2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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小山綾子氏(以下、小山):ぜひここからはおふたりのディスカッションを中心に進めていきたいなと思っております。栗原さんもここからも引き続きよろしくお願いいたします。
栗原健輔氏(以下、栗原):はい、よろしくお願いします。
小山:実はお話をしてる間に、チャット欄が非常に盛り上がっておりまして。
田中威津馬氏(以下、田中):すごい。
小山:みなさんのモヤモヤとしたところを、私自身も感じていました。見ていると男性側からは「こういった取り組みが女性優遇に見えて、腹落ちがしにくい」だったり、女性側からも「下駄をはかせてもらって昇進することに、すごく苦々しさを覚える」とか。結局そういうことを言ってるのに、人事系の方とか裏側では「評価は男性優先ね」って言われるもどかしさを抱えている。
そんな声がある中で、最初のディスカッションのテーマにしたいのが、男性女性は関係なく、なんで今、日本という社会や企業にとってDE&I推進が必要なのか。
栗原さんもなぜそこまでご自身の思いを込めて活動されているのか、その理由や、威津馬さんも感じられていることを、まずは議論していきたいなと思います。栗原さん、いかがですか? なぜ必要なんでしょうか?
栗原:ありがとうございます。私のきっかけは、先ほどもお伝えしたJ-WINさんの経営戦略だという話に尽きます。2022年のジェンダーギャップランキングで日本は116位です。これはずっと116位だったわけではなく、年々下がってきております。日本の世の中としてはDE&Iが進んできていると感じていると思うのですが、世界の相対評価で比べると、順位は下がっているんです。
小山:ショックですね。
栗原:つまり世界からどんどん置いていかれているんですよね。各企業や、日本の社会が頑張ってDE&Iを進めさせようとしているのに、世界には置いていかれてます。この状況をどうにかしなくてはと思ったのがまず1つ。
栗原:もう1つは、冷静に財務パフォーマンスを分析してみても、ダイバーシティが進んでいる企業のパフォーマンスと、そうでない会社のパフォーマンスは、これだけ差がついている。
フォーチュン500(アメリカ合衆国のフォーチュン誌が年1回編集・発行するリストの)の中で、女性役員が多い企業とそうでない企業とでは財務パフォーマンスに明確な差が出ています。日本にも「なでしこ銘柄」という取り組みがあり、女性活躍推進が進んでいる銘柄は、同じような傾向がとれています。
我々男性も、自分が働いている会社は安定して高収入を得られる企業であってほしいと、思っているはずで、そのためには会社としていいパフォーマンスを出していかないといけない。そしてそのためにはダイバーシティの推進がセットなんだという結果が数字に出ているのです。
これがまず企業としてダイバーシティ推進に取り組まなくてはいけない、何よりのファクトなのかなと思っているところです。
せっかくなので、ちょっともう少しこのままお話をさせていただきます。私は冒頭に申し上げたとおり、男性の意識改革に取り組んでおります。当初取り組み始めた時は、どうもこのダイバーシティ推進っていうのは、女性をサポートする、女性を補助する、そんな制度のことなのではないかとぼんやりと思っておりました。
これは弊社の中で使っているスライドなのですが、ダイバーシティというのは、実はまだ左側の状態になります。要は、ケーキを作る材料がそこに置いてあるだけ。もちろんそのままでおいしい材料もあるかもしれませんけれども、経営が本当に目指しているのは右側のインクルージョンの状態です。
なぜ「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(包括性)」までセットにして語られているかというと、右側の状態にならないと、本当の意味でお互いが強みを発揮して企業としてベストなパフォーマンスを発揮できている状態とは言えないからなんです。
すなわち、我々は「女性が増えたよね」がゴールなわけではなく、男性女性、あるいは外国籍やLGBTの方々も含めて、それぞれが強みを出し合って、企業のパフォーマンスに結びついている状態を目指しているはずなんです。
栗原:これを目指さなきゃいけないのに、男性側が「女性たち増えてきたね。よかったね」で済んでいいはずがないんですよね。私は、このスライドを見て「右側をめざさなきゃいけないから、男性も一緒にやらなきゃいけないよね」ということを、非常に強く理解できたところがあります。
ですので、こんなところを日本もめざしていきたいなと思っている次第です。
小山:ありがとうございます。威津馬さん、今の栗原さんのお話を受けて、いかがですか。
田中:ありがとうございます。そうですね、うちの会社の場合、ダイバーシティ経営では、特段女性に限った話はしていないんですよね。さっきの女性(活躍推進が進んでいる企業)のほうが業績が高いという数字もあるにはあるんだけども。
本質的には、いろんな方々がそれぞれの得意なことを掛け合わせて、違う観点、違う価値観で物事を見る。その中で本質的に解決しなきゃいけない問題は何なのかとか、ビジネスの本質的な提供価値は何なのかといったことが研ぎ澄まされて、そのプロセスの結果、業績が上がっていくんだろうなと思っています。
そういったものを作りたいと思っていたので、あまり「男だから、女だから」みたいなのは言いません。私の帰国子女の経験も関係ありそうな気がするんですけど、うちの会社の中でそういった話が出ると、逆に違和感があります。全然ダイバーシティ&インクルージョンになってないよな、と思いますね。
そこを取っ払って、一人ひとりがマイノリティなんだよって言えるような企業文化をつくりたいなと思って取り組んでいるところでした。
栗原:ありがとうございます。
田中:でもちょっとショックですね、ジェンダーギャップの順位。
栗原:そうですね(笑)。
田中:ジェンダーギャップの話はちょっと謎すぎるんですけど、だいぶショックですね。
栗原:そうなんです(笑)。
栗原:ショックでしょうがないですけども、今「ダイバーシティって男女だけじゃないよね」っておっしゃっていたのは本当に同感でして。
本質的には、マジョリティとマイノリティがしっかりと手を取り合えるかという問題だと私は思っています。今の日系企業さんの多くでは、男性がマジョリティで女性がマイノリティです。
それをどうやって融合していこうかという話をしていると思うのですが、少し見方を変えれば、例えばさっき3人のパネリストで話をした時に、「みんな子育て中ですよね」という話をしていましたが、子どもの習い事とか、保護者会とか、そんな場に行くと、逆に我々男性はマイノリティじゃないですか。
女性だって場所が変わればマジョリティになって、もしかしたら男性やパパたちに対して、人知れず声にならない拒否をしているかもしれないんですよね。
もちろん今、我々が目下取り組まなきゃいけない一丁目一番地は「男女」かもしれませんが、本当は男女だけにフォーカスするのは間違っていて、マイノリティとマジョリティがお互いの強みを活かしあう組織にどうやったらできるのか、言いたいことを言っていいパフォーマンスを出せるのかということが本質だと、私も思っています。
小山:ありがとうございます。今おっしゃっていただいたように、「男性だから」「女性だから」ではなく、一人ひとりの生き方に目を向けられるような社会、企業体を目指していくとなった時に、今回の調査から少し引用してくると、先ほど威津馬さんにもぜひ話したいと言っていただいていた、男性をマジョリティとした時の話があります。
マジョリティである男性たちが何からプレッシャーを受けているかというと、「社会全体の風潮」という、実体のない、よくわからないものである。これに対してそれぞれ仮説があると思いますので、そのあたり話していただきながら、解明していきたいなと思っています。
小山:ありがたいことにチャットがすごく盛り上がっていて。私も追いながら聞いていると、やっぱりみなさんモヤモヤされている。私はこの得体の知れない風潮が関わっているのかななんて感じますが、いかがですか? 威津馬さん。
田中:得体の知れない感がしますよね。さっきの栗原さんのマジョリティとマイノリティのお話もあったんですけど、本質的に何がマジョリティなんだっけというと、よくわからないところもあって。
わかりやすいパラメーターで男と女とわけるとか、例えば弊社の中でいう「職種」とか。「やっぱり理系が多いよね」とか。そういうのがあったとして、特定のパラメーターをも持っている人がマジョリティといえばマジョリティなのかもしれないんですけど、でも中身ってみんなバラバラなので、気持ち悪い。
社会の風潮として「共通の価値観みたいなものがあるよね」と言っているんだけれども、実体がない。ちょっと議論のために厳しめの言い方なんですが、「社会の風潮」って書かれた方々って、実はご自身がそういった価値観をお持ちなんじゃないのかという仮説を立てているんです。
「社会のせいにしていませんか?」という仮説です。このへんにすごく気持ち悪さがあります。みんな社会の風潮だということで、自主規制してるんじゃないかなと思って。
実は自分の価値観に基づいて行動しているんですけど、「だって社会から求められているんだもん」って言っているだけなような気がして、ちょっとヌルっとした気持ち悪さを感じたところでした。みなさま、いかがでしょう?
栗原:ありがとうございます。威津馬さん、実はわたし、「これが答えの1つじゃないかな」っていうのを1つ持っていまして(笑)。この「社会の風潮」は、過去の成功体験だと思うんです。
「過去、日本はこれで成功してきたでしょ」「うちの会社はこれで成功してきたでしょ」という成功体験が、アンコンシャス・バイアスとなって、我々の無意識を縛っていると思います。
田中:なるほど。そういう意味で言うと、バブルが弾けて以降、日本は全然成長してないですよね。
栗原:(笑)。だから、もはや亡霊なんだと思います。
田中:ですね。いろんなことがうまくいってないのが、明確じゃないですか(笑)。
栗原:そうですよね。失われた10年は、もはや何十年にもなりましたが。
田中:(笑)。それで「昔はよかった」っていうのは明らかに間違っています。それを愚直に続けてもうまくいかないんだったら、ふつうは「変えようぜ」ってなると思うんですけど、ならないのは一体なんなんでしょう?
栗原:我々はまだ、決定的に困ってもいないですよね。日本という国は、国が壊れるほど、困ったことにはなっていないですよね。
田中:そうですね。
栗原:なので、これを続けて失敗することもないだろうということを、たぶんみんな何となく思っている。それは我々自身が親を見てきて、先輩を見てきて、そういうふうにもう刷り込まれてしまっているんだと思うんです。
こうしていれば大丈夫。こうしていれば普通。こうしていれば失敗はしない。こんなものがきっと我々を縛っていて、新しい改革に一歩踏み出すことを止めているんじゃないかなって、私は感じています。
田中:なるほど。つぶれることはないんですよね。死なないけど、生きてはいけるんだけれども、でも世界のいろんな国の私の友だち等々を見ていると、やっぱり日本って貧困国だなって思いますね。今は特に円安で、海外旅行に行けなくなっちゃいました。
栗原:そうですね(笑)。
田中:そういうリアルな話もあれば、なぜマインド変えられないのかという問題があって。ちょっと男女問題とは違う文脈での見方ではあるんですけど。
栗原:いえいえ。でも大事なところなので。実は「過去の成功体験」っていうのも、これもJ-WINさんで学んだんですけど、「オールド・ボーイズ・ネットワーク(OBN)」という単語で言われていまして。
Good Old Boysからきているらしいんですけれども、我々は男性というだけで、いわゆる男性のシニアの方々がいつの間にか会社を牛耳っていて、派閥とまでは言わないですけど、大学のグループがあったり、部署のグループがあったり、役員さんのグループがあったり。
そういうのに属しているだけで、ある程度のキャリアパスが見えるところがあるじゃないですか。
ただ、そこに女性は入れていただけていないことが多いんです。それは男性たちが知らず知らずのうちに、良かれと思ってやっている。女性を排除しようと思ってやっているんじゃなくて、自分たちが集まりやすいから集まっているだけなんです。
女性からすると、そういうネットワークにはなかなか入れないし、それがキャリアアップの阻害要因の1つになっているんじゃないか、と言われています。
栗原:それも「こういうグループで集まっておけば、こういうメンバーで代々引き継いでいけば大丈夫だから」という過去の成功体験が、少しあるんじゃないかと言われているんです。
田中:ちょっと話が変わっちゃったらごめんなさいなんですけど......。
栗原:いえいえ。
田中:オールド・ボーイズですよね。昔からのある特定の価値観が共有されて、それも同質的な人たちがいた時に、その価値観を払拭するべく、さっきちょっとお見せしたような女性管理職の(登用率の)KPIとかが出てくるわけなんだけれども。
社内で向き合っていると、オールド・ボーイズの昔の人たちというある意味の「負の遺産」を、なぜ現代に今生きている俺たちが精算せにゃならんのだっていうモヤモヤの声がすごく多いんです。
僕たちはフラットに実力主義だと思っているし、会社もジョブ型にどんどん転換していく中で、本当に仕事ができるかできないか、良くも悪くも実力主義的な制度に転換をしています。
人事としても男女関係なく、できる人がその仕事をやる感じの方向に向かわせつつあるんですけど。でもやっぱり何か、「過去の負の遺産の借金を、今俺たちが何で帳消しにしなきゃいけないんだろう」という、そこらへんのモヤモヤは感じるんですね。
栗原:威津馬さんは人事をやっていらっしゃるから、そうですよね。
田中:そう。その過去の借金、さっさと帳消しにしたいですね。
田中:そして誰もが活躍できるようにして、もうダイバーシティ推進室みたいな組織がないような社会がつくれたら理想だなとは思っていて。
栗原:おっしゃるとおりです。それができないから、まだ「室」があるんですよね。推進室がないと推進しないから。
田中:そうそう、そうなんですよ。うちのダイバーシティ推進室の課長は男性なんですけど、この間アメリカに出張で行ったんですって。
ゲイ・プライドか何かのLGBTQ系のイベントでお祭りがあったんで、一緒に踊ってきたんですって。そこで「私、こんな仕事してるんです」という話で盛り上がったらしいんです。
そこで課長が「ダイバーシティ推進室ってとこで仕事してるんです」って言ったら、「えー、そんなのがあるんだ。すごいね」って言われたらしいんですね。
でもその課長さんはすごくて、アメリカから皮肉のように捉えられたと。「やっぱり日本ってダイバーシティ後進国だから、そんなのがないといけないんですね」っていうメッセージかなって、ちょっといろいろ考えることがあったって言っていました。
このへんはなかなか遅れている感じですね。グローバルじゃない企業こそ国際事業部があるという話に似たような感じです。すいません、ちょっと話がずれちゃったけど、そんな話がありました。
栗原:いえいえ。例えばそのオールド・ボーイズ・ネットワークを、どうやって少しずつなくしていくか。私自身家事育児しながら仕事をしているし、その同士たちが最近増えてきたなと感じているんですけれども。それが社内のマジョリティの声になっているとは感じていなくて。
栗原:ちょっとデータを見て共働きと専業主婦世帯を比較すると、実は20年前くらいから共働きのほうが多い。今や倍以上、共働き世帯のほうが多いんです。
ということは、私が最初話をしたとき、自分がマイノリティというか、「こんなに子育てをガッツリやりながらキャリアアップなんてできないんじゃないか」くらいに思ってたんですけど、私の世代より下は、ほぼみんな共働きで子どもを育てながらやっているはずなんですよね。
それが「声なき声」になっちゃっている。本当はマジョリティ側なのに、すごくもったいないことなんじゃないかと感じたんです。
この青い線が共働き世帯で、赤い線がいわゆる専業主婦の世帯。これは男女共同参画白書からとってきたものです。こんなに差がついているにもかかわらず、まだ日本の企業の中で「男性も子育てしながらキャリアアップしようよ」という声がマジョリティの声には思えない。それが不思議でしょうがなくて。
もっと一緒に戦ってくれる、隠れメンバーがいるんじゃないかって思っているんです。そこにすごい希望を感じていますね。
田中:このグラフも興味深いですよね。
小山:ありがとうございます。衝撃ですね。
田中:ね。僕の超個人的な感覚なので、今は地雷を踏みそうなんですけども。専業主婦のおうちの家庭の方って、僕にはすごくお金持ちで、ぜいたくなイメージがあります。家計を支えるため、それぞれ夫婦ともどもやりたい仕事がある。そう考えたら共働きは僕からすると超自然なんですけど、それ(の違い)はどこにあるんでしょうね。
栗原:見ていると、男性の育児休暇がないですよね。弊社の場合男性の育休率は100パーセントです。ただ期間はバラつきがありますね。育児休暇といっても、1週間だけ取る人もいれば、1年取る人もいる。
私のチームにいた若手の方は1年取ってました。最終的にキャリアが遅れるとかあるかもしれないけど、その方は解脱されていたので。
「解脱」って言い方しましたけど、キャリアにはしばられず「それよりも子どもといたいんだよ、俺は」っていうので、ドーンと休みを取られていました。すばらしかったなと思いますね。そういうのが事例として増えていけばいいんだろうな。マジョリティへの、オセロみたいに、転換なのかもしれないですけど。
それがマジョリティになっても、まだ気持ち悪さはあるんですけどね。いろんな家庭があっていいとは思いつつ、本質的にそこが議論にならない社会って、どうやったらつくれるのか。それが一番大事なところかなとは思いますね。
小山:ありがとうございます。
田中:ビジネスで言うと、結果出せりゃいいんですよね。
栗原:(笑)。まあ、そうですね。
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