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『狂犬・木下』と『天才・川原』が語る「勝手に国家戦略会議」(全5記事)

訪日富裕層が訪れるニセコと他の地方観光地の違い 海外の高所得者の考え方と現地ガイドに求めること

プロデューサー川原卓巳氏が主宰する、自分らしさを探究するオンラインサロン「SENSE」。同サロンが開催するイベント「勝手に国家戦略会議」に、『まちづくり幻想』の著者で、まちづくりの専門家・木下斉氏が登壇。川原氏と海外富裕層の考え方や、日本の観光ビジネスを変えるために必要な毒抜きについて語り合いました。

海外富裕層の考え方と現地ガイドに求めること

木下斉氏(以下、木下):みんな観光協会を作ったり、それこそまた予算が下りてとか、そういうのをやるんですけど、それはやっぱりビジネスにはならないですね。アマチュアの域を超えてこないから。そこを、ちゃんとしたガイドの人たちがいるプロ市場にするのは、僕も大賛成ですね。

だから、ニセコや倶知安(クッチャン)とかは、もともと東南アジアとかに行っていた商社マンの人たちが、自分で独立開業してガイドをやっていたりするわけですね。

英語も堪能だし、いろんな地域の情報もよくわかっている。その上で、例えば自分も自転車やスキーとかいろんなことをやっていて、アクティビティにも精通している人が、海外から来られた人たちのニーズに対応できる。夏に来て、急に「羊蹄山のてっぺんでジンギスカンやりたい」とか、わけわからないことを言うらしいのよ。

川原卓巳氏(以下、川原):最高、最高。でも、そういう感じです。

木下:認定のコンシェルジュがいればそれができるのよ。「OK。じゃあ、俺の知っているジンギスカン屋から、機材を全部持っていこう。今日はチャリで上まで上がってやろうよ」みたいな話をアテンドするだけで、ばんばんお金を払ってくれる。

要は、やりたいことを実現してくれることがすごく重要だというのは、おそらく今の地方のほとんどですごく欠けていますね。

川原:いやぁ、まさに。一部だけど、海外の富裕層でけっこう多くいるのは、金を払って言うことを聞いてもらえないという経験をしたことがない人が、山ほどいるので。

木下:(笑)。そうだよね。「え! お金払うのに」「なんで買えないの」みたいな。

川原:そう。「なんで俺の言うこと聞かないの?」みたいな。それが、地方の当たり前とめちゃくちゃずれるじゃん。「いや、金じゃねえ」みたいな。

日本が学ぶべきはヨーロッパ

川原:一部のよりおもしろい人は、京都みたいな金じゃないところのあのゲームをクリアするのがすごく楽しくて、日本にのめりこんでいたりもするんだけど。

そこまで至らない精神レベルの金持ちたちは、やっぱり言うことを聞いてくれる人にお金を払うので、ビジネスとしてはそこがめちゃくちゃおいしいと思っているんだよね。

木下:そうですよね。京都のマニアックな、何回も紹介を受けて行きつけになって、ランクアップしていかないといけないという。いきなり「じゃあ、今日1億円払うから全部やってくれ」と言っても、絶対にやってくれないことの良さ。良さというか楽しさですよね。ちょっとヨーロッパ的な、階級社会的な。

川原:そう。まさに、まさに。

木下:バロンとか爵位を持っていないと、「お前は入れないから」みたいな話で。だから、ヨーロッパってそこはやっぱうまくやっているなと思います。

川原:日本が学ぶべきはヨーロッパよ。

木下:本当にそうだよね。そこはすごく思う。ヨーロッパの地方都市はすごく豊かだし、それこそ地方自体には領主というか、もともとの土地を持っている大地主がずっといて、みんな爵位を持ったりしている。

まあ、それも日本は戦前にはあったけどね。敗戦後はなくなって、ある意味フラットになった良さはある一方で、誰もが無責任になっちゃったところもあって。みんながただ一市民みたいになっているから、自分の地域に責任を持つと言うと「え、俺が?」みたいな話になっちゃう。

ヨーロッパはすごく如実ですよね。ロイヤルファミリーとかも、ちゃんと自分で土地を持っているし。

イギリスなんかは、海とかは全部王室のものだから、王室がウィンドファームも全部経営しているし、町中再生をやる時にも、ロンドンの目抜き通りとかの物件の3割、4割は王室が持っていたりもするから、資産運用会社が町作りをやるんですよね。

だけど、そういう確たる責任を持つ人が地方でも出てこないと、やっぱり変わらないので。そこは、気づいた人が今みたいなサービスをやっていって、安くなった土地とかもどんどん買って、ちゃんと開発をしていくことができれば、稼げるように十分観光でもなる余地があるんじゃないかと思いますよね。

日本の観光ビジネスを変えるために必要な毒抜き

木下:あとは稼ぐことよりは、地方で成功するのって、国からの分配をたくさんもらえるポジションにいると得する、みたいな話になっちゃっている。その経済競争で勝つというよりは、ほとんどそういうコネクションというか。

川原:ロビーイング。“シャブ中”だよね。

木下:そうそう。そういう予算関係のところに入り込むのがうまい人たちが、地方における成功モデルみたいになっちゃっているわけですよね。

だから「お客さまのほうを向いていいサービスを作って、どんどんお金を払ってもらおう」みたいなめんどくさいことをやらないで、うまく国からお金を引っ張ってきて、みんなで分けようぜ、みたいな話になっちゃうのがもったいないよね。だから、それはすごく地域を悪くしているんだけど。

川原:だって、それって本当は盗人じゃん。みんなの金である税金を自分の懐に入れているんだから、ただの盗人にしか見えないんだよね。

木下:それはちゃんと議会を通過して、国の制度に則ってやると、犯罪ではないのでね(笑)。みんな、そこにはまっていっちゃう。だから観光も一緒ですよ。

観光って、本当は外を向いて、今言ったみたいにやりましょうということが前提なんだけど、「観光客を呼ぶために観光拠点施設がいる」と言って、国から予算をとるとか。

観光客にクルーズ船で来てもらうために、港を作らなきゃいけないと、また国からお金を取って膨大なお金をかけて、クルーズ船の港を整備する。それで「何百億円とかかりました。採算が取れるのは300年後です」みたいな話なわけですよ。

川原:墓標な。

木下:もうそれはできませんよね、みたいな。そこがいまだにずっと続いているんですよね。

それを処理することで、地方公務員の多くの人たちは飯を食っているし、当然建設や土建関係の人たちも食べている。その人たちが地域で飲み食いもしてるから、サービス業もみんなそこに紐づいちゃっているんですよね。

全部そのバリューチェーンにつながっていっちゃっているから、にっちもさっちもいかない。

だからこそ、100ある今の流れをいきなり変えることはできないんだけど、100あるもののうち10、20、30とか、だんだんとデトックスというか毒抜きをしていくのは、できないことはなくて。

例えばタクミンを中心に、海外に対しても、日本のいいところをもっと見てもらう。海外の人が日本に「本当に行きたい」と言ったら、ちゃんと案内できる人間がアテンドしてやりまっせ、ということができてくる。

地域の中で、そういうので飯を食える人がもっともっと増えていく環境ができれば、やっぱり変わると思うんです。もう、そういうことの積み重ねでしか変わらないと思うのでね。

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