2024.10.10
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『マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう』刊行記念トークセッション 社会課題とビジネスは、どのようにつなげられるのか?(全6記事)
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工藤眞平氏(以下、工藤):残りが10分くらいになってきました。いただいている質問がありますので、私から読み上げさせていただきます。
視聴されている方からですね。「自分が関われる課題があったとしても、提供できる技術がないと思っている人が多い印象もあります。仕事(会社と社会)と生活が意識の中で分断されているのでしょうか?」という質問です。
澤田智洋氏(以下、澤田):それは今日の議論でいうと、社会課題やSDGs、イノベーションといった遠くてぼんやりしている存在にだけ目を向けていると当然分離する。けれども特にコロナ禍においては自分もあなたも弱さがあるんだから、「誰かを大切にしよう」「身近な弱さを大切にしよう」という。まさに(大切の語源とされる)「大きく迫っていく」気持ちに変わるだけで、あっという間に今この瞬間から接続されると思うんですけど、さとなおさんはどうですか?
佐藤尚之氏(以下、佐藤):まったくそのとおりだと思います。自分の身近なちっちゃいところに、ものすごく課題があるので。「そこに気が付けるか」だけじゃないですかね。「自分の技術がない」というか、アウトプットしているうちに技術は付くので。インプットが整うことは一生ないです(笑)。
僕は、人は誰しもいつか「どうしても仕方なく自分ごとになる課題」にぶち当たると思っています。その時に、スキルを付けながら走ればいいんじゃないですかね。
工藤:ありがとうございます。
澤田:今、また別のことを思っちゃったんですが。広告会社って伝えるのが仕事だから、もともと汎用性が高いというか。あらゆる仕事の汎用性が高いことを捉えるのもけっこう大事かなと思って。
さっき視聴者のみなさんの職業を見ていたらカメラメーカーの方がいらっしゃったんですが、カメラを営業する仕事だけをしていると、もしかしたら汎用性がない可能性もあるんですけど。ただ、「なんで人ってカメラが好きなんだろう? 写真を撮るんだろう?」「営業ってなんだろう?」というところをちゃんと突き詰めて、そこのプロになっていくと、たぶんそれっていろんな応用が利いて……。
佐藤:いやいや、そうですよ。震災支援の時だって、営業的な人やプロデューサー的な人が本当に欲しかったですもん。
澤田:あ~、やっぱり。
佐藤:いろんな方が「コピーライターだからできるんでしょう?」「クリエイターだからできるんでしょ?」って言うけど、「いやいや、そこはほんの一部だから」という。現場ではいろんなスキルが要りますよね。
澤田:確かに。僕もゆるスポーツをやる中で、やっぱり経理とかすごく必要。
佐藤:それがいないから、うちの支援団体でも本当に困って。
澤田:ですよね。
佐藤:「いや、私そういうのはできないので」ってみんな入ってきてくれないんですけど、本当に経理の人が欲しくてしょうがなかったですね。会社組織ってよくできているので、総務や経理や営業や開発から、全部いるわけですよね。課題解決の時には全部要りますよね。
澤田:だから、経理の方が1社だけに勤めていると「私の能力なんて」と思うかもしれないけど、半歩ずれるだけでもう引く手数多になりますよね。
佐藤:引く手数多だと思います。
工藤:ありがとうございます。もう1ついただいている質問がありまして、こちらも読み上げます。「地域コミュニティを運営しています。コミュニティ内での“弱みを生かす設計”が具体的にあれば、教えてほしいです」ということなんですけれども、こちらも澤田さんから何かご助言があればと思います。
澤田:みんなが自分の強さだけを発揮して自慢しているコミュニティって、めっちゃ最悪だなと思うんです。僕はみんなが強さで勝負しているところがすごく苦手で、僕にとってはそれってすべてアウェーなんですよね。「居心地悪!」みたいな。だけど、僕が「スポーツがポンコツで」という話をすると、その場がホームグランドに変わっていくというか。
強さって、けっこう尺度が決まっているから競合になっちゃうんだけど、弱さってすごく多様だから競合になりづらいし、人となりもめちゃくちゃわかる。あるいはその弱さに対してそれぞれがどんな“強さカード”を出すかで、関係性や縁が生まれていくし。だからむしろ、強さだけで運営していくのは僕はよっぽど嫌だなって思うんですけど(笑)。さとなおさんはどうですかね。
佐藤:まず「コミュニティ」という言葉が乱発されすぎていて、僕はちょっと違うと思うんです。僕の考えるコミュニティって、「社会的包摂」の要素が入っていないとやっぱり違うと思うんですよね。
昔、日本って村があったじゃないですか。あれは社会的包摂の要素が強いコミュニティだったと思うんです。村はみんなでよってたかって子どもを育てたり、フーテンを許容したりと、セーフティネットがちゃんと機能していた。
で、そこの暑苦しさが嫌で、みんな都会に出てきたりするんですけど、昭和時代の都会って「会社」というものがあって、あれって本当に家族的だったんですよね。セーフティネット的かつ社会的包摂的だった。ダメな若者でもみんなでよってたかって成長させようという感じがあって。みんなで社員旅行や飲み会に行ったりしてね。
それが現代になって、「家族的な会社」のありようが崩れたわけです。会社雇用が流動的になって、みんなすぐ辞めたり辞めさせられたりするかつ実力主義になった。そうなると何が起こるかというと、容易に孤立するんですね。そう、現代の都会の人たちは容易に孤立する。
そういう状況の中で、セーフティネット的な社会的包摂が、やっぱりコミュニティの中では必須だと思っているんです。それって、弱さ本位なんです。
僕は、そういう弱さを互いに補い合うのがコミュニティだと思っています。そういう意味では、たぶん、今言われているコミュニティのほとんどはプロジェクトなんです。予算や会費があってゴールがある。それは強い。だって、強い人がゴールに向かって勝っていくので。それはコミュニティというよりはプロジェクトだと僕は思いますけどね。
澤田:おもしろいですね。プロジェクトのプロって「前へ」という意味があるから。コミュニティがプロジェクト化していると、なんか成長・進化しなくちゃいけない。
佐藤:そうです。「目的に達しないといけない」となると、弱さは置いてかれるんです。
澤田:置いていかれる。コミュニティのcomは「共に」ということだから、「前へ進もう」と「共にやろう」は、同じようでありぜんぜん違うということですよね。
佐藤:だから今、コミュニティの定義がちょっと崩れているんじゃないかなと思う。みなさんなんでも「コミュニティ」って言うので、僕は違うんじゃないかなとは思っています。
工藤:なるほど。ありがとうございます。ちょうどもう1つ質問が来まして、時間的にこちらが最後になるかもしれないんですが、読み上げます。
「都内の大学生です。将来を考える上で、本日の社会課題のような問題にも意識が向いてきました。澤田さんへの憧れもあり、『社会のネガティブを転換していこう』と広告会社への就職を目指していますが、今のうちから学んでおいて欲しいことなど、学生へのアドバイスはありますか?」ということです。
澤田:これはもうね、「大切力」しかないと思う。社会に出るまでは、家族やサークル仲間とか、誰かを大切にすることって当たり前じゃないですか。もちろん「パートナーに尽くしたい」「上司のために」とか、大切な関係性はもちろんあるんだけど、ビジネス関係になってくると大切度がちょっと弱い気がするというか。
学生時代のほうが、よっぽど「大切力」が強いんじゃないかという気がします。僕自身はそうだったんですよ、やっぱり会社に入って友だちと疎遠になっちゃったし。同期のことを大切に思うかというと、大学時代の友人とかに比べると「『大切力』が弱いな」と、ふと今日思ったんですけど。
おそらく質問してきた方はすでに「大切力」で満ち満ちているはずなので、それを忘れなければ大丈夫なんじゃないかなと、僕は今日のさとなおさんの話を伺って思いました。
佐藤:広告って大きな塊に対して伝える仕事と思っていたら、いつの間にか時代が変わっていて、今は一人ひとりに寄り添う方向に行っていると思うんですよね。「広告」って言葉じゃないかもしれません。広告もやっぱり「コミュニケーション」という言葉に変わったりしている。読んで字の如く、コミュニケーションって相手のことを考えないと伝わらないわけですよね。
相手の気持ちがわからないと伝わらないので、相手の気持ちを考えて伝えるわけです。それはもう「広告」という一方的な言葉ではない。「コミュニケーション」とか、もしくはもう少し違う、より人のつながりの方向に今は動いていると思います。そういう意味でいうと、人の気持ちやつながりがちゃんとわかることが「大切力」に近いと思います。
相手の気持ちをちゃんと受け止められたり、寄り添えることがすごく大事になるんじゃないかな。広告で「大きなものを動かそう」「社会課題のネガティブを転換しよう」と思うよりも、まずは目の前のことが見えることが大事な時代になっている気がします。
澤田:確かに。
工藤:ありがとうございます。それではちょうどお時間になりましたので、この辺りでイベント終了とさせていただきます。最後に澤田さんの著書『マイノリティデザイン』と、さとなおさんの『ファンベース』について、澤田さんからは『ファンベース』、さとなおさんからは『マイノリティデザイン』のご感想を一言ずついただければと思うんですが、お願いしてよろしいでしょうか?
澤田:今日はかなり感銘を受けたところを話したんですけど、さとなおさんの本ってセグメントやターゲット、マーケティングや「囲い込む」、あるいはDXといった言葉が出てこないんですよね。それがやっぱり一番大事というか。ビジネスワードは主語がすごく大きくなっていくから、「大切力」が落ちていくと思うんですよね。
だから基本的に『ファンベース』は、「もう1回、1人と1人の関係性に戻ろうよ」という話が通奏低音のように流れていて、当たり前かもしれないけど忘れていたなと思ってハッとしました。
さっきの学生の方の質問への回答に近いんですけど、「忘れていた」のがポイントだと思っていて。「子どもの時には同級生や家族を大切にしていた」みたいなことだと思うんですよね。僕は『ファンベース』を読んで、社会人になるまでは忘れていたことを思い出す感覚に近かったので。そういう意味で、何歳になってからも体得できるのが『ファンベース』だと思います。
今いろいろと悩んでいる方には、ぜひ読んでいただきたいです。冒頭に戻ると、やっぱり僕は福沢諭吉にはsocietyを「社会」じゃなくて「同胞」か「仲間」と訳してほしかった。今日話している「社会課題」が「仲間課題」という言葉だったら、もしかしたらファンベースはいらなかったかもしれないですよ。
佐藤:そうですね。本当にそう思います。
澤田:「社会」という言葉によって西洋文化が入ってきたことで、僕らが失ったもの、あるいは大人になって失ったものが、本当に『ファンベース』に入っているので、すごく強烈に僕はオススメします。
佐藤:「社会」がせめて「社交」だったら良かったかなと思うけどね。
澤田:そうですね。「社交」も候補にあがっていたんですよね。確かに、(社交だったら)もっと交わりが生まれていたでかもしれない。
佐藤:社交ダンスもちゃんとソーシャルを使うんですが、そっち側にいけばより良かったのになと思うんですけどね。
澤田:確かに。
佐藤:ありがとうございます。僕の番か。『マイノリティデザイン』というとても大事な本がちょうど緊急事態宣言のギリギリで出たという、このタイミングにすごく意味があったなと思っています。
みんなが自分の弱さに気が付き始めているのと、大きな資本主義的な話に対するちょっとした疑問とか、そういう自分の日々の感覚と時代がずれていっている実感があるところにこの本が出てきたのは、本当にある分岐点の1つなんだろうなと感じながら読みました。
さっきも言いましたけど、「Weak Is the New Strong」。この言葉が僕はわりと大事だと思ったし、「Strong Is the New Weak」だとも思った。その視点が生まれたのが、僕にとっては大きかったですね。感想というよりは、一歩前に進む感じで。
逆に言うと、今の時代って「strong」な人が多いじゃないですか。この世の中、この日本にもね。偉かった人やいろんな人も全部「strong」だったりしますが。言い方が難しいんだけど、今は「strong」な人が自分の中の「weak」をちゃんと意識できていないんですよね。ウルトラ高齢社会の日本においては、ここがすごく大事なトリガーだなと思っています。
「strong」って、成功体験だったりするから捨てにくいんですよ。脱げなかったりする。でも、みんながマイノリティでみんなが「weak」なのだから、「weak」になったことをもっとちゃんと意識しないといけない。世の中の前線を走っていた年代の方々は特にそうだと思うんだけど、当たり前だけど定年で引退すると「weak」になるじゃないですか。
でも、そこが「strong」のままだと思っていることが、いろんなことをちょっとギクシャクさせていたと思いますね。僕もちょうどその年代なので、僕たちの年代が「weak」を自覚していくためにはどうするのかが僕の中でちょっとした課題というか問題意識になりました。そのことをとてもありがたいなと思っていますね。伝わったかな。
澤田:自分だけじゃなくて、近くにいる人の弱さを大切にするのもマイノリティデザインの一歩なんですよね。
僕だったら義足女性を撮影しているカメラマンや義足女性の友達がいて、「もっと世間に見せたいんだけど」と言う。だけど「世間の義足のイメージってどうかな?」という弱さがあって。「もう、思い切ってファッションショーしよう」と弱さに寄り添うことで、それがどんな社会変革を起こすか、本人にとってどういう良い影響があるか、あるいは僕にとってどういう良い波及効果があるか。
他者の弱さに寄り添う、ちっちゃい成功体験を大切にする。順番的には、それ(弱さに寄り添うこと)をやってから僕も「もしかしたら、自分の弱さにも気付いたほうが得なのかもしれない」という(笑)。3年かかりましたけど、徐々にそうなっていく。
佐藤:人の「weak」にちゃんと寄り添うと、自分の「weak」が見えてきますよね。確かにそこが1歩目かもしれません。
工藤:ありがとうございました。以上で本日のイベントは終了とさせていただきます。澤田さん、さとなおさん、本日はありがとうございました。
佐藤・澤田:ありがとうございました。
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