2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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林篤志氏(以下、林):では最後3人目、田中さんお願いします。
田中俊氏(以下、田中):構想日本の田中と申します。石山さんと田口さんのすごくおもしろい話があったので、早くみんなでディスカッションできればと思うので、コンパクトに話をできればと思っています。
お二人の話にも出てきたんですけど、熟議とか多数決とか、主体性を持った市民とか。そういったことを僕らはけっこう現場で、地べたで、いろんな地域で、地道に活動をしている団体です。政策シンクタンクと名乗っているんですけど、何か提言をするだけではなくて、具体的な動きを作るという意思を持った団体です。
全国各地の自治体とかと組みながらいろんな活動をしています。もともと行政を変えようと動き始めて、税金をより良く使おう、効率的に使おうということを、団体として20年近くやっているんですが、なかなかモグラ叩きのように続いている状況があります。
なんでそこがうまくいかないのかと考えると、行政をチェックする政治だったり、そのチェックを果たす一人ひとりの市民・国民、選挙民。そこの意識を変えないと、なかなか全体が良くならないのではないかということで。10年ぐらい前から「自分ごと化会議」という名称で、無作為に選んだ市民の人たちと一緒に議論をする取り組みを始めました。
地域の高齢者の介護の話や子育ての話、地域全体の話などいろんなテーマからランダムに選んで、ある日突然案内状を送るわけです。そこに参加していいよという人たちと一緒になって、半年間ぐらいかけて議論をして、どういう解決策を導いていけるかという活動をずっと続けています。
これまでに170回ぐらいそういうのをやっていて、無作為で参加した人は1万人を超えます。参加する人の特徴で言うと、もともと政治行政にすごく感心があったり、地域活動にすごく参加していたという人はほとんどいない。
いわゆる普通の仕事をしていて、きちんと納税もしていて、新聞などもきちんと読んで、選挙になれば投票にも行く。だけど、自分が主体的にそういう活動してきたかというとなかなかそこまでの行動には移していない、という人たちが多く参加をしています。
何回か議論をすることで、そういう人たちに「自分たちも地域を良くする一員なんだ」という思いが、必ず出てくると思っています。そういう人たちをどんどん増やすことが、この先の民主主義にとっては必要ではないかと思って活動を続けています。
田中:ただ10年続けて1万人なので、全体で考えると「じゃああと何年続ければいいんだ」ということも含めて、どこかで広げないといけないな、と問題意識を持ちつつ活動しています。WEと一緒になって進めることで、そういう広がりを持たせられるといいな、というのが僕の考えていることです。この先はまた、みなさんとのディスカッションの中でお話しできればと思っています。今日はよろしくお願いします。
林:ありがとうございます。僕も田中さんとある事業でご一緒させていただいているんですけど、「くじ引き民主主義」と表現されたりしていて。
本当に無作為に、住民台帳の中から割り出してハガキを送って、その中で手を挙げた人たちが、数ヶ月かけて計5回とか話し合いの場に参加するんです。僕はまだ1回しかその場に居合わせたことはないんですけど、主体性を持った市民の方たちがこんなにいるんだなと垣間見れて、非常におもしろいと思っております。
ということで、いろいろ議論していきたいんですけれども。今Discordでもいろいろ、意見やコメントや質問がけっこう投げかけられているので。そういったものも拾いながらお話しをしていきたいなと思います。3人の方々に共通して、「多数決ってどうなのよ」というお話があったじゃないですか。僕もその考えには一定は賛同するんですね。
多数決で決まったことが必ずしも最適解じゃないよなと思うことが、人生の中でもちろん何度もあったんです。一方でDiscordの中でもいろんなことを書いてくださっているんですけど、みんなで熟議をして意思決定をしていくのは、あまりにも高コストじゃないか。つまり「週5で働きつつ、みんなで熟議して決めるのは難しいのでは」という意見があります。
つまり熟議をしていくことと、ある程度多数決のような手段を使っていくことの、切り分けというか。使い分けが必要なのではないかという意見が散見されるんです。
林:ここらへん、実際に場を運営されているアンジュさんや、田口さんあたりから、聞いてみたいんですけれども。まずアンジュさん、いかがでしょうか。
石山アンジュ氏(以下、石山):先ほど言ったように、拡張家族はめちゃめちゃ高コストだし、みんなある種傷ついたりしながら(笑)、対話をしていく状況が続いているところです。
林:大変ですよね。
石山:「対話疲れ」みたいなものは常にあるんですよね。これを、国家みたいな、いろんな政策アジェンダがあった時に仕切れるかというと、難しいと思います。
私の提案は、政策アジェンダごとに意思決定のあり方を変えてもいいのではないかと思うんですよね。例えば今の参院選で、物価高もあればエネルギーもあれば、コロナ政策の部分もあったり、たくさんアジェンダがある。
例えば地域に権限委譲して意思決定をしたほうが良いものと、地球の「あと30年後どうする?」みたいな問題であれば、もしかしたら多数決ではないもののほうがいいかもしれない、という。政策については、例えばアジェンダごとに範囲を決めて、小さい人数の中での多数決でよしとするものもあれば、熟議するものも作っていくというやり方が考えられるのではないかと思います。
林:政策の話は、たぶん田中さんが「自分ごと化会議」で、まさに政策に直結していることをやっていると思うんですね。要は間接民主制で、議員さんとか首長を中心とする人が自治体単位で政策を決めて進めていくものと、わざわざ「自分ごと化会議」を開いて、住民の中から湧き上がってくるもので熟議をして、それを反映させていく。
いわゆるトップダウンとボトムアップの両方を、見ていらっしゃると思うんです。「こういう内容だったら熟議したほうがいい」「こういう内容だったら熟議しないほうがいい」みたいなものってあったりするんですか?
田中:そこは僕らとしては、基本的にはできないテーマはないとは思っています。ただテーマによって議論の中身はちょっと変わってくると思います。例えば原発について議論したこともあるんですけど、原発ってメディアや新聞で「賛成か反対か」みたいな話がバーッと戦わされていて、イエスかノーかみたいな話になることが多いんですけど。
「自分ごと化会議」はランダムに選んだ人たちなので、自分がイエスかノーかまで明確に考えを持っていない人たち、決めきれていない人たちのほうが多い。そこをしっかり考えることによって、自分はどのへんなのかなと考えられる、1つのプロセスになるのかなと。大きなテーマの話は、そういうものがあると思っています。
もう1つは、例えば「地域の公民館どうする」とか「ゴミの捨て方どうする」みたいなところ。生活とかなり直結したところなので。そういうテーマは、公民館を良くするために自分もこういう行動を起こしてみよう、みたいな話として使うことができるのかなと思います。テーマによって、話の中身は変わっていくのではないかと思うんですよね。
林:例えば最近、経済学者の成田悠輔さんは「無意識民主主義」みたいなことも言ってらっしゃいます。ありとあらゆる生活空間上のデータを全部とって、それをアルゴリズムで分析して、いわゆる民衆の無意識によって民主主義を実現する。それはそれでけっこうラディカルな提案の1つだと思うんです。
田口さん、ボーダレスグループ自体は、社会現場の課題にいろんなレイヤーで関わっていると思うんですね。Discordの中でも「みなさんの言ってることはすごい賛同するけど、高尚すぎるよね」という意見もあって。
つまり「そんな未来を見通して議論する人とか、こういったことに共感して参加する人がどこまでいるんですか」みたいな意見もあったりするんです。いろんな社会課題の現場を見ている田口さんとして、その意見についてどう思いますか。
田口一成氏(以下、田口):みんな「高尚すぎるんじゃない? ほとんどの人はそんなこと考えてないんじゃない?」と。
林:そう。民主主義という言葉をそのまま反映させるのであれば、あらゆる民衆、あらゆる方たちが参加し得ると思うんですね。究極的にはあらゆる人たちが参加し得る一番ラディカルなやり方としては、確かにデータを取りまくってアルゴリズムで決めてしまう無意識民主主義みたいなのは、もしかしたら参加のパイは一番とれるかもしれないと思うんです。
でも一方で、熟議することであるとか、いろんな人たちが向き合うことも大切だよねと。目指している方向は実は同じなんだけど、手法がぜんぜん違う感じがするんですよね。
田口:そういう意味では、選択肢があるかないか、みたいな話かなと思っているんですよね。例えば参加したくない、「それはお前たちに任せた」という人たちには「参加しない」ところは、確かにあってもいいかもしれない。
例えばボーダレスで、さっきの恩送りでお金を集めて新しい事業をやる時、資金はみんなのお金になるので、意思決定者はここに参加してる「みんな」なんですよね。社長たちの議論で決まっていく。で、僕は1票を持っていないんです。
必ず全会一致が条件で、多数決ではないんですよね。そうすると47人いたうちの、毎回だいたい数名、時にはたった1人が反対ということがあるんですけど、その意見はけっこう重要な意見であることがすごく多いです。
いわゆるみんなが見過ごしてるような、ちょっとマイナーな視点というか。「この視点で考えたらどうなの?」という話が残っているところを拾えるという意味では、すごくいいなと思ってやっているんですよね。そこをクリアすることで、やっと磨き上がる。
田口:これがどうやったら成り立つのかというと、まず1つは「ゴールがある程度同じ」。目的が違う集団の中で合議をとろうとしたって、そりゃ難しいんです。けれども「目的は同じですよ、目指したいゴールは同じですよ」といった時。
その具体的な方法・作戦・やり方に関して合議をとろうとするプロセスの中で、見えないものがどんどんあぶり出され、最終的には納得感がすごく高い状態が大切なのかなと僕は思います。
みんなが話し合った結果が、自分の100パーセントの思いと、まったくイコールではないかもしれない。でも「確かにこの部分はこういう議論を経て、こういう考え方もあるよね」「現時点ではこれでいいのではないか」という話とか。そういうところをすっ飛ばして、パンっと多数決でやるのとは、違う結果が出ると思っているんですよね。
ただ目的が違うと、中でどうやるかがすごく難しいと思うので。やっぱり国全体の中でみんなを巻き込んで合議するのは、そのまま当てはめられる議論ではないと思いますね。
石山:しゃべってもいいですか?
林:はい、アンジュさんどうぞ。
石山:今の成田さんの無意識データ民主主義については、私はけっこう思うところがあって。数の論理に頼っていても、平和な社会は生まれないと思っています。なぜならそもそも民主主義はいわゆる感情にまつわるもので、合理的に意思決定しているようで、実はしていないことがほとんどだと思うんですね。だから、データというある種、数の論理に任せた合意形成は対立を生む。
例えば無意識データ民主主義の、監視カメラとか心拍数みたいなものを評価軸にした時に、それでズルしようとか、それで力を持とうという人がたぶん現れる。結局「誰かリーダーみたいな人を作ろう」となってしまうのではないかなと、個人的には思います。
あとやっぱり最近絶望しているのは、例えば夫婦別姓とかLGBT法案の見送りみたいな話って、合理的には「そもそもメリデメを考えたらメリットしかなくない?」ということも、どちらかというと根本的な思想とか、感情みたいな話がボトルネックになることが、近年すごく多いと思うんですよね。それぐらい政治は合理というよりは感情的なもの、思想的なものです。
実はこういったことに、これまで私たちは、そこまで目を向けてこなかった。合理的に解決できると思っていたけど、いくらワクチンのデータを集めても納得しない人がいるみたいな環境が、今目の当たりにしている状況なのかなと思ってます。
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