2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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岸田奈美氏(以下、岸田):本当にこれ(『マイノリティデザイン』)、ちょっとでも自信を失ってる人には全員読んでほしくて。たぶん、社会人になって4年目とか5年目の人は、絶対読んだほうがいいと思うんですよ。
わかんないですよ、私はベンチャーだったから他の人と感覚が違うかもしれないですけど、3年目って一番楽しいじゃないですか。仕事を覚えて、無敵感があるじゃないですか。4~5年目ぐらいで慣れちゃって、「あれ、何してるんだっけ?」という時に、やっぱり人は自己肯定感が低くなるというか。
「あれ、この世界って私がいなくても回るんじゃね?」と思う時期があると思っていて。そういう人は絶対読んだほうがいい言葉がいくつかあるんですけど、それがさっきの話とちょっとつながる、「才能はスライドさせたほうがいい」という話です。
その業界だったら当たり前のスキルも、ぜんぜん違う業界にいったらすごく褒められて求められるものだというのは、本当にそのとおりで。私、会社だと本当に当たり前のことがまったくできなかったから、文章力を褒められるよりも、基本常に怒られていたし(笑)。
澤田智洋氏(以下、澤田):え、そうなんだ。
岸田:文章よりも見積書や請求書を出してなかったから、「出すべき文章を出してないやつ」みたいになって。
澤田:そこが抜け落ちてるから、その先で文章がうまくても手前が気になっちゃう感じですね。
岸田:手前が気になっちゃう。会社でブログとかも書くけど、福祉関係の会社だったので、基本的にレギュレーションがすごく厳しい。
澤田:そうですよね、ありますよね。
岸田:ちょっとでもおもしろいこととかを書くと、リスクがあるんですよね。
澤田:危ない。危ない。
岸田:(意図を)変に取られちゃったりするから、あまり(文章を)生かす機会がなくて。むしろ「広報なんだから、それぐらい書くのが当たり前」みたいな。誤字脱字チェックとかのほうが厳しかったから。
蓋を開けてnoteで書いてみたら、「こんなふうに、障害のある家族のことをおもしろく書ける人がいると思わなかった」と言われて。「当たり前に書いてたけど、noteの世界やエッセイの世界に行くと、すごく新しいことなんだ」と思って、無敵感を感じたのを覚えてます。
澤田:そうなんですよね。これは『ガチガチの世界をゆるめる』という本で書いたんですけれども、結局人は“魚”だから、“水”という環境と合うかどうかですよね。
会社も含めて、水と合うかってめっちゃ大事で。自分が淡水魚なのに海にいたら泳げないし苦しいけど、川に行ったら「めっちゃ泳ぎやすいじゃん」ということって、いっぱいあると思っていて。
岸田:本当にそう。
澤田:それってほぼ100パーセント断言できるけど、「魚は悪くない」というかね。
岸田:魚は悪くない(笑)。
澤田:魚が悪いことって、今まで1回も見たことないんですよ。
岸田:確かにないですね。
澤田:いろんな障害のある方が「自分に自信がないです」「自分は無力です」「もうあかんわ」という、『もうあかんわ日記』のような状態になってるんだけど、「それって水が合わないんじゃないですか」という話をして。
僕の場合だとそれに対して、スポーツや服や楽器やビジネスを作ったりするんですけど。その人が活躍できるスポーツや、一流ミュージシャンになれる楽器を作ると、「ほら、めっちゃ強いじゃん」「めっちゃうまいじゃん」というのがすぐ生まれるというか。
岸田:本当にそう。「じゃあ、それが仕事とどう結びつくの?」ということをたまに言われるんですけど、私の前職での同僚は、まったく目が見えないから手触りだけでタオルのメーカーを当てたり。そこ(触覚)が敏感だから、そういう商品開発にも協力できる。
仕事も作ろうと思えば作れるし、仕事が作れなくても、ありのままの自分の自己評価を高めて認めてくれる場所が1ヶ所でもあれば、他の場所でもやっていけると思うんですよ。
私の経験では、成功体験があれば辛い場所でもなんとなく「いや、でもここで輝いてるしな」とやっていける気がしていて。本当にすごく大事なことだと思う。
澤田:なんか本当に、岸田さんが言うとすごく説得力が増しますね。
岸田:だっていろいろ経験して……(笑)。
澤田:もともと岸田さん自身も会社ではうまくいかなかったけど、活躍の場をnoteにスライドしたら、もともと持っていた「言葉が好き」が開花したし。
お母さんが車椅子になった直後も、「もう、どう生きていったらいいかわからない」「ましてや働ける気なんてしない」というところから、会社でお母さんの仕事を作ったわけじゃないですか。
岸田:そうですね。車椅子の母だからできる、ホテルで車椅子のお客さんへの接客研修をやるサービスを、会社のみんなと一緒に作ってました。
澤田:すごい。そういう話を聞けば聞くほど、岸田さんはやっぱり弱さを起点に社会に問いやユーモアや、いろんなものを投げかけてる人だなと。それって結局、弱さが大事な時代にどんどんなってると思うんですよね。
岸田:そうですね。
澤田:すごく経済成長してる時には、「強い人についていけ」になっていったけど、そこから取りこぼされた人がいっぱいいる。社会に弱さがいっぱいあって、実は数が多い。そういうわけで、障害者も930万人いるし、グレーゾーンを合わせると人口の15パーセントは障害者という話もある。
岸田:そうですね。結局お年寄りの方とかも、障害のある方と同じ悩みを抱えている人もいるじゃないですか。目が見えづらいとか、歩きづらいとか。妊婦の方もそうだし、ベビーカーを押してる方も、車椅子の人と悩んでいることが一緒だったりすると考えたらね。
澤田:そうそう。だから障害者と高齢者と妊婦さんって、乱暴に全部足すと5,000万人ぐらいになるんですよね。それって人口の……。
岸田:3人に1人。
澤田:むしろ45パーセントぐらいになるんじゃないかみたいな。
岸田:ほぼ全員ですよね。だから車椅子の人のためだけじゃなくて、そういう(悩みを持っている)人の目線で作られたものって、実は杖をついている人もうれしかったりするのは、絶対あると思うので。
澤田さんの作られた「ゆるスポーツ」などのプロダクトに救われてる人って、広告塔になってポスターに出てる障害のある人だけじゃなく、みんなが想像できないような人たちも助かってると思います、本当に。
岸田:マイノリティデザインのすごくいいところが、理論だけしゃべってるんじゃなくて、澤田さんの圧倒的な感情や経験談から来てるから、語り部感があって説得力があって好きなんです。
すごく共感したところが、目の見えない息子さんと一緒に公園に行って、周りはみんなボール遊びとかをしてるのに(息子さんができる)スポーツがなにもなかったから、「太鼓持っていってポンって鳴らすしかできなかった」「そのポンポンは、怒りの音みたいだった」みたいに言ってたじゃないですか。
澤田:そうですね。
岸田:すごくわかります。私ももうずっと、心の中で太鼓を叩いてるんですよね。
澤田:おぉ、どういうことですか?
岸田:私、「ユーモアがある」「明るく書いてる」とか言われるんですけど、基本的に社会にバチ切れしてるんです。
澤田:おぉ。いや、そうでしょうね。
岸田:めちゃめちゃ辛くて悲しいとか、理不尽だなって思うこともあるんですよ。例えば10年くらい前は(母が)車椅子というだけで、本当にタクシーは乗せてくれないし。他にもいろいろあります。
でもこれが、呪術師になるかクリエイターになるかの差だと思うんですけど(笑)。呪術師は、自分にも他人にも呪いをかけるんで。どういう呪いかと言うと、「努力しても無駄なんだ、私は不幸なんだ」というふうに思っちゃうのは、この世の中において呪いになると思うんです。
「私、こんなにかわいそう」と不幸の世界に浸って、もうそこから傷つくのが怖くて逃げ出せなくなっちゃうか、その怒りや悲しみという感情をそのまま人にぶつけても、それは呪いになっちゃうから。
それをなんとか「いいな」という感情とか、「ちょっと協力したいな」と思えるようなおもしろおかしい話や前向きな話にできるかという。感情そのものはあるんだけど、人に伝える時にクリエイターになるかの分かれ目で。私はギリギリのところでクリエイターにいけたんだなって思いました。
澤田:その話で言うと、いいクリエイターはいい呪術師だと思うんですよね。ある種、怨念の強度が高ければ高いほど、クリエイトできるものの強度が上がっていく。
アウトプットするものが「呪い」か「祝い」かってだけだから、まさに表裏一体だと思っていて。社会を呪うのか社会を祝うのかの差で、その呪いと祝いは熱量には差がないというかね。だから、岸田さんはいい呪術師なんじゃないですかね。
岸田:呪術師、嫌ですね(笑)。もっと名前ないかな。祝詞のほうで祈祷師とかのほうがいい。
澤田:(笑)。
岸田:祈りたい。祈ってます。私の文章は、怒りや悲しみや日常で起きたことを祈りを込めておもしろくしてるというのは、すごくそうです。でも、それはこの本を読むまで気づかなかったので、マイノリティデザインを読むと「あ、私クリエイターでよかったな」と思えました。みんなクリエイターだとは思うんですけれども。
澤田:本の中で「自分の喜怒哀楽と向き合う」ということを書いているんですけれども、やっぱり僕もなにかをクリエイトする時に、悲しかったことや怒りは、すごく大切にしているというか。僕は左利きなんですけど、なにかアイデアを左手で作る時には、必ず右手に悲しみと怒りを持ってるんですよ。もう、そばに置いているというか。
岸田:わかります。
澤田:それがないと、僕はなにも作れなくて。だからといって息子に障害があっていいかというと、それは別にないほうがいいに決まってると思うんだけど。でも、右手に怒りを握りしめてなくちゃ生まれていないスポーツたちがあると考えると、「まぁ、それはそれなんかな」みたいな。
岸田:いや、本当にそう。
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