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Why do we fear Innovation? (全4記事)

人類史の「よくできたストーリー」の多くはフィクション 人々が情報を“真実”と思い込んでしまう心理

音楽・映画・メディアなどをテーマにした一大イベント「SXSW Online 2021(サウス・バイ・サウスウェスト)」。新型コロナウイルスの影響により、今回はイベント初の完全オンラインで開催されました。本パートでは、世界的歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏、女優のメイム・ビアリク氏、TOA創設者のニコラス・ヴォイシュニック氏によるトークイベントの模様をお届けします。日々大量の情報が押し寄せ、真実とフィクションの間で揺れ動く人々の心理について語りました。

人類史にあるよくできたストーリーは「フィクション」

ニコラス・ヴォイシュニック氏(以下、ニコ):ユヴァルさん。科学的探求がある限り、誤報・偽情報・陰謀論があると思います。このような科学技術革新への逆風に立ち向かい、変革的な技術進歩や一般的な科学的進歩に対する受容性を構築する方法について、歴史は何を教えてくれるのでしょうか?

ユヴァル・ノア・ハラリ氏(以下、ユヴァル):そうですね。科学・陰謀論・フェイクニュースといったものが、矛盾しているわけではないです。これらが併存しているのは、人間社会をコントロールするためには科学だけでは不十分だからです。

科学は真実を伝えます。あるいは世界についての真実の近似性を教えてくれますが、たいてい真実は人々を動かしません。「Eはmcの2乗に相当する」と言って、選挙に出ることはできません。

メイム・ビアリク氏(以下、メイム):(笑)。

ユヴァル:あるいはそのような綱領で立候補しても、ほとんど誰も投票してくれないでしょう。

メイム:(私はしますよ、というふうに笑いながら挙手)。

ユヴァル:政治的・宗教的・社会的に人々を団結させるためには、ストーリーを伝える必要がありますが、そのストーリーは真実である必要はありません。人類史の中にある数多くのよくできたストーリーはフィクションです。宗教的なフィクション、民族的なフィクション、経済的なフィクションでもいいんです。

人は両方のものを同時に保つことができます。非常に科学的で、特定の技術的な問題を解決するためには、合理的で論理的になります。しかし、自分たちの社会や運動の基本的な神話や物語を評価するときにはまったく非合理的で、ほとんど批判的な能力を持ち合わせていないことがあります。

しかし私たちは、もし人々が政治や何かの基本的な物語を扱うときに、前頭前野を閉じてしまえば、「彼らは無能になるだろう」と期待することがあります。そうすれば他の分野では効果がないので、「彼らを恐れる必要はないのではないか」と期待してしまうのですが、そうはいきません。

不幸なことに人間はクリティカルで、合理的な判断能力のオンオフを選択する能力を持っています。それゆえ歴史を通して見ると、この二つの道が繋がり合っていると知るでしょう。同じような人が、このような誤った考えを持っています。

近世ヨーロッパのベストセラーは『自分でできる魔女狩りマニュアル』

ユヴァル:インターネットが登場したばかりの頃は、「もっとすべての情報を共有しよう」と考えていたのを覚えています。そうすれば必然的に、よりよい自由や科学的な思考が手に入ると考えていました。

メイム:(笑)。

ユヴァル:でも、そうはなりませんでした。情報は真実ではないからです。フィクションもフェイクニュースも情報です。

新しいものではありませんが、例えば近世ヨーロッパの印刷革命を見てみましょう。15世紀末から16世紀初頭にかけてヨーロッパの書籍市場で大ヒットしたのは、(ニコラウス・)コペルニクスやガリレオ(・ガリレイ)のような科学者の本ではありませんでした。当時大流行した本は、「自分でできる魔女狩りマニュアル」だったわけです。

メイム:(笑)。

ユヴァル氏:魔女狩りに関するあらゆる馬鹿げた陰謀論のせいで、女性を中心に何万人もの人々が恐ろしい方法で拷問され、殺害されました。これは当時新しかった「印刷というマスコミュニケーション技術」によって力を得たわけです。

同じことが今日でもあります。「私はYouTubeで観たから、それは正しいですよ」と言ったり。15世紀〜16世紀の魔女狩りが行われていたドイツの町を思い浮かべて、指導者が「本で読んだからこれは正しい」と言ったとして、本で読んだことをどうやって疑えるでしょうか。

本に書かれているからといって、それが真実であるとは限らないということを人々が理解するまでには、長い時間がかかりました。私たちは今、「新しい技術」について同じシチュエーションにいます。印刷技術のときよりも「学習曲線」が早く曲がってくれればと思います。

脳科学と人間の経験を結びつけることは複雑で困難

メイム:食いつかないようにしていたのですが、前頭前野は多くの開始行動を司る一方で、私たちが判断だと考えるものも司っています(笑)。「フィニアス・ゲージ」(注:鉄の棒が頭を完全に突き抜けて左前頭葉の大部分を破損し、人格と行動が別人のように変わってしまった、鉄道建設作業の現場監督の名前に由来)は、前頭前野が損傷したときに起こる代表的な例です。

フィニアス・ゲージが起きると、行動や倫理に関する判断を下す能力という点で、その人自身が大きく変化することがよくあります。しかし、透明性を確保するためにもう一度言いますが、これは脳科学と人間の経験を直線的に結びつけることの複雑さと難しさを示しています。

なぜならみなさんが指摘したように、現代的な目的のために論理や理性を抑制すること。つまり、心を持って自分の個人的な目標に突き動かされる、冷めた視点を持たないためには、神経解剖学だけではなくて、もっと複雑な統合が必要だからです。神経解剖学だけでなく、社会構造や文化的構造を完全に統合することで、すべてが混ざり合ってしまうのです。

あなたが前頭前野を「オフ」にできると考えていなかったことは承知していますが、立ち入らなければならないと思いました(笑)。

ユヴァル:もちろんメタファーですが、ある面では最も合理的でありながら、他の問題に対処する際にはまったく無批判である場合、同じ人間の脳の中では何が起こっているのかを聞いてみたいですね。

繰り返しになりますが、非常に重要な問題は、ほとんど時間をかけずに調査したアイデアに基づいて、何日も何年もかけて非常に合理的な準備をするようなものであることです。

脳には「答えのない相互作用」が見られる

メイム:そうですね。私たちが話しているのは大まかに言えば、脳と心の区別だと思います。脳の中で何が起こっているかという概念、「エシカルシート」(倫理に関わる部分)がどこにあるのかについて、fMRIの研究を一日中見ているだけで私は満足です。

遺伝学に夢中になっていた1980年〜1990年代頃を思い出すと、「この遺伝子はどこにあるのか」「あの遺伝子はどこにあるのか」と考えていました。しかし実際には、何万もの相互作用があることがわかりました。 脳には非常に多くの「正のフィードバックループ」と「負のフィードバックループ」があるのです。スーパーハイウェイの中のスーパーハイウェイです。

どんなに合理的な概念であっても、神経解剖学的な構造の中に単独で存在しているわけではありませんし、私たちが解剖できることでもありません。脳には領域があって、少なくとも今世紀の大部分の人々が知っているように、「これをサルのように病変させれば、このようになるでしょう」といった、「これがあれをする」と言えるような領域があります。

しかし、社会的構造、文化的構造、家父長制、男女差別、環境の圧力、コミュニティの圧力、そして「個人的な」ばらつきなど、非常に複雑な相互作用がある場合には私が言ったとおりです。そうすると、答えのない相互作用が見られるようになります。

しかし、「リベラルな社会が『真実』とすること」を前進させる方法で、広く・創造的に・思いやりを持って考える能力は、限りなく複雑なものなのです。

科学者であると同時に信仰を持つ者として、これは説明できないことです。それを神秘的と呼ぶこともできるし、魂と呼ぶこともできますが、実際には単なる構造というわけではなく、こうした交差点があると強く信じています。

テクノロジーに何を期待すべきか?

ユヴァル:現在では、無責任な判断や不合理な判断をしたときに人を温めるガジェットが開発されていますよね。

例えばあなたが株のトレーダーで、毎秒数百万円のお金を扱っているとします。銀行や投資会社はあなたにこの帽子を被ってもらい、脳の活動をモニターすることにしました。そしてあなたが物事をよく考えずに気まぐれな方法で決定を下し始めたら、赤い電球が点灯し、取引を止めます。

メイム:(笑)。

ユヴァル:そこでまずみなさんのご意見を伺いたいのですが、実際にできるのでしょうか。また、もしできるとしたら、同じ投資銀行家が政治的な演説や宗教的な説教を聞いているときにも同じ帽子が使われると思いますか? 仕事場から教会や政治集会にも帽子を持って行って被るでしょう。帽子が赤く点灯したら、何かが起こっているということです(笑)。

メイム:(笑)。神経科学の電気生理学的な観点からは絶対的な方法があり、意思決定の軌道を100パーセント示す活動パターンがあると言えます。

留意すべきは、我々は今、統計的な領域で話しているということです。ユヴァルさんが指摘した理由は倫理的にも怪しく、非常に複雑な領域に入ります。今まで付き合った人全員に、この帽子をかぶせたいと思いますか?

(一同笑)

メイム:人と付き合うときに、それを着てみたいと思いますか?

これはもっと複雑な話で、テクノロジーに何を期待して、何をすべきか。また、私が育った環境ではどこでテクノロジーが空白を埋めることができるのかということです。私が育った環境では「シャカ(shachah)」と呼ばれています。しかし、特にここアメリカでは善悪の概念が曖昧になっています。特にこの1年は、地球で起きているCOVIDやワクチンの話などで、そのことを実感しています。

ですから私(の回答)はこのままにしておきますね。もしあなたがもっと会話をしたいと思うなら、「みんなが一日中被っていたいと思っている、あのおかしなキャップのことでも話しましょうか」と言っておきます。

ワクチン接種に関するヒステリックな反応

ニコ:COVIDでは、家族や友人と議論を交わしました。ユヴァルさんによれば、真実が何であれ真実を擁護し、フェイクニュースと戦っているようなものだと思います。

メイム:私がYouTubeで100万人近くのフォロワーに公開することを選んだ理由は、私のワクチン接種が遅かったからです。

私が公人であるため、私の子どもたちは他の人とは違うスケジュールでワクチンを接種しました。そして人々はそれを知っていました。私は親としての経験を、『Beyond the Sling』という本にまとめました。

当時子どもたちは、誰にも関係のないさまざまな理由でワクチンを接種していませんでした。これは誰にとっても驚くべきことではないと思いますが、何が起こったかというと、インターネット上で「私の子どもたちがワクチンを接種していなかった」という考えが広まってしまったのです。

「メイムは反ワクチン主義者であり、子どもを奪われるべきだ」「メイムがUCLAで博士号を取得するなんて許されません」という考えを広めている人たちがいました。実際には、私の子どもたちはワクチンを接種しているんですけどね(笑)。

また、一般の人が予防接種を遅らせたかもしれないという事実に、人々が抱いたヒステリーのレベルにも驚かされました。私がビデオを作ろうと思ったのは、表立ってこの問題を取り巻く言説がこれまで少なかったからです。

いくつかの問題がありますが、間違いなく、ワクチンについての会話をしたくない人が多い問題の一つです。もうひとつは興味深いことに「割礼」の問題ですが、これはまた別の機会や話題にしたいと思います(笑)。

懐疑的になってもいいし、質問をしてもいい

メイム:とはいえ私は自分の決断についてビデオを作り、「製薬業界の財務的要素について懐疑的になっても構わない」ということを、最終的にきっぱり言いたいと思いました。

ワクチンに何が入っているのかを質問しても大丈夫ですし、なぜ今使われているワクチンがあるのかを疑問に思ってもいいと思います。そして、かつては12本の注射を受けていたのに、今では多くの子どもたちが時には20〜30本の注射を受けていることに疑問を持つのもいいでしょう。

知的な進歩と思いやりのあるレベルのコミュニケーションに基づいた機能的な社会で、このような質問をすることは問題ないと思います。そういった会話をすることが許されていますし、情報を受け取ることも許されています。私がバランスを取ろうとしたのは、「懐疑的になってもいいし、質問をしてもいい」ということなのです。

自分が何を言っているのかもわからず、人と争っているのもよくありません。人々が教育を受けることを支持しますし、それは私の場合、腕まくりをすることでもあります。また、今年はインフルエンザのワクチンを接種しましたが、通常時はしません。

私は「免疫システムが免疫を作り出せる」と信じる傾向にある幸福主義者で、この家では何度もインフルエンザにかかる経験をしています。H1N1(A型インフルエンザウイルスの亜型の一つ)の経験も楽しいものではありませんでしたが、今回のウイルスは違います。完全に理解していない方法で無差別に感染するので、このように扱われるべきだと思っています。

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