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『ウィニングカルチャー』出版記念対談「組織に心理的安全性は必要?」組織文化と心理的安全性の関係を探る(全9記事)

日本の文化では「人の話を聴く場面」がとても少ない? 耳だけで“聞く”のでなく、五感すべてで聴くことの大切さ

多くのリーダーが苦心している、チームの「空気づくり」。明確に言葉にできないけれど、チームの中で何となく共有されている価値観や習慣、クセのようなものが「組織文化」です。そんな、組織に属する人々にとって当たり前すぎて意識できない「組織文化」を、どのように知り、どのように変えていくのか? といった疑問にお答えすべく、書籍『ウィニングカルチャー』の著者である株式会社チームボックス代表取締役・中竹竜二氏と、エール株式会社取締役・篠田真貴子氏が行った対談イベントの模様を公開します。

一人ひとりがじっくり話を“聴いて”もらった経験は、ほぼない

中竹竜二氏(以下、中竹):逆に言うと、篠田さんはいろんな組織を渡り歩いていらっしゃると思いますが……。

篠田真貴子氏(以下、篠田):いや、そんな(笑)。

中竹:今回(のテーマ)「聴き合う組織をつくる」について、今、組織の中だけでなく社会にも目を向けたコメントが入っていますけど。聴き合う社会を作るって、まさにこれは文化作りとすごく似てるなと思うんですね。

聴き合う組織って、成果を上げるということに根ざしているというよりは、文化を作っている感じなんですけれども、まさにそういった企業なんじゃないですか? 

篠田:そうなんです。そこにいきたいんですけど、まだいろいろ試行錯誤中で。エールの考え方も、今、中竹さんが言ってくださったのと、かなり順序としては近いですね。やっぱり、一人ひとりがじっくり話を聴いてもらったことって、まぁほとんど、みなさんないので。

例えばさっき中竹さんが、前回、1年半前に対談した時のことをお話しくださいましたけど。つまり中竹さん、私の話をきくという時に、別にテキストじゃなくて私の様子を……。

中竹:そうですね。

篠田:それって、むしろ「聴く」なんですよね。中竹さんとして「篠田さんはこうに違いない」と思い込んで、次言うことで頭がいっぱい、みたいなことではまったくなく。たぶんフラットに見てくださって、ああいうコメントをしてくださって、私が「あっ」て気がつく。

そういうふうに“聴いてもらう”経験って、まず、みなさんなかなかないんだと思うんです。エールが提供しているのは、オンラインで、実は画像もなしで音声だけなんですけど。こうやってじっくり話を聴かれる、聴いてもらう機会を提供することで、本音……本音といっても「上司には内緒だけど」という本音じゃなくって。

本当は自分は感じたり考えているんだけど、聴く相手がいないと私たちはやっぱり言葉にしない、心の奥底にあって自分でもちゃんと気づけていないことってあるんですよね。

中竹:そうですよね。相手がいないと、他者がいないと自己を表出させないですからね。

聴いてもらう経験を積むと、考えや感情が言葉になってくる

篠田:ですよね。しかも他者との微細な関係性とか、その場の雰囲気とかを無意識に察知して。何を言うか、どんな言葉として出てくるかって、変わってきちゃうので。

通常はあんまりない、まったくの第三者。「初めまして」というところから「私はあなたの話を聴くためにいますよ」という人と、信頼関係を作りながら話を聴いてもらう経験を積んでいただくと、やっぱりその考えや感情がだんだん言葉になってくるんですよね。

中竹:はい、はい。

篠田:それで「自分はそういうことを大事にしてたのか」とか「実はそういうことを考えていたのか」ということを、自覚するに至るんです。自覚できれば、みなさん立派な大人の方だから、それをインプットとして自分の言動って変わっていく。本物の当事者意識が出てくる、と言ってもいいかもしれません。

そうやってより自分、その方らしくなっていくということのサポートをしていると思うんです。これを単に1人でやるんじゃなくて、組織のみなさん、一斉にやっていただくので。

中竹:まさに文化、変わりそうですね。

篠田:そう、一斉にプロセスを通っていただくんですよ。もちろん話した内容そのものは守秘義務があるので一切出ませんけれども、毎回セッションが終わった後に話を聴かれた方に「今日はこんな話をした」とか「こんな気づきがあった」って、簡単にメモ書きしていただくんですね。

このメモの内容を、これも個人が誰ってわからないように配慮しながら、内容を抽出したり頻出のキーワードを機械で拾ったりして、レポートとしてフィードバックするんです。

そうすると「みんなもそういうことを考えていたのか」とか、自分の考えとみんなの考え、言ってる話って違うんだなとわかるので、それがまた話題になって組織の中で聴く・聴き合うということが……。

中竹:循環をするんですね。そこで。

篠田:ということをやっています。

日本文化全体の中でも少ない「体で聴く」という状態

中竹:いやぁ、すばらしいですね。その発想がいいですね。私もずっと思ってたのは、特に日本の文化は……あまり日本、日本って言いたくないですけど、日本特有の文化がたぶんあると思っていて。聴くということに関して、やっぱりすごくボリューム的にも少ないなって。聴く場面が少ないし。

「聴く」って掲げた時に、やっぱり何かしらコミュニケーションの中で、耳だけで“聞いてる”みたいな。聞く側がですね。さっきお話ししたように、僕は基本的に聴く時も体で聴いてるんですよね。五感を全部使って聴くというのが、たぶん一番いいだろうなと思ってて。

もちろん電話だけとか表情だけというように、絞るのもいいんですが、もし許されるんであれば全部体で聴くと。この感覚が、たぶん日本文化全体の中でも少ないと思いますし、企業の中でも少ないのかな。だからそれに触れることによって、今までなかった体感を得られて、聴き合う組織になっていくというエールさんの方針は、もう私としても大共感しますね。

篠田:うれしいです。本当に……。「聴くのって、こういう素敵なことがあっていいものですよ」ってお話をすると「ずっとみんなが聴いちゃったら、誰も話題を提供しないから困るじゃないですか」みたいなおもしろいことを言う方がいて。それはそうで、おっしゃるとおり。全員が聴こうとして誰も話さなかったら、何も起きないんですよね。

本当のところは、話すと聴くのバランスです。私も日本が特徴的かはわからないですけど、肌感覚で「コミュニケーション」といった時に、私たちの頭の中は少なくとも99パーセント「伝えるほう」に意識がいっていて。聴くほうって、本当に意識がいかない。

それは私も過去、本当にそうだったなと思うんです。例えば仕事で、上司にうまく伝えられなかったなぁとか、お客さんとのコミュニケーションがいまいちだったって反省したら、次どうする? といった時、絶対「どうやって伝えるか?」という「伝え方の工夫」ばっかりするんですよね。

中竹:そうですね。

相手に刺さるかは「それを自分に問うてきたか?」で決まる

篠田:でも本当は聴く……受け止め方によって、コミュニケーションの相手とかの印象って当然変わるし、こちらが受け取れる情報の質とか量も変わるから。中竹さんみたいに「体で聴くんだ」って、例えば「3分は体(全体)で聴こう」と思って商談に望むのと、まったく考えずに臨むのでは、まったく違った展開になるんでしょうね。

中竹:だと思いますね。それで言うと、私は聴くだけじゃなくて、人間のやるコミュニケーションは聴くのも話すのも、結局は相手がいるんですが。これを本気でやると、自分が言っていることって相手に言ってるんじゃなくて、結局は自分に言ってたり。

これは、私自身は一応、コーチという仕事が長いのと“コーチのコーチ”なので「問い」がすごく大事なワケですけど。この問いかけが相手に刺さるかどうか? というのは、結局「その問いをどれだけ自分の中で問い続けてきたか?」がけっこう重要だと思うんですね。

篠田:なるほど。なるほど。

中竹:今は「問いかけのスキル本」みたいのがたくさん出ていて「こういう質問がいい」というのはありますけど。1回も自分に問うてなくて、ちゃんと答えたことがない問いを「これいい問いだな」と思って(相手に)投げかけても、当たり前ですけど届かないんですよ。

聴くことも、結局、相手の話を聴くようで、自分のことも聴いているみたいなところに連動してくるかなという気はしますね。

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