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【手放すTALK LIVE#25】あたらしい経営 あたらしい会社 ゲスト:若新雄純さん(全5記事)

「ニートの会議」に参加してわかった、納得感の正体 NEET株式会社の若新雄純氏が説く、まとまらない会議の決着のつけ方

管理しない組織や上司がいない会社、給料を自分たちで決める会社など、ユニークな進化型組織を調査する「手放す経営ラボラトリー」。同ラボが主催するイベント「手放すTALK LIVE」に、ユニークなプロジェクトを次々と生み出している若新雄純氏がゲスト出演。社会活動家の武井浩三氏やラボ所長の坂東孝浩氏を相手に、実験者・若新氏の興味の対象や、多数のニートの人たちを集めて行った会議で学んだことなどを語っています。

会社の経営権を手放そうとしているラボ所長・坂東孝浩氏

坂東孝浩氏(以下、坂東):今日は「あたらしい経営 あたらしい会社」というテーマでお送りします。先に「手放すTALK LIVE」とは何かということについて、みなさんに紹介していきたいと思います。「常識や固定観念を手放す」をテーマに、ゲストを招いてお送りするトークイベントです。

「手放す経営ラボラトリー」についても簡単にご紹介しますと、新しい組織や経営スタイルを研究するラボになります。私たちは、ティール組織やホラクラシー、自然経営などを「進化型組織」と呼んでいます。管理しない組織や上司がいない会社、給料を自分たちで決める会社といったユニークな会社のリサーチを、日本一しているんじゃないかと自負しています。

今はおよそ100人のチームで、「コミュニティカンパニー」という立ち位置で、ごきげんな人と組織が世の中に増えるといいな、私たちもそうありたいなと考えながら活動しています。

ごきげんな人や組織が増えるというところで、組織のアップデートができる「DXO」(ディクソー)というプログラムを作りました。DXOテキストは無料でダウンロードもできますし、希望者には郵送もしていますので、まだ手に取っていない方はお気軽に郵送希望を出してください。

自己紹介を簡単にさせてもらうと、この手放す経営ラボラトリーはブレスカンパニーという会社が運営しています。私はそこの「まだ」代表ですが、これからほぼ実権をなくすことを目論んでおります。

4年前の2017年に、隣にいる武井浩三さんと自社で組織の改革をスタートして、今は資本金を増やし、株主を増やしているところです。株主が増えて、その方たちが議決権を持つと、私の議決権が薄まっていき、私が代表でも法的には何も決められなくなる。つまり会社の経営権を手放すということを実践していて、今とても葛藤のさなかにいます。

武井:(笑)。

坂東:会社の名前をブレスカンパニーから変えようという話になっているんです。めちゃくちゃいい名前で私は気に入っているんですけども、みんなの変えようという動きを止める権利がないということで(笑)。

間もなく社名が変わるんじゃないかということで、非常に鬱々とした気分で後任に投げております(笑)。そういったこともある目的のためにやっているんですけども、体を張って組織にまつわる実証実験を繰り返している感じですね。

「管理しない経営」を実践する社会活動家の武井浩三氏が登壇

坂東:ブレスカンパニーは、10年前に立ち上げた人事関連のサービスを提供する会社ですけども。若新さんには新入社員研修に講師として登壇してもらったり、一緒にプロジェクトを手掛けさせてもらったりといったお付き合いがあった経緯で、今日のご縁もある感じですね。

武井浩三さん、ちょっと自己紹介してもらっていいですか。

武井:武井です。最近は自分のことを社会活動家とか社会システムデザイナーと呼んでいますけれども。『ティール組織』という本が日本で出る10年以上前の2007年ぐらいから、ずっと「管理しない経営」をやってきました。なので『ティール組織』にも日本の事例として取り上げていただきましたけれども。

どんなことをやっていたかというと……逆にやっていないことばっかりなんですけど。社長・役員を毎年選挙で決めるとか、働く時間・場所・休み、全員自由とか。副業推奨とか。給料を自分で決める、議決権なし、上司・部下なし、とにかく自由(笑)。

坂東:(笑)。

武井:そういう会社を12年ぐらいやってきて、一昨年後任に譲りました。今は「いい会社づくり」から「いい社会づくり」をコンセプトに、いろんなところでいろんな人たちといろんな会社をワイワイやっております。

だから最近はティール組織とか、企業経営をちょっと拡張した感じで、街づくりをしていたり。さっき坂東さんが「コミュニティカンパニー」と言っていましたけど、会社自体を社会のコモンズ(共同で利用・管理されるもの)にしてしまう。「働く」とか「雇う/雇われる」とか「顧客」とか、そういう概念も全部混ぜこぜにしてしまうという活動をしています。

今、後ろに看板がある「eumo」という会社のオフィスにいます。eumoは「腐るお金」を作る地域通貨の会社ですけど、株主が300人ぐらいいて、代表の僕が議決権を持っていないという変な……。僕は大真面目にやっていますけど、そういう変な会社を増やしていきたいなと思っています。

ブレスカンパニー、手放す経営ラボもそういうふうになってきているという感じですね。僕もとにかく自分を実験体として、ひたすら人体実験というか、痛みを伴いながらいろいろやっていますけども(笑)。

そういうところが若新さんとけっこう共感するところかなと勝手に思っています。若新さんと知り合ったのはたぶん15年ぐらい前ですね。こういう場でまた未来を語り合うことができて、個人的にはすごく感慨深い日です。まだ終わってないけど。よろしくお願いします。

坂東:(笑)。はい、お願いします。

TVコメンテーター・若新雄純氏の情報源

坂東:それでは、今日のスピーカーの若新雄純さんを紹介したいと思います。慶応義塾大学の特任准教授でもあり、もう私より詳しい人がけっこういるんじゃないかと思うんですけれども。

私が若新さんを好きなのは、NEET株式会社を作ったり、福井県の鯖江市ですかね、女子高生だけの「JK課」を作って、しかも特に街づくりに興味がないようなただの女子高生を集めて、街づくりのアイデアをたくさん出していったり。非常におもしろすぎるなと思っています。

あと最近、私的にトピックなのはPodcastですね。『あたらしい経営?』というPodcastをされているんですけども、これがめっちゃおもしろいんですよ。やっぱり切り口がすごくすてきだなと思っています。若新さんからも簡単に自己紹介というか、最近こんなことやっていますというお話をもらえますか。

若新雄純氏(以下、若新):自分の人生で、運よくいろんな事業とかを企画する仕事ができているのは、良かったなと思うんですよね。ある意味で本当に企画をするのと、いろんな分野でどんな企画かを実験するような仕事が多くて。実験する仕事でご飯が食べられるのは、すごく幸運なことだなと思っていてですね。

それを大学の研究者という立場であったり、いわゆるフリーの仕掛人みたいな感じで、いろんな企業とか町とか学校とかで、実験的な取り組みをするんですけど。このラボの文脈で言うと、僕は毎回仕事ごとにチームがいるんですよね。

プランニング会社みたいなものを運営して、そこにプランナーとかがいてやっているというよりは……映画監督のように呼ばれて、そこにいろんなチームが集まるというか。その中の、企画の責任者だったり、全体のプロデューサーとしての立場を任せてもらって、いろんなことを探ったりしています。

そこで見つけたことをテレビとかでコメントするような感じで今働いています。そういうふうに改めて人に言っていなかったですけど、大学生とかが聞いたらめっちゃ羨ましい働き方だなと思って。ちょっと今、自分で自己紹介しながら、就活生とかに自慢したくなってきました。

(一同笑)

坂東:なるほど、おもしろいですね。ありがとうございます。

「計画通りにいかなかったこと」に注目する、異色のプロデューサー

坂東:今日は「あたらしい会社 あたらしい経営」というテーマですが、今の若新さんの話から突っ込んでいきたいと思います。若新さんは事業の企画が好きで、やりたくてやっている感じですか? プロデューサーとして、すばらしいなと感じているんですけど。

若新:やっぱり実験が好きなので。新しいことを試すと、新しいことがわかるじゃないですか。僕がたぶん人よりちょっと特殊なのは、計画どおりに進んだかどうかではなくて、その計画になかったことに気づいて、それを整理することが得意なんです。そういう人がけっこう少ないことに気づいたんですよね。

人間が生きているこの世界では常に、計画になかったことがじゃんじゃん起きていると思うんですけど。お天気とかも計画どおりにはいかないじゃないですか。例えばサラリーマンの人が家を出て、電車に乗って会社に行く。

だいたいの人は計画どおりに決まった時間に動いているとは思うんですけど、次の日もまったく同じ電車に乗るかというと、コンビニに寄るかもしれないし、たまたま財布落としちゃうかもしれないし、何か思い立って引き返すかもしれない。そんな感じで世界は全部計画どおりにはいっていないと思うんですよ。

その計画どおりにいかなかったことの観察に興味を持つのか、計画どおりにいくように物事を進めるのか。社会を乱暴に分けると、そういうふうに見ることができると僕は思っていて。例えば多くの学校や会社でやっていることは、神さまの目線で見れば計画どおりにいっていないことばかりだと思うんですよね。だけどみんなは計画どおりに運用することに役割を持つじゃないですか。

坂東:なるほど、そうだわ。

若新:学校の先生は時間割があってそれをこなしていくとか。会社員も月間目標や週間目標があって、上司はそれに向かって進むように支援していくんだと思うんですけど。そういう働き方をしている人がめちゃめちゃ多いし、競争相手も多い。そこで競っても、たぶん僕が一番になることはなさそうじゃないですか。

人間は毎日毎日違うことを思っているから、新しいことはいっぱい起きていると思うんですけど。できれば新しいことに意識を向けて、そこからいろんなものを収穫して、観察結果やわかったことをまとめたり。僕の場合は自分自身でも計画どおりではないものを作ってみて、そこからわかったことを言葉にしたり、また次に活かせるヒントにしていると思うんですよね。

世界が計画通りに進まないからこそ生まれた、人間独自の“すごい技”

坂東:そういう意味では、若新さんは計画どおりにいかないことがイヤじゃないんですね。

若新:僕は田舎の山奥で生まれて、両親が学校の先生でした(笑)。計画どおりやらないといけない環境で育って、思春期ぐらいにそれがイヤになったんです。

坂東:(笑)。

若新:短期的な計画を立てるんですけど、その計画どおりにいかないことのほうが多かったんですよ。僕が計画どおりにやることがすごく得意であれば、それでがんばっていたかもしれないんですけど。

受験とか会社員の仕事は、もしかすると、例えばお医者さんや弁護士さんの仕事も、多くはまず計画を作って、その計画をこなすことによって物事が進んでいくように設計されていることが多いと思うんですよね。

それはなんでだろうと思うと、世界が計画どおりじゃないからです。それだと生産性も上がらないし、いろんな物の調達もできないし、物事を進めづらい。だから人間が知恵を出して、この宇宙に「計画する」という人間らしいやり方を導入したと思うんですよ。お金や言葉を発明したのと一緒で。大げさに捉えると「計画する」という人間独自のすごい技みたいなものを生み出したんだと思うんですけど(笑)。

計画を大事にして働いている・生きている人が多くて、そこからはみ出したものに関心を持ったり、そこにあるおもしろさを見つける人が少ないから、僕は食えているんだと思います(笑)。

坂東:食えている(笑)。私、若新さんのどこが好きなのかを思い出しました。計画できないことにどう向き合っていくかとか、それをどうやって成り立たせるかというか。着地するわけじゃないんですけど、そういったことに好奇心を持って取り組む姿がすごく好きなんですよね。

ぬいぐるみに代弁させる人も現れた、NEET株式会社の“カオス会議”

坂東:若新さんがNEET株式会社を創った時は、ちょうど知り合って間もない時で、たまたま私も立ち会ったんですよ。NEET株式会社を作るというので、代々木のでっかい会議室を借りて、ニートの人たちを集めて会議していて、私は当時経営者の会みたいなものに入っていて、経営者何人かで、その会議を見学しに行ったんです。

若新さんが議長役みたいな感じで仕切って、ニートの方たちが会議をしているんですけど、私から見るとミーティングが成り立っていないんですよ。グループに分かれてやっているんですけど、コミュニケーション力がちょっとズレてる人が多くて……(笑)。自分がしゃべっているのに、ぬいぐるみを持ってしゃべっている人とかいるんですよ。「○○でちゅね」みたいなこと言ったり(笑)。

あとはグループで話しているのに、ぜんぜん目が合わずにずっと後ろを向いて話していたりするんですよ。経営者の方たちも30分ぐらいしたら「見てらんない」と言ってどんどん退室していくんです。

武井:(笑)。

坂東:経営者はミーティングのアジェンダがないとか、スケジューリングがないとか、議題がないことに耐えられないんですよ。だけど若新さんはずーっとそこにいて、結局それを夜までやって、もう「会議室これで終わっちゃうよ」というギリギリになって、着地の方向に向かうみたいな。着地ではないんですけど、何か収まっていくというか。

私が「こういうカオスとか、若新さん、よく耐えられますね。このままずっと続いてもいいんですか?」と聞くて、若新さんは「このカオスの先に何かがあるんですよ。このままでは終わらなくて、絶対どうにかなると確信があるんですよね。そういうことを信じている」と言って。「実際に今そういう(着地)ふうになっている。でもそこまで何時間も耐えなきゃいけない」とか。それがすごく印象的でしたね。

若新:別に経済的に何かが生まれてはいないんですけどね。単に学ぶものが多いというか。やっぱりあそこで学んだことがたくさんあるんです。

理屈では納得しない人たちから合意を得る方法

坂東:学ぶものが多い?(笑)。

若新:学んだことは多いですよ。役に立つことはけっこうたくさんあって。一番良かったのは、人々の究極の納得とは何かがわかったことですね。議題をこなしたことで納得が生まれるわけじゃなくて。たぶん彼らはちょっとでも自分がその話し合いに参加できていないと思ったり、ないがしろにされたと思ったら、その会議を閉めさせてくれないわけですよ。

「みんなだいたい『うん』って言ったって言うけど、『だいたい』じゃん」みたいな。「まだ発言していないやつもいるよね」みたいな。そんなことを言い出したら、ほとんどの会社は回らないと思うので。

坂東:回らない、回らない。

若新:だから普通の組織は誰かに決定権を与えたり、発言力にも傾斜を与えると思うんです。そういうものから解放すると人はどうなるかというと、誰かが論理的には合っていそうなことを言ったりするんだけど、理屈が通っているからと言ってみんなが納得するわけじゃないんですよね。

一番わかったのは人間というのは感情的だから、理に適っていればいいってもんじゃないと。さんざんやってすごくわかったのは、計画で人間を縛れない時にどうしたらみんなが納得するか、1つになるか? これは究極の結論ですけど「疲労」なんですよ。

坂東:疲労(笑)。

若新:「もうこれ以上は話せない」ってぐらいヘロヘロになるまで話すと。もしかすると、会議の最初のほうに出た結論と同じことしか話していないかもしれないんですよ。話し合いは何も進んでいないんですけど。例えば会場を10時まで借りてて、10時には出なきゃいけないとなると、8時ぐらいから「やばっ」とかなってくるんです。

みんな、朝から話しているから意識ももうろうとしてきて、だんだん判断力が鈍っていくんですよ。判断力が鈍っていく一方で、「自分はこの話し合いに十分参加して、疎外されていない」という安心感とか、納得感みたいなものが出てきて。

そうすると9時半ぐらいになって、そろそろ部屋を出なきゃってなると、みんなもうヘロヘロになっていて「まあ、一旦それでいいんじゃない」みたいな。謎の「ひっくり返されにくい合意」みたいなのができるんですよね。

坂東:(笑)。謎のね。

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