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人生100年時代を勝ち抜く人材の育成術(全5記事)

ボーナスを弾むと、人間の“問題解決能力”は著しく低下 「がんばっている人」が「夢中になっている人」には勝てない理由

「組織・人事」分野のSaaSを中心としたサービスとの最適な出会いを実現する、展示会イベント「BOXIL EXPO 第2回 人事総合展」がオンラインで開催。 各業界の著名人によるトークセッションや、サービス説明セミナーが行われました。「人生100年時代を勝ち抜く人材の育成術」をテーマに、独立研究者/著作家/パブリックスピーカーの山口周氏が登壇。本記事では、「夢中」と「がんばる」の違いから、リモートワークで自分の仕事に夢中になれない人に向けて、山口周氏が言及しています。 ### 1つ前の記事はこちら ### 続きの記事はこちら

リモートワークによって“監視が効かない世の中”に

山口周氏:次に「夢中になる」と「がんばる」の話をしたいと思います。

これは“遠心力の時代”ということですね。今はもう、基本的に会社に行かない時代が来ています。Appleが「また会社(通勤)に戻す」ということを発表して、社員からも総スカンを食っているような状況になっていますが。

マッキンゼーの予測どおりに、この先リモートワークが常態化した世界が続くんだとすると、かなり遠心力が強まっていくと思うんですね。会社や同僚や仕事に対する愛着とか、ロイヤリティーが薄まっていって、どんどん外側に向けて動いていく時代ですね。

こういった時代において、モチベーションが競争優位の源泉になってくると思います。今風の言葉で言うとエンゲージメントですね。自分はこの仕事が好きだから、一生懸命やっちゃう。つまり、監視ができない世の中になっているわけですよ。

今までだったら、会社に行けば上司も同僚もいる。そういう中でも、ある程度仕事を一生懸命やっちゃったほうが、サボるよりもむしろ楽ですよね。ところが今、監視がまったく効かない世の中になって、エンゲージメントをどう保つのか。

報酬を弾むと、人間の「問題解決能力」は著しく低下

1つの考え方として、信賞必罰というものがあります。「ボーナスや金をはずむんだよ」という考え方ですが、結論から言うと(これは)うまくいかない。

「ろうそくに火をつけて、壁に火が灯っている状態にしてください。さあ、どうやりますか?」という、「ろうそく問題」という問題ですが、(平均)6〜7分でこの答えに気づきます。トレイから全部画鋲を出しちゃえばいいんですね。

これを、報酬がどれくらい効くかの実験で使った方がいらっしゃるんです。A・Bの2つのグループを作ります。Aのグループはただ単に問題を解いてもらい、Bのグループは、Aのグループができた時間の平均より早かった方には等しく5ドル差し上げて、一番早かった方には20ドル差し上げます。

これをやったところ、報酬を約束していないAのグループは、毎回6〜7分と(平均と)同じです。当たり前ですが、条件は同じですから。一方で、報酬を約束されたBのグループがどうなったかと言うと、3分から4分(回答までの時間が)遅くなることがわかっています。早くならないんですね。効果がないわけでもなく、むしろ遅くなるんです。

6〜7分で解いていたのが、10〜11分かかるようになるということですから、相当生産性が下がるんです。これが、約束された報酬が促す影響ということでよく知られています。実験の種類は他にもいろいろあるんですが、総じてわかっているのは、実は予告された報酬は、人間の創造的な問題解決の能力を著しく破壊するということです。

ですからイノベーションの文脈では、しばしばリソースが優位な立場が惨敗することが起きます。これは検索エンジン・電子商店街・動力飛行・南極点到達レースと、いろんな時代を変えて持ってきましたが、勝者と敗者の競争の構図に共通項があるのがわかりますよね。

(勝負に)勝っている側が、圧倒的にリソース面で不利だということです。勝っている側が、その時代における新興企業であるのに対して、負けている側は当時においての巨大な組織だった。ですから当然、報酬も非常に弾めるわけですが、惨敗している。

「夢中になっている人」に「がんばっている人」は勝てない

いろんなことが研究から言われていますが、1つの大きな要因として、左側の人たちは内発的動機に従って、自らやりたくてやっている人たちであるのに対して、右側の人たちは、上司から「やってくれ」と言われて、組織の中で優秀な人たちがやっているという対比の構造があります。

大きな組織の中で「やってくれ」と言われている人は、うまくいったら必ず昇進できる、ボーナス査定が上がる、役員候補になるといったように、明に暗にいろんなかたちで予告された報酬を示されるんですね。じゃあ、予告された報酬というのは、クリエイティブに問題解決をする能力に対してどう働くか。

先ほど見ていただいたとおり、ほっといたら6分で解いていたものが、約束された報酬を示すと、9〜10分かかるようになるということで言うと、こういう状況の中で「夢中になっている人」に「がんばっている人」は勝てないということですね。

ギャラップの調査によると、日本ではだいたい9割の人が、自分の仕事に夢中になれない状態になっていたんです。この9割の人が、夢中になれない状態でリモートワークが導入されると、目も当てられないことになると思うんですね。

こういった時代において、監視がない状態でもエンゲージメント高く仕事をやる人を作ろうというのは、非常に大きな課題になっています。これはマネージメントする側の課題でもありますが、一方で、働き手個人にとっての課題でもあるわけです。

上司から言われた仕事を仕方なくやっている立場の人と、自分の仕事だと思って自分でエンゲージメントを感じて、夢中になってやっている人がいたら、長い目で見た成果や成長も、大きな差が開いてしまいます。

ですから、もし「自分の仕事に飽きている」「言われたから仕方がなくやってる」「エンゲージメントを高めなきゃいけないんだけど、どうしても集中力が維持できない」と思っているんだとしたら、相当まずい状況に陥っちゃっていると考えなきゃいけない。そういう時代が来ていると思うんですね。

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