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ブレイクスルーを起こすために必要なマーケティングのアプローチ(全3記事)

事業でインパクトを生み出すために必要な“3つの視点” DMM亀山氏×南坊泰司氏が語る、生活者への企業の向き合い方

ブランディング・マーケティングに携わる担当者や広告代理店の方々にとって、データ活用の先にある、マーケティングをより効果につなげるためのヒントやアイデアを提供する「DMM次世代マーケティング」。本記事では、亀山敬司氏と南坊泰司氏による「ブレイクスルーを起こすために必要なマーケティングのアプローチ」のセッションの模様をお届けします。本記事では、時代の流れが早い今の時代において、企業の将来を左右する「スピード」の重要性を語りました。

美容整形の広告に「院長の顔」が出ているのはなぜ?

亀山敬司氏(以下、亀山):よくインプラントとか美容整形の看板が出ていて、だいたい院長の顔が出てるじゃないですか。あれは何の意味があるんですか?

南坊泰司氏(以下、南坊):要は、美容整形の施術って差別化がめちゃくちゃわかりづらいんですよね。本当は腕前とかもあるし、あるいは使ってる機材とかも違ったりするので。

めちゃくちゃオタッキーな世界であれば違いがわかるんですけど、例えば「カップヌードル」と「一平ちゃん」みたいな違いじゃないので、どこの美容整形がいいのかはぜんぜんわからないじゃないですか。

差別化して、「このブランドが良い」「このサービスが良い」って判断するための基準が限りなく難しいから、名前か顔なんですよね。要は「この人です」「湘南美容外科です」みたいなものがないといけない。

亀山:でもあれ、もしかしてみんな出たがりなんじゃないですか(笑)?

南坊:出たがりもあるかもしれないですけどね(笑)。あとは、その医者が必ず施術をやるかどうかはぜんぜん違うんですけど、そこに権威性があるので、個人を出したいっていうのはありますね。

亀山:でも、出してるところはだいたい大手だから、行ったってその院長は出てこないで、他の人がやるでしょ。

南坊:そうそう、そうなんですよ。だから結局、(病院へ)行ったらその院長は指名料が10倍の値段だったりするので無理なんですけど、一度お客さんが来てしまえばなかなか他には行かないっていうのがありますよね。あと、カウンセリングだけ院長がやってます、みたいなところもありますね。

生活者も広告を疑うようになっている

亀山:最近も目立つ広告を見るけど、(広告に出るのは)もっと別の人でもいいんじゃないかというのは、時々思ってる。

インプラントとか整形って、どうしてもそういう広告が多いから、あれは広告的に何かすごい意味があるのか、ちょっと聞きたかったんだけど。

南坊:湘南美容外科がこの業界に革命を起こしていて。湘南美容外科って、もちろん院長も(広告に)出るんですけど、たった1人じゃなくて他の人たちもめちゃくちゃ出るようにしたんですよね。

亀山:チームで。

南坊:そうです。先ほどの、だんだん生活者が賢くなってる理論みたいな話でいうと、「院長が来るわけないじゃん」みたいになってくるので、湘南美容外科は「なんとか院の院長です」みたいなかたちで8人ぐらい出たりするんですよね。

もちろん、湘南美容外科のブランドがある程度できてるからなんですが、人がいっぱいいることによって、「いろんな人がいるし、だったら私にもちゃんとした人がやってくれるかもしれない」ということで、非常に効果がある広告だったりするんですよね。

亀山:そうか、そうか。そのへんは、いつも見ながらどういう意味があるのかって思っていて。じゃあ、院長も出たがりとか承認欲求だけじゃなくって、ちゃんと考えていると。

広告の効果は「事業数字」を見る

亀山:そういった中でいうと、結論としては看板広告とかも長期的に予算で見るしかないと。

南坊:そうですね。もちろん、それを科学する営みはめちゃくちゃみんながんばってるし、ある意味僕も広告代理店でそれをやってたんでわかるんですが、正直言って、つながってないものを100パーセント調べることは無理だと思っていますね。

亀山:なるほどね。そのへんが本当にわかりにくい。例えば、大手広告代理店さんとかで予算いくらっていうと、どういうふうに使われて、実際にどういう価値なのかがすごくわかりづらくて。なんとなく、プロなんだからそのへんは最適化してるのかなという気もするけど、もうちょっとロジックを知りたいなっていうのは実際にある。

それこそ、先ほどの生活者と会社の立場じゃないけど、今度はBtoBの中でも、広告代理店の言うことを「本当かよ?」って思っちゃうことがどうしてもあって。

南坊:そういう意味で、事業会社と代理店のどちらも行って思ったのは、事業数字で見るのが一番正しいとは思ってるんですよね。

例えば、メルカリでいえば日々の売上高の数字を見る。あるいは、特定の業種や特定の商品の広告をしたら、そこが伸びてるのかどうか。純粋にダウンロードが伸びてるか、とか。

何かをした時は、ダウンロード数が伸びるとか、実際に使ってる人のデイリーのアクティブユーザーが伸びるとか、基本は跳ね返ってくるので。逆に言うと、事業を動かせていないんだったらあんまり意味がないので、事業側の数字をしっかり確認する必要がある。

プロダクトが良いのか、広告が良いのか、判断は難しい

南坊:そういう意味では、事業側と代理店のようなマーケティングチームとの応対というか、事業数字でちゃんと会話ができるようにならないといけないということが大前提だと思います。

亀山:でも、本当にここが難しくて。プロダクトが良かったのか、広告が良かったのかって判断が難しいじゃないですか。例えば、DMM TVでおもしろいコンテンツを作ってCMをかけたとして、これはコンテンツがウケたのか、CMがうまくやったのかわからない。

コンテンツにいくらかけたらいいのか、CMにいくらかけたらいいのかで悩んだり。本当は良いもん作るのが一番大事なんだろうけど、広まらないとみんなが見てくれない。割合的にどんなふうにかければいいのかなとか、けっこう悩むんですよね。

南坊:そうですね。でも、基本的に仕掛けている時点でちょっと苦しいのかと思ってるので。ある程度コンテンツや商品が強くて、一定数伸びている状態で、この伸びている角度を上げるのが、基本的にマーケティングの役割。

亀山:広告で売って角度がカクッとなった時に「あ、この分かな?」みたいな。

南坊:120パーセント伸びているものを150パーセントにするのが広告の役割であって、ずっと100パーセントとか横ばいのものを130パーセントにしたら、絶対にそれはインスタントの効果にしかならないですよね。

伸びることは伸びるんですが、その後下がって元に戻るんですよね。やはりプロダクトとか、あるいはカスタマーサポートとかで伸びている状態を作るべきです。

「広告で取れる人」には幅がある

亀山:(プロダクト自体が)魅力的じゃなかったら、上がってもまた落ちちゃう。そうであれば、確かにサービスが伸びている時に広告を出してアクセルを踏むと、30パーセントが50パーセントになる。この20パーセントの分にいくらコストをかけるんだ、という話。

南坊:おっしゃるとおりです。そうなると、やはり事業数字を見なきゃいけないので、マーケティング用の効果検証ってあんまり意味がないというか、必ず事業側で見ていったほうがいいかなとは思ってますね。

亀山:でも、それで成長率が20パーセント伸びた時に、これがこの広告で何年間続くのかと。例えば、それが1年だと1億円出せるけど、5年だったら5億円出せるのかっていうのがあるわけで、このへんが悩みどころじゃないですか。

南坊:それは本当に悩みどころですね。まずはライフタイムバリューで見るというか、お客さんの見方を長期視点にしなきゃいけないのかなと思っています。

けっこう間違えがちなのが、広告で取れる人ってぜんぶ同じではなくて。ずっと使ってくれるお客さんとか、DMMだったら複数のサービスを使ってくれるお客さんだとか、あるいは1ヶ月でやめちゃう人だとか、けっこう違いがあるんです。

大事なのは「ライフタイムバリュー」で見ること

南坊:本当は、広告で取ってくる手段と、取ってくる人がどれくらいお金を長期的に稼いでくれるのかっていうところまで見るのが広告効果であって。

要は、単に取る・取らないだけじゃないライフタイムバリューで見ることが、まず当たり前にならなきゃいけないのかなとは思ってますね。

亀山:ライフタイムバリュー、要はお客さんが生涯いくら使ってくれるかっていう数字なんだろうけど。

DMMだったら同じアカウントでいろいろなものを買えるんで、電子書籍を買った人が何パーセントDMM TVに入ってくれるか、何パーセントがDMMオンラインクリニックを使ってくれるかっていうのは、計算してるんだけども。

その中で、同じ電子書籍のライバルがいても、確かにちょっと多めに広告費を張れる。その分流れてくる部分があるかなというのは、相互プラットホームの価値を有効に使えるところがあると思うんですね。

その時にちょっと予算を多めに出せれば、他社よりも広告を多めに打てるという考え方をします。それでも一向に、「じゃあそれがいくらのなのか」っていうのはなかなか明確な答えが出なくて。日々、葛藤中でございます(笑)。

南坊:そうですね(笑)。

世の中の生活者は、日々社会の中で揉まれている

亀山:「事業でインパクトを生み出すコミュニケーションについて」というのもお題になったけど、最後に締めとして、じゃあ今後はどうなるか。

南坊:そうですね、なかなか難しい質問ですね。

事業にインパクトを生み出すことを考えた時に、「生活者が変わってます」の話から踏まえると、先ほどまでとはぜんぜん違う話するんですが、「社会がどう動いてるか」「生活者がどう動いてるか」「自社がどうなのか」という3つの話を考えなきゃいけないなと最近思ってます。

なぜかというと、昔は超純粋に「企業が生活者に伝えて売れます」というだけだったんですけど、今はお客さんが考えなきゃいけないとなった時に、世の中の生活者は日々社会に揉まれてきている。

例えば、今だとめちゃくちゃインフレがきついとか、いろんなところで値上げが起きているという流れによって、めちゃくちゃ動いている。しかも、そこを取り巻く環境自体が、お客さんの構造をすごく決定している。

最近はよく、「企業と生活者の長期的な関係を作ったほうがいいです」という話があります。僕ももちろんそれは同意なんですが、実は生活者ってただ1人で動いてるんじゃなくて、いろんな人生や生活の中で動いてるじゃないですか。

インフレの影響をめちゃくちゃ受けてたり、ぜんぜん違う別の概念が生まれていたり、あるいは働き方がぜんぜん変わってるとか、世の中の変化はめっちゃ受けてるんですよね。

亀山:だからAIもあるし、いろんなことも出てくるしね。

南坊:そうなんですよ。

企業がコツコツがんばっても伸びない原因

南坊:今は「AIで自分の仕事を奪われるかもしれない」みたいな変化が起きてるので、実は社会という要素がものすごく生活者に影響を与えています。

例えば企業の経営で、「プロダクトがいまいち」みたいな話はいったん置いといて、めちゃくちゃロジカルにやってるけどうまくいかないとか、やるべきことをだいたいやってるのにうまくいかないって、本当は不思議じゃないですか。

亀山:確かに、コツコツがんばってるのに伸びない時は伸びないし。

南坊:そうです。もちろんやり方が正しくないことはあるかもしれないですけど、そもそも、社会の変化に対して生活者がものすごく影響を受けている。しかも世の中には無数の企業があって、そことお客さんの関係性があるじゃないですか。

だから、めちゃくちゃ良い関係を築けたとしても、実は他の企業ともっと良い関係を築けてたり、あるいは他の心配ごとがありすぎたらワークしなくなるんです。

マーケティングでは、企業のコミュニケーションに関してはどんどん社会側の影響を取り入れていかないと、たぶんすぐに陳腐化しちゃうんですよね。

亀山:なるほどね。

企業がいかに社会のスピード感に対応できるか

亀山:じゃあ例えば、ChatGPTが流行って、経理やホワイトカラーの仕事が減ってくよっていう時に、「ホワイトカラーの資格を取りましょう」と言っていても、「いやいや、社会はそっちのほうに行ってないから」という話になることもある。

南坊:そうなんですよ。要は企業側の論理と、生活者へのサービスだけでやってることがけっこう多いんですが、今って世の中の変化がものすごく早くなってるので。

亀山:そういう時に、「向こうの専門学校よりも、こっちの専門学校のほうがいいよ」と言っていてもしょうがないと。社会全体がそこに向かっているわけじゃない場合がある。

南坊:なので、例えば来年はNISAが大きく変わるということでいうと、めちゃくちゃ投資がんばろう、みたいな流れが来たりするのかと思うんです。

こういう、もともとあったPRっぽい考え方だけで拾おうという感じだったんですけど。それだけじゃなくて、事業側がそこにスピード感を持って早く対応できるようになると、逆にものすごくメリットがある。

コロナ特需になった業者はいっぱいあると思うんですけど、たぶん今後もそれぐらいの変化はものすごく起きやすくなると思ってます。

亀山:確かにコロナの時は、もうダメな業種と良くなった業種がかなり分かれたね。

南坊:それが一番使いやすいのがコミュニケーションなんですよね。

業種にこだわりすぎず、世間のニーズに対応する

南坊:例えば、「明日から商品を変えましょう」と言われても変えられないじゃないですか。でも、2ヶ月後のCMを変えようとか、1週間後のWeb広告を変えようというのは、がんばればできるじゃないですか。あるいは、LPを作り変えようというのもできると思います。

なので、コミュニケーションというチャンネルに関しては、世の中に対してものすごく早いスピードで対応することが当たり前になっていくと、事業にかなりインパクトが出てくるのかなとは思ってますね。

亀山:なるほど。マーケティング自体はPRのために売り込むだけじゃなくって、そこから戻ってきた数字とか、いろんな声をひっくるめて、事業自体のモデルにチェンジを加えないといけない。

南坊:そうですね。

亀山:にしたんクリニックみたいに、Wi-Fiを売ってたと思ったら、「もう世の中の声は違うな」と思ったら、いきなりPCR検査を売り出す。

あそこまでピボットするのはともかくとしても、いろんな意味でこれからは、あくまで論理と需要。自分たちの業種にこだわりすぎた中で展開するよりは、同じ飲食店でも、「こっからはUber Eatsをもっと使ってこう」といったチェンジをしてかないといけない。

南坊:そうですね。

企業の未来を左右するのは、とにかく「スピード」

南坊:昔とは違ってデジタルがあるので、明日広告を変えようとか、明日LPを変えようとか、あるいはWebサービス上でお金の取り方を変えようとか、やろうと思ったらできるじゃないですか。

亀山:確かに。コロナでお客さんが来なくなった時に、「うちの店はきれいだよ」ってアピールしてもしょうがない。

「とにかく配達しまっせ」みたいにして、料理やお弁当のメニューを公開したほうがいいし、それをパッと切り替えないといけない。企業方針自体をデジタルですぐ変えてしまって、アピールする場所も変えると。

南坊:社会の変化の速度が上がってるので、そこに一番早く対応できるコミュニケーションを、事業の入り口にうまく使ってやっていく。

先ほどおっしゃっていたような、「当たり前の先の角度を変える」ということを、社会の変化の波に乗って、それこそコロナになった時にズバッといけるような事業の見せ方ができると、めちゃくちゃ高い売上をシンプルに作ることができるのかなと思います。

亀山:単なるCMのクリエイティブだけの比較じゃなくて、「何を打ち出すか」ということから考えないといけない。これから時代の流れが早いし、AIも来るし、コロナは去ったけれども、また次に何があるかわかんない。地震が来るかもしれないしね。今後の未来では、とにかくなんにしても「スピード」ですね。

南坊:スピードですね。

亀山:じゃあ、うちも南坊さんも、お互いスピードをつけて、この時代をみなさんで生き延びましょう。ということで、マーケティング・ディレクターの南坊さんでした。みなさんも楽しみながら、スピードをつけてがんばりましょう。

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