
2025.02.12
職員一人あたり52時間の残業削減に成功 kintone導入がもたらした富士吉田市の自治体DX“変革”ハウツー
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池尾健氏(以下、池尾):ちょっと戻りますが、火をつける人とまきをくべる人で、田中社長は火をつけるゼロイチみたいなところですよと。
今日ご紹介いただいた以外にもいろんなものがすごく動いている中で、まきをくべるとか、田中社長のご意志や働きかけをつないでいくことについては、どのようにお考えですか?
人生80年でいずれは死ぬ。どこかにバトンタッチをしていく。ただ、会社は続いていくかもしれないし、前橋での取り組みも100年とか自分の寿命よりも長く続いていくことは想像されているのかもしれないんですが、まきをくべる人、つないでいく人について今意識していることはありますか?
田中仁氏(以下、田中):理想的には同じ熱量を持ってずっとやる人がいれば最高なんですが、現実的にはそうならないんですよね。企業を見ても、やっぱりなかなか難しい。
大企業になると難しいものがあるし、地域だって前橋で昔一生懸命がんばった先人がいるわけですが、その時はいいけどその後は少し低迷してしまうということで、永続的にはなかなか難しいと思うんですよね。
そうは思いつつも、でもやっぱりその地域がダメになる一番の要因は、地域の人が聞いていると言いづらいんですけど、地域社会が固定化されて、コミュニティもがっつりヒエラルキーがあり、外から来る人が少ないために新しいものが生まれづらい。多様性がないとか、いろんな要因があります。
そういったものを壊して、地域以外のいろんな人がどんどん入ってきて、新しいものが生まれる町にならないとダメだと思うんです。逆に言えば、そういう町になったら、わりといつもおもしろいことが起きる気がするんですね。だから、開かれた地域にいかになるかが課題かもしれません。
池尾:おもしろいですね。ちょっと矮小化すると、追いかけると逃げちゃうし、束縛すると息苦しくなってますます出ていっちゃうみたいな。恋愛なのか人間関係なのかわからないですけど、そういう意味の「開かれていること」というのは、1つのキーかもしれないですね。
他の地域でやられている方も「地元の人が出て行ってくれてもいい。我々はいずれ戻って来れるような取り組みをするだけだ」とおっしゃっていて、「町や村を出ていくな」みたいな議論はけっこう多かったりするんですけど、そこにちょっと通じる気がしました。ありがとうございます。
田中:世界を見ないで村にずっといたら、その村はダメでしょう。
池尾:そうですね。
田中:そんな気がします。
池尾:明山さんはどうですか?
明山淳也氏(以下、明山):お二方それぞれ立場が違う点がありますね。端的に言うと、田中さんがジンズホールディングスで眼鏡を作ることと前橋は、物だけを見たらすごく距離があるじゃないですか。
たぶんゼロイチが田中さんが一番お好きなところだと思うんですが、ジンズホールディングスという企業経営でやられていることと、今回前橋でやられていることで、共通しているところと違うなと思われる点があったら教えていただきたいです。
田中:会社はみなさん給与をもらって働いてくれるから、本音はどうであれ社長が言うことは比較的聞いてくれますよね。地域はそれぞれの豪族がいっぱいいるので、まったく言うことは聞いてくれません。
そういう意味では、企業経営とはまた違った、地域のステークホルダーの多さに初めは愕然としました。
人口34万人で、市議会議員が38人いて、市役所職員や地元の県会議員、国会議員、あらゆる人がいるわけですよ。商工会議所があり、民間のそれぞれの山があり、すごく絶望の淵に立ったこともあります。
明山:すでに今日お話しいただいたんですけど、流れを見ていた中で田中さんがビジョンを作ったことが大きかったんですかね。
田中:これは大きいですね。初めはみんなわからないんですよ。「ビジョンって、『めぶく。』ってなんだよ。そんなふわふわしたことを言って、あいつは詐欺師か」みたいなね。
でも、その「めぶく。」がまずは耳に入り、徐々にかたちとして目に入ると消化されはじめるんです。2016年に「めぶく。」を発表しましたが、6年経って消化されはじめているなという感覚です。
明山:そうですね。僕も温度感でしか言えないですが、すごく浸透している感じです。2016年にキョトンとしていた人たちが、当たり前のように口に出されたり、町の機関誌(前橋新聞『me bu ku』)もできています。
田中:そうなんです。
池尾:そういう変化もすごく大きいですよね。そこは企業も地域も共通する。田中さんもまずそこから手をつけられたのは、白井屋以前にあったことだと思っています。ビジョンは欠かせないというところですかね。
田中:そうですね。
明山:松場さんにも違う視点でおうかがいしたい点があります。眼鏡と地域とは違って、松場さんのお仕事は会社の経営と地域がかなり密接だと思うんですね。
そうすると、行政とも近くなってくるじゃないですか。人数もコンパクトだからこそ、個性やつながりも強いかと思いますが、行政が近いことのメリットや、企業を経営される中で大事にされているポイントやこれから心がけたいことをお聞きしたいです。
松場忠氏(以下、松場):私は経営者としてけっして前に出たいわけではなく、役割をどれだけまっとうできるかを考えているんですね。幸い、うちの会社は大森町の環境に共感して外から来てくれた人たちだったり、お客さんだったり、よそ者が多くなっています。
「関わり社員」という言い方をするスタッフもいますが、そういった人たちがいることで、その地域との関わり代(しろ)を持ちはじめているのが今の段階かなと思います。そういった流れを止めずに成り立たせられる方法を作ることが、僕らがやらないといけないポイントだと思っています。そこを描いているところですかね。
逆を言えば僕らは観光の会社を立ち上げる前までは行政とそんなにつながっていなかったんですよ。うちの会長も世界遺産(登録)前は地域を良くしていくところにけっこう関わっていましたが、いったんそういうのが疎遠になりました。今もう1回強くつながってきたかたちで、時代の流れに応じながらやっている状況ではあります。
明山:ありがとうございます。
池尾:最後に質問を1つお二人にさせていただきたいなと思っています。
田中社長がどこかのインタビューで、「もうアイウェアだけを売っている会社ではなくなった」「アートで入っていった時に違うお付き合いがけっこう出てきた」とお話されたことがあったと思います。
いわゆる産官学と言いますが、前橋のケースでも構いませんが、今までお付き合いはなかったけど、こういう人に入ってきてほしい、こういう方と一緒にやることで今後広がるんじゃないかというのはございますか?
田中:みんなが当たり前や常識的に思っていることに対して、本当にそうだろうかと問いを立てられる人は、気づきもあるしおもしろいと思います。そういう個性がぶつかりあうと、新しいものが生まれる気がしますね。
池尾:松場さんはいかがでしょうか? 接点を持ちたい人やこういう人と一緒にやっていったら生活観光が広がるというのはおありでしょうか?
松場:今日のような観光のつながりもそうですが、僕らの他郷阿部家という宿は基本的にお泊まりいただいた方々と家主の松場登美や僕らホスト側が一緒にご飯を食べるんです。
これを繰り返すうちに、松場登美は1万人以上の方々と一緒に夕食を共にしていて、そこで得た学びや考え方はものすごい財産なんですね。そういったことがあることで、また縁がつながって今に至るなと思っています。
これからコロナが落ち着いて観光が広がっていく時には、ビジネスとしてのノウハウもありますが、この町にもっと根ざして、一緒に自分たちの地域を良くしていく仲間というか、共感して汗をかいてくれる人たちがより増えていくといいなと感じています。
池尾:ありがとうございます。最後に明山さんに、地域を盛り立てるための伴走や、白井屋ホテルの田中社長との壁打ちなど、外からどういうふうに接点を持たれたかをお話いただけますか?
明山:白井屋ホテルで言うと、田中さんのやりたいことが明確だったので、とにかくそれに伴走しようというところが強かったですね。まきをくべると言うか、そこで少しでもお役に立てればと思ったところがあります。
今前橋で僕が具体的に動いているものはないんですが、そこで教えていただいたことや姿勢を他の地域で活かしていけるところがあると思っています。
事業会社というかまちづくりとかで陥りがちなのが、過去どうだったのかとか、マーケティングはどうだったのかとか、前例主義になりがちなことです。私はまちづくり側にいるのに、田中さんに独創的なことをやられると、まだまだ僕らはがんばらないとと思っちゃうんですけど、そこでダメになっちゃうポイントが経済効率ばかりに目が行き過ぎて、短絡的に見てしまうことです。
前橋のお話でもありましたし、群言堂さんもそうだと思うんですが、長期目線でビジョンを持つことが大切です。書くと当たり前すぎることですが、意外にこれをずっと意識してやれないことが多いんじゃないかと思うんですよね。
どこかで経済効率に戻っちゃったり、「今年はこれをやらないと」だけに行っちゃうと思います。常にこの3つを意識してやることは、私の身近なところで言うと、田中さんとご一緒させていただいて知れたことかなとすごく思っています。
明山:そうした中、当社の簡単な宣伝みたいで恐縮ですが、地域でもまだまだ光が当たってないところがあって、今愛媛で新しいプロジェクトのお手伝いをしています。田中さんの前橋での活動ほど、まだ知られていない印象はありますが、愛媛県西条市という松山市から1時間くらいのところに、アドバンテックという半導体関連の機器等を作っているグローバルな会社があります。
町に元気がなくなってきたということで、そのアドバンテックが糸プロジェクトというプロジェクトを立ち上げ、6ヘクタールくらいの土地に、建築家の隈研吾さんがマスタープランを描き、マルシェやホテル等の商業ゾーンや戸建住宅で形成される住宅ゾーンで形成されるまちづくりがあります。
1年前くらいから当社も機会をいただいて、ホテルとか住宅ゾーンをお手伝いしだしているんですけど、会社としてもちょっと気合いを入れて運営までお手伝いしようかなと思っています。
そう思った一番大きな理由は、まちづくりをエネルギーの観点からも新しい取り組みでやっているんですよね。ホテルに関しては日本で初めてZEBという認証を取得し、ゼロエネルギーを達成しようとしています。
これからの地域活性とか、長期目線で言うと未来の子どもたちに対して「こういうまちづくりをしていかなきゃいけない」ということを、1つの具体的なケースとしてお手伝いすることで、会社としての新しい光を作っていきたいと思っています。
よそ者として我々がホテルを手伝うことで、このまちづくりにも新しい光を当てて発信していく一助になればなと思っています。もちろん前橋でも何かあればやりたいんですが、日本全体が元気になるきっかけをやっていけるといいなと思っています。ちょっと脱線しちゃった点もあってすみません。
池尾:とんでもないです。ありがとうございます。お時間になりましたので簡単に締めますが、今回いろんな登壇者の方とお話をしていて、何かしら類型化できるもの、フレームワークみたいなことをお伝えしようとは思ったんですが、たぶん再現できないというお話しになっていまして、ただ一言、「誰につなぐのか」というところでもお話しが出ましたが、「本気でやらないとつまらない」ということはあるのかなと思います。
今日の明山さんや池尾の立場もそうですが、そういった立場であっても本気でやらないと熱意が伝わらないところがあると思います。「本気でやらないとつまらないよ」ということを、最後の締めの言葉として終わらせていただきたいと思っています。
少し駆け足になってしまいましたが、田中社長、松場さん、明山さん、ありがとうございました。
一同:どうもありがとうございました。
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