2024.10.10
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林篤志氏(以下、林):今日は第2夜ということで、「社会システム」という非常に大きなテーマになっています。
僕たちが生きているこの社会における「社会システム」というものは、その言葉の響きからしても反人間的であると。世界全体が反システム化していく中で、僕たちは「共同体」とか「コミュニティ」と言われるものをどのように保持していけるのか。これは非常に大きなテーマだと思っています。
一方で「システム」と「コミュニティ・生活空間」みたいなものは、二項対立なのかというと、そうではないと思っていて。例えば今のDAO(自律分散型組織)とか、いわゆるブロックチェーンなどの技術を使うことによって、生活空間を新しいものにアップデートできる可能性も感じています。ただ、本当にそれが実現可能かどうかというと、難しい。「まだまだ怪しい状況である」というのが現実的な見方だと思います。
ただ現状のまま進んでいくと、「快適で便利だけど、結局奴隷なんじゃないか」といった大きな危機感を、みんなどこかで感じていく気がします。ここからどう抜け出していくのか。
そのためには、具体的なアプローチが必要です。システムからの脱却、もしくは新しい共同体の立ち上げみたいなものを、どうデザインしていくのか。今日はこれを議論していきたいと思います。
今日お集まりいただいているスピーカーのみなさんは、猛者だらけですね。正直、モデレーターを務めるのは非常に心苦しいわけなんですけれど。時間も足りるかどうか不安です。
みなさんさまざまなバックグラウンドで活躍されていて、考え方や持っている視座、アプローチも微妙に異なりますが、共通する部分も多いと思うんですね。今日はこういった論客のみなさんをお招きして、その中でクロスポイントみたいなものを見出していきます。僕としては、それが聞いてくださっているみなさんの暮らしのヒントになればいいなと思っております。
また、WEというプロジェクトの解像度をぐっと上げる機会にもなればいいなと思います。ということで、今日は4名の方にご登壇をいただきます。本当にお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。
まずはお一人ずつ自己紹介をしていただきながら、「社会システム」というテーマに対して「思うこと」「課題」「可能性」などお話しいただきたいと思います。
林:まず1人目のスピーカーは文化人類学者の小川さやかさんです。よろしくお願いします。
小川さやか氏(以下、小川):よろしくお願いします。先ほど急に、自己紹介のスライドがあったほうがいいことに気づき、今速攻作りました。ちょっといい加減ですが。小川さやかです。よろしくお願いします。今、立命館大学の先端総合学術研究科というところに勤務しています。
私の専門は文化人類学で、特に「贈与」「交換」「所有」「分配」「貨幣」などをテーマにする経済人類学が専門です。
大学院生の頃はタンザニアの路上商人、いわゆるインフォーマルエコノミーを対象に研究をしていました。その商慣行や商実践などに関する、ずる賢い知恵、狡智、つまり悪知恵についてひたすら研究していました。
その後、2000年代後半からアフリカ諸国を席巻するようになった「中国の廉価な模造品交易」に関心を持ちまして。中国や香港に行くようになったタンザニアの商人たちを追いかけて、私も中国や香港で研究をするようになりました。
中国製品を輸入するブローカーたちは、SNSとか独自の地下銀行というものを発達させているんですね。こうした、「アジアとアフリカをまたぐインフォーマルな交易システムができていく様子」について研究しています。
最近は「ICTやブロックチェーンを活用した、アフリカ諸国のインフォーマルエコノミーの変容」など、いろんなことをやっていて。E-informalityとか、インフォーマルなプラットフォーム資本主義と言われるものが、どういうロジックで動いているのか研究しています。
アフリカ諸国では先進諸国が経験した段階を踏まずに、新規のテクノロジーの導入によって異速度で発展する「リープフロッグ現象」が進展しています。もともと独立営業だった行商人たちが、あっという間にギグワーカー化してしまったり。
もともと銀行システムをまったく信用していなかった商人たちは、すぐさま電子マネーとかブロックチェーンを導入してしまうんですね。むしろ、日本よりある面では貪欲にテクノロジーを導入する傾向が見られます。
小川:そもそもインフォーマルエコノミーは、1970年代にILOが見出した時には「偽装失業層」「不安定労働層」と呼ばれ、「経済が発展していくと、やがて縮小していく。あるいは消滅するだろう」と言われていました。それが、縮小どころかめっちゃ拡大しているんですね。
現在では「主流派の経済システムとは違う、別種の経済である」という見方が主流となっています。登壇者のみなさんの本を読んでみましたが、インフォーマルエコノミーは、ある意味では新規のテクノロジーと相性がいいんですよね。
彼らは経営がうまくいっても、リスク分散のために規模の拡大を目指さないし、20~30の小さな複業を持ったりもしていて。何が本業で、何が複業かもわからないんですけど、彼らはたくさんの事業を持ったりするんですね。
インフォーマルエコノミーは、もともと自律分散的で独自の互酬的ネットワークによって、都市の秩序を自制的にオートポイエーシス(自分で自分の構成要素を作り出すこと)していくことが指摘されています。
さらに、全般的に不服従と独立自衛の精神がめっちゃ高くて。「国家なんて関係ない」みたいに生きている人たちなんですね。そういう意味でも、「ICT×インフォーマルエコノミー」はおもしろい領域なんです。
こういった研究と、もう1つは「マルチモーダル・エスノグラフィーの構築」というものもやっています。人類史上には、貝殻の貨幣、石の貨幣、クジラの歯の貨幣といった種類だけでなく、すごく豊かな自生的貨幣の発明があるんですね。
その貨幣を使って築いていた「贈与システム」や「社会システム」の論理がおもしろいんです。「記憶」や「人格」を持っている貨幣とか、法定通貨と互換性があるにもかかわらず、交換領域が決して交わらない貨幣とかですね。
「そういうユニークな貨幣がどんな世界を作っているのか」ということを、動画や音声、シリアスゲーム等を駆使したデジタルエスノグラフィーを作って体験してもらって。それによって、民族史から未来をプロトタイプするようなアイデアを導き出せたらいいなと。こんな研究をしています。すみません、長くなりましたが以上です。
林:続きまして伊藤穰一さん、よろしくお願いします。
伊藤穰一氏(以下、伊藤):伊藤穰一と申します。私はずっと前からインターネットのベンチャーと、インターネットのアーキテクチャーに興味がありまして。ベンチャーをやりながら、オープンプロトコルやコモンズの、けっこう重要なところをやってきています。
クリエイティブコモンズの代表、The Open Source Initiativeの理事、Mozilla財団の理事、ICANNの理事とか、いろんなガバナンスのところをやってきました。
インターネットってけっこうおもしろくて。レイヤーに分けて、コモンズのところをオープンプロトコルでサンドイッチしたんですよね。エンタープライズとオープンなものが組んだんです。このレイヤーシステムこそが、インターネットがすごく伸びた特徴の1つだと思うんですね。
私は「今の資本主義経済の中での非営利団体のあり方」を勉強していたというトラックがあったので、こういう非営利団体、財団の理事やNPOのお手伝いをずっとやってきました。また2004年には「創発性民主主義(Emergent Democracy)」という論文も書いています。
それは「ソーシャルメディアからエマージェントな民主主義がどんなふうに出てくるか」というものなんですが、それを今、DAOでもう1回見直すタイミングかなとも考えています。
もう1つ、だいぶ前から会計にすごく興味があって。「会計と文明の関係性」ってすごく重要だと思っているんですね。7,000年前にスマリアの粘土タブレットで簿記が始まって、大量のリソースを管理することができるようになる。そしてスケーラブルな社会となったことによって、何万人の都市がメソポタミアに生まれてくるわけです。
600~700年前になると紙による複式簿記が登場します。そこで初めてプロバビリティと数学が出てきて、それで今の資本主義経済が生まれます。そして真ん中の王様から、企業だったり投資家だったり、少し分散するわけですよね。
そして、今の資本主義経済と株式会社のような設計ができてきます。それが大量生産になり合理化していって、どんどんお金で計るようになって。やっぱりLanguageの文脈で、お金の合理化によって今のいろんな「社会問題」「貧富の差」「環境問題」が出てくるんじゃないかな。
伊藤:みんなファイナンスだとか、けっこう上のレイヤーの話をするのが好きなんだけど、実は会計のレイヤーがすごく重要です。
いくら上のレイヤーをいじっても、そもそも「単位」「しゃべるLanguage」「パラダイム」を変えないと、言語が変わらない。言語が変わらないと、想像することが変わらない。想像することが変わらないとゴールが変わらない。ゴールが変わらなかったら、いくら中のストラクチャーを変えても、できあがるものはあまり変わりません。
今の単純な大量生産型の、1点のcurrency(通貨)に対する合理化と、「物があればあるほど勝ち」みたいなゲームを変えない限り、いろんなツールがあっても、いろんなルールを変えてもアウトプットは変わらないんじゃないかなと。
そうするとやっぱり会計のレイヤーにおいて、デジタルかつプログラマティックで、いろんなcurrencyがあっていいと思うんですね。会計システムがドルとか円に換算するようにすごく単純化されていて、それが縮小化の理由の1つでもあって。
リアルワールドでも、実はお金に落とせない価値はたくさんあります。例えば大学の学位はお金で買えない。大学にお金を払うけれど、入学してからは一番偉そうにしている大学の先生に認められないと学位はもらえなくて。外側にあるビジネスと、内側にあるアカデミズムではぜんぜん違う世界、文脈であると。
キリスト教の牧師さんにお祈りをしてもらうことも、神様とあなたの関係だから、やっぱりお金で買っちゃいけないんだよね。寄付をしてもいいんだけど。夫婦でも、お金で愛は買えないので、家庭内は純愛で回さなきゃいけない。
だから、お金で買えないものは実はたくさんある。その構造と社会システムは重要だと思います。ただ、その両方のバランスがとれると、お金のほうもうまくいく。LVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)もお金で買えないブランド(イメージ)をお金に換えるのが上手だし、キリスト教の教会もビジネスとしてうまくいっている。
大学も無形なものによって、すごいビジネスができているんです。「お金」と「お金に換算できないもの」の関係性がすごく重要だよね。その価値観を、社会でちょっとひっくり返すと、今いろんな問題になっている社会システムを少し変革できるんじゃないかなと。
もちろん、僕個人としても細かいところをいじって、感覚を覚えて新しい素材を知ることもあります。でも、そもそもそうすることの目的は何かというと「文化のレイヤーをいじること」であると。それが一番大きなレバーだからです。
今の若者とか新しいシステムからドロップアウトした人たちは、文化とかアートを持っていると思うので、そこにタップインしたいなというのが今の個人的な課題です。
林:ありがとうございます。本編でいろいろお話をうかがいたいと思います。続きまして宮台真司さん、よろしくお願いします。
宮台真司氏(以下、宮台):宮台真司です。今、東京都立大学の教員をやっています。あと至善館という英語大学院の客員教授もやっています。もともとは数理社会学者で、新生東京大学の3人目の社会学博士ということで、学問的にはデビューしています。
おそらく「90年代半ばに援助交際を広めたやつ」と記憶している人が多いと思います。あるいは『朝生』ですね。当時「宮台 vs 全員」で毎回議論していたことを覚えている方もいるかもしれない。しかしまあ、年少の方はそれも記憶していないかもしれません。統一協会問題を記憶していないようにね。
最近では朝日新聞とのバトルで、朝日新聞の部数をずいぶん減らすことができまして。そのことで知っていらっしゃる方もいるかもしれません。
朝日新聞の部数は今急下降状態で、400万部を切ろうとしている。朝日新聞による僕の記事の削除を、僕が暴露したことによって、下降状態が超加速しているようです。とても楽しくてたまりません。
僕はもともと数理社会学をやっていたんですけれども、もともとフィールドワーカーでもあって、ナンパ師でもあって。いろんなことをやっています。
最近のことで言うと、今年、性愛に関する本をたぶん4つ出すだろうと思います。すでに2つ出ています。
また、さっき言った英語大学院での「経営リーダーのための社会システム論」というレクチャーを本にしたものが今年はじめに出ています。その他、今回の統一協会問題とか、加藤智大死刑問題とか。統一教会問題は朝日新聞に書きましたけど、加藤智大問題はもうすぐ共同通信の全国配信でも出ると思います。
小川さんがいらっしゃるので、ちょっと人類学寄りな話をしますね。例えば日本は過去25年間、あるいは30年間、経済指標も社会指標も完全にも急降下状態なんですね。相対的には急降下状態で回復の見込みはないです。それもまったくないんですね。
「なぜないのか」ってことが問題なんですが、それは「仕組みの問題」ではなくて「公共性の問題」なんです。公共性に関わる動機付けが働かない。その結果「沈みかけた船での座席争いに誰もが因する」という状態です。
20年ぐらい前まで、これは日本特有の劣等性だと僕も考えていました。ですが最先端の政治学等によると、どうもそうではないみたいです。
宮台:日本は「課題先進国」に過ぎないのであって、他の国もどの道同じような問題に直面するということです。あるいはしつつある。具体的に言うと、多くの国で民主政がまともに回りません。わかりやすく言えば、民主政が、それなりに感情豊かで、コミュニカティブで、知識社会化した共同体を前提にしているからです。
しかしグローバル化とテック化を背景にして、この20数年間で中間層が分解して貧困化し、ソーシャルキャピタルが減衰した。そうした知識社会化のユニットがなくなった結果、個人が感情的にも知的にも劣化する。その結果、民主主義が暴走するようになったということです。
それはブレグジット(英国のEU離脱)やトランプ当選によって、あるいはFlat Earth theory、地球平面説や鳩ドローン説によって象徴されるもので。
一方でそれを尻目にネオリアクション、新反動主義者と言われるアメリカの人たちがいます。これは、トランプを支持するオルトライト(alt-right)と一部重なってるわけだけれども。
彼らが、「これでは中国と戦って負けてしまう」と言っている。「戦う」とは経済的な戦いです。もちろん戦争でも負けてしまう可能性があるわけですが、そうならないために、こういう知的にも感情的にも劣化した人間を、民主主義から制度を使わずに引き剥がすってことです。
一部メタバースだったりするVRとドラッグを使って、この連中たちを自発的に政治から引き剝がしてしまえと。その結果、優れた者や知的で動機付けを持つ者だけが政治にかかわることができる。
これを中国の権威主義に対して、僕は「新しい権威主義」と呼んでいます。そういう思想を持つ人間がトランプを応援する。トランプを応援することで、民主主義のいわば「制度的な劣等性」をあらわにするという。そういう立場を、例えば「加速主義」と呼んだりもします。
僕も、一部加速主義者に同調するところがあって。「国民国家の規模では、民主主義は今後回ることはない」というところです。基本的にはNCL(Next Commons Lab)とも理念が共通しますが、小さなユニットで民主主義を回すということです。小さなユニットでまともに回る民主政、あるいは民主政体が連携することで、少しずつ大きな単位を編み上げていく方法しかないという。
先ほどの本、『経営リーダーのための社会システム論』は、講義をまとめたものですが、そうしたことをいろんな理論を使って説明しています。以上で自己紹介を終わります。
林:ありがとうございます。
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