2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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大嶋寧子氏(以下、大嶋):あらためまして、リクルートワークス研究所の大嶋と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。私はリクルートワークス研究所という、人と組織に関する研究所で、育児や介護と仕事を両立する男女のマネジメントや、リスキリングなどをテーマに研究や発信を行っております。
仕事をしながら介護をしていく時に、やはり介護側のストレスや問題などと同時に、仕事側で働く人が経験するストレスだったり問題にも対処しなければいけないと思いますが、本日は主に仕事側でビジネスケアラーは何を経験しているのかについて、お話しさせていただきたいと思っています。
そもそも、私がどうしてこの点に注目したかというと、これまでの仕事と介護の両立に関する研究を見ていくと、介護疲労や介護離職という文脈で話をされていることが多くて、本人のもっと多様な思いや経験が理解されていないのでは、ということが、1つの問題意識としてあります。
もちろん介護疲労とか介護離職という問題はすごく大きいんですけども、ビジネスケアラーの方々の話を聞いていると、離職や疲労以外にもさまざまな経験したり、あるいは仕事上の工夫をして、自分の今の状況に立ち向かっていらっしゃる。そうした経験に向き合って、それに根ざした議論をこれからはしていくべきではないか、ということが大きな問題意識にあります。
そのような問題意識から、2022年に2つの調査を行いました。1つがインタビュー調査ですね。ビジネスケアラーの中には、もちろんヤングケアラーの方もたくさんいらっしゃいますけども、今回の調査では年齢層として大きい40〜50代の正社員の方20名に、深く掘り下げたインタビューをさせていただきました。
もう1つが昨年11月、40~50代のビジネスケアラーの方々にアンケート調査を行ったもので、一部の調査項目については育児をしている方々、それから「育児も介護もしていない」と回答された方々にも質問を行って比較するという内容です。本日はこちらを主にご紹介させていただく内容となっています。
このインタビュー調査、アンケート調査でも確認できたのですが、「ビジネスケアラーについて十分世の中で語られていないことがある」と考えています。それは何か。その1つが、「介護の経験は、仕事への新しい見方の獲得や職業人としての幅の広がりにつながる」ということです。
ビジネスケアラーの方々にとっては本当に当たり前といいますか、お話を深く聞いていくと、毎回のように出てくるような内容なんですけど、じゃあこの話が例えば政策の場面、例えば企業の人事施策の場面で考慮されているかというと、なかなかそうは言えない、と思っています。
こちらは介護時間が週15時間未満の人、それから週15時間以上の人に分けて、介護をする前と比べた仕事への考え方がどのように変わったかという結果です。
非常に多くの方が指摘されるのは、「仕事があることのありがたみを実感するようになった」ということです。その他にも、「仕事を社会との接点を確保する機会と感じるようになった」「仕事をすることで気分転換できるようになった」。これは社会との接点とも近いですけど、「人と関わる機会として仕事を捉えるようになった」「仕事が心の安定の場にもなった」というものもあります。
これはやはり、介護にまつわる精神的な負担がある中で、仕事の価値が相対的に上がっていることがあると思います。けれども、仕事への考え方が変わっているということがあまりきちんと世間で議論されていない、語られていない、視野に入れられていないのではないかと考えています。
こちらは属性をそろえるために、介護をしている40代と、ケアをしていない、育児も介護もしていない40代で「現在の仕事における行動の差」を比較をした結果です。
「周囲が困っていることによく気がつく」「相手がどうしてほしいのかよく考える」「さまざまな事情を抱えながら働く人に共感する」「より日々の仕事において効率的な仕事のやり方を探す」というふうに、ビジネスケアラーの方々は、介護を通じてよりインクルーシブな視点を持つ傾向にあるということも見えてきています。
そのように仕事の価値が相対的に上がっていたり、また、仕事に対する視野も広がっていることもあって、実際にビジネスケアラーの方々の仕事への熱意は、決して低くないということが言えます。
こちらは介護をしている正社員と介護をしていない正社員の方々の、ワークエンゲージメントという仕事への熱意を表す指標を比較したものですが、両者において差はないことが見えてきています。数字上は少し違って見えるんですけども、統計的に意味のある違いはないことがわかっております。
つまり、介護をしているからといって、いろいろな負担がある、いろいろな疲労がある人々という部分だけ見るのは間違いで、むしろ働く意欲という面では決して低くない、場合によっては高いものを持っているケアラー、ワーカーだということを、企業の人事施策としても考えていく必要があります。
また、働く人の立場でも、自分がビジネスケアラーになった時に、やりがいが必ずしも失われるわけではないということは、覚えておいたほうがいいのではないかと思います。だからこそ、ビジネスケアラーの方々はさまざまな仕事に成功するための創意工夫をしていることもわかっています。
特に赤い枠で囲った、「職場で関係する人々の状況を把握して相手の便宜を図る」「自分にとって大切な仕事を部下や後輩に任せるようにする」など、ビジネスケアラーは仕事に使える時間が減る中でも、自分でできる範囲でさまざまなこをと行っています。また、一方的に誰かに頼るのではなくて、むしろ新しい協働関係を作ろうとする行動を、ケアを行っていない方と比べてもたくさん行っていることが、このデータからは見ることができるかと思います。
このように、ビジネスケアラーの方々は視点も広がっていますし、また、仕事における創意工夫もさまざまに行っていて、仕事に対する熱意も決して低くないという状況にはあるのですが、その一方でやはり、仕事やキャリアに対する不安は決して低くないということもデータからは見て取れます。
こちらは「ケアが始まった当初に、仕事やキャリアの不安がどれくらいありましたか?」と質問した結果を、現在40代の方に絞って見たものです。一目瞭然なんですけども、「これまで担当してきた仕事内容を続けられるか不安があった」。あるいは「会社でのキャリアを諦めなければいけないのではないかという不安があった」と回答する人が高い。育児を始められた方と介護を始められた方では、介護をしている人の割合が高く、大きな差があります。
育児においても、昔はこうした不安はあったと思うんですが、両立支援が充実してくる中で、だいぶ払拭されてきた面がある。介護においては、仕事の中身、やりがい、それからその後のキャリアという点で、まだ不安を払拭できるような実態にはなっていないということが、このデータからわかるかと思います。
次に、こちらのデータは、介護をしている人、育児をしている人、ケアをしていない人でワークエンゲージメントの指標を見た時に、上位3分の1の層の人たちだけを取り出して、「現在の仕事を辞めようと真剣に考えることが多い」に「当てはまる」と回答した割合を比べたものです。ちなみに、この3グループのワーク・エンゲージメントが上位3分の1の人たちについて比較すると、ワークエンゲージメントの高さには違いはありませんでした。
しかしながら、介護をしている人だけは「仕事を辞めようと真剣に考えることが多い」に当てはまる割合が高くなってしまう。つまり仕事への熱意が高くても、家庭に関することで、やはり離職を考えざるを得ない。そういうふうに日々バランスを取りながら仕事をしていかなければいけない厳しい立場にあることも、このデータが表しているところかなと思っています。
これまで見てきたところで、1つの疑問が浮かび上がります。それは「ビジネスケアラーの人たちの仕事への思いや、新しい視野が生かされ、同時に不安を少なく働くための鍵は何なのか」ということです。それを明らかにしていくことが、恐らくこの“大介護時代”に向かうに当たって、あるいは介護にこれから向き合う、向き合っている個人にとっても非常に重要であろうということです。
実はインタビュー調査の最後に「これから介護をする方にアドバイスをするとすれば、どのようなことを伝えられますか?」とそれぞれの方におうかがいしています。その中で少し象徴的だったというか、何人もの方が指摘されたことについてご紹介します。
まず「介護だけではもちろんないんですけど、自分で調べたり申請しないと、知らない損になることがものすごくたくさんあると思います。だからこそ、自分で動いて主体的になって調べることがすごく大事だと考えています」ということ。このようなことをおっしゃる方が複数いらっしゃいました。
もう1点は、「表面的なレベルで介護について話せる人はすぐ見つかる。でも、本当に深いところまで相談できる人はなかなかいない。だからといって介護を抱え込んでしまうとつぶれてしまう。だから、同僚なのか上司なのか第三者機関なのかはわからないけど、とにかく何かは利用してきちんと相談してください」という方もいらっしゃいました。
それから「やはり自分の親のことだから、最初はみんながんばってしまう。でも、それはずっとは続かない。自分なりに納得できるまではいろいろやらざるを得ない、やってしまうのはしょうがないけども、このままではいけないと思った時点で、自分が楽になることを考えなくちゃいけない」という方もいらっしゃいました。
最後に、これまでがんばってきた仕事へのこだわりだったり、プライドだったり、さまざまなものが自分の中に渦巻く中で、「助けを借りるということに非常に大きな抵抗がありました」という方もたくさんいらっしゃいました。
「でも、このままでは続かないと思った時から、仕事のやり方、周囲との関わり方を変えました。具体的には、自分の困りごとを『こんなふうに困っている』と開示したり、あるいは育成の視点で自分が大事にしてきた仕事を任せて、チームで仕事が回るように体制作りをしたんです。そうしたら、自分の中で新しいやりがいが見つかってきたんです」。そうおっしゃる方もいらっしゃいました。
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