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人生に「メインロード」は存在しない(全4記事)

大企業で働くことは、もはや幸せでも不幸せでもない レオス藤野氏×肉乃小路ニクヨ氏が語る、“普通”がない時代をどう生きるか

レオス・キャピタルワークス株式会社が主催した「ひふみフォーラム2023」。トークセッションには、ニューレディとして幅広い分野で活躍する肉乃小路ニクヨ氏が登壇し、藤野英人氏と対談を行いました。価値観が変化し続ける時代における、多様性や個のゆたかさについて議論します。両氏が、学生時代や会社員時代に体験したエピソードをもとに、「人生に『メインロード』は存在しない」という今回のセッションのテーマを深掘りしました。

42歳で退職し、女装家一本での活動を決意

赤池実咲氏(以下、赤池):では、ここで会場のみなさまからご質問を承りたいと思います。

質問者1:ニクヨさんのファンです。ニクヨさんは42歳まで社会人をやられていたということなんですが、私は55歳で病気で退職してしまいました。

会社を辞めようと思った時は、お金がいっぱいあったから辞めようと思ったのか、それとも「毎年これだけキャッシュをジェネレートしていくんだ」という心意気があって辞めたのか、教えてほしいなと思います。

肉乃小路ニクヨ氏(以下、肉乃小路):(会社を)辞めて女装一本でやるっていう時、私は比較的慎重だったので、5年間働かなくても大丈夫なお金を貯めてから辞めました。なんの保証もなかったんですけど、「5年がんばれば、自分だったらできるだろう」っていう自信があって。

迷惑をかけないで独立するんだったら、自分は5年間はちょっと冷や飯食う……これを女装家で言うとなんか変なんですが(笑)。不遇になる時もあるだろうということで、5年間分ぐらいは貯めてたんです。

それ以外は、「体が動くうちにやっておきたい」っていうモチベーションのほうが強かったですね。もちろん(女装家として)なんの仕事も決まってないし、これからどうなるのかよくわからないで辞めたんです。

でも、このやり方なら今ならできるって思ったんです。このまま会社に残って、あとになってから「みんなの前でいろいろ話したかった」って思うのではなく、今やらないともう間に合わないと思ったんです。だから会社を辞めて(女装家を)やりましたが、いやらしい話5年分の貯金は貯めてました(笑)。

赤池:ありがとうございます。

“周囲に合わせること”と“自由”のバランス

赤池:せっかくなので、ほかにご質問のある方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

質問者2:今日はありがとうございます。先ほど「普通でいなくてもいい」というお言葉があったと思うんですが、私もあまり“普通大臣”にはならないように気をつけています。

娘が「みんながこうしてる」と言っても、「うちはうち」って言ってたんです。(娘は)今は保育園に行ってるんですが、たぶん保育園で「好きなようにしていいんだよ」って教わってるみたいなんですね。

「今日はこれをしなきゃいけない」と言った時に、娘に「好きにしていいんだよ、ママ」って言われたんですけど、答えに困ってしまったんですね。それで、自分の中で納得する答えがまだ見つかってなくて。

学校に行ったり、たぶんこれからもみんなと同じようなことをしなきゃいけない時間が出てくると思います。「普通にしなきゃいけない」ということを促さなきゃいけない時に、どういうふうに答えたらいいのかなと思いまして。

赤池:これはお二方に聞いてみたいなと思いますが、ニクヨさんから。

肉乃小路:ちょっと整理させていただきたいんですけど、「好きにしていいんだよ」というのが保育園の方針。

ただ、これから小学校、中学校と上がっていく時に、ある程度先生の言うことを聞いて集団行動をしていかないと、周りに迷惑がかかっちゃうということですよね。

その時に「好きにしていいんだよ」と「周りに合わせる」というのを、自分の中でどう整合性をとっていかせるかということですよね。

確かに、好きにやっていいは好きにやっていいんだけど、これは私権と公権のどっちを優先させるかにも通じてくると思う話なんですよね。

子どもの悩みは親も一緒に考える

肉乃小路:自由にしてもいいんだけど、あなたが自由にすることで先生が悲しい思いをしたり、併せて周りのお友だちがあなたが自由にすることでしたいことを止められちゃったりする。そうすると、あなたは好きなことをしているけども本当にハッピーなの? ということを考えさせるといいと思います。

「自分のやりたいことなんだけど、これは周りを不幸にする」と自分で考える。そうするとなんとなく自制心が生まれるような気がするんです。

でもその代わり、あまり人に迷惑のかからないところでは好きにする。だけど、自分が好きにしていいタイミングかそうでないかっていう状況判断が必要。

これから先、大人になってからもみんなずっとそうしていくと思うんです。「時と場合を考えなさい」って……なんか女装が言う話じゃない気がするんですが(笑)。

(会場笑)

肉乃小路:よく考えたらね、時と場合を考えてこんな格好になったのかと言われたら、私の口から言うのも本当になんなんですけど、そういうものなんじゃないかなと思いました。いかがでしょうか。

赤池:藤野さんもいかがですか。

藤野英人氏(以下、藤野):原則好きにしろって話だけど、なにか困ったら話し合うことだと思うんだよね。「こういうことがあったんだけど、どうしようか?」ということがあったら、「なんでも聞いて。話し合おうよ」でいいんじゃないかな。

「〇〇さんの好きなようにしていいよ。でも、迷うことがあるよね。そしたら一緒に考えようよ」っていうのが、たぶん一番良いと僕は思います。

肉乃小路:そうですよね。ケースバイケースで、都度話し合うのがいいと思います。

納得のいかない“学校のルール”に抗議

藤野:小学校や中学校とかで、私もあんまり言うことを聞く子じゃなかったんですよ。小学校も3分の1ぐらい学校へ行かなかったし、すごくつまらないし、「今日は晴れてるからピクニックする」とかいって(笑)、1人でいろいろする感じでした。

中学校になったら名古屋に引っ越したんですが、管理教育の真っ最中のすごく厳しいところで。いろいろ細かい謎ルールがいっぱいあるところを、僕は全部細かく先生に聞くタイプだったので、すごく先生に嫌われていてですね。

「シャーペン禁止」とかになったんですよ。僕は「シャーペン禁止っておかしいじゃないですか。別に何を使って勉強したってかまわないでしょう」と話したら、「授業中にシャーペンを壊して遊ぶやつがいる」って言うんですよ。

「ちょっと待ってください。シャーペンを壊して遊ぶのは授業がヘタクソな先生のせいです。ちゃんと調べましたか?」と言ったら、「職員室でも言えるのか」って言われたので、「言えます」と。

「お前が言ったことを職員室で言え」って言われたから、「つまらない先生の(授業の)時にそういうふうにします。これはシャーペンの問題ではなくて教え方の問題です」と、職員室の前で言ったんです。

勉強は、ある種の「自衛手段」にもなる

藤野:そしたら校長先生にビシッと叩かれて、「お前は反省が足りない」と言われて。それで、よくある罰の「バケツに水を入れて持たせる」を職員室の前でやらされました。

2時間ぐらい……もちろん見えないところでは下ろしてましたけど、足音がしたらこうやって持ってたんですけど(笑)。すっごい不合理だなと思って。

ちょうどその時ピアノのレッスンの時間だったので、2時間ぐらいしたら「お前、反省したか?」って先生が言ったから、便宜上「反省しました」と一応言って、ピアノレッスンに行きました。(学生時代は)そんな感じだったんですよね。

だからいちいち戦ってたんだけど、そのぶん勉強をがんばりました。学校って変なところで、勉強がめちゃめちゃできたら、またそれも(説教を)言いにくいみたいなところもあったので、勉強をがんばる1つの理由だったのはありますね。

ただ、親はそんなに敵でも味方でもない存在だった感じなので、その時に一緒に親が話し合いできたらいいなとは思いましたね。

肉乃小路:確かに、勉強できるのは自衛手段になるっていうか、先生も一目置くし、生徒も一目置くし、それはそうだったんだろうなって思いながら話を聞いてました。

赤池:ありがとうございます。

周囲に女装姿を見られることが不安だった

赤池:続いてご質問がある方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

赤池:では、藤野さんの上司に(笑)。

質問者3:1つお聞きしたいんですけど、僕も不登校で、普通の人生からちょっとレールを外したみたいな感じになってるんです。ニクヨさんの「(普通の人生から)外れてみた時に、いろんな人のいろんな世界が見えてきた」というお話が、自分の今の位置にすごくぴったり一致している感じがして。

学校というレールから外れてみたら、たぶん普通に生きてたら知るよしもなかったような人たちと出会って、知らなかったいろんな世界とすごく出会えてるところがあって。

実はpolarewonの経営理念でも、「自分の幸せが社会全体の幸せになる」「自分にとっての社会問題の解決が、本当に社会問題の解決になっちゃう」みたいなところを置いてるんです。

自分がかっこいいと思うことや、やりたいことを実現させるとか、自分軸をすごく大事にしているんです。その考え方の中の1つで、この三角帽子をつけてたりするんですけど(笑)。

ただやはり、1回振り切って見えてきた世界の中で歩いていても、頭のどこかに不安というか、「これから大丈夫なのかな?」みたいなのはどうしてもあると思うんです。ニクヨさんでもそういうことがあったのかを、ちょっとお聞きしたいなと思います。

肉乃小路:ありましたよ。5年ぐらい前まで「女装をしてる姿を近所の人に見られたらどうしよう」「住んでるところからひどいことをされたらどうしよう」って考えてたから、仕事先で化粧して服を着替えてたりしてました。

恐怖心はリスクヘッジでもある

肉乃小路:だから、恐怖心とか「どうしよう」っていうのは、けっこう誰でもあるんじゃないかなと思いますよ。

それに対する対策というか予防策も、自分でやってしまうのもある。そう思ってしまうのは当然で、人から外れることを良く思わない人から攻撃されるリスクがあることは考えておかないといけないから。

自分の中でリスクヘッジで考えてしまってるというか、(不安や恐怖心を)リスクに対応するために考えてしまっていることだと思うと、まったく考えないとそれはそれで危ないと思うの。

そういうのが頭の中でよぎってしまったり考えるってことは、「(リスクが)あるかもしれないけど、やる。もし何かが来たらこうする」ということを考える上でも、まったく悪いことだとは思わない。

もちろん、なにも考えずに猛ダッシュで・最短距離で・最速でいきたい気持ちもわかるんだけど、やはりリスクはあるから。それに対応するためにも、考えちゃうっていうのは普通のことだと思うから、大事なのはそれを客観視することだと思います。

赤池:ありがとうございました。

大企業で働くことは、幸せでも不幸せでもない

赤池:ではお時間的にも、もう1つ承りたいなと思いますが、会場のみなさまご質問はありますか。

(会場挙手)

質問者4:テーマが「人生に『メインロード』は存在しない」ということで、ここ数年、日本人の働き方がいろいろと見直されている中で、いわゆる「勝ち組」と言いますか、大企業で働いている人たちがなかなか既得権益から抜け出せないという話がずっとあるかと思います。

「『メインロード』は存在しない」という考え方で、最近は(大企業を)辞めてベンチャーに行く人とか、ちょっと道から外れていく人が増えている傾向に日本はあると思うかどうか。あるいは兆しがあるかどうか、お二方の実感で聞きたいんですがいかがでしょうか。

赤池:まずは藤野さんから。

藤野:大企業にいることそのものは、ポジティブでもネガティブでもないと思っていて、これもフラットな選択の話だと思うんです。向き不向きもあるし、かつ大企業の強さや良さもあると思います。

ただ、もはや大企業で働いていることが幸せでもないし、不幸せでもないという選択肢のものにまでなっています。

日本の「メインロード」は崩れつつある?

藤野:僕のすごく知ってる自営業者の人とかを見ても、別に有名大を出てる人でもなく高卒とか、偏差値に意味はないけれども、いわゆる偏差値の低い大学を出てる人でもぜんぜん億単位で稼いでいます。

それでストレスゼロみたいな人って、実はめちゃくちゃいっぱいいるんですよ。そういう人たちはそういう人たちとつるんでいるので、なかなか世の中的に見えないだけなんですよね。

だから「大企業イコール勝ち組」というのも、実はメインロードですらないかもしれない。社会的に言うとそういう自営業者の数もものすごくいるので、実はすでにだいぶ前から、日本ってだいぶ多様な社会になっています。

なのでおすすめなのは、どういうものでもいいんだけれども、自分の領域から出た中で友だちを作るとおもしろいですよ。

それは地域という軸かもしれないし、小学校ぐらいまで遡った同窓かもしれないし、自分の地域かもしれない。もしくは同じ趣味の人たちでつながる。

さまざまな価値観とさまざまな軸で、いろんな人たちが生きていて、実に多様性があっておもしろいと思います。ぜひその一歩を踏み出したらいいんじゃないかなと思いますね。

自分とはまったく違う働き方に「後押し」された

赤池:では、最後にニクヨさんもお願いします。

肉乃小路:私も同感です。いろんな働き方があることに私が気がついたのは、昼のお仕事はしてたんですけど、お友だちのお手伝い……すごく微妙な表現していますよ。

ダブルワークじゃなくて「お手伝い」をしている時に、夜の世界でお金の使い方を見ていくと、圧倒的に自営業者のほうが、自由にお金を使える金額が多かったりするんです。

それまで自分は、会社の飲み会や同僚と飲みに行くことが多かったので、ぜんぜん違うお金の使い方をする人や、ぜんぜん違う仕事の話とかはなかったんです。

いろんな人が集まる所、例えば地域で言うとスナックとか、それこそ私なんかは新宿2丁目の文化で育っているので、2丁目のお店なんかに行くといろんな人種がいます。観察していると、そういった人たちの割合は増えてきていて。

実は私も、会社員から自営業に移るのに「この人たちができるんだから、私もできるかも」というのに後押しされたところもあるので(笑)。

あとはニュースなんかでも、東大の人がぜんぜん役人にならなくなって、ベンチャーに行ってることもあるから。

肉乃小路氏流「フィールドワーク」のすすめ

肉乃小路:いろんな人が出てくる自分の実体験の場所と、ニュースとかの結果は本当に同じなのかどうなのか。社会って、いつ・どの場所にいる時でも、ニュースやネットで得た情報を確証してみる場所だと思っています。

だから私は、実生活のことを「フィールドワーク」って呼んでるんです。「今はそういう傾向があると思う」って思うんだったら、人間観察していこう、いろんな人が集まる場所に行ってみようって、常に検証していくのはすごく大事だと思います。

もしニュースを見て気になって、「これは本当なのかな?」って確かめたかったら、藤野さんが言うとおり自分で一歩踏み出す。お酒が飲めなかったら飲み屋はきついかもしれないんですが、いろんな人が集まる場所に行くと、経済状況やいろんな人の状況がわかるので勉強になりますよ。

赤池:ありがとうございました。それでは、これでセッションを終了したいと思います。あらためまして、肉乃小路ニクヨさんに拍手をお願いいたします。

(会場拍手)

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