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SMALL BUSINESS LABO セミナー「次に進むためのやめる決断 取捨選択はどうやってすべきか?」(全6記事)

音楽DJ、Webデザイナーを経て、パン屋の店主へ転身 「やりたいこと」を諦めて、「得意なこと」で起業する決断

中川政七商店では、奈良のまちづくりとしてN.PARK PROJECTに取り組んでいます。「いい街とは、いいお店がある街だ」という想いから開催している本イベントは、スモールビジネスの事業者の方や起業検討者の方に向けて行われています。今回のSMALL BUSINESS LABOセミナーには、株式会社わざわざ 代表取締役・平田はる香氏が登壇。「人生の3分の2ぐらいが挫折の連続」と語った平田氏は、自分の「できること」と「好きなこと」にギャップがあることに悩んでいたと言います。

「人生の3分の2ぐらいが挫折の連続」

井上公平氏(以下、井上):今日のお話って、「わざわざ」ができてからの話がメインだったかなと思うんですが、せっかくの機会なので、それ以前のバックボーンみたいなところと、今のつながりをちょっと聞いてみたいなと思っていて。

平田さんのキャリアをいろんなところで見ると、ユニークといいますか。静岡出身で専門学校に行って、ファッション業界、その後クラブDJをされて長野に移住して、主婦をやられている期間があって、わざわざを立ち上げているというキャリアだと思うんですが。

東京にいらっしゃる時代に、自分が「スモールビジネスをやろう」と思うと、例えば「パンが好き」「音楽が好き」とか、一番最初ってそういったところがスタートだと思うんです。音楽に関しては途中でやめて、最終的に選ばれたのがパンと日用品という。

最終的に「わざわざ」というビジネスになっていったのって、過去の経験やキャリアとかの中で、気づきや挫折みたいなのがあったのかなって思ったんですが、そのあたりっていかがですかね? 

平田はる香氏(以下、平田):私の人生の前半戦は……というか、人生の3分の2ぐらいが挫折の連続で。良いことが1個もないんですよ。

井上:1個もですか?(笑)。

平田:1個もないです。本当に友だちもぜんぜんいないし、誰とも話も合わないし。

井上:そうなんですね(笑)。

幼少期から抱え続けている違和感

平田:「なんでそうなってるの?」「どうして?」って、子どもの頃からずっと問うてたので、みんな問い詰められてる気持ちになっちゃうんですよ。答えられないですもんね、曖昧になっていくじゃないですか。

(その問いに)答えてくれる人はそんなに多くないんですよ。だからそれを問うと、みんなが答えられなくなっちゃっていくのがだんだん面倒くさくなって、話をしなくなっていっちゃって。

井上:当時から“なぜなに”の気質がすごくあったってことですよね。

平田:そうですね、テレビとかも全部分解しちゃって。親が帰ってきた時に(気づいて)、残骸ですよね。

井上:すごいですね。

平田:リモコンとかも、本当にそれを何回もやっておて。なんでそうなってるのかを知りたいっていう欲求がすごく強くて。周りにも学校にも、あんまりそれが受け入れられなかったので、うまく生活できてなくって。

中学から高校受験も失敗してて、高校から大学も失敗して、専門学校に行ってて。ずーっとずっと、突っかかってるんですよ。でもなんとなく、「とりあえず生きてかないといけないから」という感じでいて。やっとやりたいことが見つかった音楽のDJも、7年間ぐらいやってたんですが、どうしてもうまくいかなくってやめちゃったんですね。それも挫折ですよね。

だから、(人生の)前半戦はやりたいことも見つからないし、やりたいことがせっかく見つかったとしてもうまくいかない。

井上:なるほど。

平田:というのが、ずっと積み重ね。

「やりたいこと」と「得意なこと」のギャップ

平田:それと生計を立てるために、別でWebデザインを独学で勉強してずーっと仕事してるんですが、それはやりたくなかったんですよ。

井上:やりたくなかったんですね。

平田:言語とかを覚えるのは好きなので、そういうのは自分で独学で勉強してできるようになっていったんですけど、やりたいことではないですよね。DJとかはやりたいことですが、生計を維持するためにWebデザイナーをやっているという認識ですよね。でも、ずっと継続できてますよ。

だから、「やりたいこと」と「得意なこと」が一致してないことに初めて気がついて、「わざわざ」をやろうって思った時に、「もうやりたいことをやるのやめよう」と思って。

井上:そうなんですね。

平田:できることを掛け算しようと思って。だったら、ファッションも音楽だいたい詳しいし、Webデザインもできる。料理好きだし、パンも作れるし、全部合わせたらなんか店っぽくなりそう、みたいな。器とかも、みんな一通り好きなんです。

かじってることは多いんだけど、どれも一流にはならない。陶芸も好きだし習ってるけど、下手くそだし陶芸家にもなれない。でも、知識はもういっぱいできている。それを掛け合わせて、やれることをやろうというのがきっかけですね。

「やりたいこと」と「やれること」が一致しない葛藤

井上:それを思ったのって、長野に移住されて……。

平田:してからです。

井上:もう、最初から思っていたんですか? 

平田:いや、思ってないです。

井上:何かきっかけがあったんですか? 

平田:子どもが生まれて子育てをしながら、東京の会社から外注でWebデザインの仕事をずっと受けていて。長野でも3年間、コンピューターのシステム会社でWebデザイナーとしてやってたんですが、それが初めての就職でした。

井上:そうなんですね。

平田:はい(笑)。その前はずっと、いきなりフリーランスだったので。

井上:フリーの人生を。

平田:だから初めて会社に所属して、Webデザイナーとして仕事をしたりとか。でも、それもちゃんとできたんですよ。やれることを選択してたので、「わりとできんなぁ」って。

井上:そうですね。私たちの周りの人たちも、何かやりたいことが先行しちゃうパターンが多いなと思っていて。やれるところから汲み取っていくというのは、1つヒントになるところかもしれない。

平田:そうですね。「好きなこと」と「やれること」が一致している人はいいですよ? でも、大概の人はそうじゃないので。だからそこは、ちゃんと自分を知る努力をしてやれるといいですよね。私は“やりたいこととやれることがぜんぜん一致してない組”だったので。

でも普通は、先生からも親からも「好きなことを仕事にしなさい」「あなたは何がしたいの?」「何になりたいの?」ってずっと問われてるから、当然そこが一致するという思い込みがありますよね。でも、そこを正確に見れている人はいないので。

井上:なるほど。

個人の苦手なところを補い合うのが「組織」

井上:中川政七商店の場合、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンがありまして。それを語る時に、昨日の夜の会話でも出てきた「will can must」という話で。

やりたいこととできること、あとはmustの部分が「社会性」という言葉で書いても良いと思うんですが、その3つを串刺しするのが「ビジョン」だという考え方をしていて。まさにそこって、平田さんも一致する部分があるなと思いました。

平田:そうですね、それはもう絶対でしょうね。中川さんもうちも、やっぱりチームにしているじゃないですか。結局、個人じゃないというのがミソで。スペシャリストで、単体でフリーランスでやると、全部自分でやらないといけないというのが1つありますよね。

経理から自分の実際の作業から、メールのやり取りから営業から、全部やらないといけないですが、やっぱりその中に苦手なパーツとかも含まれているので。そこをフリーランス同士でチームを組んでもいいかもしれないですし、会社組織にしてもいいですし。

やっぱり、スペシャルに全部のことが全部パーフェクトにできる人って少ないと思うので。「これはもうできない」というのを認めて、ちゃんと協力を仰ぐ体制が作れるというのを、中川さんと規模を照らし合わせちゃいけないですけど、昨日お話していて、きっと中川さんも近いことを考えて取り組んできたのかなって思いますね。

平田氏の人生の目標は「健康寿命のまま死に突入したい」

井上:ちなみに、2009年にわざわざを始めた時って、当然ビジョンはなかったと思うんですが、例えば1人でやってる時もビジョンって必要ですか? いつから必要ですか? 

平田:もし、ビジョンの概念があるのならば、絶対にあったほうがいいですよね。でも、みなさんは今日知ったじゃないですか。だとしたら、事業におけるビジョンじゃなくても、人生におけるビジョンを決めてもいいと思いますよ。

人生におけるビジョン、私も持ってるんですが、「健康寿命を全うしたい」というのがあるんですよ。日本人の寿命がどんどん延びてるんですね。女性だと90歳近くまでいっているんですよ。男性でも85歳とかいってるんですが、その前の10何年間は体がほとんど動かない状態で、寝たきりの場合も多いそうです。

だから寿命が延びてると言っても、健康寿命が延びてるわけではないんですよ。医療は発達しているので、最後は介護されたり病院に入ったり、という期間がどんどん延びてる。私はもし90歳で死ぬなら、ピンコロしたいんですよ。

(一同笑)

井上:理想的な最期の迎え方ですね。

平田:「健康寿命のまま死に突入したい」という人生の目標があって。健康でいたいんです。だから無理もしたくないし、ストレスかかることもやりたくないし、健康診断の結果もすごく楽しみだし。

井上:なるほど(笑)。楽しみなんですね。

平田:やっぱり気をつけてるから。でも、それは制限じゃないですよ。自分の人生目標が、この喋り方や同じ頭の回転数のままでとは言わないですが、ちょっと体力が落ちても元気に庭(作業)とかやって。ちゃんとご飯も自分の歯で食べられて、そういうことをやりたいんですよ。

1歩踏み出すための「コツ」なんてない

井上:なるほど。じゃあわざわざのビジョンって、やっぱり経営者である平田さんと一致してるというか。一致している部分とそうじゃない部分はもちろんあるのかなと思うんですけど。

平田:あると思う。自分がそう思ってるから、自分の会社でもそれやりたいな、もっと大きくやりたいなって。自分だけじゃなく、というのはありますね。

井上:例えば私たちが関わっているような、「これからチャレンジしたい」という人からすると、じゃあビジョンを作りましょうとなった時に、完璧ではないかもしれないけどできましたと。

僕らはよく「1歩踏み出す勇気」って言ってるんですが、例えば会社をやめてお店をやるとか、副業でもいいと思うんですけど、新しいことを始めるのってけっこうエネルギーがいるなぁとか。今日のタイトルもそうですが、「捨てなきゃいけないな」という、迷いや悩みがたぶんあると思う。

そこを脱却していくコツというか、こないだ平田さんと話した時に、「副業は軽く始めたらいいんじゃないか」というお話もしてたんですが、ビジョンとそこの1歩を踏み出す勇気の関係性というか、1歩を踏み出すためのコツみたいなものがあれば、教えていただいてもいいですか? 

平田:うーんと、コツはないです。

井上:ないですか? 

平田:はい。終わりです(笑)。

井上:もう「やるしかない」ということですね。

平田:やるしかない。だって、そんなの考えてたらできないですもん。

井上:なるほど。

平田:とりあえずやっちゃえばいい。

井上:ビジョンが決まったら、もう見えてることからやると。

平田:いや、ビジョン決めなくてもやってもいいと思う。

井上:決めなくてもやっていくべき。

ハードルを下げ、「すごくちっちゃく踏み出すこと」が大切

平田:なんかわかんないんですけど、最初から完璧にやりたい人っていますよね。

井上:います。

平田:でも私はずっと挫折し続けているので、ちっちゃい成功でいいんですよ。

井上:なるほど。

平田:だから、ちょっとちっちゃいことができて褒めてもらいたいし。このECをやり始めたきっかけは、妊娠してお腹が大きくなって、仕事もできなくなっちゃった時に、Yahoo!オークション(現:ヤフオク!)でせどりをめちゃくちゃしてたんですよ。

産まれたら産まれたで乳飲み子がいるので、何ができる? と思って。ヤフオク!かなと思い、せどりしてきたのをヤフオク!で売るっていうのをずーっと。それで創業資金を稼いでるんですが。

井上:いろいろやってますね。

(一同笑)

平田:だから、やっちゃえばいいんですよね。お店を開くのはつらいかもしれないけど、メルカリやヤフオク!だったら簡単に自分の店が持てますよね。まずそこでチャレンジしてみて、売れるか売れないか試してみればいい。

売れなかったら、自分が悪いですよね。写真が悪いのかもしれない、コピーが悪いのかもしれない、値段が悪いのかもしれない。そこを練習台にして、じゃあ今度はSTORESで出してみようとか、そういうふうにして。

BASEで出してみようとか、じゃあ今度は自社ECにしてみようかってステップを踏んでいけばいいので。ハードルを上げないで、できる範囲ですごくちっちゃく踏み出すこと。それがコツといえばコツなんじゃないですか。

井上:なるほど。それも、今の自分がやれることを、大きなことから分解していって、小さなことから始めていくっていうのは、1つコツかもしれないですね。

平田:そうかもしれないです。

井上:なるほど。

日々のさりげない雑談も、数年後には事業につながる

井上:もう1つ気になったのが、今回コーポレートサイトの構築にあたって、あらためてビジョンや理念とかを整理されてたと思います。社内の方にビジョンを浸透させていくのって、たぶんどこの会社の経営者もけっこう苦労してるんじゃないかなと思うんですが、わざわざさんの場合は、そこってどういう工夫をされているんですか? 

平田:今日もスタッフがここに来てくれてるので、言うのが恥ずかしいんですが、毎週水曜日に全体ミーティングを行っていて。それが通じてるかどうかはわからないんですが、全員参加になっててZoomで見れるんですよ。その日に欠席してる人はアーカイブが残っている場所があるので、そこに日付とタイトルがついてて、いつでも見られるようになってる。

30分間、私が講話をやっています。ただ、今日みたいなことをいつもスライドで話しているんじゃなくって、昨日読んだ本の話をする時もありますし、どこかに出張に行った話をする時もありますし、取引先のメーカーの社長さんに出ていただいて、商品の構造とかを説明してもらう日もあるし。

いろんな話を週単位で投げていく。それは距離を近くすると思っているんです。私が今思っていることが事業化されるのって、2年後とか、相当後なんですよ。

井上:なるほど。

平田:でも、「あの時平田さん言ってたなぁ」「あそこを見に行ってたな」とかって頭に残ってると、つながってくるんですよね。それがつながっているってことが、「会社が勝手にやっている」という認識にもなりにくいし。

「確かに、私もあの時(話を)聞いている」「写真を見たな」とか、自分が一緒に参加している気持ちになれる。構造と会社とスタッフの方々が分断しないために、細かくコミュニケーションを取り続けて、糸をつないでおくことが必要だなと思います。

「1年に1回の研修」では、理念は浸透しない

平田:だから「研修を1年に1回やりました」とかでは、絶対に理念が浸透しないと思っていて。ちっちゃなコミュニケーションをずーっと重ねていく。

井上:ひたすらひたすら伝えていくと。

平田:ひたすら。もし何か決定したことが、翌週だめだったということも聞いてたら、実際その制度がなくなった時に、「平田さんだめだって言ってたな」って許してくれますよね。

井上:そこも納得がいくというか。

平田:そう思っているだけで、あとで聞いてみたらいいかもしれないですけど(笑)。

井上:そうですね。ちょっとスタッフの方もいるので。

平田:そう思ってるかどうかはわからないですけど、私はそういう気持ちで話しかけてる。だから食べに行った話とか本を読んだって話も、どこかで事業化されてる時に「言ってた!」となると、腑に落ちてつながってくる。

井上:なるほど。体感としてつながるのが、やっぱりすごく大事なんでしょうね。

平田:そうですね。ちょっとなんかスパイダーマンみたいな気持ちで。

井上:スパイダーマン(笑)。

平田:ピューって糸がとんでって、ペタッてくっつくやつです(笑)。あれぐらいのつながりでいいと思ってるんですよ。

井上:なるほど(笑)。

平田:ちょっと例えが変でしたね(笑)。

井上:ありがとうございます。

(ここからは質疑応答パートのため、本編は終了)

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