2024.10.10
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寺田親弘氏(以下、寺田):コロナ禍で会社の社運をかけた戦いをしている中で、実は私がもう1つコミットしているものがありました。これが神山まるごと高専の創設です。
私立の独立系の高専としては日本初ですが、19年ぶりに新しい高専を徳島県神山町という過疎の町につくる。そこで「ものづくりの力を持った起業家を育成していく」という企画です。ここからは、私が理事長として関わるこの学校づくり、学校の創業について少しお話ししたいと思います。
そもそもなぜ学校をつくろうと思ったのか。もともと企業経営をする中で、「ビジネスが届かない社会課題に対して、自分がすべきこと、何かできることがあるんじゃないの?」とずっと考えていました。多くの人が辿り着く結論なのかなと思いますが、私は「それは教育でしょう」と思ったわけですね。
原風景として思い返したのは、前職時代に駐在したシリコンバレー。そこはまさにイノベーションのメッカです。あれだけの田舎町にスタンフォードがあり、それがハブとなってベンチャーが集積していった。
地方創生のメッカとも言われる神山町という場所に、スタンフォードというにはあれかもしれませんが、ミニスタンフォードでもいいから学校がつくれたら、シリコンバレーのようなイノベーションの集積地になるんじゃないかと。
何を学べばいいのか。学ぶのは、テクノロジーとデザインを掛け合わせた「モノをつくる力」と「起業家精神」。モノをつくる力を持った人はコトを起こせばいいし、コトを起こすにはモノをつくる力が必要なんだと。これは自戒も込めて思っていることで、「こういう学校をつくることができたらいいんじゃないか」と思いました。
2018年に有志を集めてプロジェクトをキックオフ。仕事の合間をぬって神山町で発起人たちと議論をしました。(スライドは)2019年6月21日の写真ですが、実は2019年6月19日がSansanのマザーズ上場日でして、東証で記者会見をやり、その2日後に神山町の役場でこの記者会見をしました。
これは狙ったわけではなく、偶然学校側でやるべきスケジュールを逆算したらそうなりました。正直、この時はこのあとがどれだけ大変なのか、自分たちが描いたものが、絵でもアイデアでもとんち絵でも、何でもないことをぜんぜん知らずに、無邪気に記者会見をしています。
寺田:実際、この準備委員会に入ったメンバーの中で、学校をつくった経験がある人はいません。教育に携わった経験がある人も少ないというなかで、いろいろと議論を進めていくんですが、そもそもこれが進んでいるのかどうかもよくわからない。
もうちょっと言うと、私自身の向き合う姿勢も、今自分は理事長ですが、記者会見の時は理事長をやる気はまったくなかったんですね。
どちらかというと、構想を作ってアンカーとなるような寄付をして、誰かを呼んできてその人に理事長を任せる。その人を後押しするようなかたちで進めていきたい。株主のようなかたちを想定した感じで、今思えば全然覚悟が足りなかったと思います。
記者会見のあとも、ずっと理事長や校長になる人を探していました。その中で理事長候補として口説き、結果一緒に学校をやることになったCRAZY WEDDING創業者の山川咲さん。彼女と対話して「理事長をやってくれ」と言っているなかで、すごく重いことを言われたんですね。
彼女と2ヶ月3ヶ月対話してさんざん考えたあとに「この学校の理事長は自分にはできない。この学校の理事長は寺田さんがやるべきだ。それか、白紙に戻したほうがいい」と言われたんです。2020年の秋、記者会見もして、すでに世の中に出していた時期ですよ。
でもガツッと言われて、相当響いたんですね。正しいことを言われたなと。先ほど申し上げたようにSansanもコロナ禍の経営ですから、なかなかの状況なわけです。結局、その後Sansanの取締役会の理解をもらいながら、「やれるところまで自分で理事長をやろう」と覚悟を決めました。
これが発表した時の写真です。校長の大蔵(峰樹)さん、クリエイティブディレクターの山川さん、そして私です。他にも本当に多くの仲間が集まってこの学校ができていきましたが、2021年1月にこの体制を発表して、あらためてスタートを切ったという感じです。
寺田:その時に私が覚悟として思ったのは、そもそもSansanもフルコミ(フルコミット)でやらなきゃいけない。学校もフルコミでやらなきゃいけない。2つやるのだから、ダブルフルコミットだと。この2年間ずっと「ダブルフルコミット」と言いまくっていました。
よくよく考えたら矛盾した言葉ですが、Sansanから見た時に「寺田さんは最近、学校があるからなんかね」と言われないように、学校から見た時に「Sansanがあるから」なんて言われないようにしようと、この2年は自分でも本当に死ぬほど働いたなと思います。
実際、学校づくりは本当に大変でした。会社をつくって事業を伸ばし、証券会社を決めて申請し、審査を受けて上場するというのが上場のストーリーですが、会社をつくって上場した立場から言える比喩としては、学校づくりは会社設立と同時に上場するみたいな感じです。
何もない状況ですべてのプランニングをして、集めて、受かるかどうかわからないなかで文科省の審査を受ける。それも年に1回しかないというなかなかのハードルでした。
実際、審査で落ちるところもいっぱいあるわけですね。申請までに必要だったのが、21億円のお金と、5年分のカリキュラムと21名の先生。お金と人を集めるためにひたすら人に会って、口説くということをやっていました。
チームで分業して、それぞれに背中をあずけるようなかたちで走り切り、最終的には1,000ページの書類と預金通帳のコピー、そして先生の内定承諾書を全部揃えて、なんとか提出しました。先生に、5年後に着任するという内定承諾書にサインをしてもらわないと文科省に出せないんです。
寺田:理事長としてやっていく中で、学校経営と会社経営は全然違い、それぞれ難しさも違う。学校づくりとなると社会ごとですよね。難しい面は経済的なレバー(テコ)が使えないこと。例えば出資を求めるにしても、Sansanだったら「儲かるから」という気持ちもあるわけですけど、こっち(学校)側で「お金を出してください」というのは儲からないわけですよね。
いろいろな違いがありますが、私自身、何百回と足を運んでいろいろな人に説明をする中で、ビジネスでは起きない「共感の雪だるま」がグググっと大きくなっていくような力強さを感じたのも事実です。
例えばMakuakeの「1,000人の先輩」という応援購入プロジェクトで1,600人の仲間が集まったこともありました。開校資金も実際Makuakeで集まったお金に加えて、34社の企業と26名の個人の方々が出してくれて、最終的には27億円を超える資金が集まりました。
それから学校づくりの中では、起業家育成ということで、56名の一線で活躍する方々が起業家講師としての任を引き受けてくれました。学費の無償化も実現しました。簡単に言うと100億円規模の基金を作って、その運用益で給付型の奨学金を提供する。
学校を真面目にやろうとすると学費がすごく高くなっちゃうんですね。学費の無償化も(スライドの)企業の方々の支援の下でなんとか達成することができた。
そんな日々を経て、2022年8月に文科省の審査が終わって開校が決定した。そして、2023年1月に9倍の倍率を経て44名の学生の入学が決まり、先日4月に入学式を迎えました。
ダイジェストで話していますが、さっきのSansanの話もしかり、裏側でやっている立場の方々はわかると思いますが、実際には本当に大変でした。こんなにがんばって学校づくりをして、ようやくたどり着いたのが、ゴールじゃなくてスタートラインというのもまたおもしろいなと思います。
物事ってあとから切り取ってまとめて話すと、ポポポンときれいに進んだストーリーになるんですけど。足元ではもがき苦しみながら、進んでいるのかどうかもわからない気持ちで進んでいく。そんな日常でした。
寺田:開校が決定した報告会で流したムービーがあります。学校づくりに携わったメンバーの日々がちょっと感じられると思います。エモーショナルな仕立てになっていますが、ぜひご覧いただけたらと思います。どうぞ。
寺田:ありがとうございます。もはや懐かしさを感じるくらいです。この怒涛の「学校をつくる」プロジェクトと、冒頭でお話ししたSansanのコロナ禍でのチャレンジを経て、あらためて思うのは、起業家は「コトを成していく」「挑戦していく」とかいろいろ言われるけれど、結局は「覚悟と気合いだな」ということです。
「そんな小学生みたいなことを言うな」という話もあるかもしれませんが、結局それ以外にないなと。覚悟と気合いで、SansanのReBornも神山まるごと高専もなんとか進めてくるこはとができたなと思います。
(Sansanでは)13年かけたPMFが崩れていくさまは、迎えたくなかった現実ではありましたが、生き残るために「ReBorn」の覚悟を決めた。高専においては、多くの人を巻き込んでいくなかで覚悟が決まっていきました。
先ほどのムービーにありましたが、「このプロジェクトがとん挫したら、この街に住めなくなる。そういうことを思ってやっている」というのを見ると、当然覚悟が決まっていくわけです。
覚悟と気合いで自分を駆動させて、物事を前に進めてきたなと思います。やるんだったら覚悟して自分で決める。大変で進んでいるかどうかわからなくても、1センチでも進む。それだけでやってきたなと思います。
物事を進める上で、私はそれがすべてかなという気がしています。それはSansan創業の時から変わっていません。
学んだあとでいつも思うのですが、自分の一番の仮想敵は、創業した頃の寺田親弘だと。「彼(自分)に負けないように」というイメージを今までも持っていましたし、たぶんこの2年を経て「あの2年間のあいつ(自分)に負けないようにしよう」と思う自分ができたかなという気がしています。
ステージはそれぞれだと思いますが、スタートアップとStartup JAPAN EXPOというこの場所においてはなおのこと、みなさんの覚悟と気合いも相当なものだろうと思います。自分もそれに負けないように、引き続き覚悟と気合いをもって、少しでも社会を前進できるようにがんばっていきたいと思います。
以上が私からのプレゼンです。ちょっと主催者の顔に戻りまして、このStartup JAPAN EXPO、ならびにEight Networking EXPOが、みなさんの覚悟と気合いを後押しするような、良い出会いを少しでも提供できたらとてもうれしく思います。ぜひ3日間楽しんでいただければと思います。ご清聴ありがとうございました。
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