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NEW REAL. - いま、リアルであることは、どんな価値があるか -(全3記事)

バーチャルで「愛着感」はどう醸成する?NFTの価値って何? 成田悠輔氏×伊藤穰一氏が語る、デジタル貨幣とコミュニティ

未来の課題解決型まちづくりを推進する、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」。未来と都市を語り合うオープンイノベーションフォーラムである、柏の葉イノベーションフェス2022が開催されました。本セッションでは、デジタルの最先端を研究する成田悠輔氏と伊藤穰一氏が、データやWeb3の視点から、アフターコロナの今、リアルであることの価値、デジタルとリアルのプラットフォームであるスマートシティのこれからについて語ります。

リモート時代に「コミュニティ感」をどう作るか

成田悠輔氏(以下、成田):もともと人間ってどうこう言っても、同じような空間を共有したり、ただただ時間を一緒に過ごしたことによって、得も言われぬコミュニティ感やグループ感を醸造するスタイルでずっとやってきたんだと思うんですよね。

物理的な生身の体とか、表情から見えてくるすごく繊細に伝わるものをいったん切った時に、人が「組織の中に属している」という感覚をバーチャルではどういうかたちで持ち続けられるのか、すごく興味があるんです。

新しいリモートアイデンティティ、バーチャルアイデンティティって、どういう感覚になると思われますか?

伊藤:僕は90年代からずっと、オンラインゲームとオンラインコミュニティフォーラムの両方をすごくやっていたんです。ゲームとフォーラムの違いは、フォーラムは言葉しかやりとりできないんだけれども、ゲームだと2日間かけてアイテムとかゴールドを貯めて、誰かを助けるためにそれをあげると、その人に何時間ものエネルギーを渡せるんですよね。

そうすると、「愛しています」っていう言葉と、何時間もかけて作ったものを渡すことは、デジタルのアセットがあるんですよね。僕もギルドをやっていて、ゲームの世界の中で価値の交換、ある種のリアリティの交換が言葉だけの場合とちょっと違うんですね。

ゲームの世界からの価値をそのままデジタルで移せるものって、例えばお金はそうだよね。お金を送るのはただのデジタルなんだけれども、お金を送金してもらうのとメールを送信してもらうのって、価値はぜんぜん違うので。

デジタルのWeb3の世界になると何がおもしろいかというと、コミュニティの中で資産がピュッピュと動くことで、成田さんが言っていた「コミュニティのパワー」がちょっと違うんですね。僕のオンラインコミュニティでも、お金に交換できないトークンがあるんだけれども、だいたい1時間が100トークンなんです。

みんながお互いにいろんなジョブをやるとそのトークンがもらえて、新しいメンバーをコミュニティに呼ぶのには1,000トークンのNFTを買わなきゃいけない。そうすると、10時間一生懸命いろんなボランティアをやったり、お茶会のお菓子を買ってきたりして1,000トークン貯めると、成田さんを呼べるわけですね。

ただ誰でも呼べるんじゃなくて、時間をかけないと呼べない構造ができるので、コミュニティの中のいろんなツールが動いてくる。

NFTは、単純にはコピーできない価値を作り出す“新しいメディア”

伊藤:あとはニューリアルでいうと、NFTのように1個しかないものって、いくらでもコピーできるものに比べてリアリティが違うし、リアルの世界の何かと紐づけられたNFTも、リアルの世界のものに対する絆が出てくる。Web3で参加する人たちのコミュニティのリアリティとリアルワールドとの接続は、Web3で少し変わりつつある感じがします。

成田:なるほど。テキスト、画像、音声をただ通信していたステージと比べると、そこにかけられた時間とか、過去に辿ってきた歴史や来歴を圧縮したり、唯一無二のNFTを交換できるようになると、純粋にバーチャルなコミュニケーションだけで成立しているように見えるコミュニティでも、熱量や愛着感が自然と作り出しやすいんですね。

伊藤:これ、そんなに新しいわけではないんですよね。さっき言ったゲームもそうですが、お金がどこにあるのか言うとメタバースにあるわけじゃない。ただの数字なのに、お金が動くとぐんと来るので。

一般の人たちとか学生、子どもでも、そういう価値の交換が日常的に動く感覚が出てきているんじゃないかな。どちらかと言うと、広めてツールとして使えるようになってきたんじゃないかなと思います。

成田:実際にお金って、人工的な記号によって時間とか歴史を圧縮するメディアじゃないですか。例えば僕が100ドル札を持っているというのは、僕が過去に何かをやって、「誰かにとって価値があった」とほかの人が判定してくれたから100ドル札をくれた。お金はそのシンボルなわけですよね。

そうすると、過去に行われた何かが圧縮されているのが「お金」というシンボルなんだと思うんですよ。そういう意味でいうと、さっきのお金の話と、時間を変換したトークンとかNFTは、時間をかけないとできないものとか簡単に複製できないもの、単純にはコピーできない価値を作り出す新しいメディアなんだと思いました。

コロナ禍で生まれた新たなワークスタイル

伊藤:ちなみにこの柏の葉キャンパス駅の周りは、ある種のスマートシティができあがっていますよね。いわゆるスマートシティと呼ばれるものが、新しいテクノロジーと生活とか、テクノロジーと心と体の共進化を作り出す可能性について、どういうふうに見ていらっしゃいますか?

それを象徴するような成功例をご存じだったりするか、それともあんまりうまくいかないのか(笑)。

伊藤:そうですね。前半でもコロナの影響の話があったと思うんですが、いろんな新しいワークスタイルはできていて、そして大企業の社員もいれば、最近はプロジェクトワークを中心とした人たちも増えていると思うんですよね。

昔はスタバでWi-Fiをつなげて、そこで会社をやったり、デザインをやったり、自営業をやった。テックコミュニティでは、スタバでスタートアップをやるのもすごくあったんですが、人の新しい生活の仕方や働き方はアンロックされていく。

さっきの話にもつながっていると思うんですが、ホームワークだと家族や友だちと一緒で、ここでは働くけれども、すぐにまた家族とご飯を食べたりする。9時17時で働く時間よりももう少しフレキシブルに、遊びや家族、学び、仕事を行ったり来たりできるような環境に一部の人たちは慣れてきたと思うんですね。

特にクリエイティブ業のように、フリーランスの人たちもたくさんいる産業は、これからWeb3に向けていろいろ動けると思うんです。そういう人たちの働く生活環境って、今まではあまり良いところがなかったので、そういう対応はできるんじゃないかなと思います。

スマートシティに必要なものは「フレキシビリティ」

伊藤:ただ、スマートシティをやっていく中で気をつけなければいけないのがフレキシビリティ。1つのパターンの1つのソリューションにしないのが重要なので、オープンアーキテクチャがすごく重要なのかなと思います。

あとは中国とかのスマートシティのプレゼンテーションを見ると、スマートシティはサーベイランスシティになっていて、プライバシーとかボトムアップの参加型のシステムの設計もすごく重要だと思うので、エコシステムのテイストもスマートシティの中ではすごく貴重な議論だと思うんですよね。

成田:なるほど。でも、トップダウンのサーベイランスシティにならないようなスマートシティでうまくいっているような代表例ってあったりするんでしょうか?

伊藤:逆に非代表例でいくと、中国の若い人たちと話していても、彼らは案外サーベイランスシティを良いことだと思っている。都市をやっていたり、政治をやってきた人たちは理系の人たちが多くて、彼らはエビデンスベイスドの国だと言っているんですね。

データを集めて、そのデータを基に最適化をする。そしてサーベイランスがあったことによって、「こういう悪いことをする人が減ったじゃん」といういろんなデータがあるんですよね。サーベイランスとデータとデータに基づいた合理化って、聞くとけっこう説得されそうな話なんですよね。

いろんなウェルネスを中心としたスマートシティの考え方はけっこう重要で、僕もすごく良い事例は見たことないんですよね。

クリエイティブが生まれる“余白”を残すことが大切

伊藤:今、いろんな実験は行われているので結果を見たいと思うんですが、海外のおもしろい都市、例えばSOHOだとか、サンフランシスコのTwitterがあるあたりも、意外といったん価格が暴落するんですよね。

そうするとアーティストとかが来て、カフェが来て、レイブパーティが来て、ワイヤードが来て、どんどん活性化する。いったん(株価が)安くなってアーティストが来ることが重要だったので、ウェルネスとか人の安らぎを中心としたシティにはクリエイティブ産業とかアーティストが必要な気がするんですよね。

成田:スマートシティに関してはド素人なんですが、部外者の印象としてはスマートシティというと、どうしても賢い人たち、そして意識が高い人たちのトップダウン的なビジョンや計画に基づいて作っていくかたちになりがちな印象があるんですよね。

それとさっきおっしゃっていたような、すごく乱雑でノイズ的な要素とか、ごくごく普通にこれまでの生活を継続したいだけの大多数の人たちとの間に、見ている世界や見ている街並みの齟齬が生まれちゃう。こういう問題が、あらゆるところで生まれがちなのかなっていう気がしていて。それをどう乗り越えるか。特に、スマートシティってきれいに作っちゃいがちだと思うんですよね。

伊藤:そうですよね(笑)。

成田:そうすると、さっきおっしゃったようによくわからないアーティストが流れ込んでくるとか、乱雑なパーティやカフェ的なものが、突然ボコボコと生まれる余地が生まれにくいのかなという印象がありますよね。

なので、計画の中にそういうものが生まれるような遊びをどう残しておくか、余白をどう残しておくかが、実は一番重要な問題なのかなとうかがっていました。

デジタル時代の今は、ある意味「監視経済そのもの」

成田:監視問題に関して、さっき「中国の若い世代の人たち」とおっしゃっていたんですが、それと同じような感覚をどうしても持たざるを得ない部分もあるんですよね。インターネット産業やWebビジネスが可能にしたような生活も、ある意味では監視経済そのものな部分があるわけじゃないですか。

一見、プライバシーとか監視経済に対するアレルギーを示しているように見える。日本社会とか日本人という存在でさえ、普通のWebサービスには完全に身を委ねちゃっているわけですよね。

そうすると、結局僕たちはプライバシーと聞かれれば重要だと思うし、その言葉で言われるとアレルギーを示すんだけれども、実際の行動としては大して気にしていないんじゃないか。むしろ、委ねちゃう方向に流れていく動物なんじゃないかという気がするんですが、その点についてはどう思われますか?

伊藤:そうですね。たぶん、個人がプライバシーを意識するのは遅くなってからだと思うんですよね。公害じゃないけれども、本当にぐちゃぐちゃになっちゃうと思うんですね。プライバシーについては、僕も前から難しいかなと思っていて。

プライバシーがなくなってくると、最適化というか、自己適応型の複雑系システムになりづらくなって中央集権になる。特に国だとそうですし、ある種の新しい差別が起きてくると思うんですよね。AIも含めて、ふさわしくない活動をしている人たちは排除されていくので。

尖った人たちがいることによって、新しいアーティストもそうですし、新しい政治的なアイディアもそうですが、アンポピュラーなアイディアや活動とコンペティションコンペティショナルアイディアズの発生が減っちゃうことで、すごくマクロのところではけっこうコストがある気はします。

僕はそこが一番のリスクだと思うんだけれども、一般の人たちにはそこまで自分たちの責任ではないので、アーキテクチャが変わっていく中で、どうやって大きな改革や新しいアイディアが生まれてくるようになるのかな? という感じがするんですよね。

多様性を取り込むために必要なこと

成田:「マクロな摩擦」とおっしゃったところは、僕もすごく興味があって。これだけコンテンツやアイディアのプラットフォーム、マーケットプレイスが効率的にできあがってしまったじゃないですか。そうすると、勝ったものとかスーパースター的なものがドカッと巨大なマーケットシェアをとることが、当然起きやすくなりますよね。

その結果として、昔はさまざまな情報の摩擦やコミュニケーションの難しさとかでなぜかローカルに維持できていたようなタイプの、全体から見るとすごく異質で、必要性があるのかどうかよくわからないタイプのメディアやコンテンツとかが、すごく生き残りにくくなっている気がするんですよ。

例えば、ローカルな国内の問題を扱うようなジャーナリズムとか、そんなにファンを獲得できないタイプの音楽や映画とかが、それの典型かなと思います。こういうものが、気づいたらぜんぜん維持できなくなっちゃうことがあり得る気がするんですよね。

伊藤:これもブログとかソーシャルメディアの時代から気になっているんですが、圧倒的なヒットの大きさによって、「power law」みたいなものがあるんだけれども、一方でうちのHenkakuトークンじゃないけれども、違うcurrency(通貨)で違うゲームもできちゃうんですよね。

今までよりも変な人たち同士で集まることができるので、今まで存在できなかったサブカルチャーにもエネルギーが入ることがあると思うんですね。だから、ヒットがどんどん大きくなっていっちゃう中で、ロングテールとよく言われているしっぽのほうにも、今まで行かなかった血が流れる部分もあるかと思うんです。

ただ、多様性をどうやって取り込むか。脳の多様性もそうだけれども、趣味とか、「何でハッピーになるか」という多様性がうまくデジタルの世界で活性化されると、少し分散はできるんじゃないかなと思ってはいるんですけどね。ただ、2つの原理が競争しているような気がするんですよね(笑)。

「お金で買えない価値」の周辺ビジネスは伸びる

成田:伊藤さんのコミュニティでは、普通の貨幣と交換できないトークンを使われているとおっしゃっていたじゃないですか。

伊藤:そうですね。

成田:普通の市場、普通のお金とトークンを切り離すことが、やはり大事だと思われますか?

伊藤:そうですね。例えば成田さんがいる学術のシステムでも、月謝は払うけどPh.D.は買えないじゃないですか。Ph.D.とか学位は、お金で買えないある種のトークンで、それで大学のシステムがブロックチェーンのようにちゃんと認証しているわけです。

お金で買えないもの、例えば家庭を存在するのにはお金が必要だけれども、純愛はお金で買っちゃいけないし、教会の中の神様との交流もお金では買えないけれども、教会というビジネスが必要。あとはLVMHがやっているワインメーカーだとか、ファッションの人たちとか、アートの世界は案外お金のにおいがあまりしちゃいけないんだよね。

でも、お金で買えない価値の周りにあるビジネスは意外に大きくなったりするので。たぶん、昔からお金で買えないけどお金と交換できるものがあって。Ph.D.をとってもお金で売れないけれども、本来であればお給料も高くなったりと、お金に影響する価値があるけれども直接は交換できない。

僕らのトークンでも、お金に交換できないけれどもトークンがないと入れないイベントとか、トークンがないとできないことがあって。それとお金の両方があると、なにかシステムが生まれる。お金じゃないけれども価値があるものを、今いろいろといじっているんですよね。

成田:なるほど。

現代社会は「ヒッピー時代に似ている」?

成田:僕、先週たまたまパリコレ、パリ・ファッションウィークを見に行っていたんですよね。それが、今おっしゃったものの1つの例かなと思って。

伊藤:そうですね。

成田:パリコレって100くらいのブランドが出ているんですが、中国のブランドってまだ1つしかないらしいんですよね。だから、どんなにお金があってどんなにユーザーや消費者がいても、簡単に入ってこられないような空間を作り出している。

さっきおっしゃったLVMHとかは、それを使うことによって彼らのコンシューマービジネスの側を栄えさせるという、そのインターフェースのデザインをやっているということだと思うんですよね。

伊藤:そうですね。

成田:ハイブランドとか、トップなんとかと言われるような領域のブランドビジネスや学位ビジネスがその例で、そういう仕組みを一部のエリート選民層のコミュニティだけじゃなくて、もっと有象無象のコミュニティでも同じように作れるようになるかもしれない、というお話なのかなと思いました。

伊藤:そうですね。それが希望と期待ですね(笑)。

成田:希望ですよね。それに向けて、今一番立ちはだかっている壁は何なんですかね? 技術的な壁なのか、それともみんなの価値観とか文化的な壁なのか。

伊藤:文化的な壁だよね。Web3のいろいろな夢を持っていながら、「でもやっぱりお金って良いよね」「みんなお金でみんな測られちゃうよね」とか。たぶん、若いコミュニティの中には脱お金系の人たちもいて、そいつらの文化はかなりおもしろくなっている。色んな意味で、ヒッピー時代に似ているんですよね。

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