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ハッシャダイソーシャル『人生は選べる』出版記念イベント(全5記事)

山口周氏が指摘する、“自分に呪いをかけている人”の多さ 親子関係、働き方……社会の「当たり前」に囚われないためには

ハッシャダイソーシャル初のドキュメンタリー本『人生は選べる』の出版を記念してイベントが開催されました。本書の帯文を担当した糸井重里氏と山口周氏をゲストに迎え、ハッシャダイソーシャル共同代表の三浦宗一郎氏とトークセッションを実施。本記事では、社会的に「当たり前」とされていることに囚われず、自分の人生を選んでいくためのヒントを探ります。

糸井重里氏×山口周氏×三浦宗一郎氏によるトークセッション

三浦宗一郎氏(以下、三浦):それではさっそく「『人生は選べる』って何だ?」というテーマでセッションをしたいと思います。今回、こちらの帯を書いてくださった、ほぼ日代表の糸井(重里)さんと山口周さんをお呼びしております。

帯のお願いをする時も、今日のお願いをする時も、「いくぞ。いくぞ。いった!」っていつも緊張していました。『サマーウォーズ』という映画を見たことがある人はわかると思うんですが、Enterキーをすごい勢いで押すというか。でも、山口周さんも糸井さんも、帯も今日のイベントも「出ます」とすぐに承諾いただいて、これが実現しました。

(セッションは)たっぷり65分から70分ぐらい時間を取りたいと思います。質問もできるだけ長く時間を取りたいので、ぜひみなさん楽しんでいただけたらと思います。では、さっそく登場していただきます。糸井さんと周さん、よろしくお願いします。拍手でお迎えください。

(会場拍手)

三浦:ありがとうございます。では、お掛けいただいて。よろしくお願いします。

ちょっと(前のセッションの)時間が延びたので、さっき慌てて控室に行ったら、お二人が俳句の話をしていましてね。「この話はしないからね」と言いつつ、「今日はこんな話で」と言ったら、「『人生を選べる』が俳句の話につながってきますね」みたいな話をしておりました。

今日は本当に自由に、お二人と楽しい時間を過ごしていければなと思っております。よろしくお願いします。

『人生は選べる』を読んだ糸井氏の感想

三浦:ご紹介もこのくらいにして、さっそく本題に入っていきたいなと思います。あらためて帯、本当にありがとうございました。

糸井重里氏(以下、糸井):喜んで。

三浦:ありがとうございます。

山口周氏(以下、山口):喜んで。

三浦:さっきも一緒にしゃべっていたんですが、「こういうのはお願いしていいものなのか?」みたいな。

糸井:(笑)。

三浦:篠原(匡)さんと朝日新聞出版の編集者の方と、「僕は本を出すんだったら、絶対に(帯は)糸井さんと周さんがいいです」と話していたら、「三浦さん、そういうのはねぇ」みたいなテンションでして。

でも、「いや、送らせてください」という感じでお願いをしたら、実現したというところです。読んでいただいて本当にありがとうございました。本を読んでいただいた印象としてはどんな感じでしたか?

糸井:思ったより重いんですよ。三浦くんと、飲んだり食べたりしながらしゃべっている間は軽く話しているんです。でも、この本ではあらためて「ちょっとそこに止まってごらん」と話をしているインタビュアーがいます。三浦くんにしても、他の登場人物にしても、しゃがんでちゃんとしゃべると、やはり思ったより重いんですよ。

人間ってみんなそういうものだと思うんだけど、ふだんはその重さからの引力に逆らうようにして走っているんだなぁと。そう思うとちょっとかわいいなというか、「がんばれ」って思いましたね。

三浦:ありがとうございます。そうですよね。だいぶビビッドに一人ひとりの人生について描かれているので、僕らとしてもけっこう驚くこともあって。僕もふだんは、そんなに詳細まで聞いて関わっているわけじゃないので、読んでびっくりするような部分もありました。

自分のことを赤裸々に書くことは怖いし、勇気が必要

三浦:「確かに俺たち、意外とよくやってるな」と、勝山(恵一)とも話したりしていましたが、周さんはどうですか?

山口:そうね。けっこう赤裸々に書いてますよね。僕も本を出してますけど、自分のことを書くのってすごく怖いし、勇気が要りますよね。だからあそこまで自己開示できると、逆に強くなれるだろうなと。あと僕、デジタルでゲラをもらったじゃないですか。

これは余談なんですが、デジタルで読んでいると、いつまで読んでも目盛というかマークが進んでいかないんです。

三浦:「終わんねえな」と。

山口:「何だこれ?」と思って見たら、めっちゃ分量があって。

三浦:そうですね。

山口:そこはちょっとびっくりしましたね。

三浦:ありがとうございます。500円玉より分厚いらしいですね。

山口:そうですね。

三浦:シンプルに長いから、本当にお願いするのも恐縮すぎて(笑)。

山口:安請け合いしてね。「いいよいいよ」と言いつつ、「あれ? どこまであんの?」みたいな。でも、ちゃんと読みましたよ。

三浦:本当にありがとうございます。さっきのセッションでは、僕らのチームやビジョンの話を「『ハッシャダイソーシャル』って何だ?」みたいなテーマでお話ししました。

まさに僕らのビジョンの「CHOOSE YOUR LIFE! それでもなお、人生は選べる。」というところで、今回は「どうやってそれを実現していくんだろうか」とか、「どうやって私たちはそうしていくんだろうか」とか、「そもそも『人生って選べる』って何だ?」とかをテーマにして扱いたいなと思っています。

「人生は選べない」と思っている人への助言

三浦:たぶんお二方は傍から見ると、ものすごく人生を選んで生きているように見えるかなと思うんです。そこで「人生を選べる」というメッセージ、もしくはこの言葉についてどんな印象というか、どんなふうに考えられているのかをお二人におうかがいしたいです。

糸井:あいうえお順で私から。ふだん僕は、この聞かれ方というか考え方をしたことがないんですよね。つまり、「人生は選べる」と書いてあるってことは、「選べない」というのが反対側にあるわけですよね。「そっか。選べないと思っている人が多いと思っているから、このタイトルを付けたんだな」って感じた。

だから、「人生は選べない」と思っている方々に向けて、「選べるんじゃないのかな?」って疑問を投げ掛けているのがこのタイトルだと思ったんです。そういえばそうなんですよね。もちろん、「選べない」と思ったところで、「そこでちょっと辛抱したら、おもしろいものが見えてきた」ということもたくさんあるんだけど。

「選べないに決まっている」「そういう運命なのかな」と思って引き受けてきて、「良いことがなかったな」と感じている人に対して「選べるよ」と言うのって、お前は何様じゃと思われるかもしれないけど。あらためて「言われて良かった」という人がいっぱいるんだろうな、それはそうだな、それを手伝いたいなと思ったんですよ。

つまり、「人生」という言葉の中にはいろんな要素がある。仕事や親子関係だって、人生のすごく大きな要素です。

親が怖くて逃げ出せないという人が「つらいな」と思っても、「親だからしょうがない」と考えている時に、「人生は選べる」と本気で思わせてくれる。「親子の縁はすごく太いと思っていたけど、逃げちゃったら逃げられちゃう」みたいな。また戻ったっていいんだけどね。

そういう可能性が1個増えるだけで、ぜんぜんその後が変わってくるということを、若い人同士が押し合いへし合いしながら「ほんとだな」って言い合っているみたいな。僕はその姿がとてもいいな、応援したいなと思ったんですよね。

三浦:ありがとうございます。

この社会は“呪いにかかっている人”がすごく多い

三浦:仕事がどうこうという話だけじゃなく、血縁とか、この数年でワードとして挙がってきた「親ガチャ」という言葉とかはまさにそうです。僕らはやはり、親ガチャに反抗するような気持ちもあったりします。「もちろんそれはそうなんだけど、本当にそうなのか?」ということをすごく言いたい気持ちはあります。

まさに周さんもこの本を読んで、「呪いを解く人が増えてくれたらいい」という話もあると思います。今、どんなふうにこの社会を捉えていらっしゃいますか?

山口:そうですね。宗ちゃんと話した時に言いましたけど、やはり呪いにかかっている人がすごく多いと思うんです。呪いというのは人から行動の自由度、あるいは思考の自由度を奪う言葉のことです。この言葉にかかっちゃうと、「こうしなくちゃいけない」「こうしてはならない」「こうすべきである」と思っちゃう。

例えば「親とはこういう関係でなければならない」とか。もっと具体的でありがちな話で言うと、「親から紹介してもらったコネで入った会社は、そうそう辞めてはならない」とか、いろいろあるわけですよ。

世の中的にはいろいろなルールがあるんですが、どういうふうにも生きられる。刀鍛冶になったっていいし、アルゼンチンでタンゴダンサーになったっていい。あなたが今そこにいて、今これをやっている。

「どこにいるか」「何をするか」「誰といるか」というのは、僕のオプションフリーの3つの軸だと思っています。本来は「ここにいて、誰といて、これをやっている」というのが、実は何の束縛もない。これはある意味では、そこから解除された時にはとてもつらいことでもあるんですけれども。

三浦:そうですね。

自分自身で人生を選んでいくためには

山口:宮崎駿の『風立ちぬ』という映画の冒頭に、ポール・ヴァレリーというフランスの詩人の「風が立つ。生きようと試みなければならない」という言葉が出てきますが、あれはまさにそれだと思います。

あれは1920年に出された詩なんですが、それまでの世の中って親の職業を継ぐのが当たり前でした。生き方って、みんな生まれた時からだいたい決まっちゃっていたんです。

20世紀に入り一般的な市民社会というものが出てきて、「何をやっても生きていけるよ」となった。その時、それがすごくポジティブな感覚がありながらも、風が吹いている荒野を前にして「これから自分は、自分の人生をつかみ取っていかなくちゃいけない」という、ある種の覚悟を表す言葉なんです。あれは、やはりものすごくいい詩だと思います。

自分を荒野に投げ出していって、その選択の中で自分自身で決めていく状態にする。最終的に金持ちになるとか、社会的に成功するとかではなく、そのプロセスの中にこそ人生ってあるのかなと思います。

「人からこう言われたから」「社会ではこれが当たり前だから」「世の中ではみんなそうしているから」ということじゃなくて、「私はこうやって選んでいく」ということができる。そうすると、日本はもうちょっといい感じになっていくんじゃないかな、こういうことを言うのは今はすごく大事だよなと思って、帯に書いたということですね。

三浦:ありがとうございます。まさに親子関係の話でいくと、「果たしてその呪いは誰にかけられているのか?」というところがヒントになる気がしていて。

山口:それは自分で(呪いを)かけていますね。

三浦:なるほど。

人間は「依存が当たり前」だと思っている

三浦:まさに僕は、最近やっと歴史を勉強していまして。

糸井:みんなそうだよ。

三浦:(笑)。「明治維新がありました」というのを、幕末の偉人の文脈からじゃなくて、もうちょっと政府がどうだったのかとか、海外との外交がどうだったのかという視点から勉強していった時に。

まさに外圧から「変わらねばならん。だから日本を変えていこう」という中で、能力がある人たちを選んでいく、育てていく、登用していく。「自由な社会を作ろう。能力を活かせる社会を作ろう」となった時に、実はその裏では自己責任論みたいなものも生まれ始めた。

冷静に考えると、自分で自分のことを選べるようになったのって、歴史的に見たらものすごく最近で、そもそも人間としてそれが成熟してないんじゃないかというのもなんとなく感じていて。「そもそもムズいんじゃね? 僕らはムズさをどうしていくか?」というのは、今の周さんの話を聞きながら思ったりしたんですが、糸井さんはどうですか?

糸井:今の「荒野を前にして」という覚悟をみんなが持っているかどうかと言ったら、実はそういうシチュエーションで見てないと思うんですよ。つまり、人は何かに依存して生きているから、その依存が当たり前だと思っている。極端に言えば、僕らは呼吸して生きているわけだから空気に依存していますよね(笑)。

山口:(笑)。

三浦:そうですね。

糸井:引力にも依存していますよね。そういう私たちだから、依存がなくなることはないんですよね。

すべての依存をなくすことは難しい

糸井:殴る恋人に依存しているケースだってあるわけです。「殴るのは愛しているからだ」「私を本気で思っているから殴るんだ」というふうに思っている時って、それに依存しているわけです。「他の人は殴らないから本気じゃない」と思うことによって、荒野を前にして後ずさりするわけですね。

依存ってものすごく魅力があるんですよ。つまり、依存していることを人がどう言うか知らないけど、「依存せざるを得ない」と思うよりは、「私はこれがなくては生きていけない」と思うように人間の脳はできているので。だから煙草をやめるのも難しいし、お酒をやめるのも難しいし、家を出ることも難しい。全部、依存からの離脱なんだと思うんですよ。

「じゃあ1人で生きていくか?」「お前、本当に覚悟はあるんだな?」ってもう1回問い返されても、そんなもの無理だから、ないと思うんです。空気に依存しているというくらい、全依存をなくすことは難しいんですよ。

みんな弱いから、「あいつは本当にダメになっちゃった時にちょっと助けてくれた」とか、ダメにする依存から振り切って逃げることを応援してくれる人がいるんだって思うだけで、なんとかなっちゃうじゃないですか。そういう、甘えん坊になれる喜びがあるというか。

「本当はみんな甘えん坊になれるよ」ということとか、「本当は一番大事だと思っているものは、案外そうでもないよ」ということを、お互いに平らにして見せてあげちゃうことができていくのが、僕は一番いいと思っているんですね。

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