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FUSION of civic pride カルチャーの共有が紡ぐ、コミュニティ。(全4記事)

町の中心は更地、住民からは「骨を埋めるつもりあんのか?」 岡田武史氏は、なぜ今治で経営者の道を選んだのか

未来の課題解決型まちづくりを推進する、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」。未来と都市を語り合うオープンイノベーションフォーラムである、柏の葉イノベーションフェス2021が開催されました。今年のテーマは「READY FOR FUSION?」と題し、国内外から各界の著名人が登壇。トークセッションには、岡田武史氏と龍崎翔子氏が登壇。「自分の車にガムテープでポスター貼って町中を走り回ったり、駅でビラを配ったりして、何をしてもダメだった」と岡田氏は語り、FC今治就任直後の様子を明かしました。

コロナ禍により、日常生活とエンタメの分断が進行

森まどか氏(以下、森):それでは、柏の葉イノベーションフェス本日最後のプログラム、クロストーク2を開始いたします。司会を務めさせていただきます、森まどかと申します。どうぞよろしくお願いいたします。

柏の葉イノベーションフェスは、千葉県柏市柏の葉にある柏の葉スマートシティを舞台に行われるオープンイノベーションフォーラムです。2021年は「READY FOR FUSION?」をテーマに掲げています。

人種やジェンダーによる差別、医療格差や貧富の差が顕在し、世界中の国や地域、社会のさまざまな場所で日常的に人と人とが分断されている今、イノベーションとテクノロジーで分断を乗り越え、希望に満ちた未来を創造する手がかりとして、多くのゲストとともに「FUSION」、融合への道筋を探るトークイベントを実施していければと思っております。

さて、本日最後のトークイベント、クロストーク2のテーマは「FUSION of civic pride カルチャーの共有が紡ぐ、コミュニティ」です。終わりの見えないコロナ禍で、臨場感あふれるスポーツ体験機会や、直にその町の人や暮らしに触れ合える観光などの文化体験機会が失われています。

音楽や絵画やスポーツといった、文化やエンタメを自由に集まって楽しめない状況下で、そうした場を失った人々はつながり合う機会や場を失い、コミュニティの分断が起きています。

いわば、日常生活と文化・エンターテイメントとの分断が進行する今、あらためて文化・エンタメの存在価値や文化のあり方が問われていると言えるでしょう。なぜ私たちは、文化・エンタメを享受する必要があるのか? リアルで体験する文化・エンタメの価値とは何か? 果たしてバーチャルでも代替できるのか? 

ライブのスポーツエンターテイメントの価値や、手触りのする文化体験の意義について見つめ直し、文化やエンターテイメントのもたらす影響や、ポストコロナ時代における新たな文化やエンターテイメントのあり方、その活性化の方向性を探ってまいりたいと思います。

龍崎翔子氏・岡田武史氏が、エンタメの未来を語る

:今回の「READY FOR FUSION? カルチャーの共有が紡ぐ、コミュニティ」というテーマについては、お二人に語っていただこうと思います。お一人目は、元サッカー日本代表監督であり、現在は愛媛県今治市を拠点とするFC今治のオーナーとして、「今治モデル」と呼ばれるスポーツによる地域創生、未来創造に取り組む岡田武史さんです。

そしてもうお一方は、ミレニアル世代を代表するホテル経営者・プロデューサーとして、ホテル事業を通じて人と人、人と町、人と文化をつなげる新しい宿泊体験を提供する、龍崎翔子さんです。お二方、よろしくお願いいたします。

龍崎 翔子(以下、龍崎)・岡田武史氏(以下、岡田):よろしくお願いします。

:ホテルビジネスを通じて、地域に根ざした風土や文化とつながることで、新たな価値創造に挑む龍崎さん。スポーツを通して地域社会との新しいつながり方を模索し、地域の人々との共創を実践する岡田さん。

地域と人を融合させ、未来を豊かにする文化・エンタメ分野のトップランナーであるこちらのお二方に、コロナ禍を機に発生したさまざまな社会的分断を乗り越え、地域がより豊かに、より個性的に、人間らしく生きられる社会として、輝きを増すための方向性をディスカッションしてまいります。

文化やエンターテイメントの果たす意義、文化やエンターテイメントと地域社会がより高次元に融合するための指針や具体的方策について、すべての人が融合できる社会を創造する新たな道筋について、議論を通じて探っていければと思っております。ご覧いただいているみなさん、これからの2時間、最後までお付き合いいただければと思います。

岡田:よろしくお願いします。

龍崎:よろしくお願いいたします。

日本とスペインの若手選手の育成の違い

:初めに自己紹介も兼ねまして、現在のお仕事の内容などをお話いただければと思いますが、まずは岡田さんからお願いいたします。

岡田:その前に、「なんで龍崎さんという若い女性の方と僕なのかな?」と思ってたんですが、さっきの説明でようやく分かりました(笑)。そういうことですね。

僕はサッカーの監督をやってたんですが、日本代表が世界で勝つため、日本人が世界で勝っていくためには、主体的にプレイする自立した選手が出てこないと、技術だけでは絶対にベスト16やベスト8、それ以上にいけないんだろうと思っていて。「どうしたら良いんだろう?」と、いろんなことをやっていたんですが。

ある時、スペイン人の有名なコーチと出会った時に、スペインにはプレイモデルというサッカーの型のようなものがあって、それを16歳までに教えたあとに自由にすると言われて。

日本人は「選手に判断させなきゃいけないから」「自由だ」と言って、16歳くらいから戦術を教えてた。(スペインとは)まったく逆じゃないかと。プレイモデルは「型」じゃなくて「原則」なんですが、それだったらプレイモデルを作って、16歳までに落としこんで、あとは自由にするようなチームを作りたいと。ただ、サッカーのことだけ考えてたんですよ。

これをやりたいなとあちこちで言ってたら、Jリーグの3チームから「全権を任すのでやってくれ」って言われたんですが、今までのやり方や、今までやってきたコーチの過去を否定することになるんですね。僕が(選手に)言ったら目の前ではやりますけど、内心「んなもん、うまくいくわけねえ」という奴が出てくると、うまくいかないので。

先輩に誘われて赴いた今治で、経営者になった岡田氏

岡田:じゃあ、10年かかっても0からできるところはないかと。ふと思いついたのが、愛媛県の今治で。僕の先輩が会社をやっていて、「上場を手伝ってくれ」と言われて、ずっと通ってたんですよね。

先輩がサッカー好きでアマチュアのチームを持ってたので、電話して「こういうことをやりたいんですけど」と言ったら、「それはおもしろい、ぜひやれ。ただし、株式を51パーセント取得してからにしろ」と。

「株式? 何のことかよう分からんけど、たいした金じゃないから買おう」と。そしたらオーナーになってしまったわけですよ。オーナーになって、代表取締役を雇おうと思ってもお金がなかったので、兼務をすることになって。そしたら、グラウンドへ行ってサッカーをやる余裕なんかまったくないと。そういうことで、今治で経営者をやることになっちゃったんですね。

いろんな苦労しながらも、それはそれで「何とかなるだろう」と思ってやってたんです。それまではだいたい一泊で帰ってたんですが、今治に家を借りて住んでみたら、町の中心に更地があって。「何があったっけな?」と(思い出したら)、大丸デパートの跡地で、今治デパートもなくなっている。

町の中心から港に続く長い商店街を、昼間は誰も歩いてない。しまなみ海道という素晴らしい橋ができたので、フェリーが島に出なくなったんですね。それで人が行かなくなった。

「これじゃあFC今治が成功しても、見に来てくれる人がいなくなる。立ってる場所がなくなるな」と。「それじゃ何とかできないか?」ということで、いろんな地方創生をし始めたり、みんなで豊かになっていこう、ということを始めたり。

サッカーを通じて売りたいものは「感動、勇気、夢」

岡田:ちょうど僕がその会社を立ち上げる時に、いろんな経営者の人に「会社ってどうしたら良いんですか?」とか、いろいろ聞きに行ったら、みなさんが「理念・ビジョン・ミッションをしっかりしなさい」とおっしゃった。それで、いろんな会社の理念をインターネットで見るんだけど、どうもピンとこない。

僕は環境問題(を解決する事業)も40年ぐらいやっていて、社会活動してるので、じゃあ自分の思いを企業理念にしようと思って。「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会づくりに貢献する」としたんですね。

物の豊かさとは、数字で表せるもの。高い・安い、GDP、売り上げ。心の豊かさは、目に見えない資本、数字では表せないもの。信頼、共感、関連。

僕らは売るものは何もないんですが、感動、勇気、夢は売れるかもしれない。そういうものにお金が回っていかないと、資本主義は必ず行き詰まると思っていて。それを企業理念にしたら、いろんなところから「一緒にやらせてくれ」という人が集まり、お金が集まってきて。

単に法螺に近い夢を語ってたんだけど、どんどんそうやって進んでいって、もう後戻りできなくなっちゃって。前へ行くしかない、という日々でございます。

就任当初、今治の住民からはネガティブな意見も

:新しいスタイルのサッカーチームを立ち上げようと思ったら、もっと大きな話になって、町ごとの文化になっているような感じですよね。賛同する方がそれだけ集まっていらっしゃったということですよね。

岡田:そうですね。実は正直言いますと、町自体(の意見としては)最初は「どうせ有名人が来て、ちょちょっとやって帰るんだろ」「お前、骨を埋めるつもりあんのか?」「お前は今治のことを分かっとらん。今治でそんなの無理なんじゃ」と、ぜんぜん相手にしていただけなかった。

自分の車にガムテープでポスター貼って町中を走り回ったり、駅でビラを配ったりして、何をしても駄目だったんだけど、去年あたりからみなさんが変わり始めた。「今治が変われるかもしれない」と、みなさん恐らく思われている。だからいろんなことで我々に協力的になったし、なんとなく明るくなった気もするし。

僕は内閣府の委員もやってたことがあるんですが、地方創生で「若者の仕事を創る」とかよく言うんだけど、若者の仕事を今治に作っても、東京の人はあんまり来ないですよね。そうじゃなくて、そこにいる人が生き生きと幸せそうに生きてたら、人って集まって来るんじゃないかなという気がしていて。

この前も今治の某大手会社の社長さんにお会いしたら、「岡田さんが来た時、この人は本当に法螺吹きだと思ったけど、一つひとつ実現してきた」と。今は新しいスタジアムを建てようとしているんですが、「新スタジアムは建つんですかね?」と(言われたので)、「間違いなく建ちますよ」って言ったんですが。徐々に徐々に、時間をかけて変わってきたかなという感じですね。

:理念と行動が信頼を作っていて、それが人の心を動かしていったという感じですかね。

岡田:やっぱりね、夢は語ってるだけじゃ法螺吹きですから。それに対して自分がリスクを負ってチャレンジしている、それを見た時に人はついてきてくれるような気はしますけどね。

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