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SMALL BUSINESS LABO セミナー「次に進むためのやめる決断 取捨選択はどうやってすべきか?」(全6記事)

たった一人でパン屋を起業、厨房で立ったまま寝ていたことも パンを20種類→2種類に減らした、経営を支える「やめる決断」

中川政七商店では、奈良のまちづくりとしてN.PARK PROJECTに取り組んでいます。「いい街とは、いいお店がある街だ」という想いから開催している本イベントは、スモールビジネスの事業者の方や起業検討者の方に向けて行われています。今回のSMALL BUSINESS LABOセミナーには、株式会社わざわざ 代表取締役・平田はる香氏が登壇。「選択と決断が日常的に起きるのが経営」と言う平田氏が、起業後にぶつかった壁と、それを乗り越えるための「やめる決断」の重要性について語っています。

「選択と決断が日常的に起きるのが経営」

平田はる香氏(以下、平田):今日のテーマですね、「次に進むための決断 取捨選択はどうやってすべきか?」。これは事前に、N.PARK PROJECTがどういうものかをお伺いして、「どんな講演内容でやるのがいいんですか?」と話し合って決めたテーマなんですが、今日会場にいらっしゃっている方で、実際に自営業で開業している方いらっしゃいますか?

(会場挙手)

平田:3分の1程度ですかね、ありがとうございます。では今度は、今から開業予定だという方はいらっしゃるんですか?

(会場挙手)

平田:2名ですね、ありがとうございます。じゃあこれは1回、オンライン(視聴)の方も挙げてもらってもいいですか? 今、自営で経営をしている方はいらっしゃいますか? 手を挙げてください。

(オンライン挙手)

平田:おお! すごい。17人ですね、ありがとうございます。では、これから開業予定だという方はお願いします。

(オンライン挙手)

平田:5人ということで、ありがとうございました。トータルで7人ぐらいが開業予定みたいな感じですかね。事業をやられている方も20名くらいいらっしゃるような感じですかね。

だとすると、このテーマが合っているかどうかちょっと心配になってくるんですが(笑)。事業をやっている上で、どういうことが起こるかというと、やはり決断と取捨選択の連続なんですよ。例えば、「選択と決断が日常的に起きるのが経営」と書いてみたんですが、いつ何時もそれが迫られるんですよね。

こういう時にどう判断を下していくのか、「わざわざ」はどうやったのかを今日の主題に置いているんですが、開業前の方だったら、自分が今、開業するに当たって決断を迫られている状況もあるかと思うので、想定しやすいと思います。コロナや売上の低下だったり、いろんな課題が起きた時に、どちらを選択するべきなのかを今日はテーマにしています。

パンの種類を20種類から2種類に

平田:「わざわざ」の場合は、2009年に移動販売から実店舗を作ることから決断が始まっています。あとは、実店舗のみからオンラインストアとの共存。両方、2軸にするということですね。店舗を作ることを先にやりながら、オンラインストアも同時に作っていくという選択をしたりとか。

20種類以上あったパンを2種類にラインナップを絞り込む。これはすごくうちのアイデンティティにもなった決断でした。あとは2017年に、自分がずっとパン屋としてパンを焼いていたのに、そこから完全に離脱する。全部スタッフに任せる方向にしたりとか。

あとは2017年に、倉庫を借り受けて改装して、クラウドファンディングして物流を整えることを行っています。そして同時に、個人の形態から株式会社に組織変更して、先ほど話した自社倉庫配送から外部倉庫配送へ。

1店舗からコンセプトの違う2店舗に。最初は1店舗で開業しているんですが、2019年に「問tou」という本屋とギャラリーを開店しています。そして、今年の年末か来年の頭になると思うんですが、もう1店舗を長野県東御市に出店予定です。 

あとは今年の冬までを目標にしているんですが、アメリカの企業認証B corp(注:環境や社会へのパフォーマンス、透明性、説明責任、持続可能性において優れた会社に与えられる認証制度)というものを取得申請する予定になっています。こういう決断をどうやってやっているのかが、今日のお話になってきます。

ビジョン設定で大切なのは「何をしたい」よりも「どうしたい」

平田:どうやって決断してきたのか、先に答えを言ってしまうと、最初に設定するべきなのは「抽象的なビジョン」と書いてみたんですが、どうやってビジョンを掲げるか。それが決断の礎になるわけですよね。

ビジョンがあるからこそ舵を取れるというのが、本当に大事なこと。ビジョンの設定を間違えると、本当に大変なことになる。だから、最初によくよく(ビジョンを)考えてほしいというのが今日のお話です。

例えばここにザッと書いてみたんですが、「お店を開きたい」「両親の事業を継いでいきたい」「コミュニティを作りたい」「化粧品を作って販売したい」「ITサービスを作りたい」「上場したい」、いろんな思いがあると思います。

あとは「健康的な生活を浸透させたい」「ゴミの出にくい社会にしたい」「おもしろい世の中にしたい」「もっと多様な社会にしたい」「地方に住みたくなるようにしたい」「日本の工芸を元気にしたい」。これ、中川政七商店さんのを言ってみたんですが(笑)。

こういうビジョンの中で、どれが正解なの? その付け方が正解なの? ……どっちかっていうとこっちです。「×」は言い過ぎなのかなと思って、実は右と左でジャンル分けをしていました。

左側の「お店を開きたい」の列は、「何をしたい」とやりたいことを書いているだけ。これは△にしました。それよりも、「どうしたい」。WhatとHowで言い表したんですが、「何をしたい」よりも「どうしたい」か。それを大事にビジョンを作って欲しい。

パン屋を始めた理由は、人々を健康にしたいという思い

平田:だから私は、「パン屋を開きたい」というビジョンを持っていたわけではありません。今からそれをどうやって設定していったかを話していきたいんですが、ビジョンがあると本当に芯がぶれないと、一言で言えます。決断とか選択の時に、必ずビジョンを頭の中に浮かべて考える。そのフローを1つ持っておくと、すべてが円滑になるわけですよね。

まず、これは私のビジョンです。開業当初、どういうふうにしたいかなと考えると、「人々が心身ともに健康である社会へ」。今は遡って話しているので、これを言語化できていたわけではありません。

具体的に言うと、健康的なパンを焼いてみんなに食べていただきたいとか、健康的食品をセレクトして食べていただきたい。だから、自分の関わる人たちがみなさん健康でありますように、という事業内容ではあったんですが、当時こういうふうにパシッとした言語化はできていたわけではありませんでした。

これは販売ボリュームがある程度ないと、達成されない目標になります。だから「家族が健康であること」というのは、別に開業しなくても実践できますよね。毎日の食事を健康的なものにしたりとか、生活習慣を整えたりとか。そういうことで健康を促すことはできるんですが、お隣に住んでいる人には介入できない状況ですよね。

だけど小さなお店を開いたら、お隣の方が買い物に来て、自然にそれが馴染んでいくかもしれない。でもいち商店だと、隣の県の人はできないとか。そういう考え方を広げていって、「すべての人々が」というふうに思い浮かべると、「ある一定の規模感がないとこの目標は達成できない」と考えるようになりました。

なので事業を行っていく中で、少しずつ大きくしてくる。できる範囲でちょっとずつ影響力を強めたいという思いがあったので、今までこういうふうにやってこれたのがあります。

積み重なる疲労により、厨房で立ったまま寝たことも

平田:どんな時にビジョンが支えになるかというと、問題が起きた時こそビジョンが支えになってくるわけですよね。例えば、個人で言えば、「疲れた」。本当にこれ、単純な話なんですけど、仕事していると疲れるじゃないですか。

疲労を抱えないというのは、なかなか現実的にないと思うんですが、事業を自分で始めると、疲労もストレスもすごく大きくなってくるんですよね。あとは、前は(会社員時代は)お給料をもらえていたけど、今度は売上が上がらないと自分にお給料が出ないという、お金の問題も出てきます。

あとは「集客」「雇用」。求人したけど誰も応募してこない、または雇用した人があまり相性の合わない人でうまくいかないとか、自分を誰も知らないからお店に来てくれない。PRがうまくできていない状態ですよね。

こういう問題が起きた時に、「人々が健康である社会へ」というのは、じゃあ何を解決してくれるの? となりますが、実はこれが解決の手立てになっていくんですね。一見、「疲労」を「健康的である社会へ」が解決してくれるとは思えないんですけど。ここを解決させる考え方を言うと、問題が発生します。

1人でやっているから、長時間労働で身体の負担がすごくかさんできている。私の場合で、パン屋さんを1人でやっているんだけれども、生産量をたくさんにしたい。お客さまが来る分、みんな賄いたいからできるだけたくさん焼こうとすると、長時間労働で心身の負担がすごくなってくるんですよね。

疲れて本当に眠くて、オーブンでパンを焼いていて立ったまま寝ちゃったこともあるんですが、そのあと気絶しちゃったみたいで、パン屋の厨房床で寝ていて(笑)。家族に発見されて揺り起こされて、オーブンがチンと鳴って「あ、鳴った」と思って食パンを出したことがあるほど、本当に気付かないぐらい負担になってたんですね。

ビジョンの設定ミスが、負のサイクルを生んでしまう

平田:この時に選択が現れた。もしビジョンが「パン屋開業」と掲げていてたら、どうなったかなと考えると、結論は「がんばろう」「やむを得ないな」「パン屋はこうなんだから」。もしビジョンが「開業」という目的だったら、やるしかないという考え方になって、ここが負のサイクルになっていくわけですよね。

じゃあ、「健康的な社会へ」というビジョンを掲げられていたとしたら、「自分自身が健康を保てない働き方を改善しよう」というふうに考え方が変わっていくわけですよね。自分が最初に立てたビジョンに合っていないわけですから、自分の労働が問題を掲げていますよね。他人どころじゃない、という状況ですね。

だから考え方が上の場合、ビジョンが「パン屋開業」だったとしたら、「やむを得ない」「がんばろう」「パン屋はこうなんだから」と言ってまた元に戻って、「長時間労働で身体に負担がある」。そしてまた選択に来て、でもがんばろうと。

これ(が原因)で、飲食店とかが2~3年でだいたい閉じるんです。開業してから2~3年が、ほとんどの飲食店の営業のだいたいスパンなんですよね。近所のお店が入れ替わるのは、もしかしたらこれも要因の1つかもしれません。売上の低下もあるかもしれないんですが、おそらく「がんばろう、がんばろう、がんばろう」で、解決策を具体的に持てなかった結果なのかもしれないなと思っています。

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