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【オンライン開催:ビジネス書グランプリ2024特別セミナー】きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」(全3記事)

金融教育家・田内学氏が語る、高校で始まった金融教育の問題点 教員からも疑問の声が上がる、本来教えるべきこととの乖離

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」にて、総合グランプリ・リベラルアーツ部門のダブル受賞に輝いた、『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』。本イベントでは、著者で金融教育家の田内学氏が登壇。今回は、各国での18歳への意識調査でわかったことや、高校での金融教育の問題点についてお話しします。

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日本の若者は社会に対する「自分ごと感」を持ちづらい

廣瀬聡氏(以下、廣瀬):ここまでたくさんの問題提起をいただきました。そして最後に、「お金があれば解決すると言うけれども、違うんだよ」ということを言ってくださいました。これもある意味での問題提起だと思います。

ぜひおうかがいしたいのは、田内さんとしては、何を優先的にやるべきだと思われるのか。仮説でもぜんぜんけっこうですので、教えていただけますか?

田内学氏(以下、田内):わかりました。今一番僕が問題だと思っていることは、おそらくですが、社会と自分の距離が離れてしまっているところ。これはことあるごとに話すんですけれど、2022年3月に日本財団が行った18歳の意識調査があります。

日本だけじゃなくアメリカ、韓国、イギリス、インド、中国の18歳に、「あなたは社会に対して責任があると思いますか?」と聞きます。日本の18歳はイエスが4割、他の国は軒並み6割を超えて、高いところは8割。

「あなたは社会や国を変えられますか?」という質問に対して、イエスは日本だと2割、他の国はもう余裕で過半数を超えている。「社会」と言うとすごく遠く感じるんだけれども、これはある意味自分たちであって、他人じゃないはずなんですよね。

廣瀬:自分ごと感ということですか?

田内:それがおそらく少ない。なんでそうなったか。逆に、これまで社会のことを考えなくてもうまくいっていたのはなぜかと言うと、終身雇用や年功序列(の仕組みがあったからです)。日本においては、そんなに社会のことを考えなくても、会社のことを考えて、会社のために粉骨砕身して働けばよかった。

「世の中のために自分が働かなきゃ」という意識が薄い

田内:これはいろんな経済学者の方も言っていらっしゃいますけど、やはり戦後の日本の復興においては、不足経済で「何を作ればいいか」がかなり明確だったわけですよね。

だから国としても、鉄鋼業なり、造船業なり、インフラを作るなり、そういった産業に人とお金のリソースをつぎ込み、ちゃんと守っていく。もしくはそういった会社に対して、銀行が融資していくシステムが出来上がっていった。だから僕らも、別に銀行に預けてもよかったわけですよ。

廣瀬:そうですよね。要は「銀行なら絶対安心・安全です」という大蔵省からのメッセージがあって、みんなが安心して預金を入れる。しかも税制も優遇されると。その集まったお金を、優先される産業に配分していくという、間接金融との仕組みができていましたよね。

田内:そこの会社で40年なり、ずっと働き続ける人たちを育てていくやり方のほうが、うまくいったわけですよ。

廣瀬:おっしゃるとおりです。

田内:バブルの崩壊や人口減といった、いろいろな問題があるかもしれないけれども。ある程度物が溢れてしまった成熟した社会においては、逆にそういった年功序列や終身雇用みたいな制度で(うまくいかなくなった)。

雇用の流動化っていう話もありますけれども、どんどん新しいものを作らなきゃいけない状況においては、うまく機能しなくなった。かつ、これまでは会社のことを考えていればよかったから、「世の中のために自分が働かなきゃ」という意識が薄かったのが、まず1つあると思います。

廣瀬:そうですね。グロービスの中では、働きやすい会社と働きがいのある会社という議論をよくするんです。働きやすいということが本当に良いことなのか。むしろ、大変かもしれないけど働きがいがあったほうがいいんじゃないか。

決して楽なことじゃないかもしれないけれども、今までの成り行きの延長線上のものを作るのではなく、それを否定してユニークな新しいものを作る。そこにこそ価値を求めるんだというふうに変えていかなきゃいけないよね、という議論をよくしているんです。

今の田内さんのお話を我々なりに解釈すると、働きやすいとか生きやすいじゃなくて、「自己責任で自分なりの生き方を考えていく社会を作らなきゃいけない」ということになってくるのかなと。

田内:そうですよね。

「自己責任で自分なりの生き方を考えていく社会」を作るには

廣瀬:聞きたいことは、何がそのきっかけになりますかと。我々が本当にそう変わるためのきっかけは人工的に作れるのか、自然現象なのか、それこそリーマン・ショックとか外的な要因によるのか。田内さんのシナリオの中ではどういうふうにお考えですか?

田内:それはすごく難しいし、たぶん日本は、外的なショックによって急成長してきた歴史があると思うんですよ。だから、もっと日本にそういうことが起きたり、すごく困ったりするまで何も変わらないという人もいたりする。あと先ほどの、「(自分が)社会の一員だと考えられるためにはどうしたらいいか」ということで、この小説を書いたのが実はあるんですよ。

廣瀬:なるほど。

田内:だから生徒役を2人用意しているんですよね。

廣瀬:優斗くんと七海さんですよね。

田内:はい。これは金融知識がない人の目線でも考えられるし、金融知識がある人の目線でも新たなことに気づけるという意味で、2人使っています。もう1つ視点があって、主人公の中学生の優斗くんの家は、商店街でとんかつ屋さんをやっている。

そこに地域経済が存在しているんですよね。一方で、七海さんはその地域社会がない状況。これは社会学者の宮台真司さんにお話ししていて「なるほど」と思ったんです。宮台さんは、いろんなことを言っている方ですけど。

廣瀬:おもしろい方ですね。

田内:おもしろい方です。よくテレビやYouTubeの変わったところだけ切り抜かれて、(SNSで)流されたりするんですけれど。宮台さんが言っているのは、損得勘定だけではない人間関係を持つことはすごく大事だと。それが例えばその物語の中にも出てくるんですけれども、商店街の中にはおまけをしてくれるお菓子屋さんのおばちゃんがいる。

ああいう、損得勘定なしに自分の幸せを考えてくれる人が、家族以外に存在していることがすごく大事なんですよ。そういう人たちが存在することによって、自分もまたその人と損得勘定のない関係が作れたりする。

だから要は、相手の立場に立って、自分の損でも得でもない、下手したら自分の損になるかもしれないことをする。「相手が喜んでくれるから、自分もうれしい」って思えるような人間関係が、今減っていると。

「誰にお金を払うのか」は、「誰と助け合って生きていくか」でもある

廣瀬:なるほど。損得勘定抜きの、いわゆる昔ながらのコミュニティ的なものが大切で、それがある意味で少子高齢化の問題とか社会問題を解決するよね、と。この意味はわかる一方で、それこそプラットフォーム企業やeコマースは、いわゆる内々のコミュニティではなく、すごくルールベースのコミュニティをあまねく世界全般に広げていく仕掛けです。

今、それこそMicrosoftやAppleが3兆ドルを超えるマーケットバリューで、それにAmazonを入れた3つで、日本とインドとドイツのGDPを足した(数字になる)。そんな世界になりつつあるとも言われている、とんでもない状況です。今おっしゃっているのは、比較的今の世界の流れとは違ったもののようにうかがったんですけど、どうですか? 

田内:それがまさに今起きていることで、例えば書店もどんどんなくなってしまっている。

廣瀬:そうですね。

田内:本にも出てくるように、その影響は実は自分たちが起こしていることだと。僕は家が蕎麦屋をやっていたという話をしたんですけれど。「多少高くても、お客さんのところから(材料を)買ったほうがいいんだ」という話をよく親から聞いていました。

これは僕の家が蕎麦屋をやっていたからというのがあるんですけれど。でも地産地消はいろんな意味で大事です。地元にお金が落ちることで、また自分の給料とかにも回ってくるわけだし、エネルギーの話になったりもするんでしょうけれども。

「誰にお金を払うのか」は、見方を変えると「誰と助け合って生きていくか」という話でもあるわけです。もちろんそういう(Eコマースのような)仕組みができちゃったら、そっちが便利だなという話になるんだけれど。

まぁでも自分たちで多少そういうことを意識してもいいんじゃないのという気はします。そもそもそういう感覚がない人が、「そういう視点があるんだな」って知ることが大事です。

金融教育=資産形成のための教育になりつつある現状

廣瀬:なるほど。最後に1つ、この後はどういうご活動をされていきますか? 今はおそらく、世の中のマジョリティーの動きと若干違う方向性で、問題提起をされている。

これは言い過ぎかもしれませんが、このままの方向じゃないところに、ひょっとしたら日本としての戦略があるかもしれないと。今後、誰に対してどういう活動をされていこうとお考えでしょうか。

田内:このままじゃまずいと思うのは、全員の共通認識だと思うんですけど。いわゆる貯蓄から投資へと言われているけれども、日本においては実際に投資されたお金が、流れる先がないよねという問題。

今高校で金融教育が始まっていて、金融教育イコール投資教育、資産形成のための教育になりつつあるんですよ。学校の先生からは、「こんな教育で本当にいいの?」という声が多い。一方で、自分たちで金融のことがよくわからないから、銀行や証券会社の方を呼ぶと、本来金融教育で教えようとしていることではなく、その中のごく一部の資産形成の話だけになってしまう。

これは何が問題かと言うと、別に投資を知るのはいいんだけれど、そもそも投資って仕組みは「株を買ったら儲かるよ」とか、「配当をもらえる」という話ではない。実際今は株式市場は盛り上がっていますけど、別に株価が上がったからって、新しい資金調達なんて、年間1兆円あるかないかです。

一方で、企業が株を買い戻す金額は年間10兆円と言われている。だからそこに資金需要がないわけですよ。本来ならば、本当に貯蓄から投資に回すのであれば、お金を必要とする人たちに流れるべきだし。

例えば、今いろんな深刻な問題がありますけど、とにかくお金を増やしたほうがいいし、貯めたほうがいいと思っている人たち。せっかく奨学金をもらって大学で勉強させてもらえるはずなのに、奨学金をまず返さなきゃということで、バイトで授業が聞けないとか、本末転倒です。

やりたいことをやるために、遠回りしてお金を増やすのは二度手間

田内:これはちょっとハードルが高く思えるかもしれないですが。それこそ20年前に、検索エンジンの研究をしていたGoogleの人たちが、「自分で何かやりたい」と。その時に、「1回どこかの大企業で働いて、そこで貯めたお金を投資で増やして、それから会社を作ろう」なんて考えないわけですよね。

「こんな便利なものがあるんだ」「じゃあそれを実用化して世の中を便利にしたら、自分も儲かるし、みんなもハッピーじゃん」と考えるのが投資なわけで、それがアメリカではずっと起きています。

廣瀬:そうですね。

田内:一方で、日本で検索エンジンを研究していた田内という学生は、ゴールドマン・サックスにいったほうが安心・安全だと考えちゃうわけですよ。

廣瀬:(金利の)デリバティブ(のトレーダー)を16年間やっちゃうんですもんね。

田内:そうです。これは良くない。

廣瀬:なるほど。でも実際、今IPOがどれだけあるか、新しい企業がどんどん生まれているかと言うと、必ずしも(そうではない)。今は上場企業の株価がどんどん上がっているだけであって、本当の意味での企業の生成は行われていないわけですよね。

田内:そうそう。IPOって言っちゃうとハードルが上がっちゃうかもしれないけれども、別にIPOだけではなく、例えば花屋さんを始めるでも、近くのおじいちゃんおばあちゃんのケアをする会社を始めるでもいいんですけども。銀行に融資してもらって、始めてもいいわけじゃないですか。

そういうのも含めて、「自分がやりたいことをやるために、一度やりたくもない仕事をして、投資で(お金)を増やしてからやろう」というのでは、二度手間三度手間になっている。せっかく融資や投資という枠組みがあるんだから、それを若い人たちにちゃんと教えたほうがいいんじゃないのって思うわけですよ。

田内:なるほど。ありがとうございます。

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