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チームで育児介護と仕事を BREAK & THROUGH(全4記事)

23歳で会社を辞めて、難病の母を1人で自宅介護 犬山紙子氏が経験した「若者ケアラー」のキャリア問題

大阪府が運営する「OSAKAしごとフィールド」は、「働きたい」と思うすべての人が利用できる就業支援拠点です。今回は、ルクア大阪協力のもと開催されたトークイベント「はたらく学校夏やすみ Career Break&through」より、エッセイスト・犬山紙子氏の講演の模様をお届けします。介護と育児の両方を経験しながらキャリアを築いてきた犬山氏。本記事では、20代前半で経験した介護の大変さと、その中で感じたキャリアへの不安について語られました。

「育児介護」と「仕事」をブレイクスルーする方法

司会者:みなさん、こんばんは。本日は「はたらく学校夏やすみ Career Break&through チームで育児介護と仕事をブレイクスルー」をご視聴いただき、ありがとうございます。本日司会を担当させていただきます、OSAKAしごとフィールドの田川と申します。よろしくお願いします。

本日は、会社員とフリーランスという両方の働き方と、介護と育児を経験された犬山さんに、キャリアや家族のチーム作りの課題をブレイクスルーするヒントと、息抜きのコツをおうかがいしていきたいと思っております。

まずOSAKAしごとフィールドの紹介をさせていただきます。今回の企画は大阪府の就業支援拠点、OSAKAしごとフィールドが企画・運営しています。今回初めてOSAKAしごとフィールドを知ったという方もいらっしゃるかと思いますが、簡単に言いますと、就活中の方やこれから転職を考えている方に向けて、さまざまなサポートをしている場所になります。

本日の流れは、まずゲストのご紹介をさせていただいて、そのあと私と一緒にトークセッションを行い、そのあとみなさまからの質疑応答に答えていくかたちになっています。

ではみなさま大変お待たせしました。すごく楽しみにされている方もいらっしゃると思うんですが、本日のゲストをお呼びしたいと思います。犬山紙子さん、よろしくお願いします。

犬山紙子氏(以下、犬山):よろしくお願いします。

司会者:本日はよろしくお願いします。お話しできて光栄です。本当にありがとうございます。

犬山:こちらこそです。

司会者:まず私のほうから簡単に、みなさんご存知かとは思うんですけども、犬山さんのプロフィールを紹介させていただきます。

仙台のファッションカルチャー紙の編集者を経て、家庭の事情で退職し上京。お母さまの介護をしながら、東京で6年間のニート生活を送ることに。そこで出会った女友だちの恋愛模様をイラストとエッセイで書き始め、マガジンハウスからブログ本を出版しデビューされました。

現在はTV、ラジオ、雑誌、Webなどでご活躍中です。2014年にご結婚。2017年に第1子をご出産されてから、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「こどものいのちはこどものもの」の立ち上げも行っておられます。こんな感じで間違いないでしょうか。

犬山:恥ずかしいですね(笑)。

多忙な毎日を送る犬山氏の1日のスケジュールは?

司会者:テレビでお見かけすることもすごく多くて、多方面でご活躍中の犬山さんなんですけども、現在はお子さまもいらっしゃる中で、大変お忙しい毎日かと思います。一日一日、どんなスケジュール感で過ごされているのかなと単純に興味があるんですけど。

犬山:そうですね、毎日だいたいなにかしらの締め切りがあるので、なにかしらに出演して、1個締め切りをやって、そしたら子どもの保育園のお迎えの時間になっていますね。保育園の時間内じゃない仕事は、その間は夫が子どもを見ています。本当に夫と二人三脚でやっているので、実はちゃんと毎日8時間寝ているんです。

司会者:あ、そうなんですか!

犬山:私、オタクなので(笑)。ハロープロジェクトが好きだったり、二次元が好きなので、漫画を読んだりゲームをしたりする時間も実は取るぐらい、かなりちゃんと自分の時間を取っているという、そんなスケジュールになっているんですね。

司会者:自分の時間は、お子さんが寝られてからですか。

犬山:そんな時もあるんですけど、子どもが寝るとやはり私も寝落ちするので、自分の時間は夫と話して「ちょっとここで1時間もらうわ」とか、保育園行っている間のランチの時間にちょっとゴロッとしたりとか(笑)、そんな感じです。

司会者:そうなんですね。私は育児を経験している身なので、どうやって自分の時間を捻出していくかいろいろ試行錯誤してみたことがあるので、例えば夜にこっそり起きてとか(笑)、そういったことをされているのかなと思いまして。こういう立場の人間が今からお話を聞いていきますので、ぜひよろしくお願いします。

犬山:お願いします。

20歳の時に突然訪れた、母の介護生活

司会者:犬山さんは介護とか出産とか子育てとか、たくさんのことを経験されています。1つ1つのライフステージのシーンを考えておられたこととか、あの時こうだったなとしっかり振り返りをされて情報発信されているお姿が、すごく印象的だなと思っています。いろんなことに悩まれている多くの女性にとって、人生の道標になるような感じだなと思いながら犬山さんの本を読ませていただきまして。

犬山:ありがとうございます。

司会者:「そうだよね」と思うところや、これから自分も経験するだろうなというところが、すごく勉強になりました。

犬山さんがこんな経験をしてきたんだということを、詳しく知らない方もいらっしゃるかもしれないので、時系列でお話しをうかがいたいと思います。主なライフステージとして「介護」のシーンと「育児」のシーンで、それぞれ犬山さんが悩んだこと、ピンチだったことのトップ3というかたちで、どんなことに直面されて、それをどう乗り越えたのか、教えていただければなと思ってます。 

今、まさに介護や育児のことで悩んでおられるという人もいれば、これからそういう局面を迎えていくことに不安を感じている方もいらっしゃると思うので、ぜひ悩みの解決になるヒントを届けていけたらと思います。

さっそくなんですけれども、犬山さんは介護と育児では、介護のほうが経験をする時期としては早く迎えられているんですよね。

犬山:そうですね。私が20歳の大学生の時に、母が難病であることがわかって、そこから介護生活が始まりました。子どもを妊娠するまでは実家に戻って、介護をしながら仕事をするような状況でした。

司会者:それは突然自分の人生に現れた出来事だったと思うんですけれども、当時はどういう状況だったんですか。

犬山:当時は20歳なので、周りに頼ったほうがいいとかそういうのがまだ何もわからない状況で。ただ、姉と弟がいるんですね。なので介護のことは姉弟3人で話しながらやっていこうという感じでした。やはり若いので、なんでもできると思っていて(笑)。

司会者:(笑)。

犬山:「自宅介護しようね」という中で、姉弟で分担しながら介護してたんですけれども。本当は就職で東京に出てきたいなという気持ちがあったんですけど、こればかりはしょうがないので、実家のある宮城の中でやりたい仕事を探して、編集者をやりたかったので出版社に就職しました。

1年半で会社を辞めて、1人で介護をしていた時期

犬山:でもそれも1年半でしたね。その時はちょうど姉は東京にいて、弟も留学で海外にいたので、私しか介護する人がいない状況で。私が就職して働いている間はおばあちゃんが来て見てくれていたんですけど、やはりおばあちゃんも歳が歳なので、しんどいとなって。

そこで私が23歳の時に、1年半で退社しまして。ここから29歳くらいまで、このプロフィールにあるニート生活の部分が、実は思い切り介護をしていた時期なんですね。ただその時は、自分がお金を稼いでいないことだったりとか、すごく罪悪感があって。「自分も介護がんばっている」とは言えなくて、自虐して「ニートです」と言っちゃってた状況でした。

司会者:「ニート生活」という言葉が出てきたのは、そういう背景とか思いがあったからなんですね。

犬山:そうなんですよね。介護している方にこの言い方はあまり良くないなという感じなので、ここをどうしようかなと(笑)。過去に自分が言ってしまったことなんですけれども、そんな背景がございました。

司会者:そうなんですね。お姉さんと弟さんと一緒に分担してやっていこうとできたのが、介護を乗り越えられたところでは大きかったんですかね。

犬山:そうですね。23歳の会社を辞めたあと、私が1人で介護をやってた時期があったんですね。私も若いので「若いからできるだろう」と高をくくっていたんですよ。でもやはり難しいんですよね。

若いけどぎっくり腰になっちゃうし、母が専業主婦だったので、要するに家事も私が全部やらなきゃいけない。そこに介護が加わる。車椅子からベッドに移動させるのも、けっこう重労働だったので「無理だ」となって。

介護が少しずつ楽になったきっかけは、姉に求めたSOS

犬山:姉に「ごめんなさい、私1人ではやはり無理だわ」とSOSを出して、姉が宮城に戻ってきてくれました。たぶん姉も夢とかたくさんあったと思うんですけど、きっとそれをいったん諦めて。

それでも姉弟だけじゃ絶対に無理で。やはりヘルパーさんだったり訪問介護の看護師さんだったり、そういった方の力を借りないとまず無理でしたね。

姉が帰ってきて、介護を全部家でやるにはどうしていくかと考えてくれて、姉がケアマネージャーさんに働きかけて、「今の状況は実はぜんぜん実態に則してなくて、もっともっとヘルパーが来てくれる時間を増やせるんじゃないか」という話も姉がしてくれて。そこでヘルパーさんが来てくれる時間がグッと長くなって、そこから少しずつ楽になっていきましたね。

司会者:誰かが掛け合ってくれるというところで、やはり1人で抱え込んでいる時には、すぐそこに突破口があると気づくのも難しかったりしますよね。

犬山:難しかったです。ましてや自分の状況を俯瞰で見るなんて無理でした。あの時は本当に、視界がちょっとしか開けていないような状況だったと思うんです。目の前のことで精一杯。母のトイレの介助があったので、細切れで起きて睡眠もまともに取れていない状況でした。とてもじゃないけど、そんなことできなかったですね。

司会者:なるほど。当時の状況がイメージできるお話でした。

介護で大変だったこと第3位は、「自分の時間がまったくないこと」

司会者:今日お聞きしたいのは、特に悩んだこととか、特にこれがピンチだったという、トップ3。たくさんあると思うんですけども、今聞いている方に「これは知っておいてほしい」というお話ができたらと思うんですけど。トップ3はありますか?

犬山:そうですね。実は全部つながっちゃうことではあるんですけど……。では第3位。

司会者:第3位、いきましょう(笑)。

犬山:(笑)。「自分の時間がまったくない」というところでしたね。

司会者:なるほど。育児にも通じるような(笑)。

犬山:そうなんですよ。やはり自分が若かったというのもあるんですけど、若くなくても何歳になっても、自分の時間が必要だし、自分の時間がまったくなくなると心が死ぬんだなというのがよくわかって。

当時、遠距離恋愛していた彼がいたんですけど、彼に対する私の話し方もかなりどぎついというか、私のメンタルが相当荒れていたんだなと。その時の彼にはめちゃくちゃ謝罪したいんですけれども。

本当にそれぐらい自分が追い詰められていて。やはり自分の将来の夢もあるんですよね。このまま介護だけをして一生終えるかというとそうではないわけじゃないですか。まだ20代で、その時自分の夢もあるし、こんな仕事したいとか、どうやってキャリアを作っていこうみたいな、そういったところでやはり自分の時間が必要なんですよね。

夢に向かっていただけじゃなくて、ただダラッとするとか、ちょっと遊びたいとか。遊ぶのだって本当に大切なことなので、やはり自分の時間が持ちづらい状況に陥ったというのは、本当に大変でしたね。

周囲から取り残されていくような、自分のキャリアへの不安

司会者:そうですね。特に20歳とか20代の前半で自分の時間がまったくなくなるのは、経験していない身からすると本当に想像が難しい状況で。やはり当時の同世代の友だちとかと比べちゃったりとかもあったんですかね。

犬山:友だちがデート行くのが、めっちゃ羨ましかったんですよ。「いいなぁ。私もデート行きたいな」とか、普通に「ああ、いいな。ゴロッと横になって漫画読みたいな」とか。

一番焦ったのはキャリアの部分ですね。私も1回就職をして辞めたという経験がある中で、当時同世代の子たちのmixiの日記で「いろんな仕事したよ」とか仕事の話を書いてあると、「よかったね」と思いつつも、自分がなにも先に進んでいないような気持ちにポッカリとなりましたね。

司会者:取り残されていくような感じなんですかね。

犬山:そうですね。やはり自分が前に進んでいる感じがまったくない時期でした。本当は介護することって前に進んでいることでもあるし、すごく素敵なことなんですけど、それだけになっちゃうと、やはり自分の成長というものがないように感じてしまうんですよね。そこが本当にきつかったですね。

司会者:そういう思いが、お姉さんに「自分1人じゃ無理だわ」と電話したことの大きな要因になっている、ということですよね。

犬山:かなり大きいですね。ヘルパーさんにたくさん来ていただいて、夕方の3時間、ヘルパーさんがガッといてくださる時間があったので、その時間で私は、車を運転して近所の漫画喫茶に行って、漫画を読んだりとかブログを書いたりをやっていたので。ヘルパーさんが来てくれたおかげでその時間があったから、だから乗り越えられたところがありますね。

SOSを出さずに諦めてしまう「ヤングケアラー」の問題

司会者:そうなんですね。最近メディアでも「ヤングケアラー」というワードを耳にすることが多くなりました。「ヤングケアラー」は18歳未満の家族の世話や介護を行う子どもで、厚生後や労働省のWebサイトでも紹介されているんですけど。まさに状況としては、年齢が少し違うだけで(犬山さんも)そういった状況だったのかなと思います。

犬山:そうですね。私の場合、20代30代なので、「若者ケアラー」と呼ばれる区分です。ヤングケアラーは本当に問題で、彼らは20代の子たちよりもSOSを出さないし、「そういったものだ」と諦めちゃうところもあるし。

なので、彼らについてはSOSを出す前に、まずは社会が介入していくことが本当に大切だと思うんですけれども、やはり20代、30代、何歳になってもそこって絶対支援が必要なところだなと。ケアする側も支援が必要とすごく感じますね。

司会者:ありがとうございます。

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