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『マイノリティデザイン』刊行記念連続トークイベント マイノリティデザイン・デイ1日目(全9記事)

「お金の使い方がうまい人」がしていることは? 使った額以上に得るものがある、“自分にしかできない”お金の使い方

コピーライター/世界ゆるスポーツ協会代表理事の澤田智洋氏が著作した『マイノリティ・デザイン』。本書の刊行を記念したイベント「マイノリティデザイン・デイ」では、著名人を招いたトークセッションが行われました。1日目となる今回は、作家・岸田奈美氏をゲストに迎え、両者がお金の価値・役割について語りました。

「拡散力のある意見」がメジャーになることの怖さ

岸田奈美氏(以下、岸田):Twitterを“マイノリティの人を攻撃する武器”に使ってるようなツイートをたまに見るんですよ。確かにそれで世界が変わってきた事実もあるから、それがダメだというわけじゃないんだけど。安易にそれに乗っかる人がたくさんいた時に、すごく怖いなと思っていて。

マイノリティの反対もまた、マイノリティになることがあるわけじゃないですか。ぜんぜん言い分が違ってるけど、こっちのほうが拡散力があるからメジャーになっちゃう。そういう、すごく偏った意見や攻撃性が高いものを見つけた時は、「じゃあなんで言われてるんだろう」「こっちの気持ちってどうなのかな」というバランスを持たないと。

私がさっき言っていた、バイアスをかけちゃうというか、補完しちゃうのは危ない。本当に虚構と見分けがつかなくて、誰かをすごく傷つけてしまうのはやっぱりやりたくないと思います。ちょっと待ってください、しゃべりまくってますけど、Q&Aを答えないと。

澤田智洋氏(以下、澤田):そうなんですよ。ちょっと……。

岸田:司会がいない(笑)。

澤田:そうなんですよ。止められなかった。

岸田:ぐだぐだ。すみません。私が言っちゃってよかったのか。

澤田:そろそろ振ろうと思ってました。

広告業は「人間業」である

澤田:みなさん、よければぜひこのQ&Aにどんどん質問をお寄せいただければと思います。

今来ている質問が、「お金・資本はどうしても必要だと思いますが、お金の役割や価値をどのように考えていますか?」。僕は今も広告会社にバキバキに勤めてるんですけど……。

岸田:すみません、本(『マイノリティデザイン』)で「僕はもう広告はやりません」みたいなことを言っていて、それでも会社にいられるんですか? 

マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう(ライツ社)

澤田:いられます。

岸田:すごくないですか? 

澤田:広告業って人間業なんでね。広告会社って、広告の仕事をやってればいいわけじゃないんです。

岸田:澤田さんがやってきたことや信念が会社に伝わっているから、こういうことをやってもいいよってなってるんですか? 

澤田:だと思います。広告会社って、いろんなところにスポットライトを当てていく商売だと思っていて。そう考えた時に、マイノリティにぜんぜんスポットライトが当たってなくて。「広告会社としてそれをやらないのはすごく矛盾じゃないですか」という話をしていて。「まぁ確かに」と。

岸田:すごいなぁ。

澤田:たぶん、いろんな人からすごく嫌われましたけどね。

岸田:嫌われると思いますよ。だって……「嫌われると思いますよ」と言うのも変だけど。私は広報なのに、守る広報を一切やってなかったんですよ。けっこうむちゃくちゃな型破りなことばっかりして、やっぱりリスクもちょっとあった中で、「そんなの広報じゃない」とめちゃくちゃ言われてたので、わかります。

でも、すごいです。それでも認めて澤田さんに賭けたのは、すごくいい。

澤田:実はいい会社なんですよね。

岸田:ね。いい会社。

岸田氏が考える、お金の価値・役割

澤田:(視聴者からの質問で)「お金の役割・価値をどのように考えていますか」ということですが、どうですかね。さっき岸田さんから「大金を貯めておくと、よからぬことが起こるかもしれない」という話がありましたけどね。

岸田:それは家訓的なものなんですけど、お金はまず大事です。人生において、私はいろんな人が病気になったり亡くなったりしているので、健康が大事なんですよね。

結局のところ、健康ってお金なんですよ。延命もお金になるし、いいものを食べられるか、不摂生しないか、働きすぎないかとかが、やっぱりお金になるのですごく大事なんですが、貯めることじゃなくて使うことも大事だと思って。

自分もハッピーになるし、周りにいる人もハッピーになる。周りの人のもう少し外の層ぐらいの、顔も名前もわからないけどなんとなく想像できるぐらいの人たちがハッピーになることを考えて思い切って使うと、毎回それ以上になって返ってくるんですよ。

私がボルボを買ったら、本当にたくさんのサポートのお金をいただいて。そのお金をボルボに使いきれないから、次はこれで何をしようってなったら、「次は(世界ダウン症の日の)広告をしよう」となって。

私はこういうふうに、みんなをわくわくさせて、しかもちょっと幸せな世界にするために動いてる。そのために自分も身銭を切ってるのが伝わったら、おもしろがって「じゃあ俺のお金でちょっとなんかやってくれ」という人がまたむちゃくちゃ増えたので。

「ストーリーがあるもの」のためにお金を使う

岸田:むしろ、貯め方や増やし方よりも、思い切って使うことのほうが……。それは私利私欲とか欲しいものとかじゃなくて、なにかしらストーリーがあるもののために使う。それこそ自分にしかできないお金の使い方をすると、それをおもしろがってくれる人ってめっちゃ増える。だから私、めっちゃ使ってます。

澤田:前に(岸田氏が所属している株式会社コルク・代表の)佐渡島さんと3人でお食事している時に、「岸田さんのお金の使い方がうまい」と伺って。「ああ、そうだな」と思いました。

岸田:言ってました。

澤田:岸田さんのお金の使い方自体がクリエイトというか、1つの作品っぽいもんね。お金の使い方という作品にみんなが共鳴して、またお金が集まってくるから、めちゃくちゃ健全な循環が生まれている。

岸田:物々交換に近いかもしれないですね。お金はただのモノの1つで、その代わりに私が人生で手に入るものを物語にして、交換しているようなところがすごくあるので。

澤田:確かにな。

岸田:本当に使ったほうがいい。やり方は、クラウドファンディングでもなんでもいいと思うんですけど。やっぱり、お金を使った経緯やストーリーがすごく大事だと思うんですよ。じゃないと、ボルボだけぽんって置かれてたら、むっちゃ嫌なやつじゃないですか(笑)。だから私はエッセイストという職業でよかったというか。その背景の物語をちゃんと書ける人だから。

澤田:確かにね。

岸田:なんでそれを買ったのかとか、作ったのかという。

澤田:おもしろいね。なるほどね。いい答えが聞けました。

ダウン症の弟への態度で、相手の人間力がわかる

澤田:「お金の話を聞いて思ったのですが、どうしてお金を使う相手を信じることができるんですか?」という質問。なんでですか? 

岸田:これはね……。おこがましい話なんですけど、自分を搾取してくるような、人生においてたぶん関わらないほうがいい人っているじゃないですか。別に悪人も好きなんですけど、たぶん私はすぐに善人か悪人かわかるんですよ。

なんでかと言うと、小さい時から弟と一緒に行動してたんですけど、弟に対する態度でだいたいその人の人間力がわかるんですよ。

澤田:なるほど。

岸田:「良太くんかわいいね~」とか言ってくるけど、良太が言ってる言葉を待たずにかぶせてきたり、弟と目を合わせないとか。「弟の自我は関係ない」という人は、もう目だけでわかるんですよ。どこ見てるとか、しゃべり方とか。

最初から私のことを「かわいそう」と思って話してくる人も、野生的な本能でわかるので。noteがバズった時にいろんな人から話が来たんですけど、佐渡島さんは「障害のある家族がいる子だからかわいそう」とかじゃなくて、「岸田さんが本当に『ただ素直に伝えたい』って思いを聞いて、僕はそれがすごく好きだ」と言ってくれて。

佐渡島さん、弟に対してもやっぱり「あぁ、この人はたぶん信用できるな」っていうのが、1回あったんですけど、弟に対してむっちゃ普通で、むしろむっちゃしゃべるんですよ。だからすごいなって思ったんです。

だから……少し嫌な話なんですけど、昔から無意識に差別をされてきたので、人の良し悪しがわかるようになりました。

信じて裏切られても「この人だからいっか」と思えるかどうか

澤田:岸田さんは岸田さんなりにめっちゃ学習してますよね。お金の使い方もそうだし、人の見分け方や信じ方も含めてね。「学習あるのみだよなぁ」と思って。

岸田:会社員時代はやっぱりきつかったんですよ。むちゃくちゃ情に厚いから、会社では「このお客さんを大事にしろ、情に厚いから」って言われるんだけど。打ち合わせしたら気持ち悪くて、なんかゾワッとするんですよ。

そういう仕事をしてた時って、絶対にすげー大失敗したり。めちゃくちゃいい人だと思ってたら、最後の最後で裏切られたりとかもめっちゃあったので。そこから人間関係は、「この人を信じて裏切られても、自分を讃えられるか」で決めています。まぁ、失敗もしますけどね。

澤田:めちゃくちゃおもしろい話だな。昔リンカーンが、「多くの人を一瞬騙して欺くことと、少ない人を長く欺くことはできるけど、多くの人を長く欺くことは不可能だ」と言っていて。そういう意味では、佐渡島さんってやっぱりずっといろんな人に支持されているから、欺いてないというかね。

岸田:そう、そう。素直すぎて逆に反感を買うことがあって、むっちゃかわいそうな時があります。だってZoomの打ち合わせとかで、普通に爪を切ってるんですよ。

澤田:(笑)。だって前、「プールに足をつけながらZoomしてます」って言ってたから。

岸田:あれ、外国育ちというのもたぶんあると思うんですけど。

澤田:そこに関係するんだ。

岸田:わかんないです、それはもしかしたらラベリングかもしれないですけど。でもそれはけっこう……自分の見る目を信じて裏切られても、「別にこの人だからいっか」と思えるような。

澤田氏の『ゆるスポーツ』は、利益第二主義

岸田:お金で思い出したんですけど、ゆるスポーツとかって、やっぱりマネタイズをむっちゃ考えるんですか? 

澤田:むっちゃ考えてますね。

岸田:あ、やっぱりむっちゃ考えてるんだ。

澤田:だけど僕は、ゆるスポーツは利益第二主義と言っていて。要は利益を度外視すると続かないけど、利益第一主義にすると「スポーツ弱者を世界からなくす」(というコンセプト)がどうでもよくなっちゃうじゃないですか。

あくまでも、スポーツ弱者を世界からなくすという第一主義は、絶対にブレないんですよ。だけど、利益第二主義だからその次に(お金は)大事ですよ、という話をしていて。僕らのプロジェクトは100個ぐらいあるんですけど、そのうちの7割ぐらいはお金をいただいてるんですよ。

例えば企業から、「うちの技術でスポーツを作ってください」とか。例えば今週は、柏のららぽーとでイベントをやってるんですけど。それは三井不動産から「スポーツ貸してください」「じゃあレンタル料はこれくらいです」みたいな。だけど、残り30パーセントぐらいの案件はボランティアなんですよ。

仕事を選ぶ時に重要なのは、資本の有無より「切実さ」

岸田:お金をいただくものか、ボランティアかの基準は何なんですか?

澤田:基本的には、資本力があるところからはいただき、ないところからはいただかない。あとはやっぱり切実さがあるかどうかという、2つの軸なんですね。だから実は、お金がなくても切実じゃないところとはやらないんですよ。「たまたまニュースで見たんですけど、お金なくて。でもやりたいっす」みたいなところとは、絶対にやらない。

だけど「お金はないんですけど、うちの病院で入院してる小児がんの子どもたちで、もう余命がある子もいて。どうしても夏休みにスポーツの思い出を作りたいんです」って言われたら、めっちゃ切実じゃないですか。

岸田:確かに。

澤田:それはもう「借金してでもやります」というか。

澤田氏が大切にする「PPPPP理論」とは

澤田:だけどやっぱり、経済性や綺麗事だけじゃ持続できないから。その文脈をいくつか本にも書いたんですけど、「PPPPP」という理論に基づいて僕は仕事を作っているんです。

ちょっと端折りますけど、企業はその中のピクチャー(Picture)やプラットフォーム(Platform)を考えるんですけど、それはビジネス軸に刺さるんですよね。こういうプラットフォームでこういう価値があったとか、こういうピクチャーやビジネスモデルだと言うと、ビジネス系の人に刺さるから、そういうのも大事にしている。

だけどピンチ(Pinch)も大事にしていて、誰々が困ってたからすぐにプロトタイプ(Prototype)作って始めましたみたいな。

企業の人たちには話が通用しないけど、「ピンチに寄り添ってくれるんだったら、うちの小児がんの子どもたちに寄り添ってくれるかも」ということで、ピンチに共感してくれるところも多くて。そこは、お金がなくって切実だから。そこには、「スポーツ弱者を世界からなくす」みたいなフィロソフィー(Philosophy)がちゃんとあって。

だから、いろんな社会との経済的な接点や、あるいは福祉的な接点を作りたいから、自分が作るプロジェクトは何層にもそういうものを入れるようにしているんですよね。

岸田:大事。経済性と社会性の両立というか、続けるためにそこを選んだり、軸を作るのはすごく大事で、そのとおりというか。

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