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篠田真貴子さんと考える なぜ心理的安全性は組織を強くするのか(全10記事)

強い組織に求められる「心理的安全性」への、3つの誤解 このままの自分が許される“ぬるい関係”のことではない?

組織のパフォーマンスを最大限発揮するためには、土台となる対人関係やチーム内での不安を最小限に抑えることが重要。そんな組織を作るため、いま「心理的安全性」の実装が求められていますが、じつはそのヒントは組織の中で「聴き合う」ことにあるのです。そこで今回、社外人材によるオンライン1on1サービス「YeLL」を提供するエール株式会社 取締役・篠田真貴子氏が登壇されたイベント「なぜ心理的安全性は組織を強くするのか」の模様を公開。日系大企業、外資系企業、ベンチャー企業と多様な組織で要職を歴任してきた篠田氏の経験や知見から、役職や部署を越えて共創する組織のつくり方を徹底解説します。

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「心理的安全性と“聴く”について」

斉藤知明氏:では、改めて篠田さんにパスさせていただきます。「心理的安全性と“聴く”について」よろしくお願いします。

篠田真貴子氏(以下、篠田):はい。では今から10分ほどお時間いただいて「心理的安全性と『聴く』」について、もう少しご紹介していこうと思います。先ほどご紹介いただいたとおり、今、エールで社外人材によるオンライン1on1のサービスを提供しております。

篠田:オンライン1on1というと「人の話を聴くこと」がサービスの中核にあるものですから。そこを日々考えていて。

例えば昨年の11月に、ハーバード・ビジネス・レビューの論文の中から、聴くということについて書かれたものを集めた『マインドフル・リスニング』という本が出まして。こちらの前書きを書かせていただきました。

篠田:それから2月に「VOOX(ブックス)」という、新しいビジネスコンテンツの音声メディアが出まして。こちらで『聴くチカラ』について、全6回お話をしています。もしよかったらアプリをダウンロードして、聞いてみてください。

「評価する・される」関係性の中で、本当にオープンに話せるか?

篠田:今日のお話、前段として「エールが何をやっているか?」を簡単にご紹介します。みなさま会社で働いていらっしゃって、1on1っていう、いわゆる上司・部下の面談の仕組みがあるところもあるんじゃないでしょうか。

日本の会社では、ざっくりと上場企業の半分ぐらいが、今は何らかのかたちで取り入れているそうなんですけど。もし取り入れてない会社でも、上司・部下の本当にざっくばらんなコミュニケーションをイメージしていただくと、やったほうがいいことはみんなわかってるんです。わかっているんですけど、まず時間がない。

篠田:それから、このスキルがないというのは「話を聞いてもらってよかった」という経験が私たちになかなかないものだから「同僚・部下の話をうまく聞こう」っていってもできないんですよね。

コミュニケーションの問題なので、正直、相性の良い・悪いはあります。これらが仮にクリアできていたとしても、致命的なのは「評価する・されるという関係性の中で、本当にオープンに話せるか?」って、まぁ無理ですよねと。なので、構造的に上司・部下のコミュニケーションって、なかなか難しいのが実態だと思います。

エールで毎日行われている、何十セッションという“聴く”

篠田:この問題を考えるにあたって、実は社会の側にも解決すべき課題があります。

篠田:というのは、社会性がある、あるいは自分が具体的に役に立って「よかった」と言ってもらえた。そういう実感のある複業(副業)をしたいという方々がたくさんいらっしゃるんですが、なかなかその機会に出会えないんですね。

私たちの事業領域でいくと、この右にあるようなキャリアカウンセラーとかコーチングのお勉強をされた方って、日本ではキャリアカウンセラーだけで毎年1万人ぐらいいらっしゃるんですよ。でも、その知識を活かす場に出会えていないんです。ここをつなげているのが、エールのビジネスで。現在、約1,000名に登録いただいていて。その8割が複業(副業)の方なんですね。

篠田:この方々を、お話を聞く「サポーター」と呼んでいて。BtoBで企業と契約をして、この方々と企業の社員を1対1でマッチングをしてお話を聞いていただくと。こういうビジネスをやっております。今、こちらの下にロゴが並んでいるような企業さんに導入いただいています。

なので、本当に“聴く”。毎日、何十セッションという“聴く”が、私たちのプラットフォームを通じて行われているワケなんですね。

パフォーマンスの高いチームには、心理的安全性がある

篠田:じゃあこの“聴く”ということを通して見た、心理的安全性ってどういうことか? というテーマに入っていきます。

「心理的安全性」という言葉が、一般の私たちの知るところになったのは、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」という「Google社内でパフォーマンスの高いチームの特徴を科学しよう」という研究成果が発表されたことが、大きなきっかけになっています。

篠田:ここで「パフォーマンスの高いチームの特徴は、心理的安全性ですよ」と出たんですけれども、ちゃんと読むと、具体的な特徴として2つ出てるんですね。

1つ目が「メンバー間の話す量が均等である」。もう1つが「非言語コミュニケーションに敏感である」と。これってつまり「互いに聴き合うことができているチームなんじゃないのかな?」と私は思いました。

例えば1個目の「メンバー間の話す量が均等」というのは、仮に5人のチームだとしたら、話す時間はマネージャーも含めて1人につき2割ですよね。残りの8割は聴いているんですよ。そういうチームだなという、具体イメージが湧くワケです。

心理的安全性の定義

篠田:では、この心理的安全性というのは何なのか? というのを改めて。これはやっぱり1次情報に触れるべきなので、その論文とかを見たりしました。

篠田:これは、もう20年以上前にハーバード大学の(エイミー・)エドモンドソンさんという、心理学者の方が提唱した概念で。一般向けの書籍が英語では2018年、日本語版がつい先月出ています。

恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす

これによると、心理的安全性の定義は次のスライドにあるとおりで。

篠田:誰かがアイディア・質問・懸念・失敗について発言した時、その人が所属しているチームが、その人に対して恥ずかしい思いをさせたり拒否したり、あるいは制裁をしたりしない。「うるさいな」とか言わない。むしろ発言が期待されていると確信している感覚をいう。こういうことなんですね。

心理的安全性に対する、3つの「そうだったのか」

篠田:こういった文献を読む中で、それまでは「ちょっと私、誤解していたな、そういうことだったのか」と。「そういうことだったのか~」って言ってたら、それが本の帯文になっちゃって(笑)。私の推薦の言葉になっちゃったんですけど(笑)。

何を「そういうことだったのか」って言ったかというと、大きく3点あります。

篠田:まず1点目は、Googleから来たということもあって、イノベーションに必要(なこと)と思ってたんですけれども。それもそうなんですが、正解は根本的には学習するチーム(に必要)。

つまり、経験から学ぶチームに心理的安全性がすごく大事だということです。ミスから学ぶとか、他者から学ぶとか。この“学ぶという姿勢”が土台になるから、イノベーションが起きる。こういうつながりでした。

2つめは、個人の資質も関係ありそう。「ハッキリとものを言う人」とかがいるといいのかな? とか。逆に「何か言われても平常心で受け止められる心の強い人だと、心理的安全性ができるのかな?」と思っていたんですけど、ぜんぜんそういうことじゃなかったです。

あくまでこれはチームの組織風土の問題で、個人の性格・資質は一切関係ないということでした。それはもっと言うと、心理的安全性は自然にはなかなか起きないんです。だってみんな、恥をかきたくないし怖いじゃないですか。ネガティブなことを言うのって。

それが当たり前で、心理的安全な状態っていうのは、わざわざ作るもので。作り続けるのにかなり努力を要する人工的なものですというのが、私の理解です。

3点目が、この字面から、心理的安全性ってなんかぬるい感じ。なんか「このまんまの私が許される」みたいな「私が受け入れられる」みたいな感じをイメージするんですけれども、ちょっとズレているんですよね。

というのはチームなので、私も「いや、ちょっと斉藤さん。それマズいんじゃないですか?」って言えるだけじゃなくって。私も同じように言われるし、言われることを受け止める用意を持っていなきゃいけないんです。だからぬるいということではなくて、これは要求水準とは別物なんですよね。

この「要求水準とは別物」というところを、もうちょっと詳しくエイミーさんがおっしゃっていた考えを引用すると、心理的安全性は言ってみれば「ブレーキを緩める効果です」と。

篠田:一方で仕事の要求水準というのは「アクセルを踏む話」ですが、これは別々なんですよね。別々であるということは、両立するわけです。

「心理的安全性は高いけど、仕事の要求水準が低い」のは左上のぬるいチームであり、逆に「仕事の要求水準は高いけれども、心理的安全性が低い」のは、右下の殺伐としたチームになると。これは両立させる努力をすること(右上を目指すこと)が大事ですよと、こういうことなんですね。

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