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ゆたかさって何だろう? 今紐解く、ウェルビーイング(全4記事)

多くの日本人は、「死亡時」に最も多くのお金を保有している 「ネガ思考」がもたらす金銭感覚と、真の“豊かさ”に必要なもの

一人ひとりが多様な生き方を選択できる時代、注目されている概念が「ウェルビーイング」です。心身ともに健康で、さらに社会的にも満足できる状態を表す概念ですが、その本質はどこにあるのでしょうか。本セッションでは、「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマに研究する予防医学研究者の石川善樹氏と、レオス・キャピタルワークス代表・藤野英人氏が対談し、本当のウェルビーイングの姿を探ります。本記事では、「人生に対して不安が少ない人」の特徴について、日本人の性質やお金の観点を絡めながら解説します。

「お金がないと生きていけない」という、都会ならではの強迫観念

藤野英人氏(以下、藤野):コロナが始まる前は9時5時で会社にいて、密になって働いてがんばって、できれば飲み会もやったりすることで、忠誠心やロイヤリティを示した。逆に、そうしないと不安でもあるという価値観がずっとあったわけですよね。

それがコロナになることによって、出社をする・出社をしないについても選択肢ができた。じゃあ、その中で自分がどういう仕事をしていくのかに関して、むちゃくちゃ決められている会社もあるかもしれないけれども、そうでないのもあったと思います。

かつ、ワクチンを打つのか・打たないのかについても、実は日本はけっこう任意だったりしているじゃないですか。そういう面で見ると、確かに僕らは(コロナ禍で)すごく不安になったけれども、今までの日本に比べてみるとすさまじく選択肢が広がった感じはしますよね。

石川善樹氏(以下、石川):そう思いますね。それこそ藤野さんもそうだと思うんですけど、地方移住という選択肢もようやく入り始めているというか。

藤野:そうですね。

石川:東京のような都会にいると、「お金がないと生きていけない」という強迫観念があるというか。

藤野:ありますね。

石川:「お金がないと(生活が)回らない」という感覚になるんですが、地方では必ずしもそうではなかったりするんですよね。この間、香川県の三豊市というところに行ったんです。おどろいたことに、大きな一軒家の家賃3,000円でしたね。

藤野:わかりますよ。ありますよ。

石川:しかも、年間です。

藤野:年間!?

石川:年間3,000円(笑)。

藤野:それはわからなかったな(笑)。

石川:だから、お金じゃない世界や、お金にそこまで頼らなくても生きていける世界を見ると選択肢が変わりますよね。

藤野氏が富山で購入した古民家は、土地代含めて150万円

藤野:私も富山の朝日町というところで古民家を買ったんですよ。めちゃくちゃ広くて、元庄屋さんのお家なんですよね。1階に80名ぐらい人が入れて、結婚式のパーティーもできる。もともと庄屋が寄合をしていた場所なので、築100年以上はある古民家で立派なものなんですよ。

とにかく広大な敷地があるんです。それがいくらかという話ですが、150万円なんですよ。これ、全部土地も入れてですよ。

石川:おお。土地も含めて。

藤野:それを買ったら、今度は隣のお家の敷地が空いてたんですが、(隣の家の家主が)もう東京に行っちゃっていて、「要らないからタダでもらってくれ」と言われて。

もちろん固定資産税は払わなきゃいけないんですが、土地を持つよりも固定資産税を払うほうが重荷で。なので、土地そのものはタダみたいになっているところが、すでに日本中にいっぱいあるんです。超巨大なところで、海に近くて、ホタルが飛んでいて、泊駅という駅まで歩いて10分ぐらいのところが、150万円とか200万円で買える。

似たような物件はいっぱいあるんですよ。東京でここらへんのタワマンだと、ちっちゃい80平米ぐらいでも今は1億円とかするじゃないですか。だからそもそも生き方というのが、「お金がなきゃ生きられない」っていうところが、地方はだいぶ違いますよね。

多くのコミュニティに参画している人はウェルビーイングが高い

石川:もうちょっと話すと、今は地方の選択肢という話でしたけど、人生の選択肢を広がりを持って捉えられている人ってどういう人なんだろう? と思うんですね。これは明確な特徴があって、言われりゃ「当たり前だろう」と思うかもしれないですが、いろんなコミュニティに参画している人なんですよ。

藤野:なるほど。

石川:都会にもコミュニティがあって、地方にもコミュニティがあって、いろんなコミュニティに参画している人は、やっぱりウェルビーイングが良いんですね。

藤野:そうですよね。

石川:もっと言うと、いろんなコミュニティにいろんな顔で参画している人のほうが、よりウェルビーイングが良いんですよ。どういうことかと言うと、例えば私はこの場に研究者みたいな顔で来ているんですが、息子が小学校1年生で、大谷翔平に憧れて「野球をしたい」と都内の地元の野球クラブに入ったんですね。

地元の野球クラブなので、お父さん・お母さんがボランティアでコーチをしたり、スタッフをしているんですが、暗黙のルールがあって。それは「年齢と仕事の話をしない」なんですよ。

藤野:いいですね。

石川:(年齢と職業によって)微妙なヒエラルキーができちゃうこともあるんだと思うんです。だからそういうのがあると、研究者じゃない顔で参画できるんですね。

藤野:「なんとか君のパパ」。

石川:そうそう。こうやっていろんなコミュニティにいろんな顔で参画しているのは、選択肢の広がりを感じられるというか。

人生の選択肢としての「副業」のメリット

石川:それと、例えば「研究者」という面で全部のコミュニティに行っていたとしたら、研究者じゃなくなった時に一気に居場所を失ってしまうというか。

藤野:確かに。

石川:そういう意味で、セーフティネットとしても、いろんなコミュニティにいろんな顔で参画する。そうするといろんな人がいるので、「いろんな生き方、働き方があっていいんだ」って選択肢の広がりを感じられるのかなと思いますね。

藤野:物を買った時とか、何かをした時に「不満だ」ってハードクレームをするシニアの人がいるじゃないですか。そういう人の特色を見ると、お友だちがいないっていうのが圧倒的にあるみたいです。

特に男性で起きがちなのは、ずっと仕事一筋である日定年を迎えてしまうと、家族とも関係を作り切れていない。それから、地域社会とは断絶されている。でも趣味もないとなると、完全な独りぼっちになってしまうので、そういう人のウェルビーイングってすごく低いじゃないですか。

石川:そうですね。

藤野:だから、いろんなところでコミュニティを作っていて、多面的な顔でやっている人とそうでない人の差を生む原因は、日本の場合は「会社とどう向き合うのか」がけっこう大事なポイントかなと思っているんですよ。その観点でも、副業はすごくいいなと思っていて。

「別の所属を与える」という意味で見ると、仕事人間に副業という機会を与えることによって、お金の側面ではなくて、実は人生の選択肢を持てる。いろんな生き方があって、いろんなコミュニティがあって、そこに会社以外のものがあることに気がついたら、けっこう人生が開けるんじゃないかなと思っているんですよね。

お金がいくらあっても、不安はなくならない

石川:「人生に対して不安が少ない人ってどういう人なんだろうか?」という調査をしたことがあって。

藤野:おもしろい。

石川:未来はだいたい不安じゃないですか。

藤野:確かに。

石川:最初の仮説は「お金だろう」「お金をたくさん持っていたほうが不安は少なくなるんじゃないか」と思っていたんですが、結論はノーだったんですね。お金はいくらあっても不安はなくならないと。

藤野:そうですね。間違いないと思います。

石川:持つべきは、やっぱり「関係性」だったんですよね。いろんな関係性を持っている人は、人生に対する不安が少ない。これは人間関係だけじゃなくて、畑をやっているとか、自然との関係性とかも含めてですね。人生を豊かに生きる、次の豊かさというところなんですが、どちらかと言うとお金は「ネガティブを増やさないため」にはすごく大事です。

藤野:そうですね。

石川:確かに、お金はネガティブ解消には非常に便利です。加えて、まさに「つながり」というのが、プラスを増やしていくところなんだなというのが、いろんな研究の総括です。だからすっごいシンプルに言うと、ウェルビーイングのためには「金」と「つながり」っていう(笑)。その2つがあれば、いろんな選択肢に対して自己決定がしやすいということですよね。

「不安」は、多くのビジネスのネタになっている

藤野:これ、すごく示唆的だなと思うのは、実は不安っていうのは多くの商売のネタになっていて。“不安スイッチ”みたいなもの、もしくは寂しいというスイッチを押している会社がめちゃめちゃ儲かっていると思うんですよ。

例えばSDGsは、もちろんつながりを作っているというのもあるんだけど、実は「不安」とか「寂しい」という気持ちの解消という側面もすごくあると思うんですよね。GAFAとかGAFAMと言われている会社群は、実は不安とか孤独を商売にしているところも。

石川:そうですね。

藤野:ゲームとかもそうじゃないですか。

石川:そうですね。もうちょっと正確に言うと、SNSの黎明期は実はつながりを豊かにすることに貢献していて、実際に今でもシニアに限定すると、SNSはウェルビーイングとすごく関連が強いんです。ただ、若者を見ると、SNS利用は疎外感や孤独感とすごく強い関係があって。だから、あまり(SNSは)しないほうがいいと最近は言われるようになってきていますね。

藤野:なるほど。つながりをどう作っていくのかという時に、ウェルビーイングとお金の問題をもうちょっと掘り下げてみたいんですが、多くの日本人は死んだ時が一番お金の保有残高が大きいそうなんですよ。それで、70代とか80代の人に貯金をする理由を聞くと、「老後に備えるため」と言っているんですよ(笑)。

1つは、70とか80歳でも自分をまだ老人だと思ってないことそのものは、たぶんいいことでもあると思うんだけど、将来に対する不安が「お金を余計に保有する」という願望につながっている。

お金の所有が安心につながると言うよりも、お金を集めることによって不安を解消しようと思うけど、結局お金を集めても不安は解消しない。でも、解消しない不安を解消するために無限にお金を集めるという状態が起きているので、この問題はけっこう根が深いなと思っているんですよね。

日本人は個人金融資産の中に占める現金の比率が55パーセントで、2,000兆円もの個人金融資産があるんだけど、1,000兆円もの現金があるんですよ。それが消費もされないし、投資もされないし、寄付にも回らないんだけれども、それは日本人がネガ思考や不安解消思考がすごく強いのかなと思って。

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