2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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高木俊介氏(以下、高木):やっぱり組織って、熱心にやり始めて5年くらいすると、いろいろな頭打ちが来るんですよね。それまで福祉で働いていて貧乏だった人が、うちに来たら結婚しちゃうんです。子どももできる。うちに来ると、みんなバタバタ子どもを産むんだ(笑)。
そうなると、やっぱり制度をなんとかしなくちゃいけない。みんな「これからは、前みたいに好きな時に泊まり込みをして支援することはできない。もっと組織としてちゃんとしてほしい」という思いにになるんですね。
それから、新しい人もどんどん入ってくる。そうすると、最初に「今の精神科病院のやり方はものすごくおかしい。変えなきゃいけない」という志を一緒にした人だけじゃなくなるんですよ。
地域で訪問医療をやっている施設としては、うちは給料が良かったから、そのために来る人もいる。またテレビにも出ているから、本来は真面目で一生懸命やりたい気持ちもあるんだけど、「なぜ自分がその一生懸命をやらなきゃいけないのか」という根っこがまだない人たちも来る。
とにかく、ガタガタになっている組織を立て直さなきゃいけなかったんです。そんな中、スタッフの知り合いに、みなさんのやっているような社会的企業を応援するコーディネーターがいて、「組織の立て直しを手伝いましょう」ということになった。見れば見るほど自分の足元の組織がガタガタだから、お願いしたんですね。
そいつに言わせると、「あんたがビールをやっているのが一番悪いんや」と(笑)。売れもしないところでね(笑)。そいつはうちのいろいろな赤字の様子も見て、「これは辞めさせなきゃいけない」と、本気で思ったみたいですね。
高木:彼のおかげで、ACTのほうは立ち直りました。そういう討論を5年以上続けてきて、だんだんと「じゃあ、自分が経営を担います」という人が出てきた。それまでゴタゴタしていたのがようやく立ち直って、この春にスッキリと新体制になりました。
その間、ずっとそのコーディネーターが伴走してくれたのですが、ビールについては本当に「こりゃダメだ。医者が商売を甘く見てる」と思ったみたいなんですよ。それで、祇園で商売をやっている人を紹介してくれたんですね。
祇園って、今は多くが東京資本なんです。その人は京都の生え抜きで、いくつもお店を持っていました。その人から僕に飲食業の厳しさを伝えてもらおうということで、会わせてくれたんです(笑)。
ネットで検索すると出てきますが、それが今、共同経営をしている伴(克亘)さんです。最初は伴さんも「医者が趣味でやるなんて、自分たちの業界を舐めとる。一切やめさせよう」ということで、僕に会いに来た。
彼が偉かったのは、ソーシャル的な企業のコーディネーターと知り合いだったことからもわかりますが、飲食業で成功しながらも「自分もこれからなんとかしたい」「変わらんといかん」と思っていた。そんな時に僕と会っちゃった。
僕は言いました。「今はこんなだけど、障害者雇用を目指しているんだ。そのためには、これからの福祉は障害者に協力してもらえるように一流のブランド物にならなきゃいけないんだ」「新しいブリュワーが2人いるから、こいつらをなんとか雇い続けなきゃいけない」と。
そうしたら、伴さんがすごく感心してくれてね。「じゃあ3年間、俺に事業を預けてくれ。そうしたらトントンにはしてみせる」と言ってくれた。紹介してくれたコーディネーターの方には「まだやることになったんかい」と言われましたが(笑)。
高木:「武士の商法」じゃなくて、「餅は餅屋」ですよね。本当に、いろいろな広いネットワークでビールを広めてくれるし、彼も社会的な事業をやりたかった。だからまずいビールだとしても、障害者雇用などを目指してやっているようなところがあれば、自分も参画したいと思っていたんですね。
最初は居抜きの喫茶店をビール専用の店にしてくれて(笑)。ところが、やっているうちに天才ブリュワー2人が、6つか7つくらいどんどん賞を取っちゃうわけです。いろいろな種類のビールで、金賞・銀賞・銅賞を全部取っているんです。
さらに、日本で唯一ホップを使わないビールも作っちゃって、それが「ビールのフリースタイル」ということで賞を取ったりもしました。そうしてやっていくうちに、共同経営者の伴さんも「俺のところで作っているビール、うまいやないか!」みたいにビールに目覚めちゃって(笑)。一生懸命になるんですね。
そして今、いろいろなところに売り込んでくれています。「ACE HOTEL」というホテルのBARでも出ていますし、今はJR京都伊勢丹や阪急うめだにも出ています。
東京では新宿二丁目の「ジョグ(Mexican Cafe&Bar Jog)」というメキシカン料理の店が扱ってくれています。それからクラフトビールの専門店での小売りとして、「スリーフィート(threefeet Tokyo)」というところが扱ってくれているんですね。
高木:なんとかそこまではいけました。でも、「これから障害者をどうしよう」という時に、障害者だけではなかなかできないので、今は共同作業にしています。
例えば、作業所で作ってくれた麦と、石巻のソーシャルファームで作ったホップなど、障害者が関わって作った原料を使って、「西陣麦酒」と一緒にビールを作っています。これを「ふぞろいの麦たち」というんですね。
大企業では形のそろった麦じゃないと製品にできないわけですよ。ブリュワーに「こんなに粒がそろわない麦で、あんたらビールが作れるか?」と聞いたら、「それが僕らの仕事です」と言ってくれた。かっこいい。
そうして毎年「ふぞろいの麦たち」というビールができています。これはまだ、ロット数がすごく少ないんですね。もっといろいろな作業所で、麦とホップを作ってほしいです。
それからもう1つは、「京都産原料100%ビールプロジェクト」というものを京都中のビール屋さんでやっています。うちが(ビール工場を)作ってから、京都にも小さなビール工場がどんどんできました。亀岡で作っている麦やホップ、与謝野町で作り始めたホップなど、京都で生産された原料を使うんです。
そのプロジェクトとして、京都で採取したビール酵母を今度はキリンに育ててもらっていて。酵母も含め、100パーセント京都産のビールを作るというプロジェクトなんですね。京都産の製品を、京都中のビール工房で、いろいろな作り方をしていて。今は、こういう夢のあるプロジェクトに発展してます。
目の前にあったことを、「やらなあかん、やらなあかん」と思いながらやっていたら、こんなふうになっちゃいました。みなさんも、自分がどんなふうになるか、これから楽しみですよね。楽しんでください。終わります。
司会者:ありがとうございました。みなさん、もう一度大きな拍手をお願いいたします。
(会場拍手)
司会者:では、せっかくですので、先生に直接質問のある方はこちらで受け付けさせていただきます。「ここは確認しておきたい」「こういうお話はどうですか?」というのがあれば、ぜひどうぞ。では、マイクをお渡ししますね。
質問者1:今日は先生のお話、とても楽しくうかがいました。通販などがあれば、先生のところでお作りになっているビールをぜひ家で飲んでみたいです。どうやって購入したらいいのですか?
高木:ありがとうございます! ホームページがあります。「一乗寺」というのは一番の「一」ね。「乗」は乗るという字。それから「お寺」です。「宮本武蔵一乗寺下り松の決闘」の一乗寺で、一乗寺ブリュワリーです。「ブリュワリー」というのは、ビール醸造者ですね。
「一乗寺ブリュワリー」で検索してもらったらホームページが出てきて、そこのネットショップから購入できます。通販代がもったいないなら、原宿に行けば「threefeet Tokyo」というビール屋さんがあるので、そこでも小売りで扱っていると思います。
それから先ほども言いましたが、新宿二丁目の「JOG」さんというメキシコ料理屋でも扱っていて、そこは僕もしょっちゅう飲みに行きます。今度、新宿二丁目のパレードにも出してくれるそうです。「なんで出るんや」ですよね(笑)。
(会場笑)
質問者1:私は本職が介護福祉士なので、自分の身につまされていることと、先生の取り組みがすごくかぶってしまって、めちゃくちゃ参考になりました。
高木:ありがとうございます。
質問者:なのでまた、何かご支援できることがあったらしたいと思います。
司会者:ありがとうございます。
質問者2:お願いします。
司会者:ではマイクの前で、ぜひお願いします。
質問者:講演ありがとうございました。いろいろなことがありながら、今できることをどんどんされているところがすごくすばらしいなと思いました。
ACT経営の話と、一乗寺ブリュワリーの話を絡めてお聞きしたいと思います。京都のACT経営では、実際に何人くらいの疾患を持たれている方と常時かかわっていらっしゃるのですか?
それと、ビールを作る中で「麦をそろえる作業に関わってもらっている」ということでしたが、ビールを作る行程では、今の規模だと実際にどのくらいの方にかかわってもらえているのか気になりました。
高木:すみません。話の中で飛ばしていたかもしれませんが、私のところではビールの製造過程そのものに対して障害者に関わってもらうことが、まだできていないんですよ。今はビールを売っていくことに必死なので、まだトントンなんです。
先ほど言いましたように、障害者との関わりは「群馬の作業所で麦を作ってもらっていること」と「宮城の石巻の作業所でホップを作ってもらっていること」なんです。それから、近くにある作業所でラベルを作ってもらったこともあります。そのように協力作業をしています。
それから「西陣麦酒」という、自閉症の方が最初からビール作りに関わっているところがあって、そこと一緒にビールを作る作業をしているんですね。だから本当はみなさんのほうが、いろいろな障害者と関わるビジネスをやっておられるんじゃないかと思って。ここで話すのが恥ずかしいんですが。
私の場合、最初は「障害者雇用のためにやるぞ」と言っていたんだけど、医者の商売がなかなかそこにいかないままで。そうやりながら、いつの間にかビールにのめり込みすぎちゃってね。そういうのを「玩物喪志」というんですね。物をもてあそんで、志を失うと書くんですよ。
「玩物喪志」の人生なのですが、ビールはビールで、そのくらいのめり込むと楽しいんです。「酔生夢死」と言ってね、「酔って生きて、夢に死ぬ」になる。そういうことをやろうとしている(笑)。
質問者2:ありがとうございます。
司会者:会場の方、もうお一方くらいいかがですか? では、一番早かった前の方、お願いします。
質問者3:貴重なお話をありがとうございます。先ほど個人的にはご紹介させていただきましたが、私は障害福祉の情報発信ということで、いろいろな福祉事業所さんなどに取材に行くんですね。その時によく聞かれることがありまして、私もわからないので、ぜひ先生にお聞きしたいと思います。
福祉に特化している福祉事業所の方は、ビジネスとしてどうやったらうまくいくかわからない。一方でビジネスから入ろうとされた方は、どうやって障害のある方とうまく仕事をしたらいいのかわからな」。「その両立が、なかなかうまくできないんですけど、何かヒントを知りませんか?」と、よく聞かれるんですね。
私もまだ情報が集められなくて、知りたいと思っていました。先生の体験したことで、何かヒントがあれば教えていただきたいと思います。
高木:本当にマッチングって難しいですね。僕は最初「1人でやるぞ!」なんて思っていたけど、到底できることじゃないなと気づいて。今はむしろ「いろいろな人間関係に苦労することが、この仕事だ!」みたいな(笑)。連携したら苦労も増えるからね。
だけど制度で言えば、「農福連携事業」というものがある。農業と福祉を連携させる事業で、これは農水省がやっています。農産関係のものがあれば、そういうところを利用するのはすごくいいと思います。というのも、そういう制度を利用すれば、農業なら農業のプロフェッショナルを作業所に派遣してくれるんです。
「ふぞろいの麦たち」も、最初の1回目は農福連携事業を使いました。だから、僕らだけが群馬まで一生懸命動くのではなくて、農福連携事業がそのお金を使って実際に作業所をつないでくれたり、農産品の扱い方を教えてくれたりしました。ビジネスとなると、みなさんのほうが出番だからね。そんなところかなと思います。
質問者:ありがとうございます。
司会者:本当に質問が尽きないのですが、お時間ですので、ここで先生の講演は終わらせていただきたいと思います。京都・一乗寺ブリュワリーのホームページ、ぜひチェックをお願いします。ではあらためまして、もう一度先生に大きな拍手をお願いいたします。
(会場拍手)
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