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『ウィニングカルチャー』出版記念対談「組織に心理的安全性は必要?」組織文化と心理的安全性の関係を探る(全9記事)

プレッシャーをかけずに話を促す「で?」は、最上位の質問 組織全体でリスペクトするといい、問い・傾聴のスキルとは?

多くのリーダーが苦心している、チームの「空気づくり」。明確に言葉にできないけれど、チームの中で何となく共有されている価値観や習慣、クセのようなものが「組織文化」です。そんな、組織に属する人々にとって当たり前すぎて意識できない「組織文化」を、どのように知り、どのように変えていくのか? といった疑問にお答えすべく、書籍『ウィニングカルチャー』の著者である株式会社チームボックス代表取締役・中竹竜二氏と、エール株式会社取締役・篠田真貴子氏が行った対談イベントの模様を公開します。

“聴く”にまつわる、いくつかの大きな誤解

篠田真貴子氏(以下、篠田):(中竹氏の「聴くことも、結局、相手の話を聴くようで、自分のことも聴いているみたいなところに連動してくるかなという気はしますね」という発言を受けて)本当そうなんですよね。私、自分を振り返った時に、過去の「聴くにまったく意識も向けておらず、聴くことをしてなかった頃の自分」を思い返すと、聴くにまつわる、いくつかの大きな誤解をしてたなと。振り返って反省しているんですね。

それは今言ってくださったことにつながるんですけど、大きく3つぐらいあるなと思っていて。そもそも、その聴くということは「従う」だと(当時は)思っていて。

これも前回、中竹さんとお話しした時に指摘していただいて「そうだった、そうだった」と思ったんです。

中竹竜二氏(以下、中竹):(笑)。

篠田:「従う」だと思っちゃう。それから「受け身だと思う」という誤解もしていました。それはやっぱり、会話の中で聴く側というのは、あくまで受動的であって、言ってみればそれは「場を支配されてしまう」という感覚です。

3つめが聴くということは、知的に価値がないという誤解です。「会議で発言しなかったら、もう出席する意味なし」みたいな、あの感覚がやっぱり強かったので。聴くということは言ってみると「知的怠慢である」ぐらいに思って。

中竹:あー、その印象は確かにありますよね。なんとなく雰囲気として。

まだまだ深める余地がある「聴く・問い」の領域

篠田今、特に中竹さんが言ってくださったことは3番目の話だなと思っていて。「聴きながら、どういう問いを投げるか?」って、ものすごく知的にチャレンジングな話だし。自分も試されてるしという、かなりハイレベルな話をしてくださったと思うんですけど。

「そういうものだよ」ということすら、私を含め多くの人は考えもしたことがないというところかなと思います。

中竹:そうですね。なかなかそういった、一般的な人間の誰しもがやれるようなことってなかなか探求しないので。

そこは篠田さんの言うとおり「ただ聴いてるだけ」ってもしかしたら、本当に知的怠慢行為だという現象ももちろんありますからね。実際にね、ただ何もせず会議で座っている人という。

篠田:その差が一見、わからなかったりもしますよね。

さっき言ってくださった「問いを立てる」というのも、これはある方とお話をしていて「私、会社でこういう課題があって、こういうふうに考えてる。部下にはこういうふうになってほしい」というすごく優秀なリーダーの方で、熱意を持っていろいろ教えてくださるんですけれど。

お話を聴いていると、それはつまり「部下の方にも良い問いを発してほしい」と言ってるように聴こえたんです。そういうことかなと思ってるんですけど、その方からは「問い」というワードはまったく出てこないんですよね。

だからその方のボキャブラリーというか、意識の範囲に「問いを立てる」というのがどうも弱い感じで。要は「もっとしっかりしてほしい」みたいな、そういう表現になってたんです(笑)。

だから私も、問いを立てるということがすごく大事であるとか。聴くと問いを立てる。このあたりの議論ってまだまだ深めたり、より多くの人に知っていただく余地がめちゃめちゃある領域だなって思いました。

専門分野で活躍している人は「聴く」を理解・実践している

中竹:それは本当に共感ですね。私自身も、今はもうそんなに言いませんが「フォロワーシップ」というのを10年前かな? 早稲田のラグビー部なんかで言ってですね。「リーダーって引っ張るだけと思われてるけど、私みたいに能力のないリーダーはフォローする側に回るといいんだよ」みたいな。これ、私みたいな多くの普通の人にとっては、パラダイムシフトが起こればいいなと思ってたんですね。

今回『ウィニングカルチャー』っていう本を出しながらも組織文化を語るときに、まさに今、篠田さんがおっしゃられた「聴く」という行為のパラダイムシフト。これが実は受け身ではなく、どちらかというとプロアクティブ的な行為なんだっていう。このパラダイムシフトが起きれば、組織の文化って変わるんじゃないかなっていうのはすごく感じてますね。

ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方

篠田:本当そうですね。中竹さんにそう言っていただけて「いや本当そうですよ」って思います(笑)。

中竹:(笑)。

篠田:実際に、例えばどんな専門分野でも、営業でもいいし研究分野でもいいんですけど。やっぱりすごく活躍されている方に伺うと、わりと「『聴く』ってこういうことですよね」っていうのを、もうわかって実践しておられて。「そうそう、言われてみればそうですね」っておっしゃるので、実態としてはもうすでにやってらっしゃるんだと思うんですよね。

中竹:そうですね、もうやってるんでしょうね。

篠田:だけどやっぱりその表現というか、概念自体がまだ弱いから意識もされてないっていうことなのかなって、最近思ったりします。

組織全体で「問いと聴くスキル」へのリスペクトが出るといい

中竹:まさにそうですね。私自身は今“コーチのコーチ”として、これはスポーツ界のコーチだけじゃなくビジネス界の、コーチする人をコーチしてるんですけども。やっぱり徹底的にやらないといけないのは、問いを立てるトレーニングと、聴くトレーニング。傾聴のトレーニングですね。ちゃんとメソッドがあるので、それはやっぱりやったほうがいいかなと思いますし。組織全体でそのスキルに対する、リスペクト感が出るといいのかなと思いますね。

篠田:本当、そうです。

中竹:「問い」は勉強していくと、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンみたいな。イエスかノーかとか「Why」で聞くとかってありますけど。どんどんレベルが上がっていくと、要は「沈黙」というのが実は、問いの1つに含まれていくんですね。

篠田:はい、はい。

中竹:例えば「で?」っていう。これ、質問なんですよ。これは実は最上位の質問で、英語で言うと「And?」って感じですね。ちょっと沈黙はあるんだけども促す、みたいな。これを相手のいわゆるナラティブ、ストーリーを語る時に、本当に絶妙なタイミングでプレッシャーをかけずに(質問を)掛けられるかっていう。これは相当なマスターレベルにいかないとできなくて。

私自身なんかはここの「で?」っていう探究。この探究は相当、今までもやってきてですね。これができるような人たちが多い組織は、本当に「聴く」ということに対するリスペクトをしてるなっていう気はしますね。

中竹氏の大先輩・清宮克幸氏のエピソード

篠田:実際、それが組織文化になっている組織ってあるんですか?

中竹:そこに近づいてるところはありますよね。今回、私の本でも出させていただいたところですが、そこに向かってる感じはしますね。そこを大事にし、沈黙があっても「言わなきゃ」じゃなく「この沈黙、考えてんだよなぁ」みたいな。だからちょっと待っとこうかな、みたいな。

篠田:「沈黙を怖がらない」って、そこの感じがわかるとすごく対話が豊かになりますよね。それは本当にそう。

中竹:早稲田ラグビー部で私の前任の監督、大先輩の清宮(克幸)さんって、めっちゃ怖いんですよね。ふだんから。

篠田:怖いんですか(笑)。

中竹:怖い上に、すっごい沈黙長いんですよ。もう周りは凍りつくんですけど、途中から「沈黙している最中、この人、相当考えてるんだな」っていうのがわかったんですね。すっごいオーラがあって、いつもぐわーっと言う人が黙ると、もう1秒が1時間ぐらいに感じるんですよ。

篠田:(笑)。

中竹:けど、よーく清宮さんの話聞いてると「なにか言おうと思ってることが自分の中でちゃんと言葉になってなくて、これ言うと間違うかも」って、けっこう繊細に考えているのが読み取れるようになると、いくらでも待てるようになるんですね。けどやっぱり、彼のふだんの怖いところだけ見てると、もうみんなオタオタしてしまうんですけど。

これはでも、いい意味でポジティブに「待てる」かっていうのは、その空間を大事にしていくことであったり、その人が考えている背景を知ることによってしかわかっていかないのかな、という気はしますね。

篠田:ですよね。想像ですけど清宮さんから見た時に、その自分の沈黙の意味とか、沈黙している間に自分の頭の中・心の中で起きていることを汲もうとしてくれてる人って、すごく仲間というか、すごく信頼したくなるだろうなっていうのもちょっと思いました。

中竹:あぁ……確かに。信頼というか「こいつは謙虚に見えて」っていうか、後輩だからアレですけど「中竹はちゃんと話を聞くな」みたいな感じでは思われて、信頼されてる感はありますね。怖くても一応、私は反論というか「それはちょっと違うと思いますけど」みたいなこととかを言うので、きちんと話してくれてる感はありますね。

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