2024.10.10
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司会者:では最初に、登壇者お二人のプロフィールを簡単に紹介します。『これからの英単語』著者のスティーヴ・マックルーアさんはカナダのバンクーバーご出身で、東京を拠点にフリーランスのジャーナリストやナレーターとしてご活躍中です。
1985年から日本在住で、1999年~2008年までビルボード誌のアジア支局長を務められました。2008年から、NHKのラジオ番組『実践ビジネス英語』や『現代ビジネス英語』で杉田敏先生とお仕事をされています。また2010年から「NHK WORLD-JAPAN」で、テレビニュースや特集のリライターとしても活躍されています。
ピーター・バラカンさんは、もう説明の必要はないと思いますが、ブロードキャスターとして各方面でご活躍されています。昨年9月に書籍『ピーター・バラカン式英語発音ルール』が駒草出版さんから刊行されました。後ほどご自身からもご紹介があると思います。
では、本編に入ります。まずはスティーヴ・マックルーアさんに、『これからの英単語』を書かれたきっかけ、執筆時に苦労されたこと、気づかれたことなどをお聞きしたいと思います。
スティーヴ・マックルーア氏(以下、スティーヴ):みなさん、よろしくお願いいたします。私は「新しい英単語を紹介する」ことを目的に、2年前からこの本を書き始めました。今日のテーマは「英単語」ですね。どんな言語であれ、単語は大切ですが、時として理解の障害にもなります。
例えば新聞や雑誌、オンラインの記事を読む時や、映画を見たり音楽を聴く時に、わからない単語やフレーズがあると理解の妨げになります。スムーズじゃない。私の印象では、こうした障害が最近増えてきています。
それはなぜでしょうか? やっぱりインターネットのせいだと思います。オンライン関係の語彙がすごく増えているんですね。日本には、英語を学習する人向けの辞書や参考書がいろいろありますが、最近はネイティブスピーカーの私ですら意味がわからない新しい英単語が出てきています。ピーターさんもそうだと思います。
ピーター・バラカン氏(以下、ピーター):(うなずく)
スティーヴ:ですから、そういった新しい英単語をこの本で紹介したいと思いました。私は長く日本のマスコミで働いています。ビルボード以外に、NHK、時事通信、ジャパンタイムズで、日本人の編集者、記者と働きました。みんな英語のレベルは高いのですが、単語を知らないこともありました。ですから、読むため・聞くための新しい英単語を紹介しようと思ったんです。
スティーヴ:例えば、後で説明しますが「infodemic」という言葉も、最近よく使われるようになったと思います。一番大切なことは、こういう新しい英単語を知っておくと、理解がスムーズになるということです。私はidiom huntingをしてリストを作り、後から意味を調べています。また、珍しいと思いますが、毎日ジャパンタイムズとニューヨークタイムズの国際版、2つの新聞を読むんですね。
ピーター:僕もそう。一緒に届くからね。
スティーヴ:そこで、新しい英単語があったら書きとって、インターネットで調べてみます。すごく新しいものだと、メリアム=ウェブスターの辞書にも載っていません。そんな時はみなさんご存知のUrban Dictionaryで見つけます。
ピーター:あー、はい。はい。
スティーヴ:スラングがたくさん載っているので。今回私は、インターネット、専門ウェブサイト、科学、ポップカルチャーなどからいろいろな英単語を集めてみなさんに紹介する目的でこの本を作りました。
司会者:実際にそうした新しい言葉はほとんど辞書に載っていないんですね?
スティーヴ:それは大事な質問です。さっきピーターさんとも話していたのですが、中には辞書に載っている言葉もあるんです。ただ、最近辞書とは違うニュアンスで使われるようになってきたものがあって。
司会者:使われ方が変わったんですね?
スティーヴ:そう。変わったし、もっと一般的になった。ちょっと説明しにくいですね。この本の目的を日本語のフレーズで言うと「現在の英語力をhackerする」ですね。今、英語でそういう運動があります。ですから、この本を読めば「英語の精神」がわかると思います。これは辞書ではありません。ガイドです。
スティーヴ:ピーターさんの本のテーマは?
ピーター:僕のテーマは発音です。昔から発音には、ちょっとうるさい人間なんで(笑)。なぜかというと、せっかく使っている英語の発音が間違っていたら、相手に伝わらない。「今なんて言った?」と、何回も何回も同じことを言うはめになるから。それなら最初からしっかりと正しい発音をマスターすること。
残念ながら、日本で教えられている、あるいはマスコミでよく使われている英語の発音はほとんどデタラメです。また一番困ったことは、それを指摘しても直そうとしないんです。僕もスティーヴも単語を見たらこういうふうに発音するとわかっているからルールだとは思っていないけど、実は、英語には発音に関するルールがあります。
そのルールをいくつかこの本でわかりやすく説明しています。うまく理解すれば、知らない単語を見た時でもどういうふうに発音するのか、おそらくわかると思う。そのために書きました。
僕は『Japanology Plus』という番組を長年やっています。ゲストはすべて日本人なのですが、誰も満足に英語が話せないという時期がありました。話せたとしても、ほとんどの人は「カタカナ発音」です。僕は長く日本に住んでいて、日本人の発音の癖をわかっているから、何を言っているかを理解できる。
でもNHK WORLDは世界中に配信されているチャンネルだから、世界のどこかで何気なくテレビを見ている人にとっては「ん?」となってしまう。(そういう発音があった時は)毎回毎回「こういうことですね?」と補足説明していたんですけど、途中で「ちょっと待てよ。これは個人の問題じゃなくて、制度的な問題なのでは?」と気づいて。それが、この本を書いたきっかけです。
スティーヴ:本の中で解説している発音はイギリス英語なんですか?
ピーター:理由があって、イギリス英語にしました。日本の学校で教えているのはアメリカ英語だし、それでもいいんです。でも、アメリカ英語の母音と日本語の母音は、音が全部違うんですよ。
スティーヴ:そう、そう。
ピーター:だから日本人がアメリカ英語をちゃんと話そうとすると、これまで使ってきた母音とはまったく違うものをマスターしないといけない。それがすごく難しいから、中途半端になるんだよね。僕は、それが日本人の発音がわかりにくくなる理由の1つだと思っていて。イギリス英語だと日本人が慣れている音に近いから、そっちのほうがマスターしやすいと思う。
スティーヴ:アメリカ英語はやらないんだ(笑)。私はカナダでございます。カナダはアメリカとイギリスの間ね。だから人間の橋みたいな。
司会者:今ご紹介いただいたのは、駒草出版さんから出ている『ピーター・バラカン式英語発音ルール』です。
司会者:では今日の本題に入りましょう。書籍『これからの英単語』の中で、特にお二人が気に入っている単語、「これはおもしろいな」「今どきの時代を映しているな」と思った単語を事前に選んでいただいているので、それぞれ聞かせてください。まずはスティーヴさんから。
スティーヴ:オッケー。いろいろあります。例えば「Suffering from an infodemic」のように使う「infodemic」という言葉ですね。これは本当に絵になる言葉だと思います。新しいです。辞書によっては「2003年にワシントンポスト紙で初めて使われた」と載っていることもあります。
「infodemic」は最近使われることが増えてきました。なぜか? やっぱり新型コロナウイルスのせいですね。「infodemic」は2つの違う言葉が組み合わさって、新しい言葉になった合成語です。情報の「info」と人たちの「demic」。(コロナウイルスの)世界的流行で「infodemic」になる。つまり「infodemic」は「情報が多すぎて混乱を招いている状況」という意味ですね。
例えば、マスコミは毎日コロナウイルスのことで、いろいろな情報を流します。ワクチンが良いとか、悪いとか。頭が混乱します。特に私の古い頭は混乱します。英語が使える人は知っていると思いますが、TMI(Too Much Information)という表現があって、まさにこれが現代社会の状態だと思います。
なぜ、今infodemicの状態になったかというと、やっぱりインターネットがあるからですね。世界の歴史的にみても、ここ20~30年で情報が増えました。ですから、「infodemic」は現在の社会を説明するのにぴったりの言葉だと思います。世界中に情報が多すぎるんです。
ピーター:じゃあ僕から1個、どれにいこうかな。「get my head around」かな。「情報がありすぎて理解できそうにもない」つながりで。
スティーヴ:「infodemic」から「get my head around」ね。「get my head around」は日本語で説明しにくいけど……。
ピーター:とてもよく使う表現。
スティーヴ:そう。彼が私に説明してくれたんだけど、I can’t get my head around。つまり、「わからない」ということ。
ピーター:うまく把握することができない。いろいろ言われているけど、いまひとつ把握できない。
スティーヴ:これは、日本語で石頭かな?
ピーター:うーん、それは……(笑)。
スティーヴ:私の問題だ(笑)。
ピーター:「get my head around」は最近よく使われますが、こういう表現は自分が使うことよりも、聞いた時に「ああ、そういうことね」と思えるようになることが大事です。そうすれば、英語の理解力がかなり上がってくる。
スティーヴ:次は「doomscroll」ですね。これはSNSのための言葉です。「doom」は悪いこと。だから「doomscroll」はbad newsばかりを探して読むということです。逆の言葉は、聞いたことがないかもしれませんが「joyscroll」。これは楽しいニュースや情報を探すことですね。
doomscrollはインターネット中毒の一種ですね。ロックダウンの状態では人と話せないので、1日中インターネットをしてdoomscrolしてしまう。ひどい情報を探してしまう。そういうことです。ちょっとした社会問題だと思いますね。
ピーター:じゃあもう1つ。「elephant in the room」。これはそんなに新しくないけど、やっぱりよく使う。しゃべる時よりも、むしろ書き言葉で使われるかもしれません。
スティーヴ:部屋の中の象さん。
ピーター:「elephant in the room」、どういうことかというと、部屋の中にとても大きいものがあるけれど、誰もそれに触れない。要するに、タブーな存在についての表現なんです。最近何か具体例ある?
スティーヴ:(ドナルド・)トランプ(笑)。違う? 「elephant in the room」は、ちょっと失礼なこと、危ないこと、誰も話したくないことですね。
ピーター:そう。見えているのに誰も触れない。
スティーヴ:このフレーズは部屋の中に象がいるイメージが浮かぶから、わかりやすくていいですね。昔からある表現ですが、最近使われることが増えました。この本には、ほとんど新しい表現を取り上げましたが、時々クラシックなものもあります。
ピーター:(笑)。僕はそっちのほうがわかるから選んでいるのかもしれない。この本の帯のコメントを頼まれて、こう書きました。「言葉は生き物と言いますが、今の英語は化け物。本書を読んで半分も知らない僕は勉強になったと言うべきか。わからないと不自由しそうで、ネット時代の恐ろしさを痛感しました」。本当にそのとおり。この本を最初見た時に、半分ぐらい「あれ? 知らねーよ、こんなの」って思って(笑)。
スティーヴ:もう私たちの年齢になるとね……。僕もこの本にある表現の半分を知らなかったけど、言語がクリエイティブなのはいいことだと思います。「elephant in the room」、 誰が作ったかわからないけど、著作権ないね(笑)。
ピーター:パブリックドメインになっていますね(笑)。
スティーヴ:次は、「FOMO」。「fear of missing out」。
ピーター:あぁ~。
スティーヴ:取り残されることを恐れる気持ちですね。「FOMO」のような頭字語(複数の単語の頭文字をつなげた造語)は、最近特にオンライン上で増えています。オンラインやSNSではよく見るけど、普通の会話ではあまり使わないですね。
ピーター:Twitterは140文字しかないから。
スティーヴ:そうそう。だからTwitter上で、短い頭字語がよく生まれる。
ピーター:頭文字語というか省略語ですよね。
スティーヴ:そうそう。「FOMO」は、たぶんTwitterで生まれて、その後マスコミでも使われる頻度が増えてきた。こういう言葉は、アンダーグラウンド、サブカルチャー、オンライン、SNSで使われ始めて、その後ニューヨークタイムズなどのメインストリームのメディアでも使われる表現になる。そういう道をたどる言葉はいっぱいあると思います。でも、この本があればFOMOしなくて大丈夫!
ピーター:(笑)。
司会者:「この本に載っている単語は、どんどん定着して、よく使われるようになっているんですか?」という質問が来ています。
ピーター:すべてがそうなのかどうかは、わからないね。
スティーヴ:質問の意味がわからないんだけど。
ピーター:「この本に載ってる表現は、どのくらい頻繁に使われているものなんですか?」って。
スティーヴ:それ、大事な質問ですね。「FOMO」はよく使われます。さっきも言いましたが、会話では使わないけどよく見ますね。私は記事を書く時には使わないですが、例えばみんなが飛びついたNFTブームなどのビジネスの文脈でも使えると思います。
でも質問の意味としては、「10年後も『FOMO』を使っているか?」ということですよね。それはわからないですね。
ピーター:今は、爆笑という意味の「LOL(Laugh Out Loud)」を誰も使わなくなりましたけど、その時になってみなければわからないですね。
スティーヴ:そうですね。流行語は一番わかりにくいと思います。「FOMO」の概念自体は昔からあるものですが、表現としていつまで使われるのか、未来のことはわからない。でも、とりあえず今は知っておいたほうがいい表現です。
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