2024.10.10
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橋口幸生氏(以下、橋口):ありがとうございます。このキーワードは、寺嶋さんとつんく♂さんの対談の中でできた言葉だったんですけれども、つんく♂さんが寺嶋さんのことを「プロのアイドルだね」とおっしゃっていて、僕もそれがすごく腑に落ちたんですよね。
「アイドル」を「仕事」としてすごく意識してやられているなと思って、ある意味ビジネスパーソンらしいなって思ったんですよ。
寺嶋由芙氏(以下、寺嶋):うれしい。でも「アイドルは仕事だ」ということを、どんどん言っていきたいなと思っています。以前だったら「夢がない」と言われることだったかもしれないけど、仕事だからこそがんばらなきゃいけない部分もあるので、そこをちゃんと言っていく人でいたいなというのが、最近の自分のテーマです。
橋口:アイドルとか人前の出る仕事の人って、自分を出すのが仕事だから、なかなかそう意識しないと境界線が曖昧になっちゃいますよね。自分の人生として、人柄としてアイドルをやっているのか、プロとして仕事としてやっているのか。このスタンスはすごくおもしろいなというか、この言葉がすごく腑に落ちました。
寺嶋:ありがとうございます。
橋口:「プロのアイドル」というテーマとも被るんですけど、(寺嶋さんは)グループアイドルから出発されて、今はソロアイドルというキャリアの歩み方をされていますが、グループの時とソロの時の活動や自分のスタンスの違いについてお聞きしたいなと思って。
寺嶋:グループの時は、キャッチフレーズを考えた時もそうなんですけど、いつでもまず最初にくる比較対象はグループ内の話なんですよ。グループの中でこういう個性を持った子がいて、こういうメンバーがいる。じゃあ空いているポジションはどこかなとか。
今、自分は何番目に人気があるかなとか、歌割りがどれぐらいもらえたかなとか、常にグループの中で比較をされるので、マーケティング市場がそのグループなんですね。その中で自分がどう結果を残すかという。
でもソロになったら、アイドルという全部のムーブメントというか、アイドルをやっている全員がライバルでもあるし、競合じゃないですか。そうなった時に、見える市場と言いますか、自分と比較する対象がブワーッと大きくなったので、その「見え方の違い」をわりと早めに経験できて良かったなと今となっては思っています。
もしグループに10年とかいたあとに、「さあここから1人立ちです」と言われたら、またちょっと見え方も違ったと思うので。グループを2年弱経験して、「はい、ソロです」って言われたからこそ、どっちの視点も持てたかなと思っています。
橋口:でも、グループでやられたあとソロになると、やはりその比較対象が広がるじゃないですか。一気に全アイドルに対して自分を相対化しなくちゃいけなくなるわけですよね。それってグループの頃に比べてけっこう大変だったんじゃないですか?
寺嶋:逆に膨大過ぎてつらくなかったというか(笑)、近い人たちに比べられながらやっていくよりも、広い視野で見るほうが、自分を1個の商品だと思いやすくなって、むしろ客観視がしやすくなった感覚がありました。
あと実は、自分でソロアイドルになりたいと思ってなったわけではなくて、グループを卒業、脱退したあとに、たまたま出会った音楽プロデュ-サーさんが、気がついたらソロアイドルにしてくれてたんですよ。本当に数ヶ月の間の出来事で。
なので最初は、こんなに長くソロアイドルをやるつもりもなくて、お試しで1枚CDを出してみましょうぐらいの感じだったので、あまり気負わずに移行ができたのも、1個大きかったかなと思います。
橋口:なるほどね。いや、この質問を僕がした理由って、僕みたいに会社に所属している会社員もグループアイドルだと思うんですよね。なんですが、最近はグループアイドルの会社員も、ある意味ソロアイドル的な立ち位置をしないといい仕事ができなくなってきているなと思っていて。
特に広告会社のコピーライターとかクリエイターって、変な言い方をすると「ビジネス芸人」みたいなところもあるので。ある程度いろんな人がいる中で、自分は相対的にどういう存在かというのがみんなに認知されていないと、あまり自分らしい仕事が入ってこなくなるんです。
橋口:例えば「あいつはコピーが得意だな」とか「あいつはタレントCMが得意だな」という、なんとなくのイメージがないと、あまり仕事が入ってこなくなるんですよね。なのでみんな、どうポジション取りをするのかすごく悩んでいると思うので、この質問を寺嶋さんにしたんです。
僕の場合、今はコピーライターというコピーを考える仕事をしています。、それをやったきっかけって、ある時、社内で天才といわれているCMプランナー、CMを考える仕事をしている人の下についたことがあって。その人は天才的におもしろかったんですよ。
もうふだんの会話がそのままCMの企画になるようなおもしろさのある人で。「この人と同じことをやってたら絶対勝てないからもうCMは見切りつけよう」と思って、コピーに軸足を移したんですよね。
寺嶋:圧倒的な人とか、自分はかなわないなという人がいると、逆に自分が生きる道を探さねばとなるのは同じなのかなと思いました。私にとってはビジュアルでバンって出せる人とかなんですけど。
橋口:そうですよね。今日これを聞かれている方は、会社員とかビジネスパーソンの方も多いと思います。なかなか日々忙しいと目の前の仕事でいっぱいいっぱいになっちゃって、全体の中で自分のポジションをどこに置くかって見えなくなることもあると思うんです。
「あの人には勝てないからあれをしよう」とか、「周りはキラキラしている人が多いから自分は違う道に行こう」ということを意識するとキャリアが開けるのは、会社員とかビジネスをやっている人も同じなのかなって、お話を聞いていて思いました。
寺嶋:もちろんそこでガチンコ勝負を挑んで道を開いていく人もいるんでしょうけど、それよりは「もっと自分に向いていること」を探せたほうが、もしかして楽しいのかなとなんとなく思っております。
橋口:そうですね。ガチンコ勝負ってつらいですもんね。コピーも上手な人が山ほどいるから、その人たちにコピーだけで戦いを挑むのは疲れちゃうなと。
寺嶋:疲れちゃう(笑)。
橋口:疲れちゃうから、なんかいろいろやってみるのがいいかもしれないですね。ありがとうございます。
橋口:次にお聞きしたかったことは、寺嶋さんがnoteに書いていたのかな。自分と暮らしにこんないいことがありますよって、たくさん提案できるアイドルになりたいとおっしゃっていて。
これ、僕は広告とかマーケティングと同じ発想だなぁと思ったんですね。イメージとしてアイドルとかパフォーマーの方は、もっと「自分の歌を聞いて!」とか、「自分の踊りを見て!」という発想なのかなって思っていたんですよ。
でも、この寺嶋さんの言葉を読むと、ビジネスとか広告とかマーケティングとまったく同じ発想なんだなと思う。
寺嶋:これも宣伝会議さんの講義を受けたからこそ気がつけた部分でもあったりして。もちろん歌も見てほしいし、ダンスも見てほしいし、いろんな自分の出演のものを見に来てほしいんですけど、それだけだと、さっきの話とも同じで。歌が上手な人はいくらでもいるし、ダンスがもっと上手な人もいっぱいいるから、それしか自分に取り柄がないとどうしても刺さる層が限られてしまう気がしていて。
もちろん歌もダンスも大事にやっていくけど、それプラス、例えば歌詞を通じて何か学びがあるとか、こうやって今日出演させていただいているような、あまり今までのアイドルは出てなかったかもしれないところに私が出ていくことによって、私を推しているヲタクのみんなが、なんか気づいたらコピーのことを知れてたとか。「気づいたらゆふちゃんが好きって言ってた国語のことを知れた」とか。
最近だと短歌のお仕事とかもいただいたんですけど、「(ゆふちゃんのおかげで)短歌おもしろいって気づいた」とか、私をハブのようにうまく使って、新しい知識に対する入り口みたいに使ってもらえるような存在だと、飽きられずにずっと見てもらえるんじゃないかなと思うようになりました。
橋口:「お客さま発想」ですよね。お客さんにとって何ができるんだろうって発想なんだなと思って。
寺嶋:それはコピーで学びました。私が「これが売りたい!」って言ってもダメなんだっていうこと。
橋口:そうですよね。寺嶋さんと同じ視点で語るのもおこがましいですけども、クリエイティブな仕事ってある程度自分を出すことができるから、気づくと自分自分ってなってしまいがちなんです。でもそうすると、結局自分が一番損をするなって、最近すごくよく思うんですよね。
むしろ最近の自分は、コピーライターとして「自分を消す」ということをテーマにしていて。いいコピーを書きたいとかはいったん置いておいて、本当にこの商品がバカ売れするためになるには何がいいんだろうとか、この企業がすごくよく見えるためにはどうしたらいいんだろうかって(ことだけを考えるようにしています)。
本当に当たり前のことなんですけれども、「いったん自分のやりたいことを脇に置いて考える」というのを自分のテーマにしていました。なのでこの言葉はすごく腑に落ちるところがありました。
寺嶋:ありがとうございます。(最近)アイドルの寿命が延びてる(と感じています)。私が始めた頃は、「えー、20代でアイドルなの?」って言われてたけど、今は30代の子も増えてきてるし、増えるといいなと思いながら自分も活動しているので。
長く付き合うとなると、「この子を推してたらこんなことがあったな」という新しい発見や共感がないと、なかなかついてきていただけない気もしているので。それで最近すごく自分の中でこの考え方を大事にしていますね。
橋口:寺嶋さんは中長期で考えられてますよね。
寺嶋:そうですね(笑)。長くやる気が満々ですよね。
橋口:歳を取ればライフステージも変わるから、それに合わせて自分の推しているアイドルにも、自分と同じく並走してほしいですもんね。
寺嶋:そうなりたいなって思います。もちろん変わらないアイドル性とか、良さみたいなものは、自分が持ってるものがあれば大事にしたいんですけど、変わらないだけだと、本当に古き良き時代にずっといる人になっちゃうんですよね。そういう意味であのフレーズを名乗っているわけではないので。もうちょっと時代に合わせて変化していけるゆっふぃーでいたいなと。
橋口:ありがとうございます。「時代に合わせて変化していく」ということは僕も肝に銘じたいですね。
橋口:これ(スライド)はプロフィールから引用しているんですけれども、寺嶋さんは早稲田大学を卒業されているんですよね。
寺嶋:はい。
橋口:しかも日本文学を専攻されていて、国語の教員免許を取られている。本当に「言葉」に興味がある方なんだなと思っていました。この大学時代のお話とかも少し聞かせていただいてもいいでしょうか。
寺嶋:大学は、本当に「国語が好きだ」ということだけで文学部を選びました。もちろん本を読むのも好きだし、いろいろ文章を読んだり書いたりするのが好きだったんですけど、なによりも国語の授業のあの時間が好きだったんですね。現代文も古典も、もうなにもかも好きで。
たぶんそれは出会ってきた先生方が良い先生だったということもあるし、国語の教科書に載っている作品を通して、「読み解き」だけじゃなくて、ちょっと世界を広げてくれるような授業をしてくれる先生が多かったので。
森鴎外の『舞姫』を読んで終わりじゃなくて、時代背景がこうで、書いた人がこうで、だからこの豊太郎がこういう気持ちになったんだろうねとすごく丁寧に解いてくれる人が多かったから、自分もずっと国語に関わりたいなと思っていて、国語の教員免許を取るのも大学に入った時から決めていました。
当時自分が20歳前だったので、アイドルになりたいけど、でも20歳でアイドルは厳しいだろうから、国語の先生になるのかなとかうっすら思いながら大学生活が始まったという感じです。
橋口:普通に大変だと思うんですけれども、ずっとアイドル活動を並行されてたんですよね。すごいですね。
寺嶋:そうですよね。どうやってたんだろうって(笑)。
橋口:忙しかったはずですよね。
寺嶋:当時、バイトもしていたんですよね。朝バイトに行って、10時ぐらいから大学に行って、夜はアイドルをやってという、よくぞまぁって今となっては思うんですけど。でも、その二足三足のわらじがあったから気がつけたこともいっぱいある気がしています。
そのうちの1つが、トミヤマユキコ先生の講義を受けたということなんですけれど。大学3年生の時かな。トミヤマ先生が講義を開いてらした、少女漫画から女性の労働について読み解き考えるという講義を受けたんです。
当時グループアイドルで1年ちょっとやってたのかな。でもいろいろと「自分が思ってたアイドルと違うぞ」とか、グループのためにグループを盛り上げることをがんばりなさいと言われることと、でも自分の個性を出しなさいとも言われてるし。グループの輪を乱してはいけないけど、突き抜けなさいって言われるし……という、いろんな矛盾した要求に対して、わかんなくなっちゃってる時期で。
あとは、思うようにお給料がいただけないからこのまま大学を卒業してアイドル続けられるのかなという悩みも、周りが就活を始めたので出てきた時期でした。
その時にトミヤマ先生の講義を受けて、「ダブルバインド」という言葉を知るわけですよ。それで「あ、私が今悩んでることにはもう名前が付いてて、しかも普通に会社で勤めてる方も同じようなことで悩むのか」って。漫画の中で働いている女の子たちも、私と環境は違うけど、根本的には同じことで悩んでるぞということをいっぱい知りました。
寺嶋:自分がアイドルという特殊な環境にいるからこうなっちゃっているわけじゃなくて、これは社会問題なんだということに気がつくんです。そうしたら、もうちょっと広い目で見て、今の自分の労働環境を変えるという選択をしようと考えた。転職しようという考えに行き着けたので。
あの時あの講義を受けていなかったら、たぶんソロアイドルにもなってない。こっそりグループを辞めて、そのまま国語の先生になっていた気がします。
橋口:その漫画をテーマにいわゆる漫画評をするのではなくて、「労働環境」というところに話が広がっていくのが、すごくおもしろい授業ですね。
寺嶋:そうなんです。漫画そのものというよりは、漫画そのものに描かれている女性たちの働き方がどう変わっていくかとか、そこで行われているハラスメントとかも含めて、どういう問題があるのか。漫画をどう描いているかというのを、トミヤマ先生がずっと解説してくださって。
そこにゲスト講師で雨宮まみさんがいらして、また雨宮まみさんの本とかを読んで、「こじらせ女子」という言葉を知って、なるほどと思う。いろんな自分の悩みに、その頃出会った先生方がどんどん名前を付けてくれたという感覚があって。大学時代はそういう発見がたくさんありました。
橋口:寺嶋さんのキーワードが2つあると僕は勝手に思っていて。「批評性」と「社会性」だなと思ったんですよ。
まずその「アイドル」という存在に対して、すごく批評的なスタンスで臨まれていると思うんですよね。アイドルとは何かというのを意識しながらアイドルをやられている。
「社会性」は、労働環境に関することを、アイドルだけでなく芸能人の方が言うのって、そんなに記憶になくて。
寺嶋:そうだと思います。
橋口:海外のハリウッドの人だとけっこう言いますけど、日本の方はまだそんなに言わないですよね。
寺嶋:やっぱり「夢を売る仕事だから」というのは、すごく言われてきたことです。私も「夢を売る仕事の人がそういうことを言っちゃいけない」とか言われたことがあるので。
チケットのノルマとかも、ノルマがあること自体を内緒にしなきゃいけない時期がありましたね(笑)。友だちにチケットを買ってもらってることを内緒にしなくちゃいけないとか。そういう細かいことですけど、いろいろと「夢だから」とか「ファンタジーだから」ということに押しつぶされちゃったり、うまく口を塞がれちゃっていました。
今はSNSが出てきて誰もが発信できるようになったから、ごまかしが利かない時代になっていて。アイドルたちが言い出すよりも前に、社会的に労働環境を良くしようとか、女性の働く環境を良くしようということを言ってくれる人たちが出てきて社会が動きはじめたから、アイドルもちょっとずつ気が付きはじめた部分があるんだと思います。
橋口:でも、アイドルという立場でそういう発信をされる方がいることに対して、すごく勇気づけられている人がたくさんいると思います。おそらくこれからそういう人がもっともっと必要になると思っています。
橋口:今、映画界のパワハラとかセクハラとか、ショービズの世界でそういうことがすごく問題になっているじゃないですか。でもさすがにこれを見て見ぬふり(はできませんよね)。「夢を売る仕事」だからこそ、見て見ぬふりができなくなってきています。この前も、仮面ライダーの撮影でセクハラがあったってニュースになっていますよね。
寺嶋:そうですよね。ヒーローショーですよね。
橋口:子どもが見るものなのに残念だと思って見ていました。だからこそ、寺嶋さんのように現場で活躍している現役の方が発信されていると、勇気を持てる人がいっぱいいるんじゃないかな。
寺嶋:そうだといいなと。結局臭いものに蓋をしていたとしても、だんだん漏れ出てくるのが今日この頃なので。漏れた時に悲しむのは、ファンの方だったりするんですよね。
「え、そんなのぜんぜん知らずに応援してたよ」「あの子、あんなつらい思いしてたのか」って、後になって、応援してた記憶がよろしくない記憶に変わっちゃうのが切ないんです。なるべくそういう問題はなくしていきたいなと思います。いつまでも「あの頃よかったよね、今も楽しいよね」と言い続けられるヲタ活ライフをエンジョイしていただけるように(笑)。
橋口:そうですね。ビジネスの世界でも、さっきキティちゃんのSDGsの話もあったようにこういうテーマって今、みんなが力を入れなきゃと思っていることなので。やはり足並みが揃っているんだなぁと、お話を聞いていて思いました。
寺嶋:揃えていかねばとやっと気がつきはじめたところなんで、がんばらねばと思ってます。
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