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悩める20代、30代に届けたい。人生に行き詰まったらゲームをしよう(全9記事)

他人に合わせることで衝突を防ぐ、「NO」と言えない人々 「自分とは違う」から始まる、信頼関係の築き方

『NOを言える人になる』刊行記念として、本屋B&Bで開催されたイベント「悩める20代、30代に届けたい。人生に行き詰まったらゲームをしよう」。著者である内科医/心療内科医の鈴木裕介氏と、『サガ フロンティア』『ファイナルファンタジーXII』などの制作に参加した、ゲームデザイナー/シナリオライターの生田美和氏が対談。本記事では、「NO」と言えない人を生み出す、支配・被支配の人間関係の構造を解説しています。

人間関係で大切なのは、相手との「違い」を認めること

鈴木裕介氏(以下、鈴木):思うんですが、「フェアな関係」を作ることが、人間関係として一番安心できるものであることに気付くまでに、たぶん30年くらいかかるんじゃないかとも思っていて。

生田美和氏(以下、生田):ええ(笑)。

鈴木:支配・被支配の関係で、「常にこう動けば、相手から予想どおりの反応が出る」ということが、安心できる人間関係だと勘違いしている方もすごく多い。得てしてそういう方の背景には、支配的な家族関係があったりする。フェアなやり取りをする前提として、そもそも「違う」ということを受け止めないといけないんですが。

生田:そうですね。

鈴木:「違う」ことにショックを受けてしまう段階があると思うので、「私はあなたと違うんですね」ということを受け入れられるところに行くまでに、ある程度自分のアイデンティティの問題が解決している必要があるのかなと。

本当の意味でフェアな関係が作れるのは、やはり青年期以降というか。自分が社会においてどういう立ち位置でどういう者であるか、ある程度決着が付くことで、他者との関係が支配・被支配とか上下の関係にならずに(済む)。僕も、「合わない」と思ってからが本当の人間関係だと思っているので、すごく共感をするんですが。

「合わない」ということを前提とした、お互いにとってより納得感のあるすり合わせをしていくことって、けっこう骨が折れることでもありますし。まさにそれって、相手への信頼がないとたぶんできないことかなと思う。

生田:そうですね。

「支配・被支配」ではない人間関係を

生田:ある種の諦めが薄っすらと漂っていて、いろんな人が「信頼」というところじゃなくて、「迷惑がかかる」「ここまで言っちゃだめだ」とか、引っ込ませることにすごく慣れてしまって。

鈴木:そうです。こっちが常に相手側にチューニングを合わせることで、少なくともこの場での摩擦を回避するという感じ。

生田:摩擦を恐れているし、その先にある衝突みたいなものはもってのほか、みたいなところがあって。そういうふうになってしまう原因は、お家にあったりするんでしょうけど、ある種生きやすさというのは、そこ(相手側にチューニングすること)なんじゃないかという思い込みもやはりあるんでしょうね。

鈴木:そうですね。

生田:求められているものに答えていく。

鈴木:まさに、アセルス編のオルロワージュで、寵姫って愛人が99人いて。

生田:(笑)。

鈴木:寵姫が若いまま冷凍保存されていて、いつでも呼び出せるという世界ですけど、まさに何でも思い通りになる支配の関係が何百年も続いている。めちゃめちゃ退屈そうですよね。

生田:そのへんはもう、遊んでくださった方々のオルロワージュさま像があると思うので、どうかなというのはお任せなんですけど。

鈴木:そうですね。僕はそういうふうに見えました。

生田:完全に自分が支配する人間関係を持ってしまうと、一時は達成感や満足感はあっても、やはり飽きてしまうのが人間なので。パワーバランスが揺らがないようなものに関して言えば、退屈になってしまうこともあるかなと。

鈴木:支配・被支配の関係じゃなく、フェアであることを維持しながら、でもお互いの影響を受けながらゆるやかに変わっていくというのは、一番豊かな人間関係だと思います。

生田:そうですね。

エンディングが1つじゃない、『サガフロ』アセルス編

鈴木:そもそも、不完全な人同士がいい関係を作っていく大きなポイントは、そういうところにあるなというので、アセルス編って3つエンディングがあって(笑)。

生田:そうですね(笑)。

鈴木:オルロワージュのような支配者になるエンドと、人間に戻るエンド。

生田:半妖のまま。

鈴木:妖魔とのハーフで、「私は人間でも妖魔でもないけど、そんな私が好き」という、一番痺れるルートがあって。どのエンドが一番痺れるか、他の人はいろいろあると思うんですけど。まさに自己受容というか、ストーリーの中でアセルスという人のアイデンティティが、あそこで確立している。

いわゆる“半妖エンド”という、種族としてのアイデンティティはよくわからないけど、「そういう自分が好きだ」と受け入れて世界に身を立てることで、まさにアセルスという存在のアイデンティティの問題が解決する。こういう過程を踏んだ人は、やはりいろんな人と対等でいい関係を作れるのかなと思うんですよね。実際のエンディングでも、そういう描写がある。

生田:自分がどういう存在であるのかを、周りの人に聞いていくのではなくて、自分で納得がいくとか、腑に落ちる。「これが私なんだ」というものが見つかると、相手との距離や、やり取りとができていくのかなと。それがないままだと、「あなたはこのチームの中でリーダーだから」とか、役割での自分しか出せなくなってしまう。

鈴木:その場で欲しがっている自分を、出したり引っ込めたりするような感じで。

生田:そうですね。

嫌なことに対して「NO」と言えるようになるために

鈴木:この本(『NOを言える人になる』)の冒頭で書いていた、ものすごく成績や業績もいい人の自己肯定感が、実はあまり高くないことがすごく多いのって、まさにそういうところなのかなと思うんですね。引っ込めてしまうというか、どこかでそれが支配・被支配が関わっているのかもしれないし。

それこそ「NO」が言えないという根本的には、「恐れ」の問題もある。「人は人、私は私」というアイデンティティが確立していなくて、自分が折れることでとりあえず摩擦を防いでやっていく。

生田:そうですね。

鈴木:でもよくよく見てみると、幼少期からそういう役回りを負っていることが多いんです。なのでそういう方に対して、もちろんこの本とかもいいんですが、今日の話を聞いていると、生田さんのゲームをやったほうがよっぽどいいんじゃないかという気がしていますね。

生田:(笑)。でも、先生がおっしゃっている「自分のルールで生きる」。相手から求められている「こういうものが幸せである」というものを1回解除できたとして、それがいきなりキラキラした目標や夢にはならないので。

まずは「心地よいか・不快か」で分けてみましょう、不快なものに関しては「NO」「嫌だ」と言えるようになっていきましょう、ということで、少しずつ階段を上がっていって自分を掴み直すのは、すごく具体的な道標だなと思って。そこは本を読んですごく(思いました)。

鈴木:ありがとうございます(笑)。

生田:「あぁ、なるほど」と。

自分の「素」を出せないのは、関係性が壊れるのが怖いから

鈴木:自分の快・不快を表現するとか、自分の感覚で「これでいいんだ」とやっていくためには、やはり「確かな人間関係」があったほうがいいなと思っていて。誘導的ではない、その人が素を出せるような。本当の快・不快を出しても関係が終わらない、「この関係性が崩れない」という安心の保障がないと、おっかなくて出せないと思うんですね。

特に「リアルワールドがおっかない」と思っている人は、もっとそうだと思うんです。もちろんリアルの医療や心理の専門職や周囲にいる人とかが、そういうコミュニケーションの対象になることもあり得るけど。

そうじゃない多様な世界、人の在り方・人生の在り方が許容されるという、非常に現代的なゲームの世界が体現されるとしたら、そこにもすごくチャンスがあるよなと感じています。

うちの病院は「コンテンツ処方箋」といって、おすすめのコンテンツとかを紙に書いて、「これよかったら読んでみて」と渡したりしているんですが、そういうのが増えそうだなと。今日のお話を聞いちゃうと、なかなか目が話せないなという感じがします(笑)。プレッシャーをかける感じではないんですが、すごく楽しみだと思います。

生田:ゲームにできることはまだいろいろあると思うので、そこは作り手も自覚もしてきていますし、ゲームを好きな人には通りやすいという、やっと開発の環境も整ってきたので。

鈴木:テクノロジーがあると、より繊細に世界を描けるということですよね。

生田:そうですね。

鈴木:そうなると、もうすごく期待値が上がります。でも開発コストも上がりますね(笑)。

生田:はい(笑)。

ゲームは「自己表現のツール」でもある

生田:こういう言い方が合っているかどうかわからないんですが、ゲームって遊び道具であり、自己表現のツールだと思っていて。例えば私はゲームを通じて、桜前線が上がっていくのをみんなに写真を撮ってもらって送ってもらって、リモートで桜を見ることができたりとか。

今の時期にどれぐらいの雨が降っていて、「これはいずれこっちのほうに雨雲が来るな」というのを西から東へとか、そういうなんでもないことを人と安心して話して、触れ合える場所が、ゲームというツールとして使った時に得やすいというのがあって。そこは垣根を取りやすい。

鈴木:そうですね。そこの温度感がちょうどいいというところに安心があって。これが維持されていると、どこかのタイミングで安心のレベルがもう1段階深くなって、「ここまで言ってもまだ大丈夫」というふうに展開していくかもしれない。これはリアルでもまったく変わらないことだと思いますね。

生田:そうですね。

鈴木:おもしろいな(笑)。

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