2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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森川綾女氏:みなさん、こんにちは。本日のゲストである精神科医の高木俊介さんをみなさまにご紹介できることを、うれしく思います。高木さんは「精神分裂病」という、怖くて偏見を生むような病名を変えようと活動した方です。その結果、病名は2002年に「統合失調症」に改名されています。
日本という国は、実は精神科病院のベッド数が世界一多いんですね。精神科の入院日数も、一般の入院と比べて10倍以上の長期入院なんです。
そして、精神障害者の方々が社会から隔離されることが問題になっている中、高木さんは2004年に京都で「ACT-K」を立ち上げられました。これは、精神障害者の方々が自宅で暮らせるように、多様な職種で在宅支援するものとなっています。
その活動の中で就労支援の必要性を感じられて、それに結びつく事業として京都・一乗寺ブリュワリーを立ち上げられました。こちらは、インターナショナルビアカップ2017で金賞を取るまでのブランドとなり、新宿のお店や阪急うめだにも(商品が)並んでいて、本当にすごいブランドに育てられたと思います。
また3.11以来、福島の子どもたちの支援も続けられているんですね。ソーシャルビジネスの活動をどんどん広められていて、私もそうですが、同じ志の方々に元気を与えてくださっています。
高木さんと初めてお会いしてから20年近く経ちますが、本当に尊敬する大先輩です。本当に多彩で、実はギターの名手でもあるんですね。
著書もたくさんありまして、最近ですと『危機の時代の精神医療 変革の思想と実践』や『対人支援のダイアローグ オープンダイアローグ、未来語りのダイアローグ、そして民主主義』ですね。「オープンダイアローグ」という新しい手法を紹介した方でもあります。
森川:それでは、精神科医で株式会社京都・一乗寺ブリュワリー代表取締役会長の高木俊介さんです。よろしくお願いします。
高木俊介氏(以下、高木):どうも、こんにちは。今日はお集まりいただきありがとうございます。私の話は、今の紹介で全部終わっちゃったような感じですね(笑)。
二足のわらじということで、「お前の足は1つでも臭いのに、なんで二足なんだ」と言われているわけですが(笑)。今日は、なぜ二足のわらじになったのかというお話をして、「いろいろな社会的な問題につながりたい」「そういう企業をやりたい」という方々のお役に立てればと思っています。
今日は資料として、自分の会社のビールのパンフレットを持ってきて「売らん哉(うらんかな)」と思っていたのに、朝、新幹線の中に忘れてきてしまって(笑)。二足のわらじだから、ここがうまくいかないところですね(笑)。商売人になりきれない。
なぜ二足のわらじをやってきたのか。実は(二足のわらじを)目指していたわけじゃないんですよね。人生って、目指したとおりにやれたら何も文句はないし、そもそもそんなことができたら、みなさんの活動はいらないじゃないですか。
なんか知らないけど、気がついたらこうなっちゃってたんです。「気がついたらこうなった」と言った時に、「じゃあ、どうしてそんなことをしたの?」になるんだけれども、それは目の前にやらなきゃいけない課題があったからです。
その都度、目の前の課題に対して「なんとかしたい」という気持ちがある。課題は、先の先にあるわけじゃないんです。
「目の前のこれをなんとかしなきゃいけない」と思ってやってきたものが積み上がって、気がついたらこんなへんてこりんなことになっていた。こんな話を1時間させていただきます(笑)。
高木:最初は「なぜ精神科医になったのか」ですね。これもよく聞かれるんだ。「精神科を選んだのには、深いワケがあるんでしょう?」とか。ちゃうんですよ。学生時代は追試に追試を重ねるような生活をしてきまして、なぜか子どもができちゃっていたんです(笑)。「これはなんとかしなきゃいかん」と(笑)。
僕は学生ですから、嫁さんは働きに出て、僕に子育てが回ってくるじゃないですか。しかも、卒業したら医局というところに入らないといけないんですね。
みなさん『白い巨塔』はご存知ですか? これが医者の人格をめちゃくちゃにしちゃっている元凶なんやけども、『白い巨塔』のように、とにかく教授の言うことを絶対に聞かなきゃいけない。「あそこに飛べ」「どこに行け」と言われたら、ババーッと行くわけですよ。これは、今でもほとんどそうです。
「民主的にやっています」とか言うけど、嘘。嘘なんですよ(笑)。そういう生活をしていたので、「これは困るじゃん。どうやって子育てしたらいいの?」となったんだけど、実は40年前、京大にはまだ学生運動の名残があった。教授を追い出して自主管理している科が1つだけあったんです。それが精神科だったんですね。
「そこに行ったら、いつまでも子育てできるぞ」「教授の言うことは聞かなくていい」と、悪い先輩に言われたわけですよ。その悪い先輩がなぜそんなことを言ったかというと、「とにかくこいつをオルグして、1人でも多く革命の残り香のする場所に連れてこよう」と(笑)。
「オルグ」という言葉、みなさんはもう知らんね。オーガナイゼーション、組織化することをオルグと言うんです。要するに、人を洗脳して引っ張っていくんです。それに引っかかっちゃって、私は精神科に行ったわけです。
高木:その時は精神科の実情なんて知らなかったのですが、京大の大学病院の精神科には70床のベッドがあって、なんと戦前からの患者さんたちがずっと入院していた。
その患者さんたちと毎日することは、ラジオ体操や漫歩なんです。「俺、すげぇ良いところに来た」と(笑)。またその先輩は、「今の精神医学は、患者の抑圧のために使われているから勉強したらいかん」「勉強して精神科医になるということは、患者を抑圧することなんだ」と。
今聞いたら「なんちゅうことを言っているんだ」と思うんですけれども(笑)。みんな、真剣にそう言うてるんですね。そんなところなので、毎日ちょっとだけ病院に行って、あとは子育てのために帰るという毎日でした。
ところが、これがまた人生うまくいかないんですけどね。私が病院に入ったのがちょうど1983年で……歳がバレちゃうけど、まあいいや(笑)。この年に「宇都宮病院事件」というものが起こるんです。餃子の宇都宮ですね。
みなさんが今いるこのあたりもそうですけど、関東で事件を起こした人を一挙に引き受けていた、「関東医療刑務所」と言われていた病院が今でもあるんです。今でも、その時の院長がやっているんですね。
高木:そして、宇都宮病院事件とは何か。その頃は大々的に多くの新聞にも取り上げられたし、世界的な問題にもなったんです。「日本の精神医療には、こんな病院があるのか。けしからん」と。今ではもう忘れられています。どんな事件だったかというと、そこには病気ではない人もいっぱい入っていたんです。
例えば「刑務所に入れるにしても厄介だ」みたいな人や、遺産相続でいろいろ揉めて「こいつは禁治産(心神喪失の常況にある者を保護するため、法律上自分で財産を管理・処理できないものとして、後見をつけること。法改正で現在は廃止)にしちゃおう」と、病気に仕立て上げられたような人。
700床もベッドがあるのに、院長が1人だけでやっていて、あとは東大の医者が研究のために来ていた。そして保護室の中で、看護師が患者さんをリンチして殺しちゃったんですね。巌窟王みたいな話ですが、そのことが病院から弁護士のところに手紙で届いたんです。
そこから、日本の精神病院でこんなことがあったと世界的な問題になります。調べてみると、その病院で、回診の時に患者さんが「もうそろそろ退院したいんです」と言うと、院長がゴルフ棒で頭を叩いていたそうです。
もちろん有罪になったんですけど、今でもその院長がやっているんですよ。日本の精神医療はそういうところなんです。
私がいたところは、そういうことに反対する医局だったものですから、「こんなことを大学病院でやっていたらいかんのだ」「やはり日本の精神医療を改革しなければいかんのだ」とみんなが言っていて。
それで、「改革するにはやはり病院に行かねばならない」ということで、まともに精神科医をやるようになりました。始まりはそんな感じですね。その中で、日本の精神医療がなぜこんなことになったのかを学んでいきました。
高木:日本は今、世界で一番精神病院が多い国なんです。みなさんはビジネスをいろいろやろうとしていると思いますが、これからは日本の国力がだんだん衰えていきます。円安がどんどん進みますよね。なんぼ政府が介入したってダメ。見抜かれている。そういう中で国がどんどん衰えていって、先進国じゃなくなりました。
でも、安心してください。精神病院の数だけは、どこまでいっても必ず世界一です。守り抜いています。日本は精神病院大国なんですね。その地位はまったく変わっていません。なぜそんなことになったのかというと、これは高度成長期まで遡ります。
日本が高度成長する時に、石油を輸入する。石炭産業から石油にどんどん変わる。その時に、石炭産業でこれまで山の中にあった人口を、日本の経済発展のために港に集めなきゃいけないんですね。すべての産業は、太平洋ベルトコンベア地帯とか、沿岸、海岸でやらなきゃいけない。例えば、川崎とかね。
そのために、日本では人口の大移動が起こったんです。人口を大移動する時に何が必要か。移動させる田舎の人たちや街の人たちもそうですが、家で障害者を抱えていたら労働ができない。だから障害者は、日本では「生産阻害因子」と言われていました。この言葉は、政府も公的な文書で使ったんですね。
生産阻害因子として障害者がいるので、全員施設に入れなきゃいけない。こうして、精神障害者も含めて全員が施設に入ったんです。そして、みなさんの周りから障害者がいなくなります。これが日本の高度成長の時代なんです。それによって、日本はようやく高度成長を達成しました。
高木:でも、障害者がみんな施設に入っているので、今度はみなさんの身の回りに「障害者のいない社会」ができ上がっちゃいます。
その時にようやく、まずは身体障害の人たちが声を上げました。高度成長が達成された時に、身体障害者の人たちが「私たちの人生は施設で終わるべきじゃない」と言って、障害者解放運動を始めました。
でも、最初は大きな新聞ですら「自分たちが車いすで外に出るために、働いている人たちを犠牲にしていいのか」と、そんなことが普通に言われていたんですよ。身体障害の人たちは、それにも負けずに自分たちの人生を取り戻す運動をしたんですね。
実はそれによって、みなさんはものすごく重大な恩恵を受けています。それは何かというと、例えば「車いすに乗って生活すること」が、みなさんもできるようになる。みなさんも車いすになりますからね。なるんですよ。
例えば、「こういう講演会があるから聞きに行きたいんだ」「私だって映画を観に行きたい」と言えば、車いすにちゃんと介護の人が付いて、あるいはつかなくても自分の車いすで外へ行けるようになったんです。
それは全部、障害者の人たちが自分たちの人生を取り戻すために、激しい反対や反感に遭いながらも、高度成長が達成された時代にやってきたことの結末なんです。この結果の恩恵なんですね。ところが、精神障害の人だけはそうならないままなんです。
高木:今はお子さんの精神障害もどんどん増えています。だいたい精神障害って、例えば「統合失調症」という病気を発症するのは、当時は20代とか30代、働き始めた若い人たちの病気だったんですね。
そうすると、その時期に病院に閉じ込められる。親が労働して一生懸命に家を建てる。ようやく親も人生の激しい労働が終わって、「息子のことをなんとかしたい」と思った時には、もう60歳、70歳なんです。
子どもは病院の中で薬漬けになっている。なんとか社会に出てきても、フラフラで働けない。あるいは、施設の中で10年も暮らせば社会的常識はなくなります。だから、地域では暮らせないようになっている。
だけど親も、自分たちの子どもをなんとかするための運動を起こすには歳を取りすぎている。精神病院はそれをいいことに、長期的にずっと患者さんを収容したままなんですね。その患者さんたちはみんな今、病院の中で死んでいっています。これは他人事じゃないんですよ。
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