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SMALL BUSINESS LABO セミナー「次に進むためのやめる決断 取捨選択はどうやってすべきか?」(全6記事)

12年間店に通い続ける「常連客」を、定年後にアルバイトで採用 パン屋「わざわざ」が目指す、人々が健康である社会

中川政七商店では、奈良のまちづくりとしてN.PARK PROJECTに取り組んでいます。「いい街とは、いいお店がある街だ」という想いから開催している本イベントは、スモールビジネスの事業者の方や起業検討者の方に向けて行われています。今回のSMALL BUSINESS LABOセミナーには、株式会社わざわざ 代表取締役・平田はる香氏が登壇。「選択と決断が日常的に起きるのが経営」と言う平田氏が、起業後にぶつかった壁と、それを乗り越えるための「やめる決断」の重要性について語っています。

自分自身が健康に働くため、労働環境を見直した

平田はる香氏(以下、平田):じゃあ「健康的な社会」をビジョンで設定していて、自分自身が健康を保てない働き方を改善したいと、もし思っていたとしたら。次のステップに行きます。

頭の上には、「人々が健康である社会へ」というビジョンがずっとある状態ですね。働き方を改善したいということで、じゃあ何の手立てが考えられるんだろう? と思った時に、まず自分が働くのが大変だから人を増やそう。1人雇えば、2分の1の労働力で同じ生産量が保てる。普通の考え方ですよね。

パンに例えると、今は20キロの生地を3回に分けてこねているから、それを3回やらないといけないけど、20キロを一気にこねられる大型の設備投資を入れれば、1回でこねられて労働が3分の1になるとか。

あとは、うちはわりと自然な環境で発酵をやっているんですよ。それがパン屋だと、ドウコンディショナーという発酵管理、温度管理、湿度管理を一気にできる大型設備があるんですね。それを導入しようと考える。そうすると、もしかしたら今まで(パンの)面倒を見ていた、自分の働く時間が一気になくなって、あまり早起きしなくてよくなる。そういう設備投資ができると思います。

あと、種類の削減。20種類作っているということは、レシピが20個あるということですので、ものすごく手間がかかっている状態ですよね。それを10種類に減らしてみれば、手間も2分の1になるだろう。あとは、レシピを変更してしまえばいい。手のかかるレシピを作っているんだから、これを簡易化する。

焼き上がるまで10時間、深夜からの勤務……パン屋の働き方問題

平田:この当時、私は7時間の発酵サイクルでパンを焼いていたんですね。普通、例えばイーストで家庭でパンを焼こうとすると、小麦粉と水とイーストを入れて、発酵のサイクルを含んでも、こねてから焼き上がりまでおおよそ2時間でできます。

だけど天然酵母のパン屋さんになると、おおよそ天然酵母というのは、言ってみれば“悪い子たち”の集まりなんですよ。発酵に優劣がある人たちを集めているので、遅いんですね。発酵力が弱いという特徴があります。だから(発酵に)7時間はかかっちゃいます。焼き上げるまで10時間ぐらい。

もし朝10時に開店したいとしたら、夜12時にスタートですよ。おかしいんですよ(笑)。だから、天然酵母のパン屋さんは本当に朝が早いです。でも今は私、それをやりたくないんです。大変だから(笑)。

でもイーストで短時間発酵させると、添加物をたくさん入れないと味が付かないんです。小麦のおいしさが出ないので。これは健康的なパンではないと思っているので、やりたくないと思っていると。

「じゃあ、人間の生活をしながら、パン屋を通常通りやるにはどうしたらいいだろう?」と考えて、24時間発酵だったら5時に起きれば5時から焼ける。朝起きて、焼きからスタートです。

だから、発酵サイクルを24時間、天然酵母は通常7時間だけど、それを3.何倍かにすればいけるんじゃないかというのが、その時レシピの変更(をした理由)です。パンに合わせたパン屋さんではなくて、私の生活にパンを合わせてやろうというのがありました(笑)。

今は長時間発酵というレシピが本でも確立されていて、おうちでもやれるようなサイクルです。ちょっとした設備を作ればできるような感じだったんですが、当時私がやっていた時は、まったくそのレシピが外に出ていなくて、ずっと実験を繰り返していました。

震災をきっかけに、電気やガスに頼らない設備作りへ

平田:この時に「じゃあ、これだけアイデアが出た。この中から取捨選択」という場面が起こるわけですよね。果たして人を雇うのか、設備投資するのか、種類を削減するのか、レシピ変更するのかというところで、私は全部選択しました。

時をずらして全部やろうということで、まず、人の増加はすぐできる。募集を出したらもしかしたらすぐ応募してくれるかもしれないので、2010年から徐々に増やすことにしました。

設備投資の部分では、ドウコンディショナーはちょっと好きじゃなかったんですよね。高いのはもちろん、パン屋の開業の初期投資って1,000万円と言われていて、一番高いのがドウコンディショナーです。

発酵管理を全部自動で行ってくれるので高いんですが、一番難しいところを自動でやってくれるすごい機械なので、投資も高い。でもやりたかったというのと、もっとおもしろいことしたい。それじゃあ普通のパン屋さんになっちゃうという。

震災があって、状況がすごく身につまされたので、電気やガスのエネルギーじゃなくても焼けるツールを手に入れたいと思いました。薪なら拾ってくれば焼けるので、薪窯にしたいと思っちゃって突っ走っていくわけですよね。

2011年の6月、設備投資で薪窯の開発に着手して、これは構造も全部書いて実験を繰り返して。職人さんにお願いして、自分が設計したのを作ってもらったんです。

パンの種類を減らしたことで、顧客のほとんどが入れ替わった

平田:あと、種類の削減も同時に行っていきます。薪窯で焼き始める時に、薪窯で焼いたパンになればブランド力は高まると思っているので、だったら種類を減らして、家庭では焼けない大型のパンを焼いていこう、ということで、2種類に減らす決断をして。20種類から徐々に徐々に減らしていって、2012年の7月に2種類にしました。

これは本当に涙なしには語れない話なんですが、20種類から2種類に減らすまでに、ほとんどのお客さまは入れ替わっちゃいました。

1人、2人、あのパンをやめるとこのお客さまが来なくなる。このパンをやめるとあのお客さまが来ないというのをずっと繰り返して、ほとんど8割方、パン屋さんのお客さまが入れ替わることはありました。でも、今でもずっと買い続けて来てくれる方もいらっしゃって。

20種類の時に買っていたお客さまは12年通い続けてくださって、今年定年退職した方が「わざわざで働きたい」と言って、今は退職後にアルバイトしてくれています。もう12年のユーザーで商品知識抜群なので、60代の方たちが定年した時の受け入れ先になれたら素敵だなと思いながら、その方と今、一緒に働いています。

あとはレシピの変更。やはり発酵をすごく延ばすのは、パンにもストレスがかかるので、あの人(パン)たちも早く焼けてしまいたいんですよね。「じらさないで」というのがあって(笑)。それを冷蔵発酵させたり、酵母を極限まで減らしていったりとか、テストを重ねて10月にやっと24時間発酵にできて。現在、このレシピで24時間発酵で焼いています。

経営を続けるポイントは「嫌なことをやらない」「自分に甘く」

平田:ということで4つを選択して、「逆転の発想が生まれるポイント」と書きましたが、ビジョンがあったからこうやって逆張りできるというか。でも、やりたいことが明確なので決断がしやすい。

「人員増加」は1人増えれば労働が2分の1。「設備投資」はエネルギーのリスクヘッジをしたい。「種類削減」は、毎日食べても健康的な食事パンにしたい。あと「レシピ変更」は、パン屋でも早起きをしたくない。これ、けっこうわがままだと思われるかもしれないんですが、事業では持続可能が本当に大切で。

長く続けられないことを無理やりやるのは、本人も家族にもお客さまにも良くないんですね。だから結果的に自分に甘く、こういうことを絶対にやる発想の瞬間、転換のポイントみたいな、自分なりの嫌なことをなくすのは1つあると思うんですよね。

(事業を)やる上で、嫌なことをやらないように、いかにずるく考えるかというのは、すごく大切なことだなと思っています。結局、先ほど冒頭にお伝えしたように、創業からうなぎのぼりのようなグラフになっていったのは、ビジョンに向かってすごい推進力で選択を繰り返していたからなんですよね。

移動販売から自宅店舗にして、自宅店舗から店舗建設にして。店舗建設したあとに、何回も何回も毎年リニューアル工事をしていたんですが。その理由は、あまり借金が好きではなくて。というのは、自分に自信がないので返す自信がなくて、怖くてあまり借金ができないんですよ。ほとんど自己資金でずっとやってきてるんですね。

今でも借り入れは本当に少し。銀行さんとの付き合いで借りたぐらいの感じで、ぜんぜん必要じゃなかったけど、一応借り入れしておいた、みたいな感じの借り入れしかしていなくて。結局、売上を何に使うかで投資していったんですよね。出せる範囲の最小限の売上を、すぐ店舗とかにぶち込む。自分で持たない。これを激しくやっていったんですよね。

店舗の建築は、最初は大工さんに600万円でできるところまでやって、あとは途中で「やります」と言って、セルフビルドしたんです。断熱材を入れて、壁を入れて、天井張ってと全部自分でやっていたら、オープンがどんどん遅れて。結局、10ヶ月くらい工事にかかってしまったんです。

冬に大ヒットする看板商品の誕生背景

平田:毎年冬にシュトレンというものがあって、それがうちのパン屋の売上のすごくキーの商品になっていって、このシュトレンが人気商品になったんですね。砂糖とバターと卵を使わない、おかしなシュトレンなので。でも、それも選択と決断でした。

シュトレンって売れる。パン屋さんでも売上がピークになるのは11〜12月だと聞いていたんだけど、私自身はシュトレン(のレシピ)を持っていなければ、そのピークは来ないので、なんとか開発しないといけないと思って。

競合を調べた時に、甘くてすごく重いシュトレンしかなかったんですよね。実際、私はあまりそういうもの好きじゃないんですね。あと、人々を健康にしたい。これを1日1スライス食べるという、習慣通りできる人がいたらいいんですけど、おいしいからって(丸々)1個食べちゃうかもしれない。

その時、私は相手の健康を乱すのが気がかりで、「(健康を乱す要素を)全部なくそう」と思って開発して。それが結果的にどこにもなかったので、その時は自分に厳しくルールを課して作ったのが大ヒットして。今は年間で3,600個、11月と12月だけでそれだけ売れているんですよね。

ビジョンは「抽象的」であることが重要

平田:そこが売れたあとに、翌月にリニューアル工事をして。改装を4回か5回くらいやったので、一度店舗に来ていただけたらと思います。切り貼りの継ぎ接ぎの忍者屋敷みたいな、階段の途中から階段が出ているような店になっているので、ぜひ来ていただけたらと思います。

そういう店舗建築も繰り返して、そのあとクラウドファンディングで倉庫を改装する。これも「あるものを大切にしたい」というのがあって。やはりゴミが出たり、環境を破壊するのが嫌だなというのと、借金が怖いなというのがあって、空き家を探していたんですよね。

近所の製麺所が廃業するということで物件が出てきて、お願いしてそこを借りています。でも、製麺所はそのまま物流倉庫にはできないので、クラウドファンディングでみなさんのお力をお借りして。あとはスタッフとみんなで1ヶ月間くらいかけて、これもボランティアを募って、お客さまと一緒にセルフビルドしました。

そのあと法人になって2店舗経営。ずっと「前へ前へ」という気持ち(を持っているの)は、ビジョンがあったからなんですよね。しかも抽象的で、実現がぜんぜんできている気がしないのがポイントです。達成できてしまうと、やはりその推進力にはなり得なくなってしまう。そこ(現状)で終わってしまうので。

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