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どうやって、ものを手放していますか?―社会を循環させ、文化をつなぐ選択肢(全4記事)

人の「手放したくない」という気持ちをどう和らげるか 安心して譲ってもらうための古本オンラインショップの取り組み 

暮らしを彩るいい商品を見つける「マーケット」、ものづくりや消費をめぐる問いに向き合う「トークセッション」、そして、ものづくりや作り手の想いを間近で体験する「ワークショップ」をコンテンツに、3日間にわたって行われたイベント「Lifestance EXPO(ライフスタンスエキスポ)」。本記事では、同イベントで行われた10本のトークセッションの最後を飾った「ものの手放し方」をテーマとしたセッションの模様をお届けします。「手放す」ために日頃から意識していることや、気持ちいい空間づくりのために必要なことなどが語られました。

手放したものがログ化される価値

幅允孝氏(以下、幅):私も「手放す」ということをずっと考えています。先ほどの「VALUE BOOKS」は、実は自分が売った本が見える。個人的にも使わせていただいているのですが、ログインすると、自分の画面があるじゃないですか。

中村和義氏(以下、中村):ありがとうございます。

:結局、覚えているということ、もしくは思い出せる縁(よすが)があることがすごく重要なんじゃないかと思います。行為としては、自分の手元から離れていってしまって、ひょっとしたら二度と思い出すこともないかもしれないけれども、そこを見ると「あぁ、そういえばこれ持っていたよね」と、もう一度買い直す。実は、あれは自分の話なんですよ(笑)。

「そういえば、やっぱり必要だった」という感じで、なぜか売ってしまったものをもう一度買い直したりすることがあります。結局、自分からものが離れていった時に、それが記憶の残滓(ざんし)までではないけど、どこかに何かが留まっている状態、もしくはアクセスすれば見える状態にある。

そうしたら「おそなえ」みたいなものも、「あ、これをおそなえしたな」というふうに、自分のつながりがかすかに残っている状態というのが、実はすごく重要なのではないか。

手放した時に、以前だったらいちいち覚えていないじゃないですか。でも今だと、テクノロジーによって、そういうものがちゃんとログ化される。個人的には、すごくおもしろい時代になっているなという気がしましたね。

手元に置いておきたい心理を、安心して「手放す」に変える

中村:まさにそういう気持ちから生まれた機能です。「手放したくない」という気持ちもやっぱりあります。なぜかというと、忘れちゃうのが怖いからです。「いつ手に取るかわからないんだけど、置いておきたい」という気持ちがあるんですよね。

それをいかに手放してもらうかという時に、アーカイブがちゃんとできて、また欲しかったら手に入れていただければいい。まさにモデルケースみたいな使い方をしていただいて(笑)。

:モデルケース(笑)。金額的にはいっぱい払うことになっちゃうんだけど、結局、自分が保有しているというよりは、「この本をこう読んだな」という記憶みたいなものを、「VALUE BOOKS」と共有しているという感じですよね。

居住空間の限界もあって、自分1人で抱えられるものってそんなに多くないと考えると、それを一緒にシェアさせていただくのは、すごくおもしろいなと個人的には思っています。

中村:僕らからすると、リユースで再活用していく時には、やっぱりできるだけ早く手放してもらいたいんですよね。完全に僕らの目線ですけど、価値が下がらない段階で送っていただいたほうが次につなげやすくなります。それに、できるだけ高い価値のまま次につなげたいんですよね。

なので、手放すなら早いほうが価値が残っている場合が多いと感じます。ビンテージとか、長く持っていたほうが価値が上がるものもたぶんありますが、大半の本はちょっと違うので。

:確かに、今ビンテージブックの価格がものすごく上がっていますよね。1990年代の有名な写真集などの価格が高いんですよ。

一時期レコードの価格がすごく上がったことは、みなさんご存じですか? 「5万円じゃ、山下達郎さんのレコードが買えない」というのと同じように、実は写真集やアートブックといったものの価値が、全世界的に上がっていますよね。

これだけデジタル化が進む中で、わざわざ紙の本をそこに置いておこうとする心持ちというのはなんなんでしょう。

松島靖朗氏(以下、松島):買い手が増えているということですか?

中村:買い手が増えているのか、逆に希少性が上がっているのか、どういった背景があるんでしょうか。

:数が減っているということもあるでしょうね。

「おそなえ」「おさがり」「おすそわけ」の習慣

:話が本のほうにばかり行ってしまっていますが、松島さんにもお話をうかがわせてください。ものを手放すことの難しさを、「東京に来てワクワクする」ということも含めて、ご自身でものすごく正直にお話しされていますよね。

正直に「実はあまり考えてなかったんですけどね」と言いながら、軽やかにものを継いでいくコミュニティ作りをされていて、私はそれがすごく2020年代的だなと思うんです。

お寺というと、ともすると「偉い人たちがいる場所」「お坊さんはなんかすごい人」とみんなに思われている中で、循環する人が音頭をとる時に、そういう姿勢で、すごくフラットな目線で取り組もうと思えたのは、なぜですか? これを聞きたいと思って、今メモしていたんですよ。

松島:なるほど。うーん、どうですかね......。

:例えばすごいヒゲもじゃで近づき難い雰囲気のお坊さんに、「おやつを配りますよ」と悟りの境地みたいな感じで言われたら、ひょっとしたら、またちょっと違う動きになっていた気がするんです。

オンライン上ではお会いしていましたが、今日初めて直接松島さんにお会いして、私はまず「人間としてのおもしろさ」と言うと失礼かもしれないんですけど、魅力というか、「この人が言うんだったらおやつ持っていくか」「それをいろいろな場所に広めるか」と思えました。

何かやろうしている人ってすごく多いのに、なかなか一歩踏み出せない方も多々いると思うんです。そういう人に向けて、何か一言いただけたらなと思うんですけど(笑)。

松島:そうですね(笑)。今、いろいろなことをよく言われるんです。「宗派を超えているのがすごいですね」ということもよく言われるんですね。でも、これには理由があって。

そもそも僕が所属している浄土宗という宗派には、知り合いがぜんぜんいなくて、友だちもいませんでした。なので、スタートから身内に頼らなかったのが、結果的にはよかったかなと思っています。

また、幅さんも最初に質問してくださいましたが、お寺ってもともと全国にたくさんあるんですよね。「おそなえ」「おさがり」「おすそわけ」という習慣がしっかりと残っていたからこそ、これだけ広がったのだと思います。何か特別なことをしなくてもできる状態、環境がすでにあったことがやっぱり大きいですね。

「誰もが真似できる活動」にするための工夫

松島:2018年にグッドデザイン大賞を受賞して以降、賛否両論いろいろなコメントをいただきました。「これのどこがデザインだ」など、いろいろ言われましたけど、「そうだお寺があったか」「その手があったか」という声もあって。

私が一番心掛けていたのは、「全国どこにでもある」ということもそうだし、昔でいうと空海さんや最澄さんのようなスーパーお坊さんがやった活動ではなく、「誰もが真似できる活動にしよう」ということで設計してきたんですね。そこが大きかったですかね。

「みんなが真似できるように」ということをやってきた。しかも「自分は特別なことをできる者じゃない」という自覚がありましたから、真似できるように、真似してもらうためにどうすればよいのかをすごく心掛けていました。

:お寺とはまた別ですけど、もうすでにあるプラットフォームを使いながら新しいコミュニティを作る方法として、すごくおもしろかったです。すごくヒントになるお話だなと思いました。

「手放す」ために日頃から意識していること

:こんな感じで話をしていたら、すぐに1時間経っちゃいまして(笑)。あっという間で、すみません。今日は「手放す」ことの難しさを感じている方に、興味を持ってここに来ていただいていると思うので、最後に聞いている方々に、個人的にでもかまわないので「こうすると手放せるよ」「私はこうして手放しています」というお話を、それぞれ一言ずついただいてもいいですか?

中村:個人的な話としては、そもそも「手放す」というよりは、「手放したくないようなものを買う」ことのほうが、真逆のことを言っているような気がするんですけど、すごく大切だなと思っています(笑)。

それでもやっぱり手放さないといけない時はあると思うし、手放す時には早めに手放したほうがいいし、先をちゃんと考えているところを、絶えずピックアップしておいていただくことがいいかなと思います。

また、僕の場合は、たぶん手放す時を想定しながら、手放すかどうかわからないけど買い物しているようなところもあります。なので、「手放した先がちゃんとありそうなものを買う」こともいいのかなと思っています。

:確かにすばらしいヒントですね。デジタルの本もある中で、わざわざ紙の本で持っておくのは「本当に自分がいつも視界に入れたいもの」という感じで私は捉えています。だからこそ、安心して忘れられるけど、視界に入っていると背表紙を見ただけで思い出すというか。本棚が神棚みたいになるかもしれないですよね。

例えば、自分が今教えている大学で多いのは、「これは」というものだけは紙の本で取っておく。音楽もそうで、ふだんは「Spotify」や「Apple Music」でぜんぜん聞くけど、「これは」というものだけレコードで取っておいて、「神のレコード」と「神の本」が1つの箱に入っている。

人間が体を引きずって生きている以上は、そういった近さというのもあり続けると思うので、「これは」というものだけリアルなものとして取っておく。本当はただの紙束の本なのに、自分にとっての「あって安心する」みたいな存在になるのかなと、話を聞いていて思いました。

気持ちいい空間づくりのために必要なこと

:すみません、話の腰を折りました。松島さんからも「手放すのススメ」をお願いします。

松島:今の幅さんのお話でいうと、仏壇自体はなくなっていきますけど、そういうコレクションのようなものや大事なものは、仏壇的な扱いで手を合わせるものとして残っていくんだろうなと思うと、そこが本質的なんだろうなと思いますね。

僕はあまり「手放す」を意識していないんですけど、やっぱりものって溜まってしまうと淀んでしまうというか、空気が悪くなる。なので、お寺もお寺の中もそうですが、とにかくアクセスしやすく入れ替えがどんどん進んでいくようにと考えています。それがやっぱり気持ちいいんですよね。

溜まって動かないと、淀んでしまうのでそれを動かす。先ほどお話しした「三輪空寂」のように、施す側も受け取る側も、それぞれが囚われをなくすのは、とても気持ちいい状態だと思います。

いつ何時自分が施す側から受け取る側に変わるかもしれないし、それが助け合う社会になっていくためのエンジンになると思うので、そんな未来を夢見て日々生活しているところですかね。

:ありがとうございます。確かに「動かす」って、重要かもしれませんね。バリューブックスも、あれだけたくさんの本があるのに、淀んでいないんですよ。常に新陳代謝している倉庫という感じがすごくあるから、あそこは空気が気持ちいいんですよね。

いいヒントをいただき、ありがとうございます。というわけで、本日はこちらのお二人に「手放す」ということをテーマにしながら、ものの循環やつながりについてお話ししていただきました。最後に中村さん、松島さんへの拍手で、この回を終わりたいと思います。

(会場拍手)

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