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今ある資源の価値を見つけ、伝えること(全4記事)

お茶の単価が「1万5,000円」なのに、毎日客足が絶えない茶室 地域に眠る“資源”を活かした、地方旅館のツーリズム戦略

成長戦略のビジョン「幸せ人口1000万~ウェルビーイング先進地域、富山~」の実現に向けて、県内外から有識者が集い、成長戦略の議論を深め、新たな政策やプロジェクト組成を図るため、富山県成長戦略カンファレンス「しあわせる。富山」が開催されました。本記事では「今ある資源の価値を見つけ、伝えること」のセッションの模様をお届けします。

「今ある資源の価値を見つけ、伝えること」

司会者:今回は「今ある資源の価値を見つけ、伝えること」と題し、富山県が目指すウェルビーイングについて語り合うスペシャルセッションです。富山にすでにある魅力的な資源。そこに少し何かを加えたり、伝え方を変えたり、最新のデジタル技術を掛け合わせることで、未来への変革はより進んでいきます。

本セッションでは、新しい価値を生み出しご活躍されているゲストのみなさんに、その実践やヒントを語っていただきます。それでは、これよりトークセッションを始めてまいりたいと思います。さっそくみなさまにご登場いただきます。

まずは、有限会社モメンタムファクトリーOrii代表取締役、折井宏司さん。続いて、株式会社ニューズピックス NewsPicks Re:gion編集長、呉琢磨さん。そして、株式会社和多屋別荘代表取締役、小原嘉元さん。そして、本日モデレーターを務めていただきます、前田薬品工業株式会社代表取締役社長、前田大介さんです。

(会場拍手)

司会者:以上、4名のみなさまです。それではさっそくトークセッションに入っていただこうと思うんですが、ここからの進行は本日モデレーターを務めていただく前田さんにお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

前田大介氏(以下、前田):よろしくお願いいたします。今日は富山から参りました、前田と申します。(富山県)成長戦略委員のメンバーにも入れさせていただきました。

自分としては一番苦手なモデレーターという役を務めさせていただくんですが、今日は心強い味方がいます。NewsPicks Re:gionの編集長の呉さんがいらっしゃいますので、実質ダブルモデレーターというかたちでやらせていただきたいと思います。

地域経済にフォーカスした「NewsPicks Re:gion」

前田:みなさん、寒いですよね。先ほどストーブに火が灯りまして、みなさんが帰る頃にはポカポカになってると思いますので、1時間半ほどお付き合いいただければと思います。それ以上に熱いトークをしていきたいと思います。じゃあ、ニューズピックスの呉さんからお願いいたします。

呉琢磨氏(以下、呉):はじめまして。みなさん、そもそもNewsPicksってご存知ですか? スマホで見れる経済メディアです。「経済誌や日経新聞は読んでますよ」という方はいらっしゃると思うんですが、最近は20代から40歳ぐらいまでの多くの方が、このNewsPicksを見てくれています。その中の地域経済専門のカテゴリーの編集長をやってます。

(スライドに)「地域経済のリアルがわかるRe:gion Radio」と書いているんですが、最近の地域経済の新しい価値観だとか、地域で生まれた新しいビジネスについてPodcastで語ったりもしていますので、ぜひチェックしてください。

「なんでこいつが来たんだろう?」って思われてるのかなと思ってるんですが、僕は富山は初めてで、ほぼ予備知識がないです。なので、よそから見た超フラットな視点で今日はいろいろお話ししたいと思ってますので、どうぞよろしくお願いします。

前田:よろしくお願いいたします。

一度敷地から叩き出されたものの、Uターンして旅館を継承

前田:では続いて、小原さんお願いいたします。

小原嘉元氏:(以下、小原):九州の佐賀から来ました、和多屋別荘の小原でございます。よろしくお願いいたします。おそらく、今日ここにいらっしゃる中で一番遠いところから来たんじゃないかなと思います。みなさん、佐賀嬉野温泉に来たことがある方いらっしゃいますか? ちょっと少ない。

前田:2人ぐらいいらっしゃいました。

小原:もうちょっとがんばりますね。

(一同笑)

前田:がんばりましょう(笑)。

小原:しゃべってる場合じゃなさそうな(笑)。佐賀県の南西部から来ました。取り組みの話はこの後しますが、私が大学を中退して旅館に入って、(スライド)3行目の2001年、一次再生の時に3代目として生まれました。

親に放蕩の限りを尽くしていましたら、当時のすご腕コンサルに「出て行け」と言われまして、敷地から一回叩き出されて独立しました。その後、旅館はV字回復していろいろとやっていたんですが、今から9年前、36歳の時に事業承継して旅館に戻りました。

ちょっと文字が小さいんですが、(スライド)緑色の2016年、6年前から地域文化を使った「ティーツーリズム」というものを始めました。コロナの1年前から、旅館の中に東京のオフィス・企業を誘致していたりと、この2つのことを今日はお話しさせていただければと思います。よろしくお願いいたします。

前田:よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

東京のIT会社を退職し、伝統産業の世界へ

前田:自己紹介で「敷地から叩き出される」なんてなかなかすさまじいんですが、すごくないですか? 今日は呉さんがいらっしゃいますが、みなさんぜひアプリでNewsPicksに登録してください。

実は小原さんは経歴をしゃべり始めたら4日間ぐらいしゃべれるんですが、この壮絶な人生や経営の再建の話が、NewsPicksの「シン・地方の虎」でご覧になれますので、ぜひ登録してご覧いただければと思います。

小原:ビジネスには一切役に立たないと思いますが、元気がない時に読んでもらうと、「あ、この人よりましだ」という元気にはなると思います。

(一同笑)

前田:ぜひ。今日、イベントに来る途中のバスの中で、30分でいろいろ教えてもらったんですが、めちゃめちゃ元気になりました。ぜひみなさん読んでいただきたいと思います。続いて、我らが世界の折井さんでございます。

折井宏司氏(以下、折井):折井と申します。先ほども高岡の話題で盛り上がっていましたが、伝統工芸高岡銅器の色をつける、100パーセント下請けのせがれとして生まれております。26歳から27歳になる年に東京のIT会社を退職して、家業を継ぎました。

今、伝統産業は非常に大変な状況で、最盛期から比べると業界的にはこの30年で4分の1まで落ち込んでいるんです。今日のテーマの「今ある資源の価値」というところも含めて、今までいろんなことに取り組んでまいりました。

私も「伝統工芸士」というものになっていますが、伝統工芸士だからって仕事があるわけではない。これは40年前、50年前のお話で、下請けであった会社をどういうふうにしていったかも含めて、「価値ある」ということについてお話しさせていただければと思います。

もともとは銅像・仏像の色をつけてましたが、今はインテリアやプロダクト、さらにはファッションといろいろ手掛けております。よろしくお願いします。

(会場拍手)

前田:ありがとうございます。

国立大の中で、学生ベンチャー企業数が7年連続最下位の富山大

前田:あらためまして、今日モデレーター務めさせていただきます、前田と申します。富山市と立山町にある、皮膚のありとあらゆる疾患薬のお薬の開発・製造・販売をやっている前田薬品という会社の代表です。

そして立山のふもとの限界集落で、レストランや宿泊施設、(スライドの)この田んぼの真ん中ではウエディングが行われてるんですが、美容と健康をテーマにした22世紀に続くような村を作っている、GEN風景という会社の代表です。それから、サウナホテルですね。

「裏門」と怪しい名前が書いてあります。実は今日のテーマになるかもしれませんが、今日は富山の人が多いと思うんですけど、日本にあまたある国立大学の中で、富山大学は学生ベンチャー企業数が7年連続ワーストワンという、由々しき事態があります。

地域の起業家であったり、企業がそこに対して投資をしていない、一緒にプロジェクトを組んでいない現状もあると思いまして、富山大学の正門の前に「裏門」という経営者と学生だけが入れる会員制のバーを作ってます。

製薬会社の仕事はだいたい1割ぐらいしかしていなくて、いろいろ怒られてるんですが、そんな会社をやってる人間が今日はモデレーターをさせていただきます。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

現時点で日本には1718の市町村がある

前田:題名が「今ある資源の価値を見つけ、伝えること」ということで、今回のセッションはデジタルをテーマにしてはいるんですが、今日のメンバーとはデジタルのことは1個もしゃべりません。

:先ほどのセッションもそうでしたよね(笑)。

前田:そうでした。結果こうなるんですよね。まあ、デジタルは最終ツールですから。地域の資源というと、おそらく「自然」や「食」とか、今日は折井さんがいらっしゃいますので、伝統工芸を中心とした「技術」があると思うんですが、歴史に裏打ちされて文化になっているものもあると思うんですよね。

こういったものを、佐賀の嬉野から……今日はようこそ遠い所ありがとうございます。我々の地元・高岡でプロダクトをやってらっしゃる折井さんと掘り下げつつ、全国のさまざまな地域資源の活かし方を見てらっしゃる呉さんと、いい感じでトークをしていきたいと思います。

まず、この会場で佐賀・嬉野へ行ったことのある人はなんと2人。オンラインの参加者の中で、佐賀・嬉野へ行ったことがある人はいますか? 少ないと思うので、佐賀・嬉野および、小原さんがやっていらっしゃる事業がすごいので、まずはプレゼンしていただきたいと思います。お願いいたします。

小原:まず、10月末時点でこの国には1718市町村あります。私が住む嬉野温泉は、1300年前から温泉が湧き出て、流出をしている地です。

(スライド)真ん中のうれしの茶は、500年前から栽培が始まっております。一番右が肥前吉田焼です。おそらく、富山でも有田焼まではご存じだと思うんですが、嬉野は有田焼の大外山に位置していまして、有田焼ではなく「肥前吉田焼」というちゃんとした固有名詞がついていて、有田焼と同じ400年の歴史があります。

温泉とお茶と肥前吉田焼、この3つの地域文化が揃っている地域・土地が、全国の市町村の1718分の1ということで、これが地域OSなんだろうと思います。この上で嬉野市民2万5,000人は生かされています。ここの町(富山県南砺市)と同じで、流れているものはあって、そこで何をするか。

2万坪もの敷地を抱える和多屋別荘

小原:私は別にマーケティング学や思想家でもないんですが、この2年ほどいろんな場所でお話しをさせていただく中で、100ページぐらいのプレゼンで必ず「この1枚をください」と言われる1枚が、これなんですね。

名前としては「三層ストラクチャー(嬉野版)」です。一番下の第一層が「普遍的価値」。パーマネントとして、1300年(温泉)、500年(うれしの茶)、400年(肥前吉田焼)。これはもう揺るがなく、脈々と続いてきた。

弊社の場合は旅館ですので、祖父の時代から今年で72年間、2万坪の土地を死守している。1センチ角も誰にも売ることなく、取られることもなく。富山の旅館・ホテルの事情がわからないですが、2万坪というと東京のニューオータニと同じです。だから、けっこう大きいってことですね。

その上で、一番左上の「泊まる旅館」。いわゆる1泊2食を主戦場とした旅館ですね。これを祖父の代の1950年から70年間やってきました。この後お話しするサテライトオフィスは「通う(旅館)」です。

今回、コロナではプロダクトの第三層だけがガタつきまして、2万坪(第二層)以下はびくともしてない。つまり、コロナ前にみなさまが温泉に入っても「ああ~」って言ってたと思いますし、今日も言うでしょう。100年後も200年前も、人は「ああ~」と言ってた。

そこの価値はたぶんもう変わらなくて、「月がきれい」とか「太陽があたたかい」とか、すごく難しい話になるのでこれ以上は言わないんですが、それぐらいの普遍性がある。

これがおそらく、1718の地域OSとして今日この瞬間にある。行政とか県は「新しいものを作らなきゃ」と一番下(第一層)を作ろうとするんですね。そうじゃなくて、第一層は今日にあります。このスライドはそういう表を私なりに作ったものです。

無料で提供していたお茶の価値が「1杯5,000円」まで上昇

小原:ここからがいわゆる「地域文化」で、ティーツーリズムというものをやってます。温泉の旅館の空間であったり、茶畑の外と茶畑と肥前吉田焼を使っています。

これのコンセプトは、今までは嬉野に来て、お茶の産地なので「お茶がおいしいね」という順番だったのを、羽田を経由して10万円の旅費をかけてでも、1杯のお茶だけを求めて嬉野に来てくださいと。「なかなか日帰りできないから泊まるか」という順番にしようということで、今やっております。

(スライドを指しながら)この白いコックコートに身を包んだ方々は全員茶農家です。土いじりから茶の栽培、摘採、リーフにして、当日のサーブから下膳、お皿を洗うところまで、お茶に関しては茶農家以外誰も触れないイベントからスタートしました。

これが今は我々の日常になっています。茶畑の3つの茶室と屋内に1つの茶室には、ほぼ毎日お客さまがお越しになっています。この空間でお茶農家さんがお茶を入れますと、3杯で1万5,000円いただいてます。分解しますと、1杯5,000円ぐらいのお茶になります。

6年前までは弊社の旅館でも、売店で買うお茶だけが1,000円とか2,000円で、基本的にドリンクのお茶はタダでした。6年ぐらいかかりましたが、今年茶畑で八十八夜に採れたお茶を、グラスや肥前吉田焼を使って単価を1万5,000円まで上げています。

大手企業とも契約を結んでいる「茶畑オーナー制度」

小原:ここは「四層ブランディング」と言って、茶農家の250人のうち3人のお茶農家さんは、今日までは「茶葉をいかに高く売るか」ということだけを考えていたんですが、今は第四層ビジネスとして、まずは「茶畑オーナー制度」があります。

実際の土の売り買いはしませんが、「この10メートル×10メートルは前田さんのものです」という、いわゆるステータスですね。プロの茶農家が栽培をするので、年いくらかいただく。採れたものはお送りするので、前田薬品のノベルティにするなり、前田家で飲むなりどうぞと。

ピエール・エルメ、慶應大学、ホテルニューオータニ、日本香堂、ディスカバー・ジャパンさんとか、今はだいたい50名ぐらいの方々と契約をしています。

第二層は、今までどおり茶葉を売る。そして第三層が「空間」ですね。3杯のお茶で1万5,000円とはいうものの、茶畑で飲むからこそ、そこまで価値が上がる。

例えばお堂にマネタイズするのと一緒で、茶畑が513年間茶葉をリーフにして売ること一択だけで商売していたのが、旅館の客室と同じように空間業として、茶自体に空間業が落ちている。

コロナ前から旅館をワークスペースとして貸し出し

小原:第四層としては、茶農家のナレッジです。茶農家であることに価値があって、嬉野のお茶農家の数名は、東京のマンダリン オリエンタル、今度できるブルガリのホテルにも我々のお茶が入ります。

ニューオータニの「禅」というオールスイートには、34年間オーガニックティーを作っている北野さんが月に1週間行って、ニューオータニの社員のようにティーバトラーとして働いています。

つまり、シンガポールから来るエグゼクティブの家族に、3日3晩ティーバトラーとして付くんですね。まだ叶ってませんけど、最終的にはプライベートジェットで茶農家がその家族と一緒に嬉野に来ることを描いています。ということで、稼ぎ方が右側に変わりつつあるところです。

もう1つ。2019年のコロナ前から、企業に貸し出しする取り組みをスタートしていました。コロナで旅館にまったくお客さんが来なくなりましたので、旅館の客室を自社大工とともにリメイクして、今は東京の企業を中心に10社、旅館の中にワークスペースを作っています。

日々、サテライトワーカーがだいたい40人から50人ぐらい働いている。お客さんでもなく、私が雇用しているスタッフでもなく、東京の10社近い企業の約50人ぐらいのスタッフの方が働いているという取り組みをやっております。以上でございます。

前田:ありがとうございます。みなさん拍手を。すばらしいですよね。

(会場拍手)

:すごい。僕は和多屋別荘さんの取り組みを記事にさせていただいて、先ほどご紹介いただいた図販を僕なりに解釈して作り直したりしてます。見るなり感動的というか、こういう解像度で地域の価値を捉えて、ビジネスとして展開していくことが階層構造になっている中で、全部に稼ぐポイントをちゃんと作れている。

この解像度でやってる人はほとんどいないというか、僕は初めて見た。お会いしたのは今日が初めてなんですが(笑)、すごく参考になる取り組みだということは間違いないと思います。

前田:ありがとうございます。みなさん、このようなかたちでダブルモデレーターでやっていきますので。

:恐縮です。ついつい口を挟んじゃって。

前田:じゃんじゃんやってください。ありがとうございます。みなさんも今、きっと引き込まれましたよね。(参加者には)ビジネスをやってらっしゃる方もいるし、あのパワポ資料欲しいですし、佐賀にも行きたいですよね。1人で富山県のみなさまを虜にされてますから、ぜひ佐賀に行きましょう。

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