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音楽で人が集まる街(全3記事)

ミュージシャンの演奏中に“あえてワイワイ”する風潮を作った 音楽バー「月のはなれ」店主が目指した、“雑音”と楽しむ空間

新型コロナウイルスによって国際観光がストップし、2019年には4.8兆円あった市場が消滅したことで、インバウンド業界は遭遇したことのない嵐の中にいます。今回のインバウンドサミットのテーマは「日本の底力」と題し、観光の枠に囚われない日本が持つ底力、可能性を多様なメンバーによって議論しました。本記事では「音楽で人が集まる街」のセッションの模様をお届けします。

「旅行」と「音楽」のつながりを語るセッション

佐藤明氏(以下、佐藤):よろしくお願いします。1時間の旅、ぜひ楽しみましょう。

このチームは、僕が勝手に「チーム トラベリングライト」という名前を付けましたが、ビリー・ホリデイやいろんな人が歌っているエリック・クラプトンの曲『Travelin' Light』のように、気軽な旅という感じのセッションになったらいいなと思っていますので、よろしくお願いします。じゃあ、軽くチェックインをしましょうかね。

亀田誠治氏(以下、亀田):はい(笑)。

佐藤:じゃあ、僕から。あとは亀田さん、季世恵さん、日比さんという順番でチェックインできたらと思います。僕はバリュークリエイトの佐藤と言います。見ていらっしゃる方は、はじめまして。

ふだんは投資とか、それから経営者のアドバイスをやっているんですが、ずっと音楽が好きでいろんなものを聞いています。そんなご縁で、とてもとても小さいんですがレコードのレーベルをやっていたり。

それから、亀田さんのやっている日比谷音楽祭を精いっぱい応援させていただいたりとか(笑)。微力ですが、そんなことをやっています。今日はこのセッションが一番自由にやっていいと聞いているので、自由にできたらなと思います。どうぞよろしくお願いします。じゃあ、亀田さんお願いします。

亀田:亀田誠治と申します。音楽プロデュースをしていたり、さまざまなアーティストの作品を作っていたり、東京事変というバンドでベースを弾いてます。

あとは日比谷音楽祭という、東京のど真ん中の日比谷公園で開催される親子孫3世代で楽しめるフリーイベントの実行委員長をしていて。今回MATCHAの青木(優)さんや佐藤さんとは、そこでご縁ができたんです。

今日はこのメンバーでお話ができると聞いて、めちゃくちゃ楽しみです。季世恵さんや日比さんにすごく質問攻めをするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。

日比康造氏(以下、日比):よろしく(笑)。

亀田:(テーマが)「音楽と旅」ということで、本当に興味津々です。旅も大好きですし、僕は音楽を食べて生きているんじゃないか、吸って生きているんじゃないかという人間です。どうぞよろしくお願いします。

日比:お願いします。

“暗闇体験”ができる「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」

佐藤:じゃあ、季世恵さんお願いします。

志村季世恵氏(以下、志村):みなさん、こんにちは。私はダイアローグ・ジャパン・ソサエティという仕事をしています。

社名を言ってもわかってもらえなくて、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」「ダイアログ・イン・サイレンス」とお伝えすると、「ああ」ってお気づきになる方が多いんですが、暗闇や聞こえない世界を作ったりしながら、目が見えない人や耳が聞こえない人たちとエンターテイメントを展開しています。

時々音楽会もやったりしていて。「五感を使った音楽を楽しもう」ということをしているんですが、そこの代表をしながらプロデュースをしています。短いですが、こんな感じです。音楽は大好きなんですが、質問攻めにされた時の私の答えがあまりにもはちゃめちゃだったら、どうぞ拾ってください。よろしくお願いします。

亀田:(笑)。

日比:(笑)。お願いします。

佐藤:日比さん、どうぞ。

日比:1917年創業の絵の具屋さん、月光荘という小さなお店の店主を務めております。毎晩生演奏をやっている月光荘のサロン「月のはなれ」という小さなスペースも運営しておりまして、そこでは本当にたくさんのミュージシャンたちと共にお客さまをお迎えし、2週間ごとに壁面のアートが変わっていくという、生の色と音を扱う場所を運営しています。

私自身も、20歳の頃からニューオーリンズやメンフィスといった南部のアメリカから回って、シカゴでしばらくブルースを歌っていて、細々とですがシンガーソングライターとしても続けております。亀田さんと違って「知っている人は知っている、知らない人はまったく知られていない」という(笑)。

佐藤:(笑)。

日比:ミュージシャンとしても活動しておりますので、自分が音楽家であるということと、音楽を聴ける場所を運営している立場としても、今回はみなさまと楽しいお話ができればと思っております。どうぞよろしくお願いします。

中高年になっても、音楽によって“子ども心”を保つ

佐藤:ありがとうございます。亀田さんから質問がありそうなんですが、その前にもう1個チェックインを。せっかく「音楽×旅」とか「街」というお題なので、「音楽で『街』と言ったらこの曲が好きだな」みたいなものはありますか? 誰からいこうかな。今、亀田さんに動きがあったので、亀田さんから(笑)。

亀田:(笑)。これだけ音楽と一緒に生きていると、「音楽と街」や「音楽と旅」との関わりを経験しているんですが、やっぱり自分の見たいアーティストのコンサートを見に海外へ行くのはなんとも心が潤う瞬間です。

あとは自分のための「水やり」とか、「自分の肥やしになるから」という言い訳をしながら、ニューヨークやロンドンに1ヶ月とか滞在して、ミュージカルを見まくったりする。もう一回「少年返り」するというか、40代から50代の頃からそういう生活を始めるようになっていて。

そもそも飛行機に乗るのが嫌いなので、基本的には海外には行かないんですよ。最近でとにかく忘れられないのは、2018年にアデルがベルギーのアントワープコンサートをやっていたので、そのために日本から見に行きました。

アントワープの街でもいろいろ感じたんです。例えば、アデルのようなトップスターが来てコンサートをする一方、街のあちこちから音楽が聞こえてきたり、朝は教会の鐘の音がカランコロンカランコロンと鳴るわけで、音楽に満ちあふれていて。

ちょっとイントロデューシングトークですが、実は世界中の街には音楽があふれているのではないかなと思います。妻には「散財している」と言われているんですが、とにかく狙った獲物は離さないという感じで、このアーティストは日本でなかなか見られないなと思ったならば、どこにでもライブやお芝居を見に行ったりする。

50代に入れば入るほど、音楽や旅によって「清らか」というか、子どもの心が保たれてきているような感じがますますしております。

亀田誠治氏が、日本の音楽について「狭い」と感じるワケ

佐藤:いいですね。話にどんどん乗っていきたいので、司会を辞めます。

(一同笑)

日比:早い!

亀田:マジで?

日比:早いな。始まったばっかりじゃないですか。

佐藤:本当にごちゃごちゃでいきましょう。日比谷音楽祭の第1回の時のオープニングの曲、『Saturday in the park』も良かったですね。

亀田:ありがとうございます。

佐藤:街というか、公園というか。

亀田:世界中の音楽が「街と人」「場所と人」に基づいて、やっぱりライフ・イズ・ミュージックなんですよね。音楽が本当に生活に根付いていて、日比さんや季世恵さんが日々行っている活動もそうなんですが、できれば自然に、生活の中に音楽が溶け込んでいるかたちがあると最高ですよね。

日比:でも、亀田さん。実際に音楽が流れていることと、自分が旅行者だからアンテナがすごく張っていて、キャッチできる状態になっているから街の音が「音楽」として聞こえてくることは、どっちなんでしょうね? 日常になってしまうとアンテナがぎゅーんと落ちてしまうから、聞こえてこなくなるというのもあると思っていて。

亀田:確かにそうかもしれないですね。これね、ぜひインバウンドサウンドでも声を高らかにして言いたいことがあるんですが。

日比:(笑)。

亀田:気のせいだったらごめんなさい。「亀ちゃん、そりゃ違うよ。あんたの思い込みだよ」と言われたら「はい、その通りです」って言いますが。例えば、街で流れている生演奏であったり、音楽の種類や音楽の世代は、どうしても日本のほうがすごく狭いというか、もしくはゼロレベルに近いような気がします。

音楽は「特別」だとか、「エンターテイメント」だとか、「場所が必要」だとか日本では思われている気がします。

「音楽=エンターテイメント」という日本の風潮

亀田:海外では街の至るところに音楽があって、じいさんばあさんも急に音楽が鳴ったら踊り出しちゃったりするし、街を歩いていたら音楽が聞こえてくる。

あとはタクシーに乗っていても、「なんでこの運転手さんは、『ウエスト・サイド・ストーリー』に合わせて『トゥナイト』を歌っているんだろう」とか思っちゃったりもするんだけど、大喜びで歌っていて。肌の色も言葉も違う僕に向かって「『ウエスト・サイド・ストーリー』はいいだろ」「『トゥナイト』は俺が嫁を口説いた時に歌ったんだ」みたいな。

佐藤:(笑)。

志村:すてき。

亀田:音楽がきっかけで、いろんなことが広がっていく感じがしていて。それが日本ではちょっとコンパクトというか、こぢんまりしている。もしくは、空気が薄い感じがして。今日のサミットでみなさんとお話しする中で、なにかヒントや気づきがあるといいなと思っていたんですよ。

日比:めちゃめちゃわかります。僕が今問いかけたのも、たぶん本当に同じ思いです。

「月のはなれ」という小さなお店は今年で9年目になるんですが、最初の1〜2年は生演奏が始まるとフロアのお客さん全員がしーんとなって、演奏家のほうを見て、1曲終わると拍手をし、その間お客さん同士の会話もまったくなくて。演奏が終わるとやっとお客さん同士がまた話し始める、ということがずっと続いていて。

ミュージシャンとの信頼関係を作った上でですが、僕らスタッフたちは、別に話すことがなくても演奏が始まるとわざと大きな声でしゃべり、あんまりおかしくなくてもゲラゲラ笑うってことをずっと続けていて、2年目ぐらいからようやくその空気が醸造されました。

ちょっとキザな言い方をすると、お店の壁が空気を覚えてくれたというか、中に入るとお客さまがリラックスして、安心して楽しめる空気になっていったんですよね。

店の中の雑音も「音楽」の一部になっている

日比:いい音楽が流れているからいい気持ちになるかというと、音楽って丸裸で存在しているものではないと思っているので、まずはお客さまがリラックスしている状態になっていただかないと音も入っていかないし。

ただただ背筋を伸ばして毎回拍手する、という状態で本当に音楽を楽しめているのかというと、そこはちょっと疑問があるなと思っている次第です。だから今、亀田さんのおっしゃっていることは実体験からもすごくよくわかります。

佐藤:いいですか?

日比:はい、お願いします。

佐藤:知らない方もいるかもしれないけど、ビル・エヴァンスというピアニスト。スターバックスとかでよくかかっている曲だと思うんですが、コップの音や人の声とかが、ヴィレッジヴァンガードというライブハウスでのレコーディングの中から聞こえてきて。あのトータルが好きですね。

スタジオのレコーディングじゃなくて、みんながざわめいているところでコップがぶつかってカーンと音がしたり、フォークの音がするみたいな、ああいう感じ。「月のはなれ」はそういう感じじゃないですか。すてきな存在です。

日比:亀田さんは来られなかったんですが、この間志村さんと佐藤さんとご一緒できた時がありまして。あのお店でのひと時を、志村さんはどのようにお感じになっていましたか?

志村:すごく楽しかったよ。お店の中のいろんなものの延長上に音楽があったなと思っていて、全部が特別だったのね。おしゃべりも特別で、飾ってある絵も特別で、お店も特別で、たくさんのグリーンがあったけどグリーンも特別なの。

でも、普通のことが特別なのに音楽があった。だから、全部が交ざり合っているのが楽しかったなと思うから、特別なことが全部だったなと思っています。

日比:なんか、だんだんお店の宣伝みたいになってきちゃった(笑)。

(一同笑)

耳を澄ませて初めて分かる、日常に潜んでいる「リズム」

志村:だけど、あの空間はなかなかないなと思っていて。カフェがあって、ダイアローグの中で真っ暗闇で音楽をかけているんですよね。カフェで目が見えない人が暗闇で案内するんだけど、お茶碗を洗うこともあるんですよ。真っ暗闇の中でお茶碗の洗う音がして、ざーざー水が流れていて、音楽が流れている。時にはみんなが歌っているのね。

そうすると、実は全部が音だったんだなと思って。耳で感じるものは全部リズムがあって、「こういう音だったんだ」というのをあらためて感じると気持ちいいんですよね。

エントランスにはグランドピアノが置いてあるんだけど、目が見えない人が弾いてくれたり。突然ピアニストがやってきて弾いてくれる場合もあるんだけど、耳が聞こえない人は音が聞こえないでしょう? なんだけど、グランドピアノに頭を突っ込んだり、手を中に入れたり、ピアノの下にもぐり込んだりして、同じように聴いているんですよ。

そうするとすごく自由で、海外に似てきちゃっていて。こうやって、「音楽は決まりじゃなくても楽しめるんだな」と感じてもらっているんですね。それと「月のはなれ」が似ている感じがして、お友だちと会って思ったの。

日比:うれしいですね。

志村:でもそれは、この間の日比谷音楽祭の時もそう思った。みんなが交ざり合っているのが私は好きなんだなと思ったし、マナーだけじゃない楽しみ方もあり、もっと敷居が低くなって聴くのもいいのかな、なんて思ったりしています。

音楽という“周波数”が、人間の本能に作用するもの

佐藤:日比谷音楽祭もそうだし、「月のはなれ」も閉じられた空間じゃないというか、空が空いているじゃない。ある意味、ダイアローグも真っ暗だから空いているというか、閉じられている感じがない。そういうのっておもしろいですね。

志村:うん。暗闇は宇宙までつながっているからね。

佐藤:宇宙。

志村:そうそう。空が見えるっていいですね。

佐藤:そうですね。

亀田:「空が見える」というのが、今回の「旅」というキーワードとつながっていくと思います。例えば音楽やアート、食でもそうなんですが、何かを触媒にしてそこから先は無限大の広がりを感じられると、すごくいい音楽に聞こえたりします。

僕は外でご飯を食べるのが大好きなんですが、外で食べることで余計においしく感じたり。もしかしたらそういうことって、人間がすごく根源的に持っている本能的な部分なんじゃないのかなといつも思っていて。

音楽も光も、科学的に分析すると周波数じゃないですか。いろんな波のうねりが、どれだけ人間の感覚や感性を豊かにしてくれるんだろうかと思います。もしくは、気がつかないところで癒やされているとか、いい方向に持っていってくれているとか。

周波数と言うと、時には悪いものを受けているような印象になるかもしれないですが、空気の中にある見えない音や光や周波数が、人間が生きていく上ですごく重要です。もしかしたら、そこを起点に人と人はコミュニケーションをしているんじゃないのかな? と思っていて、そういう思いを込めて音楽を作ったりしますね。

日比氏が語る「いい酒場」の特徴

日比:僕はお酒がすごく好きで、お酒を飲んで得たこと以上に失ったことが多い人生を過ごしてきて……。

(一同笑)

亀田:ミートゥー。

日比:(笑)。いい酒場って、いろんな人たちが出しているバラバラだった周波数がだんだんいい波になっていって、声を掛けている従業員の人たちの声もいい具合にいいタイミングで入ってくる。最初の頃、生演奏は「流れ始めると空気を止めてしまうもの」だったんですが、だんだん「しゃべってもいい」という感じになってくる。

僕のイメージで言うと、お風呂の中で最初はちっちゃく動き始めて、だんだん波に体を動かしていき、最後にばっちゃんばっちゃんってやる。みなさんがやったことがあるかどうかはわからないですが、僕はそれが好きでやっていて。

佐藤:(やったことは)ないね。

日比:最初はちっちゃなうねりなんだけど、音楽や何かを起点にガラスが割れる音がしたり、かき混ぜる音がしたり、シェーカーを振っている音や人々の笑い声、語り合う声がしたり。ちっちゃい波と大きい波といろんな周波数が混ざりあった時に、えも言えぬ一体感みたいなものをよくお店で見るんですね。

それは小さなお店の中でのことなんですが、冒頭の亀田さんのお話に戻ると、実は街の中にもそういうリズムはあるはずです。本当の音楽じゃなくてもいいのかもしれないですが、街のリズムの中に対する音楽的なアンテナをもう少し広げていきたいなと個人的には思っているんですよね。

佐藤:いいですね。

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