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日本の社会問題に探る、サーキュラーエコノミー型ビジネス(全4記事)

汚水を浄化する食器用洗剤、捨てる貝殻から生まれた化粧品… 逆転の発想から生まれる、環境を良くするビジネスモデル

気候変動、環境汚染、不平等な富の分配、労働力の搾取、フードロス、廃棄物処理など、現在我々が引き起こしているさまざまな社会問題。本イベントでは、こうした社会問題に目を向け改善の糸口を探し続けてきた実践者である、田口一成氏・安居昭博氏が対談。本記事では、持続性を意味する「サスティナブル」よりも、再生を意味する「リジェネラティヴ」に注目する理由について語っています。

もの作りは、リサイクルを見越した素材選びから

安居昭博氏(以下、安居)先ほどの石坂産業さんのお話の中で、最終的にどういうふうにものが捨てられるかを考えて、もの作りをする必要があるという視点は、オランダやヨーロッパの事例にも通ずると思います。

複雑な素材があればあるほど、最終的にリユースやリサイクルがしにくくなるというお話は、ものづくりや建築分野において、できるだけ単一素材を使おうという流れが、オランダでもかなり生まれてきていまして。

例えば使われている建材が100パーセントアルミニウムなのか、それとも3パーセントでも鉛が入っているかって、その後の用途を考えたら、鉛は入ってないほうが良いわけです。ただ、3パーセントでも鉛が入っていると、少し黒光りして、意匠的に人気になりやすい。

ただそれでは、例えばリサイクルされたとしても、食品の分野では使えなくなってしまうんですね。なので先を考えた時には、むしろアルミニウム100パーセントのほうが、建材の価値を保つことができる。

あとは、本の中でも紹介させていただいた「MUD Jeans」というオランダのサーキュラージーンズは、販売じゃなくてリースをするビジネスモデルです。ただ一方で、一度利用者に渡った製品がまた企業に戻ってきたときに、製品に有害物質が使われてしまっていたらリサイクルしづらいですよね。

子どもでも簡単に分解できるスマートフォン「Fairphone」

安居:あとは、私がふだん持ち歩いている、オランダの企業の「Fairphone」というスマートフォン。

田口一成氏(以下、田口):これ、日本でも早く買えるようにしてほしいです……(笑)。

安居:そうですね(笑)。Fairphoneは、子どもでも簡単に分解できるような設計デザインになっています。特殊な工具とかを使わなくても分解できて、例えば中のカメラだけ交換したい時には、ネジを、1ヶ所、2ヶ所、3ヶ所と外せば良いだけ。

そして企業側にカメラパーツを返却すると、キャッシュバックが得られるんです。企業はパーツが戻ってきた時に、有害物質が使われていると困るし、1つの工具で直せたほうが良いですよね。それで、ネジが全部、規格統一されています。

あとはいろいろな面にネジがあると、それぞれ複数の工具が必要ですが、1つの面だと簡単に解体できるという。

田口:Fairphoneの話を聞いてから、ボーダレスグループで「ZERO PC」というリサイクルパソコンをやってるんですよ。「最終的にはFairphoneのパソコン版を作りたい」と言っています。

安居:田口さんの著書の中でも紹介されてたと思うんですが、「ZERO PC」ではFairphoneのように、独自のPCをこれから開発されていくんですか?

田口:今は回収したパソコンを修理、中のパーツのバージョンアップ、性能的に新品同様にしてもう1回売り出す、というかたちです。独自のPC開発はこれからですね。特にMacとかは、修理する設計になっていないので、けっこう修理が難しかったりするんですよね。

だから次のステップとしては、リユースはリユースでやるけれども、「エシカルパソコン」というコンセプトをかたちにした、プロダクトやパソコンを出すというイニシアチブを取りたいなと思います。

安居:ZERO PC、心の底からめちゃくちゃ応援しています。Fairphoneが世界中で22万台以上売れて品切れの状態になっていますけど、Fairphoneのやり方をコピーして日本でうまくいくかというと、それはちょっとわからないところがありますよね。

アイデアのコピペだけでは、ビジネスはうまくいかない

安居:私の本ではオランダの事例などをご紹介させていただきましたが、それはあくまでもアイデア。コピーアンドペーストだけしてもあまりうまく行かないので、自分がより良くしたい社会課題を、どのようにしてより良くできるかにそのアイデアを活かしていくのがいいんじゃないかなと思って。

またその際には、アムステルダムで活躍する人たちがよく使う、「Learning by doing(やりながら、学んでいく)」という言葉が大事だと思っています。100パーセント確かじゃなくても、社会をより良くしそうなら、それを自分たちで手探りでやっていく。

ZERO PCなど、ボーダレスの取り組みで共通していると思ったのが、社会課題からビジネスを作り上げながら学んでいく姿勢です。

オランダであれば、アムステルダム市のような行政がバックアップをして、ボーダレスであれば、田口さんや他の周りの方々がサポートするという。オランダで見られるサーキュラーエコノミーと、ボーダレス。田口さんをはじめとして、すごく近しいところがあるなというのは感じています。

田口:ありがとうございます。

サーキュラーエコノミーに欠かせない、行政の力

田口:アムステルダム市を見ても、やはり街単位でやっていくことの重要性を感じています。ちなみに、実はここ福岡市(会場:六本松蔦屋)は「ソーシャルビジネスシティ」らしいんですよ。そういった意味で、本の中でも書かれていますが、黒川温泉での公共コンポストみたいな仕掛けはおもしろいですよね。

安居:「IDEAS FOR GOOD」というWebマガジンの編集長の加藤佑さんとお話していた時に、サーキュラーエコノミーって「経済」ですけど、私たちの社会を考えたら、「サーキュラーソサエティ」が必要な側面もあるよねっていう話になったんです。エコノミーだけじゃなくて、社会全体、ソーシャルな面でのサーキュラー化が重要だと思うんです。

特にサーキュラーエコノミーだったり、先ほど出たゼロ・ウェイストを考える時には、廃棄物を扱ったりとか、どうしても行政の方々の力が必要になる。

そうすると民間・行政・市民がうまく手を取り合って進めていく必要が出てくるので、企業だけでのビジネスモデルとか、エコノミーで完結するのではなくて、ソサエティーやパブリックという面が欠かせないなとすごく感じますね。

なので今は黒川温泉での小さな仕組み作りを丁寧に進めていって、それを熊本県や鹿児島県だったり、中循環や大循環にしていきたいなと思っています。

やればやるほど世の中に好影響、「リジェネラティヴ・ビジネス」とは?

田口:やはり今、一般的に言われているのは、どんな経済活動であっても何かしら経済負荷をかけるということ。すると、なるべくものは買わないほうがいいということになる。それはもちろん真理だし、すごく大切なところなんですが、それは1つの前提だけれども、人間が関わることで逆に環境が良くなる部分もある。

田口:「リジェネラティヴ」というコンセプトを以前安居さんに教えてもらって、「おもしれぇ!」と思ったんですよ。まだまだ耳慣れない言葉だと思うので、今回、ぜひ教えていただけますか。

安居:(笑)。ありがとうございます。リジェネラティヴというのは、日本語で言うと「再生する」という意味なんです。それがなぜ注目をされているかというと、「サスティナブル」って、どちらかというと「持続する」という現状維持の意味合いが強いですよね。

ただ今、例えば気候変動、オゾン層の破壊、あとはマイクロプラスチックの問題だったり、この世界や社会がすでにマイナスの状態になっている。それを現状維持で次の世代に引き渡したとしても、それは次の世代にとってもマイナスの状態でしかないじゃないですか。

なので、現代にいる私たちに求められているのが、私たち一人ひとりの日々の生き方であったり、あとは企業のビジネスモデルも、活動すればするほど環境や社会にポジティブな影響を及ぼしていくことが求められています。それが「リジェネラティヴ・ビジネス」と言われているんです。

調べ物をすると植樹ができる検索エンジン「Ecosia」

安居:一例ですが、本でもご紹介させていただいたのは、僕がふだん使っている「Ecosia」という検索エンジンです。ドイツの企業が開発した検索エンジンなんですが、検索を使って調べものをすればするほど、アマゾンなどに木を植えていくことができる仕組みになっています。

Yahoo!とかGoogleなど、一般的な検索エンジンで発生する広告収入を、アマゾンなどで植林活動を行っているWWFなどに提供しているんです。そうすると、WWFはEcosiaから得られた資金で、もっと多くの木を植えていくことができる。

結果としてEcosiaを利用した人が、検索をすればするほど木を植えていくことができ、人間が環境にポジティブな影響を与えていく、リジェネラティヴな状態になっているんです。

僕はオランダでEcosiaを初めて知ったんですが、自分のこれまでの生活や生き方を振り返った時に、自然から一方的に享受してばかりで、僕は自然に還せていることがなかったなというのを、すごく反省したところがあって。

なので自分の生き方として、地球環境であったり、ポジティブな影響を与えられる活動が何かできないかなと思って。それで1つ行き着いたのが、黒川温泉のコンポストプロジェクトなんです。僕がパートナーとして組んでいる鴨志田純くんと、彼の師匠の橋本力男さんの堆肥技術を活用した取り組みです。

地域の悩みの種であった生ゴミや落ち葉を、農家さんが活用できる完熟堆肥にすることは、環境にとってポジティブな取り組みになるんじゃないかと始めました。

「生ゴミ」を使って、ポジティブなインパクトを与えたい

田口:実は生ゴミも大半が水分で燃えにくいので、助燃剤を入れてるんですよね。燃やすために相当な税金を使っている。僕は1年以上、家庭ごみを出していないです。コンポストにやっている。あとはボーダレスのメンバーは、だいたいEcosiaです。

安居:素晴らしい(笑)。

田口:あと、ある食器用洗剤を使うと、微生物が洗浄後に汚水を分解してくれるそうです。洗剤を流すことで逆に浄化するという話を聞いて、まさにリジェネラティヴだなと。

安居:発想の転換だと思うんですよね。「生ゴミ」と聞いてワクワクする人、あまりいないと思うんですよ。僕を除いて(笑)。

田口:(笑)。

安居:生ゴミだとか洗剤だとか、ネガティブに捉えられがちなツールに、どうしたらポジティブなインパクトを与えられるか。イノベーションが起こるきっかけの1つが、分野を超えた領域で物事を考えた時だと思うんです。旅館が30軒ある黒川温泉でも、食品ロスなどの生ごみは悩みの種だったんですよ。

けどそれが、農業の分野の完熟堆肥技術と結びついた時に、宝のような資材になったところがあるので。ある分野の悩みの種になってしまっているものを、別の分野の方々とお話した時に、実はものすごく価値があるものだったということが起こりうる。

(他にも)例えば日本らしいなと思った取り組みで、とある漁協組合が悩みの種として抱えていたホタテとかの貝殻を、日本の大手化粧品メーカーが活用してコスメを開発したという話を聞いたことがあります。

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