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社長の仕事は社員を信じ切ること。それだけ。(全6記事)

親子で働く社員が15組、「3回目の入社」を果たした社員も? 「管理強化では人は幸せにならない」宮田運輸の経営モットー

「社員は評価し、管理する対象ではない」と言い切り、生産性至上主義を手放してもなお成長を続け、「奇跡の運送会社」と呼ばれる宮田運輸。代表取締役社長である宮田博文氏をゲストに迎え、組織において「コントロールを手放すこと」をテーマに、進化型組織の第一人者の武井浩三氏と、手放す経営ラボラトリー所長の坂東孝浩氏が対談。本記事では、宮田運輸が採用において「人を選ばない」と語る理由を明かしました。

トラック事故が大きな転機に

宮田博文氏(以下、宮田):やっぱり(会社が変われた)きっかけは死亡事故で、「なんとか亡くなられた命に対して報いたい」という気持ちでした。運送会社にとって死亡事故って、どっちかといったら「隠したい」というふうになるんですが、それをどう社会と共有して、未来を作っていくか。

「(トラックを)なくすよりも活かす」と考えた時に、道が拓けていった。それもやっぱり、人とのつながりの中でですね。1人で悶々と考えても拓けなかったんですが、人の優しさに触れた時に、いろんなアイデアも生まれてきました。

起こってしまったことは本当に悲しくて、二度とあってはいけないという決意で、今もやらせていただいてます。でもそれを招いたのは、やっぱり経営者、リーダーとしてのトップの心。よく考えてみると不安や恐れだったんですね。

社長になった瞬間に「会社を潰したらあかん」「社員を路頭に迷わせちゃいけない」「経営者として認められたい」とか。けっこう数字の会議をガンガンやっても、iPadを放ったりとか……(笑)。

坂東孝浩氏(以下、坂東):やってたんですね(笑)。

宮田:やってたんですよね。「やっぱりそれが従業員を守ることや」って、けっこう厳しくやってましたが、それで悲しい事故を起こしてしまったので。

従業員は、生産性では測れない「命」である

宮田:自分に向き合う、真実に向き合う勇気をいただいて、「何を本当に大切にせなあかんのか」と考えた時に、従業員が「命」に見えた瞬間がありまして。

従業員は、生産性とか効率とか、そういったもので測れるものじゃないと。「命」と捉えた場合に、判断基準が定まりますので。何が起こっても、今日1日無事やったら良かったやんと、祈るような気持ちになりますし。

「心で(経営を)しよう」と思ったので、不安や恐れじゃなくて希望で行こうと。志や理想や夢や愛を、思いっきり語っていこう。思いっきり、自分の心でやりたいと。経営の常識とか、「こうしなくちゃならない」「会社が大きくならないよ」というのは、もういい。まずは今の自分の心の状態を見ていこうと。

悲しいとかうれしいとか、怒りもすべて、自分の心をベースに経営したいなと。心でやるからこそ、心で返ってくるんじゃないかと思ってやらせていただいてます。それが合ってるかどうかはわかりません。でも、それを信じてやらせていただいてるのが現状です。ちょっと早口ですいません。以上です。

坂東:ありがとうございます。

武井浩三氏(以下、武井):ありがとうございました。

坂東:また聞き惚れた(笑)。

武井:何回でも聞けますね(笑)。「本当にそのとおりだな」しか出てこないですね。

宮田:(笑)。

何度退職しても、何度再就職しても構わない

坂東:「社員を信じ切るだけ」と本にも書かれてますが、「そういう自分を信じる」ってことなのかなとも思ったんですけどね。

宮田:そうですね。覚悟と決意と言いますか、それは自分ができることですから、「それで行こう」って思って。やっぱり生きる・死ぬっていう判断基準というか、明日生きてるなんてわかんないわけですから。それは従業員も一緒で。

だから、従業員が「命」に見えるっていうことでいくと、本当に存在してるだけでありがたいっていう。僕らいろいろ……ちょっと言えない話もいっぱいありますけども(笑)。

(一同笑)

2時間ぐらいかけて出社してきた子を、1年間ずっとみんなで暖かく見守って、とかね。普通やったら、生産性とかを考えると「早く一人前にせぇ」とかあると思うんですが、そういうことじゃなくてね。本当に来ただけで喜ぶ、っていうのとか。この間、11月に入った女の子もいろんな事情があって、5月に3回目の入社なんですね。

坂東:3回目の入社ですか(笑)。

宮田:別にうちは辞めるのはぜんぜん止めないし、でも帰ってくるのもウェルカムですね。

坂東:へぇー!

宮田:だから、居場所って言いますかね。事例はいっぱいあります。

坂東:2回辞めたけどもう1回。帰ってきた時に受け入れるよ、と。

宮田:11月に入って、5月で3回目の入社。だから、1回辞めて帰ってくるのもいっぱいいますし。今、親子で働いてくれてる方が15組ありますね。

坂東:15組!?

武井:すごい。

宮田:だから本当に、成果を生み続けないと(会社に)いられないってことじゃなくて、存在だけでいいんだって思えたら、人の力を発揮するんじゃないかなって信じています。

「管理強化では、人は幸せにならない」

坂東:さっき冒頭でも言っていた、「優しい心」を思う存分発揮してくれれば、会社の経営は成り立つ、という感じなんですかね。

宮田:僕は成り立つと思ってますよ。管理強化では人は幸せにならないと思ってますから。ドライバーってやっぱり(外に)出ていくから、接してる時間はめちゃくちゃ少ないわけですよ。朝と夕方にちょっとあいさつするぐらいとかですね。

だから、何で信頼関係が結ばれるかっていうと、やっぱり心と心……って言うと、ちょっとふわっとした感じやけども。でも、それしかないので。「あいつ大丈夫かな、ちゃんと働いてるかな」「ちゃんとやってるかな」じゃなくて、「あいつは大丈夫」ってみんなで思えるような、そんな会社、社会にしていきたいなと思います。

それで、失敗してもええやんと。「失敗をさせないために」じゃなくて……当然、事故はダメですよ。事故はダメやけども、そういうふうに思って。リスクを避けよう、避けようっていう……もちろんコンプライアンスも大事で、これ、動画(の生配信)やから非常にアレなんですが(笑)。

(一同笑)

3人の採用枠に、100人から応募が

宮田:でも、もっと大切に向き合わなあかんものが、僕たちはあるんじゃないかと。仕事に対してとか、会社経営の目的ですよね。

坂東:会社経営の目的ね。

宮田:僕たちは、会社を続けるために人を雇ったり育てる、ってことじゃないと思ってますから。

坂東:それですよね。けっこう衝撃を受けたんですが、「会社を存続させるために人を育てる」じゃない。

宮田:そうじゃないですよ。「人が育つ会社を作る」というか、人の人間的な成長とか、そういった目的で会社があるわけですから。だから「人を選ぶな」って言ってるわけですね。選ばれる会社になるのが大事なので。過去ですが、3人のドライバー募集に100人来たりもありましたし。

能力で選ぶんじゃなくて、時間軸も温度差も違うけども、少しずつ私たちと仕事を一緒にやる中で、生きる目的が少しずつ高まっていったりとか。「幸せ感」にやっぱり重点を置きたいですよね。だから新卒とかで人を選んで、良い人材を採用するっていう概念はないですね。

「良い人を採る」のではなく、仕事を通じて育てていく

坂東:めっちゃ応募倍率が高かったら、「その中で良い人を採りたい」って、そのほうが良さそうな感じがするんですが。

宮田:でも、それはもう「選ぶな」と。

坂東:入口で選ぶんじゃなくて、どんな人が入ってきても「人が育つ会社」であれば大丈夫じゃないかと。そういうことですか?

宮田:それが目的ですから。「能力がない」「お前大丈夫?」と言われるような人たちを受け入れて、仕事をしながら人間的成長を育んでいくことが目的です。

坂東:それが目的なんですね。

宮田:これが僕たちの経営の目的ですよ。だから、僕らも含めて算数ができへん連中が、部門別管理で整合性を取りながら、集まって勉強というか。数字もプロセスも全部みんなで(決める)。でも今は、リアルタイムで日々収支とかができたり。

「数字が(目標に)行ってないからあかん」と詰めることは、絶対にないですね。昨日も一昨日も会議やってましたが、数字を「人間的成長につなげるツール」として思ってます。

宮田:人間にとって、空気って大事やけど、空気がなかったらあかんでしょう。

坂東:あかんですね。

宮田:経営も数字が大事で、売上利益が大事。でも「空気を吸うために生きてるやつがおるか?」っていう。

坂東:(笑)。

「会社」ではなく「社会」を作っていきたい

宮田:でも経営の目的は、どっちかといったら売上利益を上げることが目的になっていて。ちょっときれいごとを言ってベクトル合わせていく方法は、僕は違うんじゃないかと思います。会社が潰れて困るのは経営者ですから。運送会社は今、日本に62,000社ありますからね。うちがもし潰れても、路頭に迷わないわけですよ。

坂東:迷わないんですね(笑)。

宮田:迷わない。でもそれを「迷わしたらあかん」と必死になって、従業員の前で言って。

坂東:「雇用を守らなきゃ」って。

宮田:そうそう。言うてるけど「困るのは経営者や」っていうかね(笑)。そういうのはもう、見透かされてるんじゃないかということですね。だから僕はこの悲しい事故で、「自社の」という枠組みを、ある意味では手放すというか。

坂東:「自社」という枠組みを手放してる。確かに、ちょいちょいそういうお話が出てきて。そういう社会を作っていきたいんだ、会社じゃなくて社会を作っていきたいんだ、とか。先ほども「会社のことを会社の中だけで考える時代じゃない」とか、(自分の)会社のことをあんまりしゃべってない。

宮田:絶対にないですね。

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