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悩める20代、30代に届けたい。人生に行き詰まったらゲームをしよう(全9記事)

“恋愛で人生が逆転するストーリー”は絶対に作りたくなかった 女性同士の「友情」を描いた、『サガフロ』の先見性

『NOを言える人になる』刊行記念として、本屋B&Bで開催されたイベント「悩める20代、30代に届けたい。人生に行き詰まったらゲームをしよう」。著者である内科医/心療内科医の鈴木裕介氏と、『サガ フロンティア』『ファイナルファンタジーXII』などの制作に参加した、ゲームデザイナー/シナリオライターの生田美和氏が対談。本記事では、「恋愛要素をゴールにしたくない」という信念のもとにゲームを制作する生田氏と、そんなゲームが現代人にもたらす「ヒント」について、鈴木氏が解説しました。

生田氏がゲーム会社に入社した理由

鈴木裕介氏(以下、鈴木):『サガ』シリーズ自体が、ベストセラーではあるけど、カルト的な人気があるというか。世界観がドンピシャな一部の人が死ぬほどハマる、みたいな。

生田美和氏(以下、生田):そうです。私は『サガ』シリーズが大好きで、当時のスクウェア(ゲーム会社)さんを受けたので。

鈴木:そうなんですね。

生田:なんとしても『ロマンシング サ・ガ』を作ってる人たちを見たい。「入りたい」ではなくて「見たい」だったんです。たまたま呼ばれたので、入ってしまったんですけど。

鈴木:その時から通底されてらっしゃるなと思うのが、今まであんまり光が当たらない人たちに対して、なにか救いになるような視点だったりをすごく感じるんですよね。いわゆる百合的な世界観みたいなのも、僕はまったく知らないで見てるので。あれは百合なんですか?

生田:百合とは言ってないんですが、私の考え方なので、それがアセルス編の正解とは思わないでいただきたいんですけども……。

鈴木:本当に愛情がありますよね。

生田:開発者の手を離れたら、それはもう全部、遊んでくださったプレイヤーさんのみなさんの胸の中にあるものが正解なので。

「恋愛」ではなく「友愛」を描きたかった

生田:ただ、私自身が作ろうとしてたのは、恋愛要素をゴールにしたくない。「恋が実った」とか「素敵な異性が現れた」ということで人生が逆転することは、私自身の価値観ですけど「絶対にないな」と思っていて。

鈴木:(笑)。

生田:大事なのは友情だと思ってるんですよね。契約も発生しないし義務もない、同じクラスになったとか同じ習いごとをしてたとか、人生のどこかで重なった時に、支えあう仲間がいるっていうのは、本当に大事なものだと思っていて。「それを描くとしたら」という描き方です。男女でやってしまうと、友情ではなく恋愛だと誤解を受けてしまうだろうと(笑)。

女性同士であれば、「あなただから」というところに、恋の見返りや愛の成就を期待しない。かといって、無償の愛でもない。「大事な人だから助ける」とか、助け合うっていうものが、対等なものとして描けるんじゃないかなって。(『サガ フロンティア』の)アセルス編に限らずなんですが、恋愛よりはとにかく友情・友愛を描く。

鈴木:「友愛」ですね。濃いですよね。

生田:そこは自分が子どもの頃からのテーマで、育ってきた時代的なものもあるのかなって。結婚がゴールだったり、女性はまだ自分で運命を切り拓けないような時代だったので。

鈴木:もう(結婚)相手が決められてたり、とかですよね。

生田:そうですね。「結婚しちゃうんだから、進学はまぁこの程度で」「習いごとはこの程度で」と言われるような延長で生きてきたのに、いざ社会に出る時は「働いてくれ」っていう(笑)。そういうのもあって、恋愛を“ご褒美”みたいには取り扱わない。それはいろんな問題の中の1つでしかなくて、たぶん癒しではない。

鈴木:シスターフッドというか。

王道展開を覆した、“女性が女性を助ける”物語

生田:女性同士が助け合うというところに、男性が入ってきてしまうと、どうしても支配下になってしまう。

鈴木:なるほど、めちゃくちゃおもしろい。支配・被支配ではない関係性というところに、癒しがある。

生田:そうですね。なのでオルロワージュさま(『サガ フロンティア』の登場人物)は……。

鈴木:帝王ですよね。

生田:それ(友愛)を対比としてしっかり見せるために、あれだけの寵姫を抱えてるっていう。本当に対比で見せるためのものですね。

鈴木:だから主人公の女性がつらい時に助けにくるのが、よりか弱い白薔薇姫という女の子だっていうのは、王子さまが助けにくる王道ストーリーではないものの本当に先駆け(笑)。

生田:(笑)。

鈴木:たぶんその20何年後に、『アナと雪の女王』とかがようやく、王子さまに助けてもらわないやつ(ストーリー)になってきた。

生田:でもたぶん、当時もそういうふうに作りたい方はいたでしょうし、ゲーム以外でも実際に作られていた方もいると思うんですね。ただやっぱり、周りの理解とか巡り合わせで、できる・できないがあるので。

鈴木:上司の理解とかですよね(笑)。

生田:思いついてる人はたくさんいたし、たぶん発表されたものもたくさんあって。『サガ』という舞台の中でやらせていただけたことが、みなさまの心に届きやすいかたちで、今も繰り返し思い出してもらえるという、とても幸せなかたちになったんだろうなと思います。

すべての登場人物が「主人公」である

鈴木:単純化させないし、複雑なものを複雑な粒度のままでって、すごく大事なことだと思うんです。『サガ フロンティア』がもう20年前で、いま現在の創作のスタンスっていうのは、生田さんの目からはどういうふうに変わってきたのかなって。生田さん、社会の問題についてはすごくリサーチをされるって、打ち合わせでお聞きして(笑)。

生田:私はゼロからプロジェクトを立てるところに呼ばれることが多くて。

鈴木:世界観を作るってことですよね。

生田:そうですね。一人用っていうよりは、ちょっとネット要素があったりするもので、今は特にソーシャルゲームのお仕事が多いんですが。

そうなった時に、アセルスだったらアセルスという一人の主人公をみんながやるのではなくて、自分のキャラクターをメイキングして、髪型や身長やジョブとかを自分で選んで、自分の分身としてその世界に入るという、MMORPGのかたちがわりと多いので。

そうなった時に、「主人公一人を描けばいい」という物語ではなくなってくるんですよね。すべての登場人物が主人公である、プレイヤーさん一人ひとりが主人公になるようなかたちってなると、組織があって、組織の一員として活躍していく・成長していく物語を求められることがとても多いので。

それはまさに今、社会に出て働いてる人たちだったり、学校の中での自分の立ち位置に悩んだり、疲れたりしてる人たちとすごく親和性が高いというか。

鈴木:人物としての共感っていうレベルじゃなくて、実際に人がいっぱいいるところで起こりうるつらさとかも映し出して、(ゲームの)世界に入れていくっていうことなんですよね。

生田:舞台設定というか、社会をそのまま持ってくるようなところがあるので。歯車として描かれる主人公たち一人ひとりなんだけど、それでもその人がいるから助かってるものとか、その人がいることで風向きが変わるものを大事に拾い上げていく。

いきなり「世界を導く勇者です」みたいなものではなく、よくいる一人の人。冒険者だったり、ある組織の一人だったりというところを、大事に描き出すところがあって。たぶんそこはまだ、しばらく追求していかなきゃいけないところだと思ってます。

キャラクターを、あえて「完璧」には描かない理由

鈴木:まさに「勇者」とか、王道のヒーローにはなかなかなりにくいけど、たぶん現代の大多数の方が「どう生きようかな」っていう。とはいえ生きていかないといけないし、死ぬのもめんどいしなって。

そんなところに、そこに関わる人ごとのストーリーがあることを写し取って、それを全うさせる世界観を描かれているということに、現代的な生きづらさに対する多大なヒントがあるように感じて、いち臨床家としてすごく希望に感じているんですね。

そういう世界観をどういうふうに作ってらっしゃるのかを、もうちょっとお聞きしたいなと思うんですが、なんで世界観を作れるんですか?(笑)。普通、世界観って作れないと思うんですけど。

生田:(笑)。世界観の軸になるのは、ゲームのシステムだったりはするんですが、そこに何をまとわせるかで大事に思ってるのが「組織」です。社会であるというところを、大事に思っていて。

プレイヤーさん一人ひとりが主役としているんだけれども、特殊能力があってというよりは、本当に一人の人間として描ききるために、ゲームの中に用意する主要キャラクターたちも、なるべく人間味を持たせる。完璧な人っていうよりは、ちょっと問題を抱えさせるというか。

「実際にこういう人いるな」と思うようなラインでまとめていくことで、ゲームの中でイベントシーンとかを見た時に「あっ、こういうことある」って思う。この人はお金が重要、この人は建前が重要、自分の見せ方が重要、とか。この人は本当に実を取る人で、困ってる人のところに駆けつけたい人……とか、いろんな価値観がせめぎ合うように作る。

「何が幸せか」よりも「自分はどうあると楽か」を考える

生田:一人の主人公しか描けなかった王道の物語の中だと、倒すべき敵と自分たち主人公側とで、ある意味答えを一つに絞っていかなきゃいけないところがあるんですよね。

でもMMORPGになった時に、決してそうではない描き方をしていいよ、いろんなキャラクターがいたほうがありがたい、というかたちになって。ジャッジしない・相手の生き方に優劣をつけないというかたちで、なるべく描くようにしてます。

鈴木:すごく社会心理学的というか(笑)、生き方をジャッジしないことって、実際の世界でやろうと思ったら、けっこう難しいことですよね。

生田:そうですね。2人の人がいれば、どうしても「どっちが若い」「どっちがきれい」「どっちが稼いでる」っていうのを、口にしなくてもつい当人同士も思ってしまうところがあると思うんですけど。それって人の価値観で、先生のご本にもたくさん……(笑)。

鈴木:ありがとうございます(笑)。

生田:他人のルールや、社会で信じられてる「いい学校に入って」「いい会社に入って」とかが幸せだって思い込んじゃうと、それが果たせなかった時に苦しくなったり、果たせたとしてもそれに対して「果たせたはずなのに……」みたいな。なかなか自分の幸せを感じにくいところがあって。

たぶんそこは、社会で言われてるような「これが幸せのかたちである」というのは置いといて、自分は本当は何が好きなんだろうとか、どうあると楽なんだろう、ということに素直になることだと思うんですよね。

鈴木:実社会ではジャッジされまくるわけじゃないですか。例えば人間の生き方や豊かさって、本当はそういうものだけでは決まらないし。口ではそう言っていても、実はそう思ってない人とかが多い中で、やっぱり口先だけではなく、そういう世界観が全うされるように作られているところに癒しを感じるのは、本当にそうなんだろうなって強く感じます。

日常の“人間観察”から生まれるシナリオ

鈴木:でも、それぞれのストーリーがあるってなった時に、シナリオの書き方とかインプットの仕方であるとか、めちゃめちゃ大変じゃないですか?(笑)。

生田:たぶんそこは相性なのかもしれないんですが、私自身がゲーマーなので、プレイ日誌みたいなものをずっと書いてたんですね。『PSO(ファンタシースターオンライン)』の時にずっとプレイ日誌をつけてて、それを読んだ人がまた遊びに来てくれるようになって。ギルドではないんですけど、どんどん仲間が増えていって。

鈴木:コミュニティみたいなものが、ってことですよね。

生田:人を観察していて「楽しいな」と思ったり、「こういうピンチがあって、みんなでこんなわちゃわちゃドタバタしてる」というのを書き出すのが好きで。自分ではなく、全部相手のことで(笑)。観察する対象が増えれば増えるほど、シナリオが横に広がっていくっていう。

そこをやるのがもともと好きだったので、たぶん今の王道の「一人の主人公で書けばいい」というのとは違う流れになった時に、すごく水を得たというか(笑)。やりやすいところはあるのかなと思います。

鈴木:なるほど、むしろそっちのほうが(やりやすい)。

生田:そうですね。

鈴木:ある意味「優しい世界観」……という言い方がちょっと正しいかどうかはわからないんですけども。バーチャルでもあるし、リアルの対人関係や親密さに恐怖を感じてる人にとって、たぶんベストな温度感の優しさというか。居心地の良さがそこに展開されているとするならば、それはまさにゲームならではの癒しだなと思います。

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