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効率を求めすぎる危険。「働かないアリ」的組織経営とは(全5記事)

生物同士が生き残るための「間接的なWin-Winの関係性」 進化生物学者が考える「関係性」の進化の重要性

リベルタ学舎主催の「自由人博覧会2022」より、『働かないアリに意義がある』著者で進化生物学者の長谷川英祐氏が登壇したセッションの模様をお届けします。さまざまな生物の自由な生き方から、組織のダイバーシティ・マネジメントのヒントを探します。最終回の本記事では今後長谷川氏が明らかにしていきたいことについて語られました。

今生きている生き物は、1回も滅びたことがない生き物だけ

大福聡平氏(以下、大福):昆虫の世界から、人間につながるような話もあったし、やっぱり人間と昆虫は違うところもあるからうまく設計しないといけないよねというお話も、たくさんあったかなと思います。

クワガタの研究をされているという話もありましたが、僕から質問してみたいのは、今後長谷川先生として取り組みたい研究とか、「ここを明らかにしたい」みたいな。残していきたいものの話もありましたが、もし展望があればお聞かせいただきたいなと思うんですが、いかがでしょうか。

長谷川英祐氏(以下、長谷川):じゃあ、さっきの群集の話をしたいと思います。自然選択というのは、例えば遺伝子交流集団があった時に、その中で新しい遺伝子が現れて、そいつのほうが子どもをたくさん残せるんだったら、世代が進むにつれてそいつばっかりになってしまう。

もっと子どもをたくさん残せる個体が増えていく。これは論理的にはぜんぜん間違いがないし、実際にそういう進化が起こっている証拠もたくさん得られています。だけど、生物には45億年間の歴史があると言われてるけど、今生きている生き物は、その間に1回も滅びたことがない生き物だけですよね。

最初は1つの共通祖先であるバクテリアみたいな生き物だったんだけど、それがどんどん適応して、いろんなバイオダイバーシティができて、当然滅びたやつもいっぱいいる。だけどその中で、今生きてる生き物は1度も滅びたことがない。これは間違いない真理ですよね。

そうすると、効率的なものを進化させて、さっき言ったみたいな食べる・食べられるの関係だったら、相手を食べ尽くしちゃうようなもの。それから逆に、相手に絶対に食べられるもの・食べられないようなもの。

自然選択とは違う原理の「永続淘汰」

長谷川:(スライドを指しながら)これが適応進化の原理ですが、こうやって増えていきます。こういう変異が固定されて、どんどん進化してきますから、最終的には相手を食い尽くしちゃうぐらいの、「相手から完全に逃げ切れるほど適応的なもの」が進化するはずなんですが、そうなると資源がなくなるから捕食者は滅びちゃいます。

被食者のほうには、コントロールするような効果(密度効果)がどこにもない。密度効果とは、繁殖力を落とすような進化をするわけで、そんなものを自然選択で進化できるわけないですから、生物が生き残ることが何か意味を持ってるんじゃないかと思ったんですよ。

結局、そういう進化を繰り返した結果、自然選択による進化をずっと受けてきた生物たちは、群集を作って生きてるわけですよね。

その中の関係がどうなってるのかを考えると、存続性に対して選択がかかってるとするならば、僕らは「過適応」って呼んでるんですけど、相手と自分を共に滅ぼしちゃうような進化をすると必ず起こるはずなんですが、絶滅することによって到汰されてしまう。

絶滅による到汰というのは、自然選択とは違う原理だろうと思ったわけです。だって、「数が増えることによって進化する」という原理ではないもので淘汰されちゃうわけですからね。それを「永続淘汰」と呼んでいます。

結局、なぜ群集がうまく続いていけるようになってるかというと、関係のネットワークみたいなものが、群集ができるだけ滅びにくいようなものになっていくんじゃないかと考えたんですよ。実は生物の存続という観点からすると、関係性そのものが進化することがとても大事なことなんじゃないかと思ったわけですね。

ヨモギとアリの共生関係

長谷川:理論的には、シミュレーションモデルを使って、ランダムな変数を入れてやって種間関係を作って、それがどういうふうに進化して(いくかを観察する)。たくさんやれば、ずっと続いていく群集が絶対に出てくるはずだから。

永続性の適応度平面を考えると、ずっと長続きしたやつは山みたいに膨らんでるところの頂点にいるはずです。ちょっとパラメーターをずらして、最適パラメーターと考えられるもののうち、どっちが長続きするかをちゃんとシミュレーションでやってみれば、永続平面の頂点にいることがわかりますよね。

そういうやつが、種間関係をどういうかたちに進化させていくのか。例えば1,000世代、100世代ごとにパラメーターをとって、1万世代生き延びたやつと比べてみると、進化してるかどうかはわかりますよね。

そういうシミュレーションからのアプローチと、ヨモギの共生系やアブラムシとアリの共生系に関わるミニ群集ですね。今、ミニ群集のデータも採っていて、かなりパブリッシュにしてますが、いろいろおもしろいことがわかっています。

例えば、使ってるアブラムシには赤と緑の2つの遺伝子型がいて、どこの遺伝子座が違っているかも特定してあるんですが、アミノ酸にすると7ベースぐらいしかないような小さな機能領域しか持ってなくて、それが何のやつなのかはわかんないんですよ。

だけど、遺伝子で違っているところがあることはわかっていて。緑のほうは、ヨモギの汁をいっぱい吸って、砂糖とかタンパク質を出すので含有量が高い甘露を排出するんですね。だから、春先のヨモギが出てきてから夏至の頃までは、緑のほうがコロニーが生き延びやすことはわかってます。

一番随伴するトビイロケアリというアリについてるシュートだけを使って観察します。春先に出てきた時からアリは(ヨモギに)たかっていて、夏至の頃までは赤と緑が共存するんだけど、緑のほうをアリは好んでいる。

アリを取り除いたらすぐアブラムシに食べられちゃうので、アリがいるからヨモギは生き残るんですね。ところがアリは、ヨモギの葉っぱを食べる虫も一緒に追っ払っちゃうので、ヨモギもアリがついてくれると間接効果で得をするんですよ。

大福:なるほど。

生き残るコロニーの特徴

長谷川:アリは養分がたくさん欲しいから、緑を好むから残しておくんだけど、赤を排除しないんですね。他のアブラムシとアリの共生だと、トビイロケアリは甘露の出の悪い個体を間引いて食っちゃうんですよ。ヨモギヒゲナガアブラムシにはしないんです。結局、赤は何か別のメリットがアリにとってあるはずです。

ヨモギは短日植物なので、夏至を過ぎると「花序」という花のついた芽を出す準備を始めて、8月の初旬ぐらいからそれが出始めるんですね。

花序が出てくると、アブラムシのコロニーはどんどん数が減っていきます。だいたい10本に2本ぐらいしか、10月にアブラムシは有性虫(雌雄)を10月に出すんですが、そこまで生き延びられないんですよ。

8月の上旬の花序の出芽以降で、生き残ったアブラムシのコロニーと滅びちゃったコロニーを比較してみると、生き残ったコロニーは両方どんどん減っていくんですが、生き残るほうのコロニーは途中でもう一度増え出すんですよね。

結局、どんどん増えていって最後まで残るんです。要するに、もう一度増えていくコロニーの変曲点なところで、何かが違ってるはずですよね。調べてみたら、生き残るコロニーは赤がたくさんいるコロニーなんです。

何をやってるのかわかんないんだけど、アブラムシって虫こぶや植物の遺伝子系を自分たちの有利なように操作するので、何かをやってるだろうと思われます。

大福:何かが行われている。

長谷川:10月中旬になって、アブラムシが有性虫を出して、交尾をして、越冬卵を産むまで生き残れたコロニーでは、花序がほとんど成長しないんですね。まったく出ないか、成長しないんですよ。

花序の成長で、ヨモギのシュートがアブラムシにとって不適当な生息環境をなるのを防いでいるみたいなんです。だから緑と赤が両方いないと、アブラムシは生き残れないんですよね。

大福:おもしろいですね。

アブラムシはなぜ増えすぎないのか

長谷川:アリって巣を作って土の中にいるから、簡単に引っ越しはできないんです。来年もアブラムシのついているヨモギがそこにあってくれれば、たくさん資源を確保できるんですね。

確かにトビイロケアリというアリは、昆虫の死骸なんかはほとんど拾ってこなくて、蜜食に特化したアリなんですね。ヨモギにとっては、アリがいることはヨモギを食べる植食者を追っ払ってくれるので得になっている。そこだけまだ証明してないんですが、計算上はそうなることがわかっています。

それから、アブラムシは赤と緑が両方いないと最終的には生き延びられないから、アリにとってはあんまり価値のない赤も、ちゃんと春から一緒にとっておくんですね。春と夏でアリがどっちを好むかを見ると、春は緑を好んでるんですけど、夏は赤のほうを好んでるんですよ。うまくできていますよね。

大福:へぇ~。すごいですね。かなり複雑な、お互いにWin-Win-Winぐらいになる関係性が生まれているってことですよね。

長谷川:もう1つあって。じゃあ、なぜアブラムシがなぜ増えすぎないのかってことですね。アリはアブラムシの甘露が多いほうがいいんだから、アブラムシを増やしちゃうはずなのに、なぜ春の間ヨモギが我慢できるだけアブラムシの増殖が抑えられてるのかっていう問題があって。

ヒラタアブの幼虫という、アリに攻撃されない捕食者がいるんですね。ヨモギに擬態してるらしいんですけど、どうも今のところのデータでは体表成分がヨモギの成分とそっくりなんです。

大福:すごい。新しい登場人物。

長谷川:そう。アリは、アブラムシの真ん中でヒラタアブの幼虫がアブラムシを食っていても、まったく攻撃しないんですよ。

ヒラタアブとヨモギのWin-Winの関係

長谷川:ヒラタアブの幼虫をとっちゃったヨモギのグループと、残しておいたグループを作って。これも大変だったんですけどね。3日にいっぺんぐらいヒラタアブの幼虫を取り除かないといけないので。

大福:それはまた大変……(笑)。

長谷川:ヒラタアブがいないグループだけ、秋にできる種の数が下がるんですよ。ヒラタアブを残しといたほうのグループは下がらないんです。だからヒラタアブがいることは、ヨモギにとって共生関係になってるんですよ。Win-Winになっている。

もし適応度が下がると、その適応度を下げないような対抗進化をするはずだから、ヒラタアブがいないと、アブラムシは春のうちから数を減らされるような対抗進化にやられちゃうはずですよね。だからヒラタアブがいて、ヨモギが害を受けない程度にアブラムシの数が抑えられていることは、アブラムシにとっても、自分たちの生存にとっても得になってるんです。

アブラムシの生存は、アリにとっては来年近くにアブラムシがいることは得だから、ヒラタアブは間接的にアリとWin-Winの関係になってます。

今まで調べたすべての関係はWin-Winになっていて、しかもヨモギはシュートごとにそういう系できるような構造化された群だから、もしチーターが入ってきても、チーターが入ったシュートだけ関係性がなくなって、アブラムシがいなくなる。アブラムシが増えすぎて、ヨモギが枯れちゃうことがありますよね。

ジェネットという、根っこでつながってる植物は、弱ってきたシュートがあるとそいつをわざと枯らしてしまうから、たぶんそういうことは起こるでしょう。

大福:なるほど。ただ、それは群集として見た時にぜんぜん問題ないというか。

長谷川:サイズを大きくして見た時には、全部がWin-Winの関係になっていて、滅びないようになっている。

群集の境界にこだわるのは無意味

大福:群集の中の関係性がうまくつながって継続しているものが、たぶん世の中にたくさんあって、それが生き残っているものになっている。

長谷川:そう。だから、もっと大きな群集も必ずそうなってるはずなんだけど、群集が複雑すぎてこれはちょっと調べられないので。

大福:群集の単位をどこまで設計するかも難しいですよね。

長谷川:群集の単位と言うんですけど、こんなのバカバカしい話で、ずっとつながってたとしてもその中で関係が成り立ってればいいわけでしょ。だから、種の境界がどこかっていうのは定義が(難しい)。

大福:本当にそうですね。境界線がない。

長谷川:ただ、進化学では、遺伝子プールとか相互作用のある個体群が進化の単位になると考えていますが、それがどこまで続いてるかなんて実際にはわからないわけですよ。でも、ある部分をそうだと見なしてサンプリングすることによって、研究はできるわけです。

だから、群集の境界なんかにこだわるのは無意味です。研究ができないんだから、群集の一部分でそうなってたらだいたい全体で成り立ってるはずでしょうと。というか、理論的には全体で成り立ってないと滅びてしまうという結果が出るから、切れ目にこだわることがまず間違ってると思いますね。

大福:研究の対象として見れたらいいよね、ということですね。

長谷川:群集の関係性がすごく大事で、関係性が両方に向かっての矢印で、プラスプラスの関係になっていると思うんです

大福:実はそうなっていると。

長谷川:だから大部分の生物学者は、プラスマイナスの関係を捕食被食と考えてるんだけど、捕食被食の関係であっても、お互いの適応度に与える影響がプラスになる共生の形をとっていればそうなりますよね。

研究をやっていてよかった瞬間は、北野武氏との対談

長谷川:今やっているシミュレーションモデルだと、これらの関係の全部が両方プラスプラスのものしか残っていかないという結果になってるから、そこにどんな生物がいても、そういう関係性のセットとしては、似たようなかたちになって全部プラスプラスになる。

だから、地球の裏側でも同じようなことが成り立ってるだろうということを、理論的実証的に証明して、僕の最後の仕事にしようと思ってます。

大福:もうこれでダーウィンを超えられるというところですね。

長谷川:僕は超えたと思ってますけど、超えたかどうかを他の人がどう思うかは、どうでもいいんですよ。他の人の自由だから。

大福:少なくとも、僕は非常におもしろく、楽しく話を聞かせていただきました。

長谷川:今の人はこう思っているんですよ。(「ダーウィニズムはァァァァァァァァァァァァァァ世界一ィィィイイイイ」)これは『ジョジョの奇妙な冒険』の第2部に出てくる、ドイツの軍人です。彼もみんなもこう思ってるんだけど、僕はそう思ってなくて、こう思ってるんですね。

大福:(笑)。『アウトレイジ』。

長谷川:北野武さんと対談するチャンスをもらって、僕はそれだけで「働かないアリの研究をやってよかった」と思っています。

大福:すごい。ほんまや。

長谷川:北野武にすごく会いたかったんですよ。これはもうなくなっちゃった『新潮45』という雑誌で、何年か前にやった対談なんですが、この人は話を完全にわかってくれましたね。ものすごく頭がいい人で、びっくりしました。

大福:いや、すごい。

長谷川:あと、映画の話もできて。これは僕の顔ですが、研究に携わった顔の人をはめ込んで僕が作ったんです。

大福:似てる。キャラが立ってるから、長谷川先生も漫画の中にいてもいいですよね。

長谷川:そう。北野武の映画が大好きで、全部見てますね。

大福:すごい、コンプリート。

長谷川:『ソナチネ』、最高傑作だと思います。

虫の世界から人間の世界へのヒントも

大福:というところで、ビートたけしさんの話もちょっと聞きたかったところですが、お時間が来てしまいました。

非常におもしろいお話をありがとうございました。多様性というテーマではあったんですが、それ以外の観点からも、虫の世界、そして人間の世界の話もたくさんヒントをいただけたのかなと思ってます。

経営とか組織、職場での人間関係とか、いろんなかたちで自分たちの生活に還元できる話があったんじゃないかなと思っています。引き続き僕らは、いろんな組織や働き方を考えていくようなきっかけを提供したいと思っています。

今回ご参加いただいたみなさまも、長谷川先生のお話をきっかけにしていただいたり、書籍もたくさん出てますので手にとっていただけたらなと思っています。川本さんのほうから、アナウンス等ございますでしょうか。

川本まい氏(以下、川本):トークをお聞きいただきまして、ありがとうございました。弊社はリベルタ学舎という一般社団法人を運営させていただいているんですが、個人の力と協働する力を高める教育プログラムや、「ワガママSDGs」だったり、いろんな企画・プロジェクトを提供しながら、主体的に自律的な生き方をしたい方を支援する活動をしております。

あとは、未来なりわいカンパニーという会社も一緒に運営をしておりまして、こちらでは広報を軸に置きながら、個人事業主が集まって、メンバーで仕事を作っていく会社を共に考え、共に挑戦するというキーワードをもとにいろいろな活動をやっております。

長谷川:最後にですね、僕はホームページがあってメールアドレスを公開していますので。もし何か聞きたいことがあればぜひメールで送ってください。アポさえとってくれれば、直接会うことも可能ですので。

川本:北海道で。

長谷川:オンラインでやることも可能ですので、ぜひお願いします。

川本:はい。アニメの話も、本当はいろいろとおもしろい話があるので、ぜひ。

長谷川:カンナ(背景画像の『小林さんちのメイドラゴン』)と『SPY×FAMILY』のアーニャ、どっちがかわいいかっていうのは難しい問題です。

川本:(笑)。

大福:長谷川先生とつながりたいという方は、ぜひご活用いただけたらと思います。では長谷川先生、ありがとうございました。

長谷川:どうも。

川本:ありがとうございました。

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