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パネルディスカッション:話題のベストセラー著者に聞くマーケティングの本質(全2記事)

政治家のプロミスは「守らないものだ」というブランドができている マーケのプロが語る、現代社会における「ナラティブ」の重要性

江端浩人氏が主催したイベント「話題のベストセラー著者に聞くマーケティングの本質」に、業界の第一線で活躍するマーケターが登壇。本記事では、江端浩人氏、鹿毛康司氏、本田哲也氏、射場瞬氏、片山義丈氏の5名が登壇したパネルセッションの模様をお届けします。本記事では視聴者の質問に答えながら、次世代のマーケティングの動向を予測しながら議論しました。

コロナ禍においても「変わらないこと」のほうが多い

片山義丈氏(以下、片山):この業界のよくないところは、次が何か探し過ぎなところだと思うんですよ。そんなに探す必要があるのかな、というのがあって。所詮、人間はお猿さんから進化してやっと人類になって、お猿さんから見たら、人間の期間なんてまだ本当にすごく短いんですよね。だから人間の営みって、そんなに変わらないと思って。

「コロナですごく変わりました」って言うんですが、逆にほとんど変わっていないと思うんですよね。変わったところばっかり言うんですが、変わらないところのほうが多いので。

例えば、近江商人の「三方よし」。あれってぜんぜん変わらないと思っていて。昔は「自分よし」が一番よかったんですが、今は「世の中がよし」が一番意味がある。その3つの「よし」のバランスが変わっているだけで、昔から「自分だけよければいい」ということでは決してなかったんですね。

西宮のお酒屋さんが灘高校を作ったりとか。そういう社会貢献って、昔からやっているんですよ。今になってすごく「社会貢献が大事だ」と言うけど、西宮のお酒屋さんに謝ってほしいって感じですね。

(一同笑)

そういうのは「やっとるわ」って話です。バランスが変わってきているだけなので。変わらないものにしっかり目を向けるほうが大事で、変わっていることにちょっと踊らされ過ぎがある。この業界の悪い癖かなと思いました。

質問者1:ありがとうございます。

デジタル化が進んでも、原点は「人」の心にある

江端浩人氏(以下、江端):(次世代のマーケティングの潮流について)鹿毛さんいかがでしょうか。

鹿毛康司氏(以下、鹿毛):わかんないねえ。

(一同笑)

ソーシャルメディアをやっているし、いろいろやってきたんだけど、今もデジタルをやっているの。みんなが行き着いてきたところがテクノロジーで、ボーンってイノベーションが起きて、できないことがボーンとできた。コンバージョンの率を上げるために、どんどんいろいろやってきたんだけど。

「行き着くところに行き着いてきた。さあどうしようか」と言った時、横のつながりのところで、広告主側の人たちは何をやっているかと言ったら、まだ「クリエイティブが重要だ」という話だったの。だから大きな会社の何とかっていうところは、クリエイターの仲畑貴志さんを採用したじゃん。

片山:サイバーエージェントですね。

鹿毛:そうそう。いやいや、言っちゃいけない(笑)。

(一同笑)

本田哲也氏(以下、本田):言っちゃいましたけど(笑)。

鹿毛:結局、「テクノロジーがいい」「クリエイティブがいい」「テクノロジーがいい」って、そもそも誰がそれを見ているのって言ったら、やっぱり「人」なんだよ。

人って言ったら、アナログ人間みたいに昔の話をしているように言われるけど。本田宗一郎が「技術研究所は人のための研究所」と言って作ったわけだし、「人を研究するところだ」と、やってきた。昔からそういうところがずっと強かったのね。さっき、スティーブ・ジョブズって言ったら怒られたけどさ。

別にいいじゃん。スティーブ・ジョブズはソニーイズムをコピーしたわけだから。でしょ? スティーブ・ジョブズの話をして何が問題あるの? そういう、頭でっかちな片山さん大嫌い!(笑)。

(一同笑)

片山義丈(以下、片山):そんな、スティーブ・ジョブズみたいなので煙に巻く、鹿毛さん大っ嫌い!(笑)。

本田:出た出た(笑)。

鹿毛:みたいなね(笑)。こういう人の心で動いているわけだよ。ここにもう一回立ち戻って、またテクノロジーを使い、グルグル回っていって俺たちは死ぬんだよね。

本田:回っているんですよね。だから、リニアに進化していると言うより、「一周回って」っていう言葉がありますよね。グルグルとスパイラルかなと思って。そういう感じで。

“空気”のようなブランドであることが理想

江端:デジタルに行くと、またアナログにちょっと戻ってという感じですよね。

本田:そうですね。

鹿毛:テレビ局は大変だよね。

質問者1:……大変です。

(一同笑)

本田:今のいい間でしたね。

江端:デジタルメディアサイドとか、インフラとブランドの話をすると、逆にそういうところはブランドを出さないで、要はブランドを使わせてもらう。逆に言うと、違和感がある。存在がわかるわけじゃないですか。

やっているほうは、トランザクションだのなんだのってやっているんだけど、「どのブランドを使っているかは一切知らないけど、めちゃめちゃ快適だな」というのが本当は理想なんじゃないかな、みたいなことがあり得るわけですよね。

鹿毛:それ!

江端:「存在してなかったら死んじゃうかもしれない」という、空気みたいな存在で。実はブランドになり得るのかなという議論をしたことがあります。

鹿毛:カミさんみたいなものだね。

江端:そうですね(笑)。

(一同笑)

射場瞬氏(以下、射場):カミさんに怒られますよ~(笑)。

江端:うちのカミさんは存在意義はありますが、なんでそんなことを! 本田さんもそうですよね!?(笑)。

本田:カミさんの存在意義の話になっちゃった(笑)。

本田:慌ててたよ、江端さん(笑)。

江端:脇汗がすごい。

鹿毛:いつもの江端さんとキャラを変えて、なんとかいつもの江端さんじゃないのを見せようと思って、一生懸命ふっかけたんだよ。けっこう成功した?(笑)。

本田:成功してましたね。

過渡期に立たされたテレビ業界の本音

鹿毛:逆に質問なんだけど、テレビ局さんは今からどうするの? 何か道はある?

質問者1:それがもしわかったら、たぶん今日ここには来ていないですね。

鹿毛:そっかあ……。

質問者1:でもおっしゃるように、つまるところは人だなとは思うんですよ。見ていただきたい方にお届けする方法が、今までは僕たちテレビが送り放つだけだったのが、先ほどの「嵐」の話じゃないですが。伝え方も伝える内容も変え、「こちらのほうからお届けに上がる」ぐらいの気持ちは持ったほうがいいなって。そのへんの気持ちと、行動を変えるタイミングに来ているかなという気はします。

鹿毛:もっと思いっきり低俗になったら?

(一同笑)

質問者1:これ以上ですか!?

鹿毛:もう、テレビが血を吐くぐらいにプライドを捨てて。

質問者1:(プライドは)かなりないですよ?

(一同笑)

本田:時代と逆行してる(笑)。

鹿毛:突破口がいるよね?

質問者1:そうなんですよね。それで言うとさっきおっしゃっていたように、テレビがかなり空気感のある存在じゃないですか。でも、それになり過ぎたがために、逆にじゃあどうすればいいかというところで、手間取っているところはあると思います。

マーケターが出演するテレビ番組が誕生する日も近い?

鹿毛:なるほどね。嵐とテレビについて、一回書いてくださいよ。「メディアと嵐」。

射場:いや、そんな(笑)。

質問者1:嵐さんはテレビがまだパワーがある時にお使いくださった方々かな、という感じはします。

鹿毛:やっぱりジャニーズって力が強いでしょ?

質問者1:……まあ、いろんな意味で力が強いですよね。

(一同笑)

SMAP、嵐の時代が(テレビの最盛期の)最後だと思いますけどね。またこれからどうなるかって感じです。

鹿毛:でも、また誰か出てくるんでしょ?

質問者1:次々と出てきます。

鹿毛:すごいね。絶対に誰も観ないけど、マーケティングの番組作ろう。

質問者1:やりますか。

(一同笑)

本田:「絶対に誰も観ないけど」って(笑)。

質問者1:誰も観ないっていうのでもないと思いますけどね。

鹿毛:マーケターが集まって、「今回は江端さんがデータ分析を基にこう作りました」と言って、視聴率がどこまで上がるか。俺がまったくデータを見ずに作ったらどうなるか。

本田:大丈夫ですか?(笑)。

鹿毛:視聴率はもっと上がるんだから。15パーセントいこう。マーケターを呼んできて番組を作ることは、1つだけいいことがあります。スポンサーがいっぱい来るよ。

本田:なるほどですね。

鹿毛:ブランディングにもなるし。

質問者1:そうですね。エステーさんも。

鹿毛:エステーももちろん。

質問者1:じゃあ、競合調整だけ気をつけて。

鹿毛:実験だから競合調整なし。そこから始めましょう。どう?

江端:おもしろいですね。

鹿毛:(江端さんが)リーダーになって、それやって。

江端:俺!?

(一同笑)

鹿毛:次世代マーケティングの一環でね。一番風格のある偉い人だから。

江端:ありがとうございます(笑)。ちょっと検討させていただきます。

鹿毛:検討入りました。

江端:約束はできませんが(笑)。

政治家のプロミスは「守らないものだ」というブランドができている

司会者:ありがとうございました。Zoomで視聴いただいている方から質問が来ておりますので、ぜひお答えください。「まもなく(衆議院)総選挙ですが、有権者や政治家や官僚がよりよい選択をできるように変われるヒントはありますか?」。ぜひお願いします。

鹿毛:どんな立場で聞かれているんでしょうね?

本田:確かにね。これ、すごく漠としてるなあ(笑)。

鹿毛:今の方、どういう視点で聞かれているのか教えてください。例えば、政治家関係者の方なのか、投票する側の人なのかな?

本田:どっちの立場かで答えも変わってきますよね。

鹿毛:じゃあ、片山さんにお願いしていいんじゃない?

(一同笑)

本田:すごいですね、この無茶ぶり。

射場:無茶ぶりがね(笑)。

片山:そもそも質問の内容が頭に入っていなかったんですが……わかりません(笑)。すいません。私、アドリブ利かないんです。

本田:ある種、プロミスが必要な方々とも言えますよね。

片山:そうですね。政治家のプロミスって「守らないものだ」というブランドができているので。

(一同笑)

本田:「守らない」という認識が(できている)。

司会者:ちなみに質問をいただいている方は60代前半で、まだまだあきらめたくない方だということなんですが。

鹿毛:60代前半って俺のことじゃん。

片山:じゃあ、60代前半の気持ちで答えてください(笑)。

鹿毛:俺、60代前半。まだまだあきらめてないですよ。Facebookでその人が政策を立ち上げて、いったいこの人が何をやってたかと、公約の記録をみんなで取っていく。しなくてもいいけど、行動は何をしたか、どこで変化があったのかが、みんなグワーッと集まって、政治家を見守っていくと。

いいことをやったら、そこにチャリンとお金を寄付すると。そういうのどうですか? (江端さんが)リーダーになってやってもらえませんか?

本田:これも次世代マーケティングです。だいぶ範囲が広がってきましたよね。

射場:でも、それ楽しそうですよね。

鹿毛:みんなで本当にそれやったらおもしろいよね。

「今の日本の政治家はナラティブがちょっと弱い」

本田:でもね。それがやっぱりこっち側(投票者)の政治参画だと思いますしね。でも、個人的にやっぱり今の日本の政治家はナラティブがちょっと弱い。

鹿毛:昔、あるPR会社さんがいた時があるじゃないですか。名前を言わないけど。

本田:はいはい(笑)。外資系のね。

鹿毛:あそこで選挙とかやったの?

本田:やってました。民主党さんとかとやってますよね。

鹿毛:あれ、参加したことあります?

本田:一部参加したことはありますが。あの時はマニュフェスト選挙っていう、いわゆるアメリカ式に「民主党はこうだ!」「共和党はこうだ!」って、対立構造を作ったんですが、政治家の方のナラティブという話までは行ってなかったんですよね。でも、今はそれが求められてる気がしますよね。

鹿毛:あの時、マニュフェストを作るとか、そういう運動に参加してたんですか?

本田:立案の一部の一部にいました。

鹿毛:へえ~! ちょっと後で詳しく。

本田:可能な範囲で(笑)。

マーケター視点で見るオウンドメディアの価値

司会者:Zoomで視聴いただいている方から、新しく質問が来ております。「Webサイト制作の仕事をしている者です。デジタルマーケティングの視点で作るという話がありますが、作っている中で何が正確なのかわからなくなってきています。マーケターの視点で、Webサイトってどのようなものだと捉えていらっしゃいますか?」。みなさんお答えください。

江端:(片山さんは)Webサイトも作られてるんですよね?

片山:作ってます。最初の立ち上げの時からWebサイトを作っているので、もうWebサイト業界は長いですね。

今、いろんなコミュニケーションで、オウンドメディアのWebサイトってものすごく価値があるんですよ。だから、なぜそこに課題意識を持たれているのかわからない。たぶん、何が目的なのかがあいまいなまま作っておられるんだったら、そういう疑問が出てくるのかなと思うんですが。

鹿毛:俺もさらに聞きたいね。(江端さんは)これどう答えます?

江端:でも、片山さんのが終わってから。

鹿毛:そうか、終わってから。ごめんなさい。

片山:いや、たぶんしょうもないから(江端さんに)聞いたほうがいい……(笑)。

(一同笑)

本田:そんなに自信ないんですか(笑)。

片山:圧倒的に情報が多いので、Webサイトの課題はサイトに来てもらえないということなんです。オウンドメディアだし、サイトをいっぱい作ってるんですが。あくまでもアーカイブ的な話で、最終的に「そこに来てもらったらちゃんと(情報が)ありますよ」ということであって、積極的に企業のサイトに来てもらえると私はあまり思っていないし、誘導しようとも思っていないので。

迷いが生まれるのは、依頼する側の不明確さが原因

江端:ブランドサイトなんですか?

片山:企業の中にあるブランドサイトに引っ張ってくるのが大変なので、私はそれを外に出して、メディアさんのところに置いてもらう。やっぱり、いくらいいお店を作っても、“砂漠”の中に置いてもぜんぜん来ないので。

江端:通行量がないからね。

片山:銀座の片隅にでも、ちょっと間借りしてるんです。

鹿毛:この方(質問者)はWebサイトの仕事をしてて、デジタルマーケティングの視点でやってるけど、何が正解かわからなくなってきたというのは、依頼した側が「何が正解か」を言ってないんじゃない?

片山:そうですね。

鹿毛:それが一番大きいよね。だから本当は、制作側が何のためのサイトなのか、今何をしようとしてるのか。いつも変わっていくところを、ちゃんと「これが発生したら正解です」と(発する)。コンバージョンやアクセス数とかの数値の前に、何を達成したいのかを依頼する側がよくわかってないと思う。

片山:サイト作るのが目的になってるので。ただ反面、それだったら好きに作ったらいいと思うんですよ。所詮、依頼する側はしっかりと考えていない人が多いので。

本田:それは言っちゃ(笑)。まあ、でも(片山さんが)依頼する側の立場だから。

片山:依頼する側だから言える。何も考えずに丸投げが多い。

「見てください!」と言う以前に、真面目に有益な情報を発信する

鹿毛:依頼する時にどうやったらいい?

本田:「目的がないですよ?」って、逆に要件・定義を聞けばいいと思うんですよね。

鹿毛:答えを持ってなかったら、一緒に考える。

片山:持ってたら言いますから。

本田:そしたらディスカッションですよね。

鹿毛:だから、江端さんが行って一緒に考えてもらう。

江端:提案型にすればいいんですよね。「これを達成しましょう」って言って。

片山:逆にこれぐらいの問題意識を持ってはるんだったら、たぶんそれは考えられるはずだと思うんです。

鹿毛:この方は考えてらっしゃるもん。

江端:そうですし、さっきアーカイブっておっしゃいましたが、ぜんぶの情報を集約できてリアルタイムに更新できるという、ものすごい利点があるんで。それをどう活用したら、セールスやブランドやいろんなところに役立つかというヒントをやって、「どれをやりたいですか?」という提案をすればいいと思うんです。

片山:例えば、オウンドの中にある「大雪の時にどうしたらいいですか?」ってコンテンツは、大雪の時にものすごく跳ねるんですよ。すごく喜んでる人がいっぱいいるんです。

本田:情報源としてね。

片山:私たちが積極的に「見てください!」ってがんばるんじゃなくて、きちんと情報を作ったら、Googleくんがちゃんと考えて(提案してくれる)。いいものを作って、もちろんちゃんとSEOもやりますが、そこはすごく大事かなと。ぜひご相談ください。もう、好きに作ったらいいんです。

(一同笑)

顧客ウケばかりに気を取られると、消費者を驚かせるものは生まれない

司会者:では、会場から質問がありましたのでお願いします。

質問者2:本日はありがとうございます。ずっと広報畑で、最近マーケティングにも関わるようになってきたんですが、うちはファッションブランドをやってるんですね。工場さんと直接提携して、一緒に二人三脚でもの作りをしてお客さまに届ける、いわゆるD2Cに近いかたちなんですけれども。

商品開発においても、最近はお客さまと一緒に作って、PRも途中段階から入ってストーリーを一緒に作っていくんですが、その中でお客さまインタビューにも最近力を入れてるんですね。

本の中で独占インタビューもあったんですが、インタビューに慣れてないので途中で「インタビュアーの主観が入ってしまってるんじゃないか?」「インタビューの仕方がまだまだ浅いな」というところがあったりして。初めてインタビューをする人たちが気をつけるべきことというか、それをどう商品開発に活かすかをおうかがいしたくて。

鹿毛:今の話はぜんぶ、さっき言ったレベルのマーケティングになっちゃってるよね。ニーズを聞いてそれに答えて、都合のいい人になるっていうあの話

例えばB2Cじゃないけど、コロナになってからスーツとか着れないんだよね。でも洋服の青山がパジャマ着のスーツをすぐ作ったじゃん。あれは「何人に(意見を)聞いた?」って話じゃないよ。たぶん聞いてわかるんじゃなくて、「これはいける!」って思ったわけだよね。

アイデアを作った時に「これって受けるだろうか?」と、一応確認を取るのはありかもしれないけど、確認を取る時間ももったいなくない? ファッションは提案する側だから。さっき言ったように、(お客さんに)聞いてじゃなくて、お客さん側が思ってもないようなものを出さないと、驚きにならないんじゃないのかな。

ナラティブの調査にも共通する「客観性」の重要性

本田:ファッションは確かに難しい。1個思ったのは、客観調査の時にデプス(インタビューをする)とか。客観性を担保したいのか、聞いてるほうが自分ごとにしたほうがいいことになるのか、目的でけっこう変わると思って。

「商品を改善するために」とかで聞いてるほうが、ブランドや商品にも愛情があって、どんどん自分ごと化する場合はそれでいい気がするんですよ。ただ、ナラティブの調査もそうなんですが、客観性が大事なので。

自分の思ってるほうの物語のほうがいいでしょ? 調査の体はとれるんだけど、それは他人に任せたほうがいいと思います。実際に聞く人は自分じゃない、分けたほうがいいんじゃないかなと思うんですよね。(片山さんは)どうですか?

片山:インタビューされる目的が何なのかはちょっとわかってなかったんですが、次の商品開発に活かすってこと?

質問者1:そうですね。例えば、「こういうものを作りましょう」という素案はあって、サンプルの段階でお客さまを集めて(質問)したりとか。

鹿毛:それはありだよね?

片山:聞かれる方は、ファンの方やブランドを好きな方?

質問者1:好きな方の場合もありますし、例えばそういうターゲットに合うような。ターゲットという言い方をしちゃいけなかったんですが(笑)。想定をされる困りを抱えてる方を一般で数名募集して。

鹿毛:せっかくだったら、作ったやつとそのへんに売ってるやつをバーっと並べて、「さあみなさん。どれか好きなやつを1つ持ってっていいですよ」って言った時に、目がキラキラってなって持っていくやつが一番いい。

本田:そうですね(笑)。

消費者の表情や言動を「観察」して情報を得る

鹿毛:「聞いて」じゃなくて、僕だったら先に観察するね。観察した後で、「みなさんちょっと座ってください。あなたさっき、これを先に手に取りましたよね? その後無造作にそれを置いて、こっちで見て匂いを嗅ぎましたよね?」ということを、後でドリビングするぐらいのことをしないと。こっちで調査分析で聞くのって、射場さんはどう?

射場:モニターで消費財に行ったりとかしてたんですが、一般的なマーケターって、製品が出た時や競合の商品をずーっとスーパーに張り付いたりして見てるんですよ。下手すると、後ろから(店員に)捕まった人とかも出てきたんですが。

それぐらい、実際にそういう場所で見られない。だから逆に競合のお店とかで延々と、どういう物の選び方をしてるかとか、実はそっちのほうがインデプスになる。言葉で説明してもらったり、「これ実は好きなんです」というよりも、正直な行動だったりすることが多いというか。

本田:リアリティね。さすがです。

鹿毛:今日は嵐の話よりも一番よかった。

(一同笑)

本田:いやいや、嵐の話も相当よかったですよ。

質問者1:そうなってくると、今は試作品を郵送で送って感想をテキストでもらってるんですが、そうじゃなくて実際に来てもらって、その時の行動や反応を見たほうがいい?

鹿毛:質問者さんって、家きれいにしてるでしょ? カチカチっと。

質問者1:汚いです(笑)。みなさんの汚いと私の汚いが同じかわからないですけど。

鹿毛:今のでいい。俺が投げかけた時にどんな顔をするのかとか、どこまで汚いのかっていう、その表情とかでなんとなく見えたりするんだよね。だから手法じゃなくてさ、今言われた「観察する」って重要だよね。

サプライズのコツは「6:3」の比率にある

射場:たぶん、この話って2通りあって。先ほどからずっと言ってるのもあるけど、実はレギュラーのラインを改善するのと、「わっ!」と思わせるようなサプライズにするものは違って。どのカテゴリでもそうだと思うんですが、これに関しては嵐とかもそうなんですよ。

鹿毛:ほら、出た。なんでも嵐に例えられるのすごいですよ。

射場:実は6割ぐらい型があって、みんなが絶対に好きだと思ってるものがある。そこに3割ぐらい「えー!?」というサプライズをぶっ込んだ時にどう反応するかを見て、ぶっ込んだところを変えていくんですよ。

これは出してみないとわからないんですよ。その時に観察しながら、これはたぶん言葉とか、「なんとなくこういう生地感が嫌なんです」みたいなことで聞けるんだと思うので。どっちを見たいと思ってるかによって、調査方法とかやり方を変えたほうがいいんじゃないかなと思ってるところがあります。

鹿毛:あんまり考えないほうがいいんじゃない?

(一同笑)

本田:いやいや、ちょっと待ってください(笑)。さんざん言って、今さら解説した後に台なしなんですよ(笑)。

鹿毛:例えば、こういう一言でみんながどう反応するかとかね。

質問者1:どうもありがとうございました。

変化だけに目を向けず「変わらないこと」も捉える

江端:今日のテーマが「マーケティングの本質は何だろうな」というところで、マーケティングの本質とは何なんでしょう? 自分の本の内容の本質でもいいんですが、マーケティングの本質を一言で言ったらどんなことになるか。それで締めにしたいと思います。

片山:今日は無茶ぶりの大喜利大会みたいな(笑)。人間の変わらない部分に身をしっかり留めてものを考えていくのは、さっきの話からもつながるんですが。マーケティングの本質って、変化だけに目を向けることではないと思います。特にこの業界は変化ばっかり追い求めて、変わらない部分に視点が薄くなりすぎるかなって。

江端:どこが変わってるかじゃなくて、長期的に見たらどこが変わらないかっていうのも(大切だと)。

片山:実は、変わらないところが一番みんなが共感できるところなので。3割の変わってるところは必ず考えないといけないんですが、6割が安定してるからの3割なので。

変わらないところをしっかり抑えた上で、変わってるところをやらないといけないんですけど。そこを抑えてないくせに、変わってるところだけやるっていうのは、本質からずれていくと。(自分が)できてるとは思わないですけど。

「お客さまとともに作る」ことが、マーケティングの本質

射場:すいません。すべて嵐で(例えて)語っちゃいけないんじゃないかっていう。

片山:いやいや、嵐縛りですよ。

射場:マーケティングって、本当はファンや自分のお客さんがより楽しくなるためにとか、生活が楽しくなるためにお客さまとともに作るのが、実は本質なんじゃないかなと思ったところがありまして。

ファンが涙してるのを見ながら作ってくれてるとか、マーケティングをやってくれてると思うことが、人の心を動かすんだなと思ったところがあります。すいません、嵐縛りで(笑)。

本田:もう、一貫した嵐で語れるのすごいですよ。本当に。

片山:嵐すげーな。

射場:嵐すげーです。

江端:SMAPでこれを語れる人いるんですかね?

射場:どなたかいると思いますよ。

“余白”のないものは、消費者から受け入れられなくなる時代

本田:いやー、難しいね。特にこれからのマーケティングで言うと、1つのキーワードは「余白」と言いたいかもしれないですね。ナラティブの本の中でもちょっと触れてるんですが、やっぱり100パーセント企業側がコントロールするとか、余白・余裕がないものは受け入れられなくなっていくし、ましてや共創の時代なので。

嵐もそうですよね。ファンやユーザー、みんなが参画してくれるってことは、余白が必要だから。その余白を意識することが、けっこうマーケティングの本質に近い部分で、大事になってくるんじゃないかなっていうのが、今思ってることですね。

江端:それは懐が深いですね。何が来ても受け入れる、みたいな。

本田:重要なところじゃないかなと思います。

江端:さすがです。じゃあ、鹿毛さん。

鹿毛:真面目にちゃんと伝えますので(笑)。

本田:ずっと真面目だったはずなんですよ(笑)。

鹿毛:やっぱり嵐もそうだけど、人への愛。手法やフレームワークだとか、テクノロジーじゃない。僕が一番嫌いなのが、「解像度を上げる」って言葉をよく使う若手がいっぱいいて。解像度を上げるのも重要だけど、それだと僕はブレークスルーしないと思う。

テクノロジー・フレームワークでやっていってできるんだったら、誰でもマーケターになれるよね。だからまず、最低限はそこまでやらなきゃいけない。そして時間も使わなきゃいけない。さっき、2時間の中で1時間半はデータ分析をやったと言ったように、時間を使わなきゃいけない。

「データにかける愛、イコールマーケティング」

でも、その後に「今の中学生はどう思ってんのかな?」と思って、この人たちにどんな愛情を込めようかなと、何時間も考えるのよ。考えて、朝起きた時に「あ~」と思って絞ったその1滴を持って、これを広げて。「どうぞ!」って言ったらよろこんでくれて、「愛が届いた」みたいな、それがマーケティング。どうでしょう?

射場:そのとおりだと思います。

(一同拍手)

鹿毛:やっと拍手もらった。

射場:でも、気持ちわかります。

江端:考えて考えた末の、1滴を広げて。

鹿毛:それは苦渋の技。それを組織にしなきゃいけないから、みんなで寄ってたかってやらなきゃいけない。

江端:膨大なデータがある中で、常日頃そういうことを考えてるからこそ出てくるものなんですよね。

鹿毛:そういうこと。

江端:それも愛があるから。

鹿毛:データにかける愛、イコールマーケティング。

江端:なるほど、いいこと言いましたね。とりあえず何にでも愛をかけることが本質だという感じになりました。オンラインの方々、ありがとうございます。こちらでオンラインは終わりにして、後はリアルに来てる人たちもいらっしゃいますので、そちらの交流にしたいと思います。みなさん、本日はありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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