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組織の慢性疾患から脱却する「2on2」の可能性(全6記事)

「アルコール依存症」と「組織の課題解決」にある類似点 表の問題を解決すると“裏での困りごと”が手つかずになる?

近年、変化の激しい環境の中で「実行力の高い組織」を作っていくために、業種・業界に関わらず多くの企業が社内制度として取り入れている「1on1」。しかし「相当の準備や対話の技術がないと、雑談レベルの会話になってしまう」など、運用面での課題が生じています。そんな中、4月に新刊『組織が変わる――行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法2 on 2』を上梓された、埼玉大学経済経営系大学院 准教授・宇田川元一氏は、1on1の課題に対し、4人1組の「2on2」という新たな手法によって、具体の行動変容が生まれる対話の場づくりができないか? と考えました。そこで本記事では、同氏が登壇されたウェビナー「組織の慢性疾患から脱却する『2on2』の可能性」の模様を公開します。

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斉藤氏が解釈した「2on2」のプロセス

斉藤知明氏(以下、斉藤):解決策を考えるのは一人でも、ある意味、着想すればいいだけなのでできるけれど。課題を探索するプロセスを一緒にやるっていうのは一人じゃ難しいから、ほかの人の力を借りましょうっていうのが、この2on2のプロセスだと思っていて。これ「もうちょっと具体的に、どういうプロセスなのかイメージしたいです」っていうご質問を、ちょこちょこといただいております。僕が著書を拝読した中で「こういう進め方で合ってますか?」というのを、一度確認させていただきたいんです。

Aさんが「課題の当事者」です。Bさんが「関係性の近い同じ課題を持っている、ないし認識しているメンバーの方」です。Cさんも「同じチームの別の方」です。で、Dさんが「別のチームの方」です。ただ、チームがどうこうっていうよりも、(Bさん、Cさん、Dさんの順に、Aさんとの)関係性がどんどん遠くなっていきますよ、っていうのが重要なポイントで。

AさんとBさんは、まずAさんが課題を発露して、Bさんがそれに対して先ほどの反転法も含めて問いかけをしていきます。という中で、10分とか15分とか話したあと、Cさん・Dさんの番。今度はAさん・Bさんがまるっと黙って、Cさん・Dさんが横で、二人が聞こえる中で感想を述べる。「さっきのAさんのこと聞いててどう思った?」「僕はこういうふうに考えたな」「こういう課題があると思ったな」「こういう理由があるのかもしれないなと思ったな」と。

さーっと聞いた上で「でもAさんって、いつからそれ感じるようになったんだろうね?」「どういう時にそれ感じるんだろうね?」「そこをもっと知ってみたいよね」という会話が、Cさん・Dさんでなされます。

するとまたAさん・Bさんに戻って。Aさん・Bさんの中で「さっきCさん・Dさんがこういうふうに感じたって言ってたけど、確かにそういう視点もあるな。で、『いつ?』っていう話があったけど、こういう時に僕は感じてるな」「そうなんですね」っていうのAさん・Bさんでやり取りして。次、またCさん・Dさんに戻っていって、最後に総括をする……というプロセスを、著書を拝読していく中で読み取ったんですけど。このプロセスって宇田川先生、大筋合ってますか?

「何の問題なのか?」がよくわかんないで、みんな困ってる

宇田川元一氏(以下、宇田川):そうですね。様々な人の視点を交えながら問題について考えていく、というのが何よりも大事な点です。本の中だとやり方については具体的に書いてるところもあるんですけど、結局「何の問題なのかがよくわかんないで、みんな困ってる」ということなんですよね。だから最初の問題で投げかけるのは投げかけてもらって、でもだんだん問題自体の見え方、風景が変わってくるってことがあると思うんです。

表に出ている問題自体を解こうとしても、それにはいろんな答えはあるんです。でも、その背後にどういう「実は困ってること」があるのか? っていうのは、話してみるまでよくわからないっていうことなんですね。ぜひ、そのことを考えてみていただけるといいんじゃないかなと思います。

2on2は、それについてはほかの視点を借りることで掘り下げていくっていうやり方ですけれども、方法にこだわらなくていいと思います。ただポイントは、意外に我々「何の問題で困ってるのか?」っていうのが、なかなかわからない。この本(『組織が変わる』)の中にも「依存症として見ると、けっこうよくわかる」っていう話を書いたんですね。

組織が変わる――行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法2 on 2

「依存症」と「組織の課題」の類似点

宇田川:依存症の研究をいろいろと読んでみたんですけども、非常に興味深いです。例えば、アルコール依存ってありますよね。アルコールで問題を実感して「アルコールやめたい」という当事者の方のライフストーリーをひもといてみると、例えばDVを受けていてすごくつらくて。そのつらい状態を自分なりになんとかリカバーしようとして、ずっとアルコールを飲み続けて自分を保ってる。そういうことは、よくあることなんだそうです。「心の松葉杖」という表現をされてたんですけども、そういう状態だったりするわけです。

つまり表に見えている問題を解決するっていうこと、この場合は「アルコールをやめたい」でしょうけれど、それは「その背後で困ってることに手がつかない状態」がずっと続く、ってことになるわけです。だから、その表に見えてる問題の背後にあることがどういうものなのか? っていうのを、少しずつひもといていく。

背後のエピソードとか、苦労とか、そういうことが語れるようになってくると、何に困っていたのか段々と見えてくるそうなんです。これはとても示唆に富む話だと思いませんか?

組織にも似た構図がありますよね。表の問題と、それを構築している問題っていうのがあって。この構築している問題のほうで、組織の問題を少しずつ掘り下げながら、ひもときながら考えていくと、何に困っているか見えてくるのではないかと。構図としてはそういうことです。

「メディテーション」との、決定的な違い

宇田川:で、それをどうやったらできるのか? っていうのが、本当に難しい課題ですね。会社の中では、小さい問題っていろいろ起きるじゃないですか。でも小さい問題をきっかけに「これってなんで起きたんだろうな?」みたいなところから、少し反転とかさせながら考えていくと、意外に「ぜんぜん関係ない問題だと思ってたら、つながってたね」っていうのが見えてきたりとか。そういうことに出会うことが、しばしばあります。

斉藤:課題を探索するプロセスって、すっごく難しいなって思いながら聞いていたんですけど。先ほどの依存症の例をとってみても「心の松葉杖」って表現されてらっしゃいましたけど、本人の中では、もうそれにある意味で、思い至っているのかもしれない。やめられない理由として。

でも「やめろ」「やめろ」っていう外圧だけがある状態って、相似形で見ると……チームの中で「なんでそういう行動をとってるのか、意味がわからない」っていう人がいた時に。「そういう行動をとらないで」とか「こういうことは必ずやって」ということを守らない人がいた時に、それがなぜなのか? って、本人の中に理由があったとしても、それが共有されていないことに、ある意味、適応的課題が潜んでいるとしたら。

この2on2の中で、既存の手法とか……僕、これを聞いた時に、最初「メディテーション」に近いなって思ったんですよ。事前の打ち合わせの時にも、少しお話しさせていただいたんですけど。Aさんの立場に立ったとき「自分の内在する課題」ないし「考え方」と向き合う、メディテーションに近いなって最初は思ったんですけど。

決定的な違いが、そこで見つかった課題を「Bさん・Cさん・Dさんと共有できる」ことだなって、宇田川先生と事前の打ち合わせをさせていただいた時に思ったんですね。メディテーションとかで課題に気付いたとしても、それを共有して解決まで導かないといけないって、けっこう労力が高くて。

自分の中で心のリフレッシュをすることはできるんですけど、なにかを変えないといけない、ほかの人を変えないといけない、ということへの労力・ハードルが高い中で。ただ、Aさん・Bさん・Cさん・Dさんで一緒に探索……メディテーション、瞑想とかが近いですね。

Bさん・Cさん・Dさんが一緒に探索をしてくれている、その過程に1時間一緒にいてくれるからこそ、Aさんが持ち出した課題に対して、Bさん・Cさん・Ⅾさんもある意味、共有している。「共感するかどうか?」っていう次のステップはあるかもしれないですけど「共有されてる状態」が生まれて。

だとしたら、課題が合意されてると解決策って動きやすいですし、仲間づくりってすごくしやすい。っていうプロセスをある意味、短期的に達成できるっていうのが、この2on2のとても強いところといいますか、すてきなところだなって思いましたね。

宇田川:組織の表に見えている課題っていうのが「実はどういうメカニズムで起きてるのか?」っていうのを、我々は意外にひもとけていないっていうことなんですね。

やっぱりそこのところって、一人で内省しているだけだとわかんないですよね。組織の問題って、組織的に起きていますよね。だからそこのところがひもとけると、すごくいいんじゃないかなって思います。

「誰かが解決してくれる問題」は限られている

斉藤:ありがとうございました。あっという間に80分近く経ちましたので、そろそろ以上とさせていただければと思います。宇田川先生、本日はセミナーへご参加いただきありがとうございました。最後にひとこと、頂戴してもよろしいですか?

宇田川:はい。なんかすごくびっくりしました(笑)。コメントがこんなにいっぱいいろいろあるのかと思って。僕も全部は追いきれなかったです。ポイントはやっぱり、我々は意外に「誰かが解決してくれる問題」は限られているってことじゃないかと思いますので。

じゃあそこに対して、どういうふうなところから手を付けていくのか? そのところについて、それぞれ考えていけるきっかけにしていただけたらと思います。どうもありがとうございました。

斉藤:ありがとうございました。またやりましょう、宇田川先生。

宇田川:はい、ありがとうございます。

斉藤:すごくすてきな著書で、昨日も拝読させていただいたんですけど、改めてチームとの向き合い方を、すごく考えさせられますね。

宇田川:僕自身も書きながら「自分のついやってしまうこと」みたいなところもけっこう……(笑)。書いてる側って、(必ずしも)立派な人間ってわけではぜんぜんなくて。

斉藤:(笑)。

宇田川:「あー、こういうことなぁ。やってるよなぁ」とか思いながら書いてて(笑)。そういう意味でも、自問自答しながら書いたっていうところがありますね。

斉藤:だから宇田川先生の著書は、熱がこもってますよね。

宇田川:なんとかしたいんですよね、今のこの……なんていうか、みんな無能な人たちじゃぜんぜんなくて。技術も能力もある人たちが集まっている企業で、どうしてこう“負け戦”が続いてしまうんだろう? っていうのが、僕自身、非常に悔しいし。だんだん元気なくなっていくじゃないですか、そういうのって。コロナの問題ももちろんあるんだけど。

どうやったらいいんだろうか? っていうところは、そこが僕なりに、親父から託された宿題でもあるかなって思ってて。それを自分としては、なんとかしていきたいなっていうのは思いますね。

斉藤:視聴者のみなさんも、今日は最大1,000人近くの方にきていただいてましたけれども。たくさんの忌憚なき意見、チャットもQ&Aもいただいて、ありがとうございました。おかげさまで私にもない視点で宇田川さんのことをたくさん問いかけて、掘り下げさせていただく機会になれたかなと思いますので。たくさんご発信いただいて、ありがとうございました。

「著書、今から読みます」っていう声もいただいてますけど、お手にとって見ていただければと思いますし。

宇田川:ありがとうございます。

斉藤:では宇田川先生、改めて本日はありがとうございました。

宇田川:どうもありがとうございました。

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