2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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大岩央氏(以下、大岩):では次(のテーマ)ですね。これまでは男性育休そのものについてお話をいただきましたが、「少子化対策」という面で、山口先生にお聞きしたいと思います。天野さんの講演にもありましたが、最近イーロン・マスクが「日本は消滅する」と発言しました。
昨年の人口減少は64万人だったそうです。コロナ禍で外国人労働者の受け入れができなかったこともありますが、減少幅が(過去)最大だったということです。鳥取県の人口が54万人だから、1年で鳥取県サイズ以上の人口が消えているという、大変な事態になっています。
少子化対策は喫緊の課題であると言われています。先ほど、男性の家事育児の負担割合と出生率には相関があるという研究をご紹介いただきましたが、一方で「未婚の若者が結婚できるようにすることのほうが大事だ」という考えもあると思います。
例えば、「給料を上げる」「もっと恋愛をするように促す」などです。日本において有効な少子化対策とはどのようなものだと思われますか?
山口慎太郎氏(以下、山口):もちろん、結婚が増えると出産も増えるということは、議論として理解できます。でも個人的には、「結婚と出産」あるいは「出産と子育て」を分けて、あたかも前者が後者の原因であるという考え方は、必ずしも正しくないんじゃないかと思っています。
なぜかというと、(これらの)両者は分かち難いんですね。つまり出産・子育てが充実していて、未婚の人にとって魅力的なものになれば、おのずと「結婚したい」と思う傾向になっていくと思うんです。したがって、両立支援が今後も少子化対策として重要な要素になり得ると考えています。
山口:日本の政策的な支援は、いろいろ良いものもあるんですが、まず中身以前に規模が極めて小さいんですね。GDPに対する、子育て支援に関する公的な支出の割合を計算すると、日本は1.6パーセントです。これはOECD平均の3分の2ぐらいにしかならないんですね。
大陸ヨーロッパの国々では、日本の倍近い3パーセント超えなんですね。つまり、日本の子育て支援は非常に貧弱であると言わざるを得ない。まずは中身以前に規模が足りていないということが大きいと思います。
具体的にどういうところを増やすのかというと、児童手当などの意見もありますが、私は両立支援の中核になり得る「保育所の充実」「質・量の向上」だと思っています。今日のテーマである「男性の育休取得」も重要で、男性が家庭に帰ることで、おのずと女性も社会で活躍できるようになるわけです。
これまで「女性は家庭」「男性が外」という役割分担が非常に強烈でしたが、これを緩めていく必要があります。そうすることによって、経済にもいい影響があり、生産性向上にもつながるわけです。
さらには消費の拡大を通じて、新しいビジネスの誕生にもつながっていく。だから、やはり引き続き両立支援が、少子化対策の一番大事な要素であり続けると考えています。
大岩:ありがとうございます。確かに「日本は子育て(支援)に関する予算が少ない」と、たびたび言われていますよね。
大岩:どうしても高齢者向けの政治になりがちというか、それを変えるためにはどういった施策が考えられるんでしょうか。クオータ制や、政治への多様性が必要といった意見もありますが、そのあたりはいかがでしょうか?
山口:大岩さんがおっしゃったとおり、(日本は)シルバー民主主義ですよね。政治家は、投票に行く人の声を聞く。みなさん、声を上げることは非常に大事です。実際に投票に行くことも軽んじるべきではありません。
私もそうですが、小室さん、天野さんも政治家に働きかけをしています。やっぱり(彼らは)自分たちの票につながる実感がないと、なかなか動きません。だからみなさん、投票や、政治家に対する働きかけを軽視してはいけません。
小室淑恵氏(以下、小室):そこに追加で思いを乗せますが……。
大岩:お願いします。
小室:私は16年前から政府のいろんな委員をやっていて、そこで感じたことがあります。政治家とともに、霞が関の官僚の人にとって、育児をしている人の悩みは長らく他人事だったんですね。
霞が関官僚には女性もいます。いるんだけど、国会の対応は深夜にまで及ぶから、それができない人は隅っこの部署にどんどん追いやられて、中央を歩けないんです。こんな構造があるんですね。
いつも審議会などの対応をする事務方、いわゆる中央を歩いている官僚は、こちらが「少子化の解決策は働き方で……」と話をしても、「はあ、そうですか。それってエビデンスでもあるんですか?」なんですよ。
「生きていればわかります!」「毎日両立している人だったら瞬時でわかることですよ!」ということでも、「何かデータはありますか?」みたいなことを真顔で聞いてくるんです。少子化についても、最初の頃は「人が少し減ったほうがいいんじゃないか」ぐらいの反応を示す方がほとんどでしたね。
小室:霞が関官僚は、地元と霞が関を往復しながらほぼ365日、24時間働いています。プライベートなことは誰かにアウトソーシングしないと成り立たない働き方をしていて、これでは少子化についても危機感を持てないし、どうしても我が身ごとにならないんです。
だから私たちは、政治家や霞が関官僚の働く時間を限定させたほうがいいと思います。おのずと育児をしなきゃいけない状態になれば、その時に初めて「この国は問題だらけじゃないか」と感じるはずです。
24時間選挙(活動)をしている人を当選させてはいけません。早朝から活動している人がいたら、「あなたはむしろ家庭的に(責任を)果たしていないですよね? こんな早朝から何してるんですか? 家事をしたほうがいいですよ」と言いましょう。
私たち自身も「ちゃんと時間を限定した上で高い成果を出す人」を当選させるという視点を持たなくてはいけない。「(自分たちの地域の)祭りにも来てくれた。夜遅くに電話してくれた。だから投票しよう」ではないんですね。
天野妙氏(以下、天野):ちょっと私も思いを乗せていいですか?(笑)。衆議院選挙の年代別投票率を見ていただくと明らかですが、60代は71パーセント、20代はなんと36.5パーセントと半分なんですよ。さっきグラフを見せましたが、小室さんと私には200万人の同級生がいるんですね。でも、20代は130万人ぐらいしかいないんです。
誰でもこの単純なかけ算、わかりますよね。でもおもしろいのが、10代の人たちは実はけっこう高いんですよ。一番はじめの、18歳、19歳は投票に行くんです。
だけど「自分の意見が反映されていない」と思ってしまって、20代からグッと下がる。30代から「なんか子育てしにくいな」とか「なんか俺の給料、すげぇ天引きされているんだけど、何なんだろう」みたいな怒りからだんだん上がってくる。
天野:まさに私も、そういう経路をたどっている感覚はすごくあるんです。だから、今日聞いている若い人たちは(ご自身の世代の)人数が少ないと思ったら、きちんと投票に行くことがすごく大事。
あともう1点お伝えしたいのが、今度参議院議員選挙が7月にありますよね。今度の選挙の2枚目の投票用紙は非拘束名簿式で、「政党名」か「全国比例代表候補の個人名」のどちらかを書く仕組みです。ところが8割ぐらいの人が「政党名」を書いています。でも今度の選挙では、個人の名前を書くほうが2度おいしくなる仕組みになっているんですね。
なので、2枚目の投票用紙には、例えば子育て政策や男性の育休だとか、「この政治家は、こうした問題の本質を理解しているな」と思う人の名前を書いてあげてください。これ、「全国比例」と(投票用紙を記入する台の)目の前に書いてあるので、ぜひそこのポイントを注意していただきたいと思います。
もし、誰に投票していいのかわからなかったら(支持する政党の)女性議員の名前を書いてください。以上です。すみません、思いが乗りました。
大岩:ありがとうございます。
大岩:時間が迫ってまいりましたので、最後に私から質問をさせていただきたいと思います。山口先生に、育休取得による企業の利益、倒産確率の影響はなかったという調査結果をご紹介いただいて、非常に勇気付けられるデータだったんですけれども。
小室さんも天野さんもご言及されていますように、日本においての労働環境が、サービス残業が多かったり、あるいは慢性的に休みが取りづらかったり、ガバナンスもなかなか欠如している企業が多い。そんな中で、同様の結果が得られるのだろうかという懸念もあると思いますが、そのあたりを経済学的な知見からご解説いただきたいです。
視聴者の方からも「国内の9割を占める中小企業は、一般的に経営資源が乏しいと言われている中で、どうやって男性の育休を中小企業でも取れるようにしていったらいいんでしょうか?」というご質問をいただいておりますので、その点についても天野さん、小室さんにもお答えいただければと思います。よろしくお願いします。
山口:私からお答えしますと、まずデンマークのお話をしましたが、あそこで取り上げられていたのは、従業員30人未満の企業ということでかなり小さいわけです。もちろんデンマークと日本は、一緒ではないよということはわかっているんです。
一方でデンマークでしか使えないようなITや科学の技術があって、日本にはないということはないですし、もちろんデンマークにもいい人たちいっぱいいるわけですが、日本人と比べて特別勤勉であったり、特別創造性が高かったりするわけではないんですね。
そういった環境であるにもかかわらず、デンマークの中小企業では成功しているということは、日本では成功できないのではないかというのは、思い込みに過ぎないと言っていいのではないかと思います。
山口:具体的な方法については、『男性の育休』という本を読んでいただくのが本当にいいと思いますし、それ以外にも、育休で成功している日本企業の事例は厚労省が公表しています。そこで表彰されているような企業には、中小企業もたくさんあります。
それを見ると共通しているのは、まずトップが改革しようとする意識を持っていることですね。そこがスタート地点になっているんですが、気合だけで乗り切れるような問題ではないわけで、具体的に何をしているのかはもちろん詳細に書いてあります。
よくあるのは、DX化をちゃんと進めているということですね。デジタル化によってリモートワークをできるようにしたり、仕事の内容がどう進んでいるのかを常に上司や同僚が把握できるようにしてある、というのがあると思います。
また、必ず共通しているのは業務の棚卸しですね。働き方改革は同時に実現しています。日本はサービス残業が蔓延して、慢性的に休みが取りづらく、ガバナンスも欠如している。残念ながらこういう状況が事実ですが、これを契機にあらためることが必要ではないかなと思います。
どうしてかというと、これ、男性の育休を取るという問題で終わる話ではないんですね。会社が抱えているさまざまな問題があるわけです。人材をうまく使えていないとか、属人的な働き方になっている。生産性が低い。そういった問題を一斉に見直す契機として、男性育休を利用していくといいのではないかなと思います。
今のサービス残業が蔓延するのは、まったくサスティナブルじゃないわけですよね。こういう状況が続くと、今の若い優秀な人たちは、ワークライフバランスを必ず見ていますから、従業員の採用にも失敗しますし、うまく雇えた優秀な従業員も辞めてしまう。社員が定着しなくなってしまうわけです。
したがって、日本でできる・できない以上に、やらなくてはいけないと考えたほうがいいのではないかと思っています。
大岩:なるほど。ありがとうございます。『男性の育休』の本の中でご紹介している資料でも、新入社員の男性の8割近くが、「育休を取りたいと思っている」というデータもありました。人材採用の面も考えると、中小企業でもやる・やらないではなくて、やらなくてはいけない。
山口:できると思います。成功している事例はいっぱいありますし、「できない」というのはちょっと思い込みが強いかなと感じますね。
大岩:ありがとうございます。天野さん、小室さんはいかがですか? 天野さんから。
天野:そうですね。山口さんの話をなぞってしまう感じになるんですけれども、やっぱりトップがどう思っているかを、みんなすごく意識しています。
さっきご紹介した(スライドのように)トップインタビューをしてそれを公表したら、実は(経営者自身が)すごいパタハラに遭っていたとか、そういう話をシェアしてくださったんです。「え、社長ってこんな経験をしていたの?」と。ちなみにスライド写真とは別の企業です。
それこそ私なんかは建設業のサポートが多いんですが、手伝ってもらう予定だった実家のお父さんが倒れ、お母さんも倒れる。
奥さんは産後で入院しているけど、上の子3人はだれが見るの? という状態で、「もう休まなきゃ」となったのに、「現実は動いてるんだから」となかなかOKがもらえなかった恨み節みたいなものが実はあって。こういうことを社員のみなさんは知らないんですよね。
なので、そういったところも掘り下げていくのは効果があると感じます。もしも今の夫婦仲があまりよろしくなければ、ご自身の懺悔を話してもいいですよ。
それこそ小室さんと、この本(『男性の育休』)を某大臣にお持ちした時に、「そうか! だから母ちゃん怖いのか」と言った大臣がいらっしゃいましたよね(笑)。ですので、そういったところも含めて、トップから発信していくことが(中小企業においても同じく)大事なのかなと思いますね。
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