上で重要なんじゃないかなと思います。
三浦:ワルワル歩いているやつに対して、「あいつ、ちなみにガリガリ君ソーダが好きだよ」みたいな情報のギャップ性もある気がしていたんですよね。
三浦:もう1個、今の周さんの話を聞きながら思ったのは、その「ちなみに」は、教科書を作れば解決するんだろうかという気持ちもあって。
つまり、人間と人間が一緒に時間を過ごして、関わることから生まれる逸脱が「ちなみに」だなと思って。今、個別最適化とか言って動画を見ながら授業を受けたりしますが、そこに逸脱はない気がするんですよね。人間と人間の間に、奇跡感というかドラマ感みたいなものがあるのかなと。
山口:確かに。
糸井:三浦くんがやっている「18歳の成人式」というイベントは、コンサート目当てに来る人がいっぱいいるじゃないですか。
三浦:いっぱいいますね。
糸井:あれ、まさしく「ちなみに」だよね。
三浦:そうですね(笑)。確かに。
糸井:「あ、あのバンド好きなんだよ」ということで来ている人がいても、三浦くんのいいところは、「それでいいじゃん」と思っていることですよ。あともう1個言うと、18歳の成人式って、今でもやる意味がまったくわからない。
三浦:(笑)。
糸井:でも、やるって決めて歩いている姿そのものがおもしろいんですよ。「どこにたどり着くかな?」「18歳の成人式がうまくいくとどうなるの?」というのも、いまだに僕もよくわからない(笑)。だけど、それをやるためにみんなが力を合わせているというのは、(フェルディナンド・)マゼランの世界一周みたい。
山口:そうだよね。
糸井:マゼランは何しに行ったかわからないじゃないですか。大本は胡椒か何か取りに行ったとか、そんな話ですよね。
山口:なんとなく行くんですよね。
糸井:ねえ。胡椒、そんなに必要だったかな? 説明すれば「胡椒は肉を腐らせない」とか言うけど、いいじゃんそれで。
三浦:そうですね。
糸井:この間、「三浦宗一郎をどうして応援するんですか?」って、水野(敬也)くんに聞かれたんだけど。
三浦:水野敬也さん。
糸井:その時には答えられなかったんですが、「なんかやってるじゃん」というか。螺旋そのものが存在なんですよ。褒めてるよ?
三浦:ありがとうございます。糸井さんとタクシーの中で18歳の成人式の話をしている時に、「クラウドファンディングのページを見ても、あれは何も書いてないからなぁ」って。僕は一生懸命意味があると信じ、意味っぽいものを書くんですが、すべてバレてるっていう。「やっちゃったことの意味探し」をひたすらし続けているのかもしれないですね。
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