2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
『マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう』刊行記念トークセッション 社会課題とビジネスは、どのようにつなげられるのか?(全6記事)
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澤田智洋氏(以下、澤田):さっきの「心臓病の少年と一緒にスポーツを作る」だと、僕の広告力とスポーツの知見と、彼の心臓に病があるという誰かの“弱さカード”を手札にして組み合わせて「500歩サッカー」といった新しいスポーツのイノベーションが起こる。全部が“強さカード”だと、僕はそれで行き詰まっていたので。
佐藤尚之氏(以下、佐藤):わかります。強さカードの話じゃないんだけど、スポーツの見方をぜんぜん違うところから光を当てたら、そこに100分の1があったという話ですよね。そこにある事象が急に見えてきた。今回、この本(マイノリティデザイン)で「Weak Is the New Strong」とあるけど、僕がこれを読んで思ったのは、「Strong Is the New Weak」だなと。
澤田:うん、うん。
佐藤:今って、「強み」と言われるのが急に「弱み」になっているじゃない? 森喜朗元会長の話にしてもそうかもしれないし、官僚の方々がいろいろなっているのもそうかもしれないし。
例えば、Twitterとかで勇ましく言っている方やクレーマー的な「Strongな動き」をしている人たちも、あれはWeakなんだという視点で見た時点で、急に見方が変わるんです。そういう転換をすると、急にそこが100分の1になるというか。ちょうど今、コロナでその転換が起こっていると思うんです。
澤田:まさにまさに。コロナで印象的だったのが、特に中途障害の友人たちがドンと構えていたんですよね。彼らは急な事故や病気で、目が見えない、耳が聞こえない、歩けないという危機の状態を経験しているから、広義のリスクマネジメントがうまいというか。
「たぶん、少し時間が経てばいろんな攻略は見いだせるから、今はまず動かないことが大事です」とか、僕も教えてもらったりして。その瞬間、彼らはピンチマジョリティで、僕らがある種ピンチマイノリティになった現象が起こっていたり。
佐藤:起こりますよね。それは「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」とかに行った時も思った。WeakとStrong、マイノリティとマジョリティの転換が、急に起こるじゃないですか。そういうことですよね。
澤田:そうですよね。ドイツのビーレフェルト市には、ベーテルという総合医療・福祉共同体があって、障害のある方があちこちから集まってきているんです。
佐藤:おおう。
澤田:パン屋に入っても雑貨屋さんに入っても、障害のある店員さんがいるみたいなんです。場合によっては障害のある方のほうが多いお店やイベントとかがその街ではあって、そうすると健常者がマイノリティになったり。
佐藤:ですよね。確か、LGBTQは日本の人口の約8〜10パーセントなんですよね。
澤田:多いですよね。
佐藤:それに今、10代って日本の人口の8パーセントなんですって。だから10代そのものがマイノリティなんですよね。ティーンだけ集まっているところって、マイノリティの集まりで。その見方だけでいろんなことが変わるじゃないですか。
澤田:変わります。でも本当に、Z世代と話すとマイノリティ意識がめちゃめちゃ強いですよね。
佐藤:めちゃめちゃ強い。
澤田:「僕らの声は届かない」みたいなことを感じている。だけど高齢者とかと話していると、これは森(喜朗)さんのことじゃないけれども「老害と言われて悲しいな、しんどいな」というマイノリティ意識がある。
佐藤:人口的にはずっと多いのに、自分たちがマイノリティだと思っていますからね。
澤田:思っています。ますます“1億総マイノリティ時代”に入ってきているなと思っていて。「マイノリティデザイン」を標榜し始めてから、毎日相談がいっぱい来るんですけど、見方を変えると“アイデアの種”みたいなものが、山ほど集まってきています。
それって、わざわざ「ナントカイノベーションセンター」を作んなくていいんじゃないか、とか。小さいマイノリティ性に着目すると、発明は生まれるし、SDGsの17のイシューのどれかには絶対接続します。
佐藤:強者たちが争っている世界は今でもレッドオーシャンなんですけど、Weakのほうに急に目を向けると、本当にブルーオーシャンですよね。ブルーオーシャンという言い方は悪いけど。
澤田:そもそもアニサキスとかも、さとなおさんがアレルギーになって初めて「あまりこれ、知られてないぞ」という。
佐藤:ぜんぜん知られてないですよね。
澤田:「伝わっていない」という話ですよね。
佐藤:伝わっていないどころか超マイノリティなんですが、成人食物アレルギーの中でもマイノリティで、しかも日本人にとっては相当辛いアレルギーなんです。ただある専門家に言わせると、成人食物アレルギーで一番多いのは小麦なのかな、それと同じくらいに日本人はアニサキス・アレルギーじゃないか、という説があるわけよ。
澤田:ええ!
佐藤:アニサキスで胃が痛くなった人とかいるじゃないですか。「食いつかれた!」みたいに。
澤田:はい。
佐藤:あれは「アニサキス症」っていうんですが、ただ、意外ともうアニサキス・アレルギーになっているという説があるんですよね。腫れているところに胃液がかかったから痛いんだという。
澤田:なるほど。
佐藤:だからもしかしたらメジャーなアレルギーかもしれないけど、でも、初めてそういう世界に入って周りを見渡してみると、もう何もない。平原、ブルーオーシャンどころか、無限の太平洋にいるぐらいの感じですよね。
澤田:そうですよね。さとなおさんが広告マジョリティとして培った力が、ここでもすべて生きるというか。
佐藤:僕、ようやく(アニサキス・アレルギーによる)鬱から、3年かかって立ち直ったぐらいなんでまだ動けてないのだけど。でも、僕はぜんぜん焦らず、「治るまで3年ぐらいは無理だよね」と思っていて。ようやく今年ぐらいから少しやってみようかな、と思っていますけど、まあ大変。
食に異様に詳しかったのが、急にむちゃくちゃ多くのモノが食べられなくなったわけで。まぁつらいし、そのつらさと自分のマイノリティ意識が毎食三食リマインドされるんですよ。なので、そこに踏み込んでいくのもまあまあ地獄なんですけどね。でも、ようやくできそうかなぐらいになっていますね。
澤田:でもさとなおさんがなったということは、今聞いている誰もがなりうる可能性があるわけで。未来も含めると、誰もが当事者になる可能性はすごくあって。さとなおさんがやられるかもしれない活動は、聞いていらっしゃる方の未来に何か役立つ可能性もあるなと。
佐藤:もちろん。
澤田:でも、さっきのアニサキス・アレルギーの会のFacebookコミュニティ、760人くらいいらっしゃいました。かなり多い。
佐藤:専門家たちは驚いています。「おお、そんなに入っているんですか!」という話になっているんですが。それでも1万人とかでも少なくて、花粉症でも発症者が何百万人いないと研究が進まないんですよ。
アニサキス・アレルギーの研究が進むのはよっぽど後になるんですが、コミュニケーションの作り方はあるかなとは思っています。
澤田:そうですよね。さっきのバイコットじゃないですけど、アメリカを中心に特にZ世代やミレニアル世代が、企業が経済的に儲かるかよりも、どんなに小さくてもイシューに取り組んでいる姿勢に共鳴する動きがすごく増しているし。去年、アメリカでロングターム証券取引所というのができて。
佐藤:ほうほうほう。
澤田:株の売却が何十年単位ではできないから、「株の売買はもっと長い目で悠長に構えようよ」という思想で。小さい難病の解決に携わっているような医療ベンチャーとかに「みんなで長い目で投資しよう」という動きが出始めている。
佐藤:日本でも、鎌倉投信さんとかもやっているし。
澤田:そうですね。
佐藤:動きはできているのかなと思いますけどね。
澤田:ありますよね。だから、経済の規模感や合理性だけじゃないところに感情が集まりやすくなっている。共感が集まりやすくなっているし、実は付随してお金も集まりやすくなっているのは、まさに鎌倉投信の新井和宏さんの活動を見て思うところがあります。
佐藤:共感というか、感情の方向にグーッと振れているんですよね。広告の文脈でいうと、ずっとマスマーケティングでマスメディアだったのが2010年くらいからちょっと移動してきて、今はマンメディア(個人発信媒体)の方向に。
マンメディアは、人がつながっているのがメディアになっている。ソーシャルメディアに限らずリアルなつながりもメディアだと思うんですが、そういうところで何が伝わっていくかというと、感情が伝わっていくので。
すべての炎上は感情だったりするのと同じように、シェアもファクトではなくて感情なんですよね。そこの部分が機動力になっていくことが、これからのポイントだとは思います。弱さって人の共感を得る部分がありますので、そこはこれから大きな部分かなと思いますね。
澤田:そうですね。Twitterで拡散される投稿を見ていても、「これだけ合理的なアクションを取ったぜ」って載せても、ぜんぜん「いいね」が集まらない(笑)。
佐藤:まったく付かない。
澤田:ある意味、合理性や経済性度外視で「こう僕は動きました」というほうが、「いいね」という感情が集まる。
佐藤:そうですね。「動いたけど辛かった」という自分の本音や弱さが見えたり、そういう部分のほうがやはり共感は得るんですよね。強いだけだと共感は得ないので、強い時代や強い言葉の時代は終わりつつある。もしくは終わったのかもしれないとは思います。
澤田:そのとおりですね。そういう意味でいうと、イノベーションという言葉もあまり使わないほうがいいんじゃないかと思って(笑)。
佐藤:僕もそう思う。
澤田:すごく強さドリブンな感じで、「強さを軸に急進的に世界を変えようぜ」という動きじゃないですか。
佐藤:マジョリティの発想ですよね。
澤田:そう思うんですよね。ちょっと貴族の遊びっぽくなっちゃってるのが気になるというか。
佐藤:「社会をより良くする」というイノベーションの文脈はぜんぜんいいと思うんですが、マジョリティがマイノリティを規定しているというか。「認めてあげている」といった方向性が残ったままでイノベーションが起こると、人々の共感が離れていくので、1回どこかでフラットにならないと無理だと思います。
いろんな苦しんでいる方がいらっしゃるので「よかった」というとちょっと語弊がありますが、「コロナでちょうどよかったな」と思います。コロナ禍ではみんなが「自分たちは弱い」と意識できる。結果的に社会的な気付きを得たんだと思います。
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