2024.10.10
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鎌田華乃子氏(以下、鎌田):こども食堂についてもう少し聞いていたいんですけど、湯浅さんがこども食堂を見ていて、どういうところにコミュニティ・オーガナイジング的な要素がありますか。
湯浅誠(以下、湯浅):どのあたりがうまく当てはまるのか、むしろ鎌田さんに分析して欲しいけれども。まずは、こども食堂の最大の強さは「器」なんだと思っているんです。こども食堂という、器ですね。
鎌田:器というのは場所ということですか?
湯浅:場所というか、モジュール。やり方。
例えば子どもの貧困とかね。それこそ地域が寂しくなったことはみなさん感じているワケですよ。子どもの貧困は、日々感じるというよりメディアで見る感じだけれども。
でも地域で暮らしていると「この間、あそこの家の子が深夜のコンビニ前でウロウロしてた」とか「親が何日も帰ってこないことがあるらしい」とか噂が流れることがあって。
そういう時に「自分たちの地域にもそういうことがあるんだ」「新聞で読んだけど、自分たちの地域も実際ないワケじゃないだ」と感じるワケです。
多くの人はそこで止まっちゃってたんですよ。なぜならば、何をしていいかわからないから。深刻な虐待事件とかニュースで見るけれど、じゃあそういう家庭に入って親子関係を調整できるか? というと、どこの誰だかわからないし、できないですよね。
自分にできることがあるような気がしないという。街が寂しくなったと言われても、自分に何ができるかという話になると、行動に落ちない。どうしても「市長よろしく頼みます」とか「児童相談所しっかりやってね」と、人に預ける感じになっちゃうんですよね。
学習支援も、その意味ではハードルが高かったんですよ。学習支援と言われると「英語がしゃべれません」「因数分解忘れました」みたいな反応になるんですよ。自分からは遠い感じがするワケです。
こども食堂は「あ、これならできるわ」となるんです。「一緒に食事を作って一緒に食べればいいんだ。これなら何十年もやってきた。これならできる」というツールが、手の届くところにあるという感じで。
私はその強さが一番大きかったんじゃないかと思っています。気持ちはあるんですよね。何か自分にできることないかな? と思ってるんだけど「これならできる」ということが、パッと提供されてなかった。こども食堂をパッと提供されてやり始めた人を、また周りの人が見て「あ、あれならできる」と。しかも自分なりに自由にやっていい。「あーそうなんだ」という中で、わーっと広がっていったのが大きいと思っていますけどね。
鎌田:うーん。確かに。今、コミュニティ・オーガナイジングの視点で話したほうがいいかなと思って、いろいろ考えていたんですけど。大きな社会ビジョンに対して小さいゴールを立てる時に、1つの大事なポイントが「広がりやすいものなのか?」なんですね。
他の人も「やってみたい」「真似したい」ものが作れると、広がっていくじゃないですか。それが意図的に作れる場合もあるし、たまたま作れた場合もあって、いろいろあると思うんですけれども。それを意識して活動するってすごく大事だなと思いますね。
他の人も真似できることをやってみせる。そうすると「あぁ、それなら私もできそう」って。ゼロから考えるのは大変なので(笑)。お手本があったほうがいいですよね。
湯浅:それはつくづく思う。少なくともこども食堂という広がりやすいツールを、私は思いつかなかったんですよね。現実に生まれてそれが広まっていく。最初に始めた大田区の近藤さんだって、別に広めようと思って始めたワケじゃないんですよ。でも広まっていったんですよね。
イノベーションってこういうことだなぁと思うけど、少なくとも私は思いつかなかったですよね。すごいなと思う。
鎌田:本当にすごいですね。偶然やったものが広がっていくのは、ぜんぜんあると思いますし。
私が研究しているフラワーデモも性暴力防止の活動をしてますけど、私は思いつかなかったので(笑)。北原みのりさんと松尾亜紀子さんが思いついてやったワケです。みんなが話していくタイプのデモがすごくいいと共感されて広がったのは、おもしろいと思いますね。それを意図して作れるといいんですけど、まぁそうじゃない場合もあるしなぁと思って(笑)。
湯浅:意図して作ろうといろいろやってきましたけれど、自分で思いつくことの9割は失敗しますね。
鎌田:(笑)。そうですね。当事者感覚の人たちが作ると、やりやすいものができるのかなと思ったりしますし。偶然もあるのかなとか思いながら。わからないですけど。
湯浅:ただ自分で試行錯誤してこないと、そこの価値がわからないというのはあるんですよ。
鎌田:ありますね。
湯浅:散々「こうやったら広がるんじゃないか? ああやったら広がるんじゃないか?」とやって、うまくいかない体験を山のように積んでくると、広がりやすいものの価値がものすごく輝いて見えることはあって。
これは大事だなと強く思ったので、そういう意味では失敗は失敗じゃなかったんだと思っていますけどね。
鎌田:(笑)。そうですね。湯浅さんも関わられていましたけれども、2~3年間、全国ツアー・全国キャラバンってやってらっしゃいましたよね。3年間もツアーをやるってすごいなと思うんですけれども。
湯浅:2016年から18年までやりましたね。
鎌田:どうですか? やってこられて、成果は感じられましたか?
湯浅:うん。今もまだ一般的にはかなりそうですけど「こども食堂は食べられない子どもが行くところだ」というイメージが強い。今以上に強かったんですね。
私は全国ツアーの前からちょいちょいこども食堂の話をするようになってたんですけど、例えば地方の講演とかでその話に触れるじゃないですか。
そうすると講演が終わった後に、主に中高年の女性が寄って来られて「私もこども食堂をやりたいんだ」と。
「だけど、うちの自治会長は『そんなことをやったら、うちの地区にそういう食べられない子がいるということになっちゃう。いるワケないんだから、やる必要もないんだ。地域の評判が下がる』って言ってるから、私は言い出せないんです」というね。
こういう愚痴とも苦情とも言えないようなことを、けっこう聞いてきたんですよ。
やっぱりそこをなんとかするのが全国ツアーの目的で。メインターゲットは実はこども食堂を始めたいという人たちではなく、どちらかと言うと、自治会長や民生委員さんや学校関係者という、もう一歩外にいる人。そこに働きかけることを意識して全国を回ったんですね。
やりたい人が「やりたい」と言いやすい環境を作ることに問題を立てた。その時から「やりたい人はたくさんいる」という確信があったから。大事なことはやりたい人を増やすことじゃない。やりたい人が「やりたい」と言える環境を作ること。やりたい人はどんどん出てくるので、環境を作ることが大事なんだといって、全国ツアーを3年やりましたね。
鎌田:「貧困があると街の評判が下がる」というのは、ツアーをやることでどういうふうに解消されたんですか?
湯浅:うまくいく場合とうまくいかない場合がありますけど、県知事とか県の部長さんを引っ張り出してくるのが1つ。もう1つは、こども食堂の運営者の方に登壇していただいて「多様な現場なんですよ」と説明するんじゃなくて、現場の運営の実態から多様性を感じとってもらう。この2点をとにかく気を付けて全国を回ったんです。
1点目は、自治会長さんって、やっぱり我々の言うことよりも行政のほうを見てるんですよ。知事さんが「こういうのはいいことだから応援してます」と言うと「あぁ、いいことらしいね。じゃあみんなで応援すればいいじゃない」という感じになるんですよね。
少なくとも、そのこども食堂を始めたい人が「やりたいです」って言った時に「まぁいいんじゃないの」って、強く賛成しなくてもいいけど、反対しないようになってもらいたいというところが目指すところだったので。我々が行政にアプローチして、行政のほうから「県も応援してます。いいことだと思っています」と言ってもらう。それを自治体に聞いてもらう。
2つ目は、やっぱり「食べられない子が行くところだ」って世間から言われるワケだけど、現場の人たちは、地域の交流作りとしてやっているので。みなさん自分の夢というか、自分の目指す場所をスローガン的に話すと「0歳から100歳までのごちゃまぜの空間にしたいです」とか「地域みんながほっと立ち寄れる場所にしたいです」とか「安心できる居場所にしたいです」とか。
異口同音にメッセージを語られるワケですよね。「そういう思いなんだ」と伝わっていくことのがやっぱり大事です。すごく印象的だったのは、岩手でPTA連合会の会長さんに登壇してもらったんですよ。こういうことを一連で見てもらったら、彼が「僕たちと一緒ですね」と言った。
PTAも子どもを真ん中において、地域の人たちがつながって、保護者だけじゃなく地域の高齢者の人も含めて、子どもたちを支えていくという思いでやってるんだと。「こども食堂のみなさんの思いって、私たちと一緒なんですね」とPTAの県の連合会の会長さんが言ってくれて「あ、これは伝わった」と感じたんですよ。
鎌田:すごいですね。
湯浅:まぁ、いつも必ずうまくいったワケじゃないけど、岩手県の会長さんはそう言ってくれて。「やってよかった」って感じた時でしたね。
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