2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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尾原和啓氏(以下、尾原):どうも、こんにちは。いつものように尾原、新しい本を見つけました。『おいしいニッポン 投資のプロが読む2040年のビジネス』という書籍を、レオス・キャピタルワークスの藤野さんが書かれていて。
この本、投資としてもすごくいい本なんですけど、なによりも日本の・世界の10年後、まだまだこんなに“おいしい・明るい未来”があるんだよ、ということに対する未来の洞察の仕方だったり、未来に向かってどう歩いていくべきか? というところですごく参考になる本なので。今日、藤野さんと初めてお話しすることができまして。本当にありがとうございます。
藤野英人氏(以下、藤野):ありがとうございます。レオス・キャピタルワークスの藤野でございます。本日は呼んでいただきまして、ありがとうございます。
尾原:お声掛けして、即乗っていただいて本当にうれしいです。やっぱりどうしても最近、コロナとかインフレとかいろんな明るくないニュースが多い中で、あえて「20年後」、あえて「おいしい」という言葉を使われて、この本を書かれた執筆動機や狙いから、ぜひお話を聞かせていただきたいです。
藤野:はい。ありがとうございます。実は私たちって「中期の未来」を見ることが、めちゃくちゃ苦手なんですよ。2年後とか3年後とかって、わかるようでわからないじゃないですか。コロナが訪れたことで、一気に全部変わっちゃうし。
尾原:そうですね。
藤野:“なんとかショック”というのがあると、それで変わってしまうわけですよね。だから2年とか3年というのは、実は非常に予測しづらいわけです。僕らが一番予測できるのは何かというと、たぶん1週間後から半年後ぐらい。「たぶん、こんなことはそんなに変わらず起きるでしょう」という手元のことと、10年後以上のことは、比較的わかりやすいと思うんですよね。
例えば日本は人口が必ず減少していくので……。
尾原:そうですね。減ってしまう。
藤野:だから厳しくなるよね、ということだったり。同じように人口という面で見ると、逆にインドの人口はもっと増えて、国内総生産は上がっていきますよね、とか。それから、今「5G」ですけれども、6Gとか7Gとか出てきて移動体通信やインターネットの速度はますます速くなります、とか。
それから医療の技術はもっと発展し、ひょっとしたらガンを克服している社会になっているかもしれない、とか。いくつか「ほぼそうなるだろう」という未来があるわけですよね。
尾原:そうですね。いわゆる人口動態とか通信技術とか、生活とか社会の基盤になるところって、10年スパンでいうと、もう動きが決まっていて。「ほぼそこは変わらないよね」というところがありますよね。
藤野:そうなんですよ。そうすると、実は10年とか20年後に「ほぼ起きるだろう未来」に照準を合わせて、そっちを見つめていったほうが打率も高いし勝率も高い。かつ、あまり今起きてることに一喜一憂せずに、楽しく前向きに進むことができる。この視点が大事だというのが、私が今回(の書籍で)主張したいことなんですよね。
だから足元の「日経平均どうなりますか?」とか「米国のダウどうなりますか? 為替どうなりますか? 金利どうなりますか?」ということをよく聞かれるわけですけど、実はなかなかわからないし、わかったとしても非常に短期的な動きなんです。
でも「より長い視点の中でわかる」、もしくは「想像できる未来」を考えると、それに対してしっかり“待ち伏せ”ができるんですよ。
尾原:待ち伏せ、という言い方はいいですね。
藤野:ありがとうございます。10年後20年後に起きる未来に対して、真剣に今、行動する人が少ないんですよね。でも「確実に起きるだろう未来」について、今からある程度の準備をすると、結果的にそれがビジネスでうまくいったり、リスクを回避したり、大きな成功につながることが多いと思っているので。
そういう観点から見てみると、「今、起きていることが10年後・20年後にどうなるだろう?」と考えると、結果的に、意外とブレない。長期的に見るとブレない。かつ、ブレないところに努力をしていくと、結果的に成功確率が高まるということが大きいんじゃないかなと。
だからそういう視点とか視野を読者に伝えたいというのが、今回の『おいしいニッポン』の趣旨なんです。
尾原:すごくわかります。僕自身もやっぱり原体験というのが、1999年に始まった「iモード」というモバイルで。
藤野:あぁ、そうですよね。
尾原:モバイルそのものは20年スパンで見れば、みんなが「来る」とはわかっていたけど。でもやっぱり、iモード立ち上げの時に周りに話すと、半分以上の人は「いやそれ、未来ごとだろ」とか「早すぎるよ、そんなの」と沢山の方から言われました。
でもありがたいことに、当時、私も関わらせていただいたNTTドコモさんは、「確実に来る未来だから、そこに対して数年がかりで時間をかけてもやり続けていい」とコミットされて。だから(最後まで)やりきれて、結果として当時の世の中を変える1番のサービスになれた。
まさにおっしゃるように、10年先・20年先に確実に来る未来に対して、ブレずに「まず第一歩はどこからできるんだ?」みたいなことがやれたから、あれだけのことができたというのがあって。やっぱり「20年後に来るであろう明るい未来を見る」というのと、そこに向かってブレずに動き続けることによって、結果的に20年後の中心の場所に居やすくなるというのは、個人的にはすごく納得なんですよね。
藤野:そうなんですよ。だから多くの人が本当に「今日儲けたい、明日儲けたい」。それから「できれば短期間で成功したい」という気持ちを抱きすぎるんですよね。それが結果的に失敗の元だったり。自分の弱い心に、多くの詐欺的な人たちが入り込んでくる。
尾原:そうですね。
藤野:実は「誰かがなんかうまいことやって、それで一部の人が儲けているに違いない!」という考え方を持つ、きっかけになっちゃうんですよね。結果的に、前向きな努力を阻害したり……。
尾原:帳消しにしてしまうと。
藤野:詐欺師に騙されてしまうようなことが、よく起きるわけですよ。実際に、私はいろいろな「エリート」といわれる人や、未来のことについてバシバシ当てている人と会って話をする機会は、何度もあるわけですけれども。
でも“水晶玉を持っている人”って、1人もいなかったですよね。だから未来は常に不確定、どうなるかわからないという中で。でも「おそらくこういう未来があるに違いない」と、5年10年20年の長い目線で行動した人だけが、結果的に大きな成功を収めていると思うんですよ。
そのとても有名な例だと、孫正義さんがそうですね。孫さんの有名な話で、ビールの桶か何かの上に乗って「これから1兆~2兆の会社を目指すぞ!」と最初に言った、という有名な逸話がありますよね。
当時、言われた「マルチメディア」の時代の中で「巨大な会社を作るんだ」という基本的な考え方は、今でもまったくブレていないわけですよ。
藤野:他にも例えば、1994年ぐらいに広島単独上場で出てきたのが、ユニクロなんですよね。ファーストリテイリングという会社で。上場してきた時からファーストリテイリングという会社で、当時は広島に証券取引所があって、広島単独上場なんですよ。東証にさえ上場していない、単なる“超地方企業”。
尾原:そうですよね。最初はなんか田舎のおばちゃんが着替えするみたいな、変なCMが出てましたもんね。
藤野:そう、そう。それが当初のスタートだったんです。もともとお父さんの会社を継いだ時に、山口県の小郡にあったので「小郡商事」という名前の会社だったんだけれども、彼らはかなり初期の段階から、それをファーストリテイリングという名前にしたわけです。
ファーストリテイリングは「ファストファッションとかファストフードのような考え方のリテイラー(小売業者)があっていいはずだ」というのが名前の由来なんです。
だから最初に上場した時の「Day1」から彼らは、単なるアパレル屋さんではなくて、マクドナルドのようなリテイラーを目指したいという考え。10年20年を見据えた考え方で、会社を作る。
尾原:そうですよね。SPA(企画から製造、小売までを一貫して行うアパレルのビジネスモデル)という言葉があとからついてきたけど、実はユニクロって創業のコンセプトの時から、もうSPA的な「自分で作って、自分でパッと売って」という。社名がコンセプトとして20年後を目指していたということで、そこをブレずにやってきた。
藤野:だから結局、この2つなんですよね。何かというと、未来を見据えてやるということに関しては、おそらく確定的な未来をどのようにして捉えていくのか? インターネットが進むとか、高齢化社会が進む中でどう生きるかとか。より人が便利さを追求するような社会が続くよ、とかね。いくつかの大前提があって、それに対して目線を合わせてじゃないけど。
もう1つは、最近、流行りのパーパス経営みたいなものがあると思います。要はWhyが大事で「なぜ僕らはこういう会社を作るのか?」というと、ある面で見ると、日本史的なというか、歴史的な背景の中から未来をどう見据えて、人類のためにどういうことをやらねばならないか? というパーパスを明確にして、そこを推進していくのが大きく成長してきた会社の条件だったような気がするんですよね。
だから、この「2040年」というのも、やっぱり10年~20年という目線の中で、どういう世の中になるべきなのか? 自分たちが世界史的・日本史的な中で、どういう位置づけの会社として存在するべきなのか? というところが、そこにあって。それが会社の推進力になっていくわけなんですよね。
「来年どうありたい、再来年どうありたい」ということは、もちろん企業だからちゃんと計画をしなきゃいけないんだけれども。でもそういう話じゃなくて、もっと中長期の中で自分たちがどうありたいのか? を考えることが、結果的に会社にとってもブレない強さを保つことになるんじゃないかなと思うんですよね。
尾原:確かに言われてみると、結局、ソフトバンクにしてもユニクロにしてもそうですよね。ソフトバンクは情報が無料革命になっていて、誰もがどこでも気軽に情報を楽しめるということが、20年後の大きな変化となっていくし。それは孫さんの志として、自分がなかなか情報を手に入れられず、ものすごい苦労をしながら成長してきたことの中から生まれてきていたりもするし。
だから、大きい世の中の変化に、いかに“旗を立てるか?”ということと、そこに対してWhyが揃っていると、みんなが一緒にワクワクできるから人が集まる。個人的には、僕自身もGoogleに入社したくなったのは、まさにそれで、Googleの理念は「Organize the world's information and make it universally accessible and useful.」という、実はものすごくシンプルなものなんですよね。
藤野:シンプルですね。
尾原:「情報を有機的につなげたら、誰でもどこからでも簡単に情報を使いこなすことができるじゃん。それって楽しいでしょ?」ということを掲げて。それってやっぱりネットでつながるし、AIでどんどん滑らかになっていくということを考えれば、それが20年後の世界の中心の1つになって。ワクワクする世界中の天才が集まってきて、みんなで実現しようというふうになるから。それが楽しいから、ブレずに10年がんばれるようなところもあって。そういうところから……。
藤野:今「楽しい」って話をされたんだけど、それがものすごく大切な概念だと思うんですよね。もちろん、そのビジネスの中に「苦しい」というのは、入ってくるわけですけれども。でも創業メンバーや経営陣が、ベースは「楽しいんだよ」という旗を立てていることが大事で。
それが結果的に、優秀な人であったり、よりクリエイティブな人を集める原動力になるんだと思うんですよ。日本は、この20年とか30年間ぐらい停滞しているんだけれども、その背景というのは「なんか仕事がつまらない」というところが大きくて。
仕事がつまらないというのは、「つまらない仕事がある」わけではなくて「仕事をつまらなくしていた『気分』や『組織』があった」と思っているんですね。だから、僕らはここからやり直す必要があるかなと。やっぱり、もっと「楽しい」とか「ワクワクする」という軸に、仕事のあり方を変える必要があるよねというのがあって。それでもやっぱり、僕ら日本の人というのは良くも悪くもすごく真面目なところがあるんですよね。
尾原:そうですよね。
藤野:その真面目さとは何か? ということなんだけれど。僕、真面目という言葉がすごく好きなんです。真面目というのは、真実の“真”に、それから顔の“面”ですね。
それから見る“目”ですね。それで真面目と読むわけですよ。だから真面目ってもともと読み方としては、おかしいんですよね。不思議なもの。
もともとこの言葉は「しんめんもく」と言われていたんですよね。どこで区切るのかと? いうと、シンで切れて、メンモクで「真・面目」。じゃあ「面目」って何かというと、フェイスなんですよ。顔。真だから、リアルなんですよ。だから真面目(しんめんもく)というのは「リアルな顔」ということです。
尾原:なるほど。
藤野:真面目(しんめんもく)というのは、もともと中国から来た言葉で、「その人がその人らしい状態であること」という意味なんです。
尾原:そうなんだぁ。
藤野:だってリアルフェイスだから。
尾原:じゃあ逆に、仕事が好きで楽しくてやっている人もその人らしかったら、真面目(しんめんもく)なわけですよね。
藤野:そうそう。さすが尾原さん、まさにそこがポイントで。真面目というのは日本でいうと「規範に従う」というイメージがあるじゃないですか。
尾原:そうですね。
藤野:遅刻してる人を真面目とはいわないじゃないですか。でも遅刻してる人が、その人らしかったら真面目かもしれないんですよね。中国の宋の時代の漢詩があって、「柳は緑、花は紅、真面目(しんめんもく)」という言葉があるんですよ。
「柳が青くて、花が赤いように、それぞれの色ってカラフルで違いがあっていいよね」と。それが、それぞれの人がそれぞれであっている真面目(しんめんもく)という意味だ、と書いてる詩なんですけれども。
要するに、自分の生き方をちゃんと持っていて「僕はこうしたい、僕はこうやるべきだ。私は赤い色が好きだ、僕は緑色なんだ」と主張し、認め合うのが真面目(しんめんもく)、真面目(まじめ)という意味なんです。
藤野:だからこの意味で使われるところもあって。「あの人は真面目だから、上司が不当なこと言ったのを許せなくて、それで彼に抗議した」みたいな。これがもともとの意味で真面目なんだけど。
尾原:なるほどね。
藤野:要は真面目というのは「自分の中の規範に対して忠実に生きる」ようなところで。
尾原:一方で、この面目(めんもく)という言葉って、面目(めんぼく)とも読んで。「面目が保てない」とか「面目を潰す」みたいな言い方で、自分の中のものさしに忠実に生きている人が真面目(しんめんもく)だったんだけど、いつのまにか外のみんなのものさしに合わせることが、どこか、面目(めんぼく)ということになっちゃった。
「みんなと一緒のものさしで、きっちりいること」=「真面目」みたいに、時代の中で意味が変わったってことなんですね。おもしろい!
藤野:そうなんです。だから、僕らはそういう真面目さを失ってきたと思うんです。それはさまざまな不祥事で、例えば三菱電機さんが、いろんな数値を改ざんしていたことだって、東芝さんが不正会計に手を染めていたことだって。それで「社長が悪いんだ!」という話があるんだけど、でも社長は「なんとかしろ!」ということを言っていたわけで。それに対して、忖度してやった人たちがいるわけですよね。
尾原:そうですよね、実際。
藤野:会社の命令に対しては真面目だったけど、本来やるべき世の中の規範からすると、間違ったことをやっていたという面では、社長の命令であれなんであれ、本当の意味では不真面目だったわけですよ。
だから僕らは、会社という建前のところでは、ある面で見ると自分を殺してやったことに関して、結果的に起きたことは免責されるようなところがあったわけで。結果的にいうと、この社員の個性を殺し、働くことが非常に苦しくなり、コンプライアンスの面で見ても間違ったことをやってしまう。「固い組織」を作ってしまうことがあると思うんですね。
だから僕らが何を取り戻さなきゃいけないのか? というと、やっぱり一人ひとりが、自分の生き方をちゃんと持って、それを多くの人が認めあう社会で、かつ自分のミッションに従って行動すれば、ストレスが少なくなる。
でも人のミッションに従って、それを強いられると非常にストレスが高くなって、結果的におもしろくない仕事をしているから、パフォーマンスが出なくて生産性が上がらないということになってしまう。
日本の最大の問題は「生産性が低い」ということで、「生産性を上げましょう」ということになるんだけれども。生産性を上げるためにどうしたらいいのか? というと、やっぱり一番のポイントは「楽しく仕事をすること」ではないかなと。もちろんDXは大事ですよ。DX化によって効率化するということはあるけど、そもそもやっていることが楽しくなければ、DX化しようが何をしようがぜんぜん楽しくないわけですよね。
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