2024.10.10
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早瀬隆春氏(以下、早瀬):それでは始めていきたいと思います。みなさん、こんにちは。日本能率協会マネジメントセンターの早瀬と申します。司会進行を務めますので、よろしくお願いいたします。
本日は『職場の著作権対応100の法則』出版記念イベント、「仕事の『著作権あるある』問題を解決しよう」にご参加いただきまして、ありがとうございます。
著作権の話は、難しいというのもありますが、堅苦しくないお話で、楽しく学べるような時間にしたいと思います。本日はよろしくお願いいたします。
それでは、さっそくですけれども、著者の先生をお呼びしたいと思います。友利昴さんです。
友利昴氏(以下、友利):はい。こんにちは。『職場の著作権対応100の法則』、著者の友利昴と申します。今日はお忙しい中、1時間程度になりますけれども、お耳をお借りできればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)
早瀬:よろしくお願いいたします。それでは友利先生のもう少し細かいプロフィールを、ご案内していきたいと思います。ご説明お願いいたします。
友利:はい。あらためまして、自己紹介をさせていただきたいと思います。友利昴と申しまして、キャリアとしては、いろんな仕事をさせていただいています。
出版とかエンターテイメント、一般食品など、いろんな業種でこれまで法務、知的財産業務に関わっております。その傍らで、主に知財分野でそうした企業の経験を生かして、著述活動も行っています。そんな感じのキャリアです。
最近の著書としては、『エセ著作権事件簿』、これは早瀬さんも読んでくださったということですけれども。それから、『知財部という仕事』。知財部の仕事の泥くさい部分を、つまびらかにした本です。
それから『オリンピックVS便乗商法』。オリンピックの知財戦略を、批判的に分析している本です。そんな感じの本がたくさんあります。
あとは、日立さん、ソニーさん、メルカリさん、カネカさん、明治さんなど、いろんな企業さんにお邪魔して、知財人材の取材記事なんかも手掛けております。
友利:講師の仕事も、おかげさまでちょこちょこやらせていただいています。日本弁理士会、発明推進協会、Arts and Law、東京医薬品工業協会、全日本文具協会など、いろいろ公的機関とか、業界団体さんからお声がけいただいて、リアリティのある知財の仕事のお話をさせていただいています。
そんな感じで活動をしていたら今回の企画のお話をいただいて、ちょっと1冊、能率協会さんとお付き合いさせていただいたと。そんな経緯でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
早瀬:よろしくお願いいたします。その節は大変お世話になりました。まあ今も、お世話になっている状況ではあるんですけれども。
実は先ほどスライドにも出ていた『エセ著作権事件簿』が、この『職場の著作権対応100の法則』制作のきっかけになっているといういきさつがありまして。ちょっとそのあたりの製作秘話も、ご紹介できればと思います。
私は、日本能率協会マネジメントセンターでは編集者をやっているんですけれども、JMAM出版で、著作物利用の窓口もしております。
具体的には「JMAMで出している本の、こういった部分を使わせてもらえませんか」とか、「YouTubeで本の紹介をさせてくれませんか」とか、そういった問い合わせの窓口をしております。ふだんの編集作業の傍ら、そういったものもやっております。
意外とそういった作業って重いんですね。やはり法律的に解釈が難しいものが来たり。あるいは、「これはちょっと、どう考えても厳しい気がするけれども、どうやって答えると一番角が立たないかなぁ」というコメントを考えたりしていると、わりと時間を食われたりします。
もう少しこのあたりの理解を、自分も深めなきゃいけないし、他の人ももうちょっと知っておいたほうがいいんじゃないかなぁと考えておりました。
そんな時、たまたま、友利さんの『エセ著作権事件簿』という本が書店の棚に置かれているのを見つけて、なんとなく直感で「あ、この本だ!」と引き込まれまして。その場で衝動買いをしました。
早瀬:本としてはわりとお高めで2,000円台とかの、けっこう高い本だったんですけど。それでも「これだ!」という感じで受け取って、さっそく読ませていただいたんです。本当にいろんなものを友利さんが扱われていて、この内容がすごくおもしろくて。
一番おもしろかったのが、わりと大手さんでも(著作権トラブル)やってるなぁ、みたいなことがあったところです。そのあたり、友利さん、どうですか。『エセ著作権事件簿』の話ですけれども。
友利:ありがとうございます。まず、ちょこちょこ話は聞いていたんですけど、早瀬さんが、会社に寄せられる著作権の対応の窓口をされているのは、やっぱり編集業の傍らではすごく大変だなぁと思いますし。
ビジネス書が多いから、「研修で使いたい」とか、そういう話がたくさんあるでしょう。
早瀬:はい。
友利:大変だろうなぁと思いながら、聞いていたんですけど。そんな中で『エセ著作権事件簿』。今日は、他の本の話ですけれども。一応その前に出した本なんですね。2,500円くらい。高いんですけど、かなり分厚い本なので。よかったら、併せて読んでいただければと思うんですけれども。
面白く読んでいただいてありがたいですね。やっぱり著作権の仕事をしている人も、けっこうこの本を読んでくれるんですけど、どちらかと言うと、「読んで溜飲が下がりました」とか、「スカっとしました」というご感想をいただくことも多いので。そういうふうに読んでいただけたとしたらうれしいなと思います。
はい。ありがとうございます。
早瀬:一応補足をいたしますと、この、『エセ著作権事件簿』は、実際にあった著作権に関する裁判沙汰になってしまったケースを挙げていて、両者の主張の思い込みが強かったりで、かなり尖った内容になっているということは、この場を借りて補足しておきたいと思います。
なので、かなり言葉の癖も強いと言いますか。そういったところで読む人をもしかしたら選んでしまうかもしれないということだけは、エクスキューズしておきたいと思います。
それもありまして、弊社で出す本については、さすがにそこまで尖った内容にするのはちょっと難しい。できるだけ一般の人がもう少し、裁判にならないレベルで、日常的に起きていることを、きちんと学べるような本ができないかなぁと思って、この本を友利さんにお願いしました。
早瀬:友利さんも自由に書けないから、非常に不満に思ったんじゃないかな。そのあたりはどうですか。
友利:いや、そんなことはないですよ。まあ企画によって、ターゲットとしている読者の層をイメージして、どういうふうに書こうかなというのは、やっぱりけっこう意識はするところで。
『エセ著作権事件簿』は、不満が溜まっているクリエイターさん向けってわけじゃないんですけど、わりとサブカルチックな感じのノリで、楽しみながら、やっぱりスカっとしてもらいたいという感じで。そういう狙いで書いた本。
JMAMさんからのオファーとしては、ビジネスの現場で、実務で使いやすい著作権の本というオファーでしたので。そこはやっぱり筆の使い分けはするのかなと、最初から意識はしたところですかね。
奥底にあるこだわりだったり、これを伝えたいみたいな思いは、完成した本をよく読めば通底しているところはあると思うんですけど。ビジネスパーソンが安心して読んで、カルチャーフィットするようなかたちで書こうというのは、最初から意識したところですね。
早瀬:ありがとうございます。実は、この著者をお願いするに至るまでに、またちょっと奇跡的なつながりがありまして。この本を読んだ後で、「この本、おもしろいんだけど」という話を社内でしたんですね。そうしたら、職場の同僚で、前の仕事とかで友利さんと付き合いのある人がいまして。その方から友利さんに直でお声がけをいただいて、すぐアプローチができたと。
その後は、トントン拍子で企画の話をしていって。こちらを正式にオファーをお願いしますというふうにこぎつけたんですけれども。あのオファーを受け取った時のお気持ちみたいなものをお話しいただけたらありがたいのですが。
友利:そう。だから最初からぜんぜん面識がない早瀬さんから、「こういう企画で」というのをいただいたわけじゃなくて、元から知っている、別の方を通して、お話をいただいたので。
その方にも、もう前からお仕事でお世話になっていたという経緯もあるので、あ、これは断れないなと思いましたよね。
早瀬:なんかちょっと、逆に申し訳なくなってしまったんですけども(笑)。
友利:いやいや、ぜんぜん。すごくありがたいオファーだったし、別に断ろうと思っていたとか、断りたかったわけでもぜんぜんないんですけど。
これはちゃんと向き合って、ぜひやりたいなと思いましたね。本当に前向きに取り組ませていただいた本だと思っています。
早瀬:ありがとうございます。製作秘話の話ばかりしていても、みなさん飽きられると思いますし。さっそく本題に入っていきたいと思うんですけれども。
まず1つめのテーマから始めていきたいと思います。「よくやるけど実はアウト? ダメだと思ったけど、実はセーフ? 『著作権あるある解説』」です。
というわけで、やはりこの本を作っていく過程でも、仕事の中で「実はこれはまずかったんじゃないのか」とか、あるいは、「これ、実は良かったの?」ということもありまして。
そのあたりも、『エセ著作権事件簿』で知って、「うわ、今までの人で、実は断っちゃったけど良かった人もいたじゃん!」みたいなことを思っていて。今更「やっぱり大丈夫でした」とも言えないしと、もう非常に後悔して。
やっぱり一般の人でも、そういう本がないと知識として困るなぁと思って、この本の話をしたわけなんです。そういったところで、今回いくつか友利さんにお話をうかがいたいと思いますので、よろしくお願いします。
友利:はい。
早瀬:では、さっそく1つめのテーマですけれども、こちらになります。「SNSでありがちな著作権問題」。
やはり最近は、企業も法人アカウントといいますか、企業アカウントで担当者をつけて、いろいろつぶやいて、みんないろいろ情報発信をしながらファンを増やしていくようなことをやっています。
そういった時に、よそで「この商品いいよ」と、SNSユーザーがつぶやいたり、投稿してくれたら、「ありがとうございます」と言いたくなるのはそうなんですけど。
それを、「この方がこんなことを言ってくれました」と、宣伝に使いたくなるんですね。そういったものは、やはりSNS上でも、自由にできないんでしょうか。
友利:一般的に趣味とかのSNSって、あんまり著作権に頓着しないで使うパターンが多いと思うし。個人が多少の無断利用というか、画像を載せたりしても、そんなに著作権者も、いちいちそれに対して目くじら立てないという土壌があることはあるので。
同じノリでビジネスユースに使っちゃってもいいんじゃないかという発想になりがちなところはあるんですけど。そこのギャップをいかに調整するかがけっこう難しくて。まあ、ビジネスで使うと、当然そこに広告宣伝とかの意図があったりするから。権利者としては、自分の著作物を使って不当にその利益を得ようとしやがってという感情になりやすい。
遊びで一般の人がやるのとはちょっと違うので。同じノリでやってもいいと判断するのは、やっぱり危ないというのが、まず一般論としてありますね。
早瀬:はい。
友利:だから趣味で使う、日常的なつぶやきで使うものとはやっぱり意識、レベルを変えたほうがいいというのが、基本の接し方としてはあると思いますね。
友利:ビジネスシーンにおける事例として、商品、例えば書籍でもなんでもそうなんですけど。やっぱりユーザーの方が、「買いました」とか反応してくれて、そのことをメーカーなどが宣伝に利用したいというシチュエーションがあるし、実際よくやられていると思います。
それが、ありかなしかなんですけど。これもやっぱり利用の仕方によるというのが1つあって。
よくあるし、大して問題にもなっていないものの代表が、誰かが「買いました」とか「よかったです」みたいなことを言ってくれたものに対して、引用リツイートだったり、リポストするというシチュエーション。けっこうあると思うんですけど、基本的に、このやり方は著作権の問題はないというところです。
なんでかと言うと、基本的な一般的なプラットフォームであれば、そもそも引用リツイートでツイートを利用するとか、リポストでFacebookなり、インスタの投稿を利用することは、利用許諾で、それは他のユーザーに対しても許諾されているシチュエーションだというのがかなり一般的なので。そういう使い方であれば、著作権の問題はほぼないと言えると思いますね。
ただ、一般のお客さん、一般人の方が出してくれた投稿をリポストするのは、著作権の問題がないんですけど。けっこうあるのが、有名人とか芸能人とか、インフルエンサーとか、そういう人が紹介してくれたというシチュエーションで、それは少し対応を考えなきゃいけないんですね。
当然、そのツイートなり投稿自体がバズったりすることはあると思うんですけど、それを、メーカー側とかが宣伝に利用していいのかという問題があるんですよね。
早瀬:うーん。
友利:著作権の問題は、先ほど言ったとおり別にないわけですけど。有名人にはパブリシティ権というのがあって。やっぱり有名人の氏名とか肖像を広告に利用する時には、その人の許可がいるんです。そこに引っかかるや否かという話が、ちょっと1個あるんですよね。
早瀬:なるほど。
友利:タレントの誰々さんが紹介してくれましたみたいなことを言う時に、パブリシティ権に引っかかるのかどうかなんですけど。そこに関して言うと、やっぱり一般的な対応で、「タレントの〇〇さん、モデルの××さんが、うちの洋服を着てくれました」みたいなかたちでリポストすることに関しては、これはおそらく、問題ないと思いますね。
友利:というのは、パブリシティ権の問題になる時というのは、有名人の名前とかを、広告目的のみで使うというシチュエーションであれば、パブリシティ権の侵害になるんですけれども。
他の意図があって、他の目的があって有名人の名前を使うことに関しては、パブリシティ権の侵害にはならないと。そういう原則があるんです。だからポスターとかに「有名人の〇〇さん推薦!」みたいなことを書くと、広告目的のみとしか考えられないから、これはアウトなんです。
一方で、リポスト・リツイートの場合は、有名人が感想を言ってくれたという事実をあらためて伝える、あるいはその事実に対して、メーカーとしての感想を、ユーザーに伝えるという目的もあると捉えれば、これはおそらくパブリシティ権の問題にはならないと考えられると思いますね。
早瀬:なるほど。ちなみに、どのあたりまでが有名人か否かみたいなものは、判別ができるんでしょうか。
友利:一般的な判別方法としては、やっぱりその人の名前自体、あるいはその肖像自体を使ったビジネスが成立するほどの価値がある人かどうか。名前に商業的価値があるレベルの人かどうかですね。
友利:過去の裁判例だと、わりと業界、音楽業界では有名な作詞家とか作曲家とかの名前を勝手に商用利用していいかという問題があったんですけど。それは結局パブリシティ権の侵害にはならないということになって。
なんでかと言うと、作家とか作詞家とか、そういうどっちかというと裏方系の人。裏方系の有名人は、自分の名前を広告塔にするような商売をしているわけではなくて。その人が作る作品だったり、実績が評価されているわけであって、その人の名前自体に商業的価値があるわけではないという考え方をするということですね。
だから、やっぱり作家、作詞家。そのへんの裏方系の有名人のパブリシティ権は認められにくいと思います。
早瀬:ちょっと名前を挙げて恐縮なんですけど、作家でも名前自体にネームバリューが出ちゃっているような人がいるじゃないですか。村上龍さんとか東野圭吾さんとか、そのあたりになってしまうと、おそらくパブリシティ権が出てくると思うんです。逆に、一般的には知る人ぞ知るレベルだと、わからなくなってくるという感じですかね。
友利:そうですね。だから作家でも「文化人レベルの人だよね」とか「ほとんどタレントみたいな活動もしていますよね」みたいな人だと、パブリシティ権は認められやすいと思いますね。
早瀬:なるほど、ありがとうございます。
友利:インフルエンサーとかだと逆に、この人は別にテレビに出ていないしInstagramのユーザーしか知らないけど、でもその人の名前に価値があって、その人がなにか発信するとモノが売れるみたいな。そういう状況になっていると、別にテレビに出る人じゃないけどパブリシティ権はあるみたいな、そういう発想はできるとは思いますけどね。
早瀬:なるほど。ただそのあたりはちょっと触れにくいというか(笑)、裁判にならないとわからないみたいなところはありそうですね。
友利:突き詰めればなんでもそうなんですけど、この人にパブリシティ権があるのかということと、あるけどすごく価値が小さいみたいなこともあります。0か100かじゃないので、そのへんは程度の問題というのがどうしてもついてくるわけです。「この人はパブリシティ権がどのくらいあるのかな」と考えながら有名人を眺めるのは、1つオツなものという考え方はできるかと思いますね。
早瀬:(笑)。そうですね、ありがとうございます。
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