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偏愛と夢中でつくる事業 ~起業 × アート思考の可能性~(全5記事)

「課題を解決して誰かを笑顔に」を持続できれば、お金は巡る 金融テクより大切な、“偏愛と夢中”を感じるためのアート思考

不確実な現代社会で求められる、今までにない新たな視点や、自分らしい価値で事業や仕事をしていく必要性。そんな時代において「0から1」を生み出すアートシンキングは、新規事業の創出につながる思考法として注目を集めています。そこで今回「起業したいひとのためのアートシンキング」の特別編として「偏愛と夢中でつくる事業 ~起業 × アート思考の可能性~」というテーマのトークセッションが開催されました。ゲストは『アート思考ドリル』『ハウ・トゥ アートシンキング』の著者であり、 株式会社uni'que代表でもある若宮和男氏。『アフターデジタル』『ディープテック』などの著者であり、IT批評家として活動する尾原和啓氏。そして、生産者が個人や飲食店に直接商品を販売するオンライン直売所「食べチョク」を運営している株式会社ビビッドガーデン代表取締役社長、秋元里奈氏の3名。自分が夢中になっていることで起業したい方、起業とアートシンキングについて知りたい方は、ぜひご覧ください。

「上場を目指さないと出資を受けられない」は、もったいない

若宮和男氏(以下、若宮):(「誰のためのスケールアップか」「何に貢献したいか」に対して)まったくそれは共感です。うちの会社は何回か資金調達を考えつつ、結局、エクイティでファイナンスはしない選択をしています。「Your」というインキュベーション事業で、年間にだいたい4~5本の事業が生まれてるんですが、これの規模的なところってレンジで言うと、事業価値が数十億前半ぐらいの事業を手掛けている感じなんですよね。

それはなんでかというと、今、スタートアップの界隈では投資家もけっこうファンドサイズが大きくなっちゃって、基本的に「IPOできるストーリーが描けてないと出資できない」という状況になってるんです。日本はあんまりバイアウトのイグジットがないですが、ユニークな価値の事業を作って、それが世の中への価値として定着してくというあり方があってもいいんですけど。

けっこうスタートアップだと、大きい(スケールの事業)のが求められるか、あるいは女性だと個人事業主かに分かれちゃっていて、間くらいの事業を作るのが抜けがちだったりします。でもファイナンスの仕方も含めて、結局は「どういう事業を作りたいか」「どういう価値を届けたいか」で、やり方も1個じゃないと思っていて。

これ(fumibaco)は昨日出たサービスです。

Twitterで心ない言葉で傷つけ合って、言葉がなくなっちゃっているのを、言葉にすごく思い入れがある編集や文学研究をやっていた人が、ちゃんと言葉として届ける。相互フォロワーさんに手紙を送れるっていうだけのサービスなんですが、このサービスのちょっとアナログなつながりを、社会の中に価値としては提供したいです。

だけど「じゃあ、これで上場目指せますか?」というと、そうではないじゃないですか。今、上場を目指さないと出資を受けられないとか、スタートアップとしてあんまり価値がない、みたいになってしまうのも、ちょっともったいないなって思うんですよね。

「課題を解決して誰かを笑顔に」を持続できれば、お金は巡る

尾原和啓氏(以下、尾原):そうですね。でも、外部のベンチャーキャピタリストや金融機関から投資を受けちゃうと、なんらかのかたちで収益を返さなきゃいけないから。売却か上場かの選択肢がありますけれども、欧米とかだと配当で返すモデルもあるし、エンジェル(投資家)も人生の生き甲斐として、20年がかりでいずれ配当で返してくれればよくて。

その時に、投資対収益がIRRで20パーセントとかなくても、「社会貢献につながるんだったらいいよ」という方々もいらっしゃるし。ましてや行政や金融機関が「ちゃんと事業性が見込めれば、(投資利益率が)8パーセントとか9パーセントぐらいでも出しますよ」という融資環境も揃ってきてますから。

最近の傾向でいうと、要はお客さんが勧めてくれてリピート率があれば、ビジネスって持続的なわけじゃないですか。だとしたら、そういう数字のデータと融資のデータベースを直結することで、ちゃんとお客さんに支持される環境だったら自動的に融資します、みたいなフィンテックスタートアップも、イスラエルとかで出てきているんですね。

だから「誰のためか」というと、もちろん投資家は貴重な方々だし、その人たちに報いなければならない。だけど一番大事なことって、お客さまや誰かの課題を解決して笑顔を増やすことが持続的であれば、それってお金が巡ることなので。

そういったところにお金も巡る環境はどんどん進んでいっているので、変な金融テクニックを磨くよりは、本当に「偏愛と夢中」を磨いたほうが(いい)。正確に言うと、「偏愛と夢中」に出会えるか、自分の中で気づいたものに(「偏愛と夢中」を)感じられるか。感じるためには、やっぱりアート思考がすごく大事だと思うんですよね。

生産者からの信頼を勝ち得た一番のポイントは、原体験

司会者:まだまだいろいろとお話を聞きたいところはあるんですが、お時間ももう迫っていて、ご質問もいただいております。「最初はなかなか生産者さんからも信頼されない日々の中で、信頼を勝ち得ていった一番のポイントは、秋元さんの情熱ですか? その場合の情熱とは、何のことでしょうか?」という、秋元さんへのご質問です。

尾原:あぁ、いい質問ですね。

秋元里奈氏(以下、秋元):私の場合は原体験でしたね。その時はあんまり「情熱」は言語化できてなくて、うまく生産者さんに想いを伝えられなかったんですけど、「DeNA出身の起業家です」とかじゃなくて。「実家が農家で廃業しちゃって。今、農地が荒れているので、なんとかできないかと思って勉強してます」と、会いに行くことの積み重ねでしたね。

やっぱり生産者さんからすると、「一次産業は儲かる」と思って(業界に)入ってくる人にはあんまり協力したくないけど、業界の苦しさとか、その中での良さを知ってる人ががんばろうとしていると、無条件に協力してくれる人が何人か現れてきました。

やっぱり初期はアセットもなにもなくて、社員もゼロでトラフィックもないので、「あなたがこのサービスを使って、なにかメリットありますよ」ということってほとんど言えなくて。どちらかというと、「なにか貢献したいので協力してください」と言って、農家さんが「そこまで言うんだったら協力しよう」ってなったという、本当にそれだけですね。

でもやっぱり、100人中100人(が協力してくれるわけ)ではなかったので、とにかくいろんな人に会いに行って、協力してくれる人を探したっていう感じでした。

起業を始めると見える世界

司会者:ありがとうございます。最後に秋元さん、尾原さん、若宮さんの順番で、参加されている起業準備中の方へ、なにかメッセージやお知らせなどもありましたらお願いできますでしょうか。それでは、秋元さん。

秋元:ありがとうございます。お伝えしたいことが2つあります。1つは今、そもそも(起業を)始める人が100人に1人しかいない中で、始めると見える世界があるんですよね。

(会社を)始めて、初めていろんな人に会えたり情報が入ってきて、「こんなこともできるな」というのはあったりするので。今、準備中ということはもうその手前まで来ていると思いますので、ぜひ一歩踏み出して欲しいなと思ってます。

もう1つは、尾原さん・若宮さんのお話にもありましたが、手段を知ることも大事だなと聞きながら思いました。手段を知らないと、無理やり合わせてしまって、本来やりたかったところにいけなかったりする。けどやっぱり、起業の最初って知識が足りなかったりするので、自分のやりたいことと方法は何が合うかは、Startup Hub Tokyoさんもそうですが、いろんな知見がある場所ですり合わせながら進めていっていただけたらなと思ってます。

あと、最近本を出しまして。もしよければぜひ読んでください(笑)。

365日 #Tシャツ起業家 「食べチョク」で食を豊かにする農家の娘

尾原:若宮さんが見せてくれてます(笑)。

秋元:私、それ手元に持ってない(笑)。すいません(笑)。

司会者:私もkindleで読ませていただきました(笑)。ありがとうございました。

起業家が最初に聞かれることは「Why you」「Why now」の2つだけ

司会者:それでは尾原さんからもメッセージをいただけますでしょうか。

尾原:さっきの秋元さんのお話の続きになりますけど、やっぱり“ユニコーンの呪い”とか、手段の呪い・成長の呪いってすごいので。起業にとって大事なのは、自分が「起業で何がやりたいんだっけ」という目的と、「Why」なんですよね。だから起業家が最初に聞かれる質問って、本体的には「Why you」と「Why now」の2つだけなんです。

「なんで君がそれをやるの」「なぜ今なの」の2つに、相手の投資家の方やパートナーの方の目を見てしっかり答えられて、その方々に「こいつに味方したい」と思っていただけるかってことだけなんですよね。

でも「Why」に出会うのって、なかなか実は難しくて。そういう意味では、Startup Hub Tokyoみたいなかたちで、いろんな先輩の方々の情熱や夢中を聞く中で出会うのもあるし。正直僕は、手段としてさっき言ったように、「1周目を5億円から10億円ぐらいで売却します」というのはぜんぜん否定していなくて。むしろ「手段は手段だったら割り切ってやりましょう」って話だし。

ただ、自分の中でそれを混同しないことが大事だと思うので、やっぱり「偏愛と夢中」にどう出会えるのか。でも、出会わなくても手段で割り切るんだったら割り切る。ぜひ、そこを明確にやることを考えていただければなと思います。

告知としては、一応僕はこういう起業や新規事業、DXのサロンをずっとやっています。今日みたいなお話でいうと、けんすうさんや佐宗(邦威)さんとか、いろんな起業家の方との対談や講義をやっているので、もしご興味ある方がいらっしゃれば寄っていただければと思います。本当に、今日は貴重な機会をありがとうございました。

司会者:ありがとうございました。

今はない仕事や自分らしい仕事を作り出せる、起業のおもしろさ

司会者:では若宮さん、お願いできますでしょうか。

若宮:アーティストって作品を作るので、作品は「work」と言うわけなんですが、仕事も「work」と言うんですよね。

日本はけっこう……「日本は」って言い方はあまり良くないかもしれないですけど(笑)。僕らも若い頃って、仕事は「割り振られたり、与えられたり、こなしたりするもの」ってなっちゃってるんですけど。そもそも、今はない仕事や自分らしい仕事を作り出せるのが、起業の一番おもしろいところだと思います。

一方で、周りが数億で調達してIPOとか言ってくると、僕も起業家だから「起業家らしく」って、それに巻き込まれそうになった時もあるんですが(笑)。でも今の話でいうと、ほかの人のやり方に合わせることじゃなくて、自分らしい起業のあり方を考えたり作っていけばいいってことだと思うので。それこそ正解がないので、そのためにもまず一歩踏み出していただけたらなと思っています。

あと、このあいだ本が出た出版社さんからお願いされてる告知をすると……(笑)。

ぐんぐん正解がわからなくなる! アート思考ドリル

尾原:じゃあ、僕がチャットにリンク貼っときますから、若宮さんしゃべっててください。

若宮:『アート思考ドリル』といって、ワークがいろいろあるんですけど。出版社さんのサイトで買うと、それをワークショップみたいにやれるイベント付き。値段も本とくっついてるので、よかったらご参加ください。

尾原:ということは、出版社のサイトを貼らなきゃなんですね。

若宮:すいません、ありがとうございます。

秋元:私の本もありがとうございます(笑)。

尾原:ネット充ですから(笑)。

司会者:それでは、以上でイベントを終わりたいと思います。尾原さん、秋元さん、若宮さん、本日はどうもありがとうございました。

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