2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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白石実果氏(以下、白石):では、時間になりましたので、プライシングセッションを始めたいと思います。私、M&Companyの白石実果と申します。全国通訳案内士としてガイドを行っています。あとは、観光庁の外部専門人材として、インバウンド観光のアドバイザーをしたり、ガイドトレーニングなどをしています。
昨年はガイドセッションをファシリテートしましたが、今年はプライシングセッションを担当させていただきます。みなさんの自己紹介に入る前に、私から簡単に、このプライシングセッションの背景についてご説明します。その後、みなさまに自己紹介をしていただきます。
私がガイドとして現場に出て、海外のお客さまをご案内している時に多く感じることの1つとして、海外ゲストが求めている質の高いサービス提供、コンテンツ提供ができていないと思うことがあるからです。この要因は、1つにサービス提供者自身が、質の高いサービスを体験したことがないからかもしれない、と感じています。
日本の実質賃金は過去30年間変わっておらず、むしろ少し減っています。さらに、消費税や社会保険額が上がっているのも相まって、可処分所得が減り、自己投資する余裕がないという事実もあるかと思います。良いものを体験すると、良いものを提供できるのではないかと感じていることが、このセッションを企画した理由としてあります。
日本人が、価格の値上げに対して抵抗感が強いのも、質の高いサービスが提供できない1つの大きな要因かなと思っています。それによって、自分たちが提供できるサービスに歯止めをかけているのを感じていました。
今日は「じゃあ本当に値段を高くすればいいのか?」とか、どのように価値を測ればいいのか、満足していただくためにはどんな値段設定が適切かを、みなさまにお話しいただきたく、お集まりいただきました。
白石:今回は、経済学者の方ではなく、プライシングの実践者のみなさまにお集まりいただきました。では、箕輪くんから自己紹介をお願いできますか。
箕輪厚介氏(以下、箕輪):どうも。僕は迷惑系編集者です(笑)。
白石:(笑)。
箕輪:迷惑をかけて生きています。編集者ですけど、どちらかと言うと、プロデューサーに近い編集者です。ディレクター的な編集者もいるんですけど、僕は世の中の流れとか、自分のやりたいこととかを結びつけて企画をする、企画屋さんみたいなところがあります。
最近、サウナやラーメンのプロデュースをしていますが、その中で、「外国人向けにやったほうがおもしろいし、儲かるよね」みたいなフェーズがシンプルに出てきました。よく言われる話ですけど、「安ければいい」ノリではないブランドの作り方は、当然大事だよね、と。それを意識しているかな、という話をしていきたいと思います。
僕、(高木)新平が友だちなので、困ったらだいたい新平に聞きます。ぶっちゃけ、新平が代わりに話してくれればいいという気もします(笑)。よろしくお願いします。
高木新平氏(以下、高木):がんばります。
白石:よろしくお願いします。じゃあその流れで新平くんお願いできますか。
高木:はい。高木新平です。NEWPEACEという会社をやっていて、職業としてはクリエイティブディレクターという仕事をしています。
いろんな企業とか、最近は自治体とかのビジョンを作って、その方向に向かってブランドを開発したり。ブランドのコンセプト作りから、ビジュアルとか世界観を作っていったり。また、最終的にはそういうキャンペーンとか、PRまで含めて仕掛けていく仕事をしています。いわゆる高付加価値商材というか、ブランドに関する仕事をすることがすごく多いですが、日本はブランドの作り方があまりうまくないなと思っています。
どちらかというと、安いものが正義で、それを広く届けるのが、戦後の人口増加時代の成長モデルだったと思うんです。これから人口が減っていって、日本より安い労働力の国がたくさん出てくる中で、フランスとかスペインとかイタリアみたいな、ブランドが生まれる国になっていかないといけない。それは僕自身、仕事柄すごく痛感しています。
今回はその部分で、自分の経験も踏まえていろいろお話しできればと思います。困ったら最終的には箕輪くんにぜんぶ振るので、よろしくお願いします。
箕輪:うぃす。
白石:仲良しですね(笑)。ありがとうございます。
白石:このインバウンドサミットに参加された方から、事前に「えっ、(セッションの)メンバーが、インバウンド旅行に関係ない方たちがいるんだけど、どうなるの?」と言われていたんです。
高木:(笑)。確かに関係ないですよね。
白石:でもプライシングだとか、この中でどんな話が聞けるか、本当にこれからのインバウンドの中で、勉強になることがいっぱいあると思っています。では、アフラさん、自己紹介お願いできますか。
アフラ・ラフマン氏(以下、アフラ):はじめまして。アフラと申します。私はインドネシア出身ですが、日本に来て12年ぐらい経ちました。今はいろんな仕事をやらせていただいています。
1つ目は、クリエイティブディレクターの仕事をしておりまして、映像制作会社をやっております。2つ目の会社は、インバウンドの旅行会社。外国人専門の第2種旅行業の会社です。3つ目の会社は、ハイヤー会社。東京拠点の送迎サービスですね。4つ目は、医療IT系の会社をやっております。
なので、インバウンドは非常に関わりがあると思っていますので、いろいろご意見を申し上げたいと思います。よろしくお願いします。
白石:よろしくお願いします。本日、実践者のみなさまにお集まりいただいたので、ぜひみなさんの価格決定の方程式だとか、価値のはかり方について、聞いていけたらと思っております。
先ほど自己紹介の中で、「安いが正義」とあったと思いますが、実際に高付加価値化した事例をお聞きしたいのですが。まず、価格の決め方のルールやブランドの作り方をお聞きしたいです。新平くんは実際に、価格設定とかで戦略的に考えていることはありますか?
高木:僕自身が価格設定をすることはなかなかないんですけれども。いろんな企業だったりブランドと一緒に仕事をさせてもらう中で、例えば、高級日本酒の「SAKE HUNDRED(サケハンドレッド)」というブランドがあります。1本3万円とかするような日本酒を、オンラインで売っているブランドですね。コンセプト作りから一緒にやっています。
日本酒は産業的にはすごくポテンシャルがあるけど、伝統的な産業は、流通とか構造ができあがっていて、価格設定がぜんぜん自由にできない。だから、安く、広く卸さないといけない。それがある限り、ワインとか他のアルコールの価格範囲に入っていけないんです。
高木:これは価格設定の話ではないんですけど、日本酒だと、質の良いものでも2,000〜3,000円だったりする。それをどうやって変えていくかという話です。それで、「価格を1桁上げて売れていくものになっていかないといけないよね」とSAKE HUNDREDの代表の生駒(龍史)くんとは話していました。
その時に、価格設定というよりは、その価格に見合う商品にしていくために……そもそもラベルの作り方とかもそうですし。例えば、SAKE HUNDREDは、いろんな全国の酒蔵と、本当に研ぎ澄ました日本酒を作っているんです。
吉祥文様とかをモチーフにしたダイヤ形のラベルも、あえてすごく現代的に解釈して作りました。シーンも、フレンチや五つ星ホテルの中で飲まれていることをイメージして、最初のクリエイティブから作り込んでいきました。つまり、その価格の中で成立するドリンクを描いたんです。その価値体験にふさわしい価格の商品を作りにいく。
それぐらいものづくりにこだわる一方で、世界観やコミュニケーションも、最終的にフレンチや五つ星ホテルに入っていけるような、理想の価格帯から逆算していきましたね。
白石:なるほど、ありがとうございます。実際に、3万円の日本酒は初めてだったんじゃないですかね。
高木:まあ今はけっこう増えているんですけど、それまではそういう商品がなかったと思うので、そうだと思いますね。ある意味、オンラインで、地元に完全に根付いていない東京のプレーヤーだからできたことでもあると思います。
白石:なるほど。
高木:地元に根付いていると、やっぱりしがらみがある中で、できないことも多くなるので。あと、既に存在する物をどう高く売るかを考えるのではなく、このシーンに入っていけるような日本酒のあり方や佇まいを、金額感から逆算して作りにいったので、完全に逆ですね。考え方のプロセス自体が違うのかなとは思います。
白石:原価積み上げ型ではなくて、価値から決めているということですね。
高木:そうですね。
白石:でも、高価格帯のブランディングには2つあると思っていて。今の話のように、価値を価格に反映して、安売りをしないでブランドを作ろうよっていうケース。それから、ある種それをものすごく軽薄に捉えて、高いことそのものをブランディングにしてしまうのも、最近流行っているような気がします。
「そもそも価値って何?」みたいな、そのへんが難しいですよね。高いサウナとか、高いラーメンとかは、一番簡単なブランディングの仕方と言えばそうですよ。富裕層向けにやろうよ、みたいな。でも、それもまた違うような気がします。
そこを間違えると、日本の「安くて良い」は、めちゃめちゃ良いことなのに。「日本は安売りしすぎだよね」という文脈から、とにかく高く富裕層向けにやろうとすると、中身のない一番寒いやつになるような気もする。本当の価値って何なんだろう? みたいな、そのへんが難しいなと思います。
高木:確かにそうですよね。僕も、このセッションは「安くて大丈夫か」というテーマですけど、ユーザー的には安いのは普通に良いことだなと思っていて。やっぱり僕らもそれが心地良くて日本にいるし、たぶんこれから少し前の東南アジアみたいに、安さを求める人たちが海外から来ると思うんですよね。
箕輪:まさに。
高木:たぶん「安い」しかないのが良くないと思っています。体験が画一的でつまらない。僕は、日本がドン・キホーテみたいになればいいのかなと思っています。ベースは安くて、でも高いものもあったり、レアなものもある、気づいたらいろんな組み合わせでお金を落としていた、みたいな。ちょっと楽園っぽい。
白石:日本がドンキに。
箕輪:確かに。
白石:でも、その時に、安いものも他にある中で、「なぜこれが高いのか」を証明しないといけなくなる。それができないと、箕輪くんの言ったとおり、最初は価格が高い、数百万円のブランディングでバーンって商品が出る。それからPRに走るんだけど、実体がついていないからお客さんもついてこなくなって、けっこう寒い感じになると思うんですよね。
箕輪:まさに。
高木:それはむしろ、投資をしていろんな高い理由のものを作りにいかないといけないんです。SAKE HUNDREDをやっていても、そこがすごく大変だなと思いますね。
箕輪:めちゃめちゃこだわりすぎて、時間と金と労力がかかりすぎた結果として高いものは、欲しい人がたくさんいると思っています。そこに対して、金や時間や労力をかけても、良いものだったら回収できると思えるようになればいいですよね。今はたぶん、そう思えないから似たようなものが乱立する感じ。
ブランドはその逆じゃないですか。めちゃめちゃ尖ったことを、狂ったようにやる。結果高くなるけど、それはやっぱりそういうものを作ってほしい人たちが、ちゃんとした評価をしてくれる。そういう良いものができればいいなと思っています。
それを真似した「高い」もあるから、なかなか難しいなと思いますが。例えば、僕がインバウンド向けにラーメンを20ドルで提供するのは、完全に偽物側のマーケティングですよ(笑)。別に普通の家系(ラーメン)と原価も労力も変わらないし。でも、まあ20ドルだったらインバウンドなら取れるかな、ぐらいに考えている。価格が高いのは単なるマーケティングで、本当の意味での価値ではない。
高木:でも、ものづくりとして異常にこだわっていたりとか、他のものとは違う労力がかかっていたりしないと、さっき言ったようにバレてしまうから、表面的なものになって、失敗してしまうでしょうね。
箕輪:そうですよね。要は、どんな高くても良いものに金を出すのはかっこいいけど、ちょっと騙す……それ別に良くないでしょというものにお金を出すと、ダサいと思われてしまうから。
どんな金持ちもそこはシビアですよ。いくらでも出すけど、それが正当なのかどうか。価値に対してはシビアだから、そこ(価値)をつけないと。
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